「こさむ」


「寒い寒い寒い〜〜〜〜〜!!」
「寒い寒いゆーな。あったり前だろ?雪降ってるんだから。」
「寒いもんは寒いのよぉ〜〜〜〜〜!」
「お前ってホントに寒いの苦手な。」
「だあって。苦手なもんはしょーがないじゃないかぁ・・・・」

さくさくと、積もり始めた雪を踏みならし、二人は町への街道を急いでいた。雪が降り始める前に、町に着く予定だったのだが。

「大体、元はと言えば、お前が悪いんだぞ?寄り道なんかするから。」
呆れた顔でガウリイがリナを振り返る。
リナはマントの裾に何かをくるみ、大事そうに胸に抱えていた。
「だああって、この時期この地方でしか取れない、しかも年々数が減って今では幻の逸品と噂される、まいあがり茸があったのよぉ!?これを見逃す手はないでしょぉう!?」
「・・・なんだよ、そのまいあが・・・なんとかって。」
「見つけた人は、舞い上がって小踊りするっていう、それだけ入手が困難で、しかも高額で取り引きされるキノコ、ってことよ。これを次の町に持ってけば、今晩の宿代を払ってもオツリがきちゃうわ♪」
「・・・たどり着ければ、の話だろ・・・・」
「う・・・・」

段々と辺りが薄暗くなって、さすがのリナもジト汗を隠せない。

「どうする、リナ。このまま歩き続けても、町に着くのは夜中か明日の朝だぞ?」
「そんなの、嫌あ〜〜〜〜。」
「自分で捲いた種だろ〜が。オレだって、嫌だぞ。」
「でも、この寒いのに野宿なんてもっと嫌よぉ〜〜〜〜」
「ったく、このワガママが。・・・・お?」

何かを見つけたのか、ガウリイの歩みが止まった。

「おいリナ、あそこに小屋らしきもんが見えるぞ?」
「え、どこどこどこ?見えないよ?」
「ほら、あの木の向こう。」
「やっぱし見えない。でもあんたがそう言うならあるんでしょ。」
ガウリイ君。剣の腕前と視力は確かである。他は全く保証できないが。
「よっしゃ!ガウリイ、掴まって!翔風界(レイ・ウィング)!!」
「うおひゃぁ!?」

潅木の隙間を抜けて一気に小屋まで。
だがその道のりは、ただ掴まってるだけのガウリイが肝を冷やすには十分だったらしい。



「着いたぁ♪」
「ぜえぜえ。・・・お・・・・お前なあ・・・・」
「あれ。どうかした。」
「こ・・・・こわかったぞ、オレは。」
青い顔をして気持ち悪そうにしているガウリイ。
「気にしない、気にしない♪心頭滅却すれば何事も万事おっけえ♪」
「あのなあ。」
「これ、何の小屋かしら・・・」

それほど古くはなさそうな、丸太小屋。
扉には鍵がかかっていたが、そこはそれ。
現場に望んでは臨機応変!と訳のわからない理屈をこねて、リナがショルダーガードから取り出した薄刃のナイフでこじあけた。

「こほんこほん。カビくさ〜〜〜」
「しばらく誰も使ってなかったみたいだな。」
「たぶん、けほ、キノコ取りのための小屋か何かでしょ。シーズン中の今、使ってないのは、やっぱりキノコ自体があんまし取れなくなったからね。
何にしても、らっきぃ♪ありがたく使わせてもらおうっと♪」
ガウリイは周囲を見渡す。
「お、薪もあるし、毛布まであるぞ♪」
「いいとこ見つけた、でかしたぞ、ガウリイ。」
「エラそ〜に・・・。」
「ん?何か言った?」
「いえいええ。なんでもないですなんでもないです。」
「ならさっさと火を起こす!」
「へーへ。」

まもなくぱちぱちと焚き火の火が上がる。
赤い炎を見て、ほっと安心する二人。
外はますます雪が激しく降ってきて、気温がどんどんと下がってきたからだ。すぐに町に向かうつもりだったので、二人は軽装のままだった。
「・・・おなか空いたなぁ・・・・」
「さっそくそれかよ。」
「あんただって空いたでしょ?!」
「そりゃまあ。でもしょーがないだろ。食い物なんか持ってこなかったし。この小屋にもあるとは思えないしなあ。」
「・・・・こーなったら。」
「ん?」
「キノコ食べよう。」
おもむろにリナが立ち上がる。
「え。いいのか?町に行って売るんじゃなかったのか?」
「お金よりまずは空腹よ!あたしもう、我慢できないもん。」
「反対はしないけどな。」
「そんじゃさっそく♪」

にこにこと、キノコを取り出すリナ。
広げたマントの上に並べ、はた、と気付くと、うるうるした目でしゃがみこんだままのガウリイを振り返る。
「ガウリイ、キノコ焼く串がないよ。」
「へ?」
考えてみれば、調理器具なんぞないし、このまま火に放り込めば黒焦げになるだけだ。
「なんだ、そんなことか。」
ガウリイは立ち上がり、薪を1本持ってきて、リナに手渡す。
「ちょっと持ってろ。」
「へ?」

剣を構えて。
深呼吸ひとつ。

「はっ!!」

目にも止まらぬ速さで刃が閃いたかと思うと、リナが掲げていた薪が消え、
ぱらぱらと頭上から直径2mmほどの串状になったものが降ってきた。
「ガウリイ、エラい!」
「ふっふ〜〜〜ん。」
ばらばら。
どざあざざああああああああ!
「痛い痛い痛い!!」
「あちゃ。多すぎたか・・・」
一抱えもある太い薪を全部串にしたら、そりゃ量が凄かろう。
「もぉ〜〜〜〜!!やっぱりガウリイってばクラゲ!!」
「ひ〜〜〜ん。」



ぱちぱち。
しゅう〜〜〜〜。
「い〜〜〜〜におひ・・・」
「食欲をそそられる匂いだなあ・・・」
「そそられなくても十分食欲はあるでしょ!あ〜〜〜おしょーゆだけは持ち歩いてて正解だったわ♪じゃ、早速。いっただっきまぁ〜〜〜〜〜す!!」
「あ。ずるい!オレも!」
「はぐはぐ。」
「むぐむぐ。」
「お・い・し〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ホントにうまいな♪」
「こりゃ、取った人が舞い上がるんじゃなくて、食べた人が舞い上がるわ。」「まったくだぁ・・・・」

至福の瞬間。

やがて、お腹が満腹にはほど遠いが、美味しさのあまり満足した二人。
「あ〜〜〜〜しゃ〜〜〜〜わせ〜〜〜〜。」
「・・・・・」
目を閉じ、お腹をさすってうっとりとしたリナを、じっと見るガウリイ。
視線に気付いたのかリナがぽっかりと目を開けた。
「・・・なに?」
「・・・いや。お前って、食べてる時はホントに幸せそ〜な顔してるな、と思って。」
「え・・・」
穏やかな笑顔に、小さくどきん、と胸が鳴ったリナ。
「そ、そりゃ、一番幸せだなあ、と思う時だもん。人生の中で。」
「そっか。」
どきん。
この動悸は何!?リナは焦る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不整脈か!?
(お約束♪)



びゅう〜〜〜〜〜!!
がたがた!!


「風が強くなってきたわね。」
「そうだな。ここに泊まることにして良かったなあ。あのまま歩いてたら今頃は・・・・」
思わず顔を見合わせてぞっとする二人。
部屋の外の寒さが、体の中に入り込んできたようだ。

「やだやだ。さっさと寝ましょ!毛布取ってよ、ガウリイ。」
「ほいほい。オレが先に火の番してるから、お前さん先に寝てていいぞ。」
畳んだ毛布を手渡しながら、ガウリイ。
「へえ♪優しいじゃん、ガウリイ。じゃ、お言葉に甘えまして♪」
「満腹になるとすぐ寝ちまうからな、お前さんは。危なくてしょーがない。」「あ〜〜〜。こないだ火の番しないで寝ちゃったの、まだ根に持ってるわね?しつこい男はモテないんだぞ?ガウリイ君。」
さっさと床にしいた毛布に潜り込むリナ。
「お・や・す・み♪」
言うが早いか寝息を立てて寝てしまった。
「・・・ほ〜〜〜ら、やっぱり。」薪をくべながらガウリイは苦笑。
「・・・別にモテなくてもいいんだけどね。」
呟いた言葉は、夢の中のリナには届かない。




「う・・・寒いよぉ・・・・」
背後で聞こえた声に、うとうとしかけたガウリイは目を覚ました。
「リナ?」
「さぁむい・・・・」
毛布の中でがたがた震えていたのは、リナだった。
だが起きているという訳ではなく、どうやら寝言らしい。
「寝言いうほど寒いかあ?」
仕方なくガウリイは立ち上がり、自分がかけていた毛布をリナの上にかけてやる。リナは青白い顔をして、震えている。
「熱でも出したかな・・・」
額に手を当ててみるが、熱があるという風でもなかった。
「こいつの寒がりは年季入ってるしなあ。」
苦笑し、毛布をきちんとかけ直してやる。
その手首を、がし、と掴んだのは。
「・・・リナ?」
リナの冷たい手。
「さむいよ、ガウリイ・・・・」
間接が白くなるほど、握りしめてくる。

「何の夢を見てるんだ、リナ・・・・」
空いた手で、髪を撫でてやる。
リナのがたがたは、少しそれで収まったようだが、まだ震えていた。
「寒いよ、寒いよ、寒いよ・・・・」
「・・・・・」
うわ言のように繰り返される。その口調に、ガウリイの心配の虫が起きる。
「しょーがないな。」
そっと手首から手を外す。



焚き火にさらに薪をくわえ、勢い良く燃え上がったのを確認すると、ガウリイは防具を脱いだ。さらりと長い金髪が流れる。
毛布をめくると、ぶるっと大きくリナが震えた。
急いで滑り込み、毛布をかけ直す。
リナはまたがたがた震え出していた。
腕を伸ばし、抱え込むように抱き締める。
体が冷たかった。

あれだけの毛布に埋もれていたのに、何でこんなに体が冷えているんだろう。疑問に思ったが、考えてもわからんことは考えてもしょうがない。
震える少女の体をしっかりと胸に抱く。
リナは、一度びくん、と体が固くなったが、すぐに体重を預けてきた。
足の間に細いリナの足を入れてやり、自分の体の熱で暖めてやる。

「頼むから今、起きないでくれよ・・・」
起きたら殺されるな、と思わず独りで笑ってしまったガウリイだった。

ぎゅっと、リナの手がガウリイの胸元を掴む。
「寒いよ、ガウリイ・・・」
「わかってる。今あったかくなるから。」囁いてやる。
「ん・・・・」
了解した、と言う風に、リナが頷いた。
途端に彼女の体から震えが消え、ほ〜〜〜〜っと長いため息が出た。
「・・・リナ?」
全ての力を抜き、・・・・・リナはすやすやと寝入っていた。
「おやすみ、リナ。いい夢を。」
髪に軽く、くちづけを落とす。
リナの顔に、かすかな笑みが浮かんでいた。


その微笑を目にして、ガウリイはさっきのリナとの会話を思い出す。
幸せそうに食事するリナに言ったガウリイのセリフに、
『そ、そりゃ、一番幸せだなあ、と思う時だもん。人生の中で』
と答えが返ってきたことを。

「人生の中で、一番幸せと思う時、か。」


リナを腕に抱いて、微笑みを浮かべて、ガウリイもまた眠った。






「な、な、な、・・・・・」
「ん〜?」
「なにしてんのよ、あんたわ!?」

すぱこ〜〜〜〜〜ん!!!

「いってえぇえええええええ!!お前、今、何でぶったぁ!?」
起き抜けにいきなり殴られ、目をぱちくりしながら頭をさするガウリイ。
太い薪を構えて、ぜいぜいと肩で息をしているリナ。
「あ〜〜〜!お前、そんなんで殴ったら、ふつー死ぬぞ!」
「うぅるさいい!!それくらいのことしたでしょーーが!!」
「へ?オレが何を?」
リナが真っ赤になる。
「あ、あたしを抱いて寝る、なんて、くそたわけたことしたでしょ!!」
「あ〜〜〜。」
「あ〜〜〜〜、じゃなぁいいいいい!!」
「しょーがないじゃん。お前さんが、寒い寒いって寝言がうるさかったんだから。」
「へ・・・・」
薪がごとん、と床に落ちる。
「あ・・・あたし、他に何か言った?」
「ん?いや、別に。オレの名前呼んだだけ。」

耳まで真っ赤になったリナ。急にしゃがみこみ、何をするかと思えば。
再び薪を手にする。

「そ・・・それ・・・どーする気だ?」
「決まってるでしょ?!こーすんのよ!」
どごし!!
「おわ!ちょ、ちょっと待て!!死ぬって、やめ、やめえ!!」
どご。ばき。ずし。
「ええい、ちょこまかと!忘れろったら忘れろ〜〜〜!!」
「お、お前もしかして、」
すばやく懐に飛び込んだガウリイは、間近のリナの顔を見る。
「照れてんのか?」
次の瞬間。
ひっとおおおお♪
「どひゃ〜〜〜〜〜!!」

場外ほーむらん♪
ガウリイはめでたくお星様になった・・・・・。





荒い息を吐くリナ。
薪をぼとりと落として、真っ赤になって呟く。


「言えない・・・・ガウリイがいなくなる夢だったなんて。」
























==================================おしまい♪
まいあがり茸・・・は「まいたけ」のことです(笑)
由来もおんなじ♪てんぷらもよし、バター炒めもよし、うちは味噌汁にも入れます。キノコはしいたけ以外なら大好きです♪
今でもサイパンで食べたマッシュルームのソテーの味が忘れられない・・・。うう。美味しかったなあ。オリーブ油で炒めて塩とバジルをかけただけだけど、美味しかった♪
食欲の秋・・・は過ぎて、冬ですねえ。
寒くなったので、こんな話を考えちゃいました。
でわ♪
読んで下さった方に愛を込めて♪
そーらがお送りしました♪

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