「ホントウのつよさ」


ぼくのなまえは、ガウリイ。
5さいだよ。
ぼくはいま、とうさんとたびをしている。
たびっていうのは、いつもおなじところでねるんじゃなくって、いろんなところへいったり、いろんなひとにあったり。
いつもちがうばしょへいくんだ。

ぼくのとうさんはけんしだ。
けんしってしってる?
けんがすっごくじょうずなひとのことだよ。
ぼくのとうさんはせかいいち、けんがじょうずなんだ。
でんせつのけんをまもるいちぞくなんだって。
まけたところは、いちどもみたことないんだ。
だからとうさんは、ぼくのじまんだ。
ぼくもいつか、とうさんみたくつよくなりたい。
けんをたくさんしゅぎょうして、とうさんみたいないちりゅうのけんしになりたい。
でもとうさんにそういうと、とうさんはわらうんだ。


「ガウリイ、頭もよく洗うんだぞ。」
「ふわ〜〜〜い。」
ぼくたちはいま、やどにとまっている。
おふろにはいってんだ。
「ほらほら、耳の後にまだ泡がついてる。」
「わかったよお。」
とうさんのおおきなてが、ぼくのあたまをわしゃわしゃする。
ぶは。
あたまからおゆをかけられちゃった。
ぼくはこれがいやだ。
「お前、髪がだいぶ伸びてきたなあ。後で切ってやろうか。」
ぼくのかみのけを、とうさんがつんつんとひっぱる。
「ほら、そしたら湯舟に入れ。風邪引くぞ。」
「うん。」
ざぶうん。
ぼくはいきおいよくおゆにはいる。
とうさんがびっくりしたかおになった。
おこられるかとおもったけど、とうさんはおおごえでわらった。
「お前、でかくなったなあ。見てみろ、お湯がこんなにこぼれちまった。」
「ホントだ♪うみみたいだね、とうさん。」
「お前ももう、五才だもんな。大きくなって当たり前か。」
そうだ。
ぼくはもう、ごさいだ。
おおきいんだぞ。
あかちゃんじゃないんだ。
でも、まだまだとうさんみたく、せがおおきくならないなあ。
「ねえ。いくつになったら、とうさんみたくおおきくなれるの?」
「そうだな。あと10年もすりゃ、だいぶ大きくなれるぞ。」
「ほんと?」
「でもそれには大事なことをちゃんとしなくちゃダメだ。」
「だいじなことってなに?」
とうさんはぼくのめのまえで、ゆびをおってかぞえる。
「好き嫌いしないでよく食べること、よく噛んで食べること、それから、運動をすることだな。あとはよく寝ること。」
「そしたらとうさんみたくおおきくなれる?」
「ああ。父さんが保証する。」
「わかった。じゃああしたから、ピーマンもちゃんとたべる。」
「ホントか?」
「うん。やくそくする。」
「男と男の約束だぞ?」
「おとことおとこのやくそく。うん、わかった。」
ぼくはとうさんと、ゆびきりをした。
だってぼくは、はやくおおきくなりたいからだ。



そのよる。
ぼくはちゃんとあたまをふかないでねちゃった。
とうさんもつかれてたみたいで、おおいびきをかいてねてた。
そのせいかもしんない。
つぎのひ、ねつがでちゃった。
かぜだっていわれた。
ずっとベッドでねてなくちゃいけないんで、ぼくはタイクツだった。
でもとうさんがかんびょうしてくれた。
だからうれしかった。
けど。
ドアのむこうで、やどやのおかみさんがいったことをきいちゃったんだ。
『母親がいればねえ。』
そのあとへやにはいってきたとうさんは、いつもとかわらなかったけど。



ぼくのねつがさがったので、つぎのつぎのあさ、ぼくたちはまた、たびにしゅっぱつした。
やどのおかみさんは、とうさんになにかいっていた。
『こんな小さな子を連れて旅なんかしなくたって。ひとつところに落ち着けばいいのに・・・・もしあんたさえよければ・・・・』
よけいなこといわないでよ、おばさん。
ぼくはとうさんといっしょで、うれしいんだから。

ぼくがおぼえているのは、ずっとたびをしてることだ。
どこかのいえに、ずっといたことはないとおもう。
たびはぼくにとって、あたりまえのせいかつなんだ。
ほかのこはちがうの?
「ねえとうさん。ぼくたちって、なんでたびってしてるの?」
おもったことはすぐきいちゃうのが、ぼくのわるいクセなんだって。
「お前、旅を続けるのは嫌か?」
まえをあるいていたとうさんは、ふりむかなかった。
ぼくのむねがどきん、とする。
「いやなんかじゃないよっ。ぼく、とうさんといっしょがいい。」
「・・・そうか。」
とうさんはまだふりかえらない。
「ホントだよ、とうさん。ウソじゃないよ?ぼく、ホントにこのままでいい。」
「わかったわかった。」
とうさんはうわのそらだ。
ぼくはとうさんにかけよる。
おばさんがいったよけいなことを、とうさんがほんきにしたらこまるから。
「ホントだよ、とうさん、ぼく、ホントだよ!?だから、おいてっちゃやだからね!」
とうさんのてをぐいっとひっぱる。

とうさんがやっとぼくをみた。
ぼくのむねはこれいじょうないくらい、どきどきしてる。
もしとうさんが、ぼくをおいてくっていったらどうしよう。
どうしよう。
とうさんはじっとぼくのかおをみてる。
ぼくはいまにもなきだしそうだ。
でもなくのはとうさんにおこられるので、ぐっとがまんする。

するととうさんは、いきなりしゃがみこんだ。
それから、ぼくをふんわりとだきしめた。
ぼくはぎゅっととうさんのくびにつかまる。
「ごめんな、ガウリイ。お前を不安な気持ちにさせて。父さんが悪かった。・・・お前を置いてくなんて、そんなことはしない。」
「ホント?」
「ああ。絶対だ。第一、そんなことをしたら母さんに怒られるからな。」
あ。
とうさんがかあさんのことをはなした。
めずらしい。
「ぼくは、とうさんがだいすきだ。とうさんとずっといっしょにいるんだ。・・・でも、かあさんのことも、ちょっとしりたいな。」
「・・・・・」

かあさんのことはなんにもしらない。
いないってことがふつうだとおもってた。
どうしておかあさんがいないのってきかれたことがある。
でも、ぼくはそれをしらないんだ。
・・・とうさんはだまっちゃった。
ぼくもだまった。
ふたりともだまった。
するととうさんがいきなりいった。

「いいか、よく聞け。すぐそこの茂みに隠れろ。父さんが呼ぶまで出てくるんじゃないぞ。」
「とうさん!?」
「大丈夫だ。すぐ呼んでやるから、おとなしくしてるんだぞ。」
ぼくはいそいでかくれた。
とうさんはけんをぬいた。
そしてはしっていっちゃった。


すこしすると、とおくのほうでかきーーん、かきーーんとおとがした。
ぼくしってる。
けんとけんがぶつかるおとだ。
とうさんがたたかってるんだ。
むねがまたどきどきする。
だいじょうぶだ。
とうさんはつよいんだ。
せかいいち、つよいんだ。
だからだいじょうぶ。
まってれば、きっとすぐおわるさ。
でも。
とうさん、でもね。

しずかになった。
するととうさんのこえがきこえた。
「ガウリイ、今行くぞ。」
「とうさん!」
ぼくはしげみからころげるようにとびでた。
とうさんはまえのほうからゆっくりとあるいてきた。
けんはさやにはいってる。
じゃあ、とうさんがやっぱりかったんだ。
とうさんはやっぱりつよいや。
「すまんすまん。こわかったか?」
とうさんはわらって、ぼくをたかくもちあげた。
「ううん。だってとうさんがかつっておもってたもん。」
「こいつ。」
とうさんはわらう。
ぼくはとうさんがだいすきだ。
つよいとうさんがだいすきだ。
やさしいとうさんがだいすきだ。
でも、だからね。

「とうさん、ぼく、けんをならいたい。」
たかいたかいをしてくれてたとうさんのうでが、ぴたりととまった。
「今でも練習してるだろ?」
「あんなあそびじゃないよ。ちゃんとしたのだよ。」
「・・・・・」
「ぼく、けんがつかえるようになりたいんだ。」
「どうして。」
とうさんはぼくをしたにおろした。
「とうさんみたくつよくなりたい。ぼくはとうさんみたくなりたいんだ。」
ぼく、しんけんだ。
まじめ、だ。
とうさんにわらわれてもいい。
ぼくはとうさんがだいすきだ。
だから、とうさんみたくつよくなりたい。
つよくなりたい、りゆうもあるんだ。

とうさんは、すこしのあいだだまって、ぼくのあたまをなでていた。
ぼくは、もういちどとうさんにきいてみることにした。
「ねえ。かあさんて・・・どんなひとだったの?」
とうさんのてがとまった。
「いつきかれるかと思ってたよ・・・」
とうさんのめがやさしくなった。
「かあさんはな、ガウリイ。お前にそっくりだよ。」
「ぼくに?ホント?」
「ああ。」
「かあさんは・・・なんでぼくのまえからいなくなったの。」

とうさんはだまっていた。
わかるだろう?とめがいっていた。
すきではなれたんじゃないってこと、とうさんはいいたいんだ。
うん。
それくらい、ぼくにもわかるよ。
かあさんがいま、ここにいないこと。
どうしてかってことは、なんだかきいちゃいけないようなきがする。
とうさんはやさしいかおでわらってるけど、どこかさみしそうだから。
ぼくはかあさんのかおをしらないから、さみしいとかはわかんないけど。
とうさんはきっと、さみしいんだね。
「大丈夫だ、きっといつか会える。かあさんに、大きくなったお前を見せなくちゃな。」
とうさんは、でもしんじてるんだね、かあさんのこと。
ぼくたちのたびは、かあさんをさがすたびでもあるんだね。

でもやっぱり、とうさんはつよい。
とぼくはおもう。
かあさんがいなくなってから、ずっとぼくをまもってくれてたもの。
そして、かあさんがいなくなったからってかなしんでばかりいないで、いまもさがしつづけてるんだもの。
やっぱりとうさんはつよい。
せかいいち。
でも、だからこそ、ぼくは。

「やっぱりけんをおしえて。んと、いや、おしえてください。」
「わかった。」
はなしはおしまいとばかりに、とうさんはぼくをひょいっとかたにかつぎあげて、あるきだした。
ぼくはとうさんのかたぐるまですすむ。
まえへ。
まえへ。

これからぼくは、どんどんつよくなる。
すききらいもしない。
よくねるし、よくたべる。
うんどうも、けんのれんしゅうもちゃんとやる。
どんどんどんどんつよくなって。
いつか、かあさんにあえるときまで。
ぼくはつよくなる。
ぼくはまもる。
だってまもりたいひとがいるから。
いつかかあさんにあわせてあげるまで、とうさんをまもろう。

そのために、もっともっとつよくなるから。
だから、まっててね。



とおくにもりがみえる。
そのむこうにみずうみが。
まだまだぼくたちのたびはつづいていくんだ。

ぼくはとうさんのあたまにしがみつきながら、いった。
「どうして、とうさんはぼくにおなじなまえをつけたの?」
ぼくとおなじ、ガウリイというなまえのとうさんは、しずかにほほえんだ。
「母さんに、お前が父さんと母さんの子だってすぐにわかるように、な。」
























=============================================えんど♪

ほのぼの編です。最初にシリアス編を書いたんですが、やっぱりほのぼのも書きたくなって書いちゃいました。ひらがなばっかで読みにくくてごめんなさいです(汗)
あとがきのつづきは、シリアス編のほうで♪

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