「せくし〜をあなたに。」


所変わって、こちらはコンテストの会場の舞台裏である。
ひそひそ。

「やっぱ恥ずかし〜わよ、これ。」
「何を言ってるんです。もうすぐ出番ですよ?」
「だってえ・・・・。ムネのとこ、余るし・・・。」
「大丈夫大丈夫。なるべく平ったい貝探してきました♪」
「アメリア・・・・・・」
「はうっ!(びびくっ)ほ、ほらリナさん、次の次ですよっ!」
「うっ・・・・」

「さあ、盛り上がって参りましたっ!マルメイデ街名物夏祭りっ!その昔、人魚族の姫君をこの土地の領主が見初め、妻に迎えたことから友好のために築かれたのがこの街です。その後に起こった人魚族と半魚人族との戦いで、人魚族は滅んでしまいましたが、娶られた姫の可憐な美しさは後生に伝え聞かされております。その姿を忍ぶため、延々と続いてきたこの祭。そのメインイベントである第311回人魚姫コンテストっ!伝統あるこのコンテストの栄冠を手にするのは、今年はどなたでしょうかっ!」
特設舞台の上には、派手な衣装をまとったよく舌の回る司会。
その後には舞台美術費の8割を使ったであろう(略してビ〜パチ・笑)岩そっくりのハリボテに、人魚の格好をした少女がずらりと並ぶ。
そこで司会は、さっと舞台裏に合図。
「さあ、ここで次の出場者をご紹介しましょうっ!」

舞台裏。
「や、や〜よ、やっぱりヤメたっ!恥ずかしいわよぉ!」
「出番ですよ、リナさん!」

歩けない人魚姫は、特設の岩のハリボテに乗って出てくる。
(裏で一生懸命、大道具さんが押しているのだが・笑)

ざわっ・・・・
会場がざわめいた。
続いて静かになる。

岩に乗って出てきたのは、数人の少女。
どれも小麦色に日焼けし、健康そうだ。
ただ1人、抜けるように白い肌を持つ少女を除いて。

恥ずかしそうに伏せたまつげには、ミワンが念入りに塗ったラメ入りのマスカラが光る。
細い首には、小さな粒のパールのネックレス。
腕と、細腰にはガラスビーズを長く連ねたものがからまっている。
耳には大粒のピンクパールが。
頭頂部より高いところにアップにされた髪が、艶をなして肩にかかっている。
その栗色が、白い肌を一層白くひきたたせている。

髪のところどころに編み込まれた、やはり小粒のパール。
何よりも、うっすらと染まった頬とうなじのピンクが、ひとはけポイントを与えている。

もともと海辺の街。
例年行われるこのコンテストの出場者は、一様によく日焼けした小麦色の肌の娘。観客は、リナの肌の色に目を奪われた。

岩の上から、そっとリナは会場を見回す。
金色の頭を探すのだが、あるはずもない。
「・・・来ちゃダメって言ったの、あたしだもんね・・・。」
自嘲気味に小さく呟く。
俯くその顔に、観客の視線が集中していることにも気付かない。

アメリアは舞台裏で秘かにガッツポーズ。
そわそわと観客席を見回す。
「ガウリイさん、見ててくれるといいんだけど・・・。朝は蹴っとばしても何しても起きなかったしぃ・・・。」





「すいませんねえ、お兄さん。」
「いや、いいんだって。気にしないでくれ。」
ガウリイにおぶわれたお婆ちゃんは、申し訳なさそうにガウリイの頭を見る。
宿の前で、疲れて座っているお婆ちゃんを見つけたガウリイは、浜辺まで行くという話を聞いておぶってきたのだった。

リナに来るなと言われたのだが、これといって他にすることもなし。
ゆっくりと着替えて宿の外へ出ると、お婆ちゃんが座り込んでいた、という訳だ。
「浜辺でやってる人魚コンテスト、毎年見てるものだから、どうしても今年も見たくてねえ。」
「何だ。お婆ちゃんもコンテスト見に行くのか。」
「おや。お兄さんもかい。もしや、いい子でも出てるのかい?」
「え・・・いい子って・・・」
「だから。恋人とかさ。なら急がなくちゃ。」
「ん〜〜〜〜。恋人ってんじゃねーけど・・・・。知り合いが出るんだ。」
「おやまあ。じゃああたしゃ降りるから、あんた急いだ方がいいよ。」
慌てて降りようともがくお婆ちゃんに、ガウリイは苦笑して答える。
「それが、オレは来ちゃダメだって言われちまって。だから、ホントは行くのやめようかと思ってたんだけどさ・・・・。」

お婆ちゃんはしばらく黙っていた。
それから、まるで少女のように、ふふふっと笑うと言った。
「そりゃあお前さん。その子に意識されてるんだよ。」
「い・・・・意識?」
「そうさ。どうでもいいヤツなら、来ても来なくてもおんなじだろ。あんたにだけは見せたくない。あんただけは来ちゃだめって言うのは、ひっくり返せば、ホントはあんたは特別ってことさね。」
「えっ・・・・・」
ガウリイ、立ち止まる。
「そ・・・・そーいうもんかなあ?」
首をひねる。
その様子がおかしいと、お婆ちゃんはころころと笑った。



「うわ。凄い人ごみだなあ。」
ガウリイは辺りを見回した。
お婆ちゃんは会場の手前で別れた。
入るかどうしようか、会場に着くまで迷っていたガウリイは、お婆ちゃんに背中を押されるようにやってきたのだ。

「リナのやつ、出るって言ってたけどホントに出たのかな。・・・あ、すいません。」
ガウリイは会場を去る人に声をかけ、尋ねてみる。
「あの。背がちっこくてついでにムネもちっこくて、栗色の髪の、いかにも跳ねっ返りって感じの女の子、出ませんでしたか。」
通りすがりのおやぢは、首を傾げた。
「さあな。俺は最初っから見てたが、そんなガキんちょはいなかったぜ?」
「あれ。おっかし〜な・・・。」
ぽりぽりと頬をかくガウリイ。
ぽん、と手を叩くおやぢ。
「あ。栗色の髪って言えば。さっき優勝した娘っこがそんな髪の色してたな。」
「優勝?じゃあ違うか・・・・。」
「確かに小柄で、ムネも少々貧弱だったが、ありゃあいいオンナになるなきっと。」
おやぢは腕を組んで一人でうんうんとうなずいている。
「いや、実に綺麗で色っぽかった。」
「色っぽい・・・・?」
「特に表情が良かった。客席をこう、ゆっくりと見回してな。何とも切ないようないい顔をしたんだ。伝説の人魚姫ってのは、憂い顔の美少女ってんだから、今年は特にその雰囲気があたったんじゃねーかなあ。」
ガウリイは、さらに首をひねる。
「憂い顔ねえ・・・?んじゃ、リナじゃねーな、きっと。あいつ、どこ行っちまったんだ?」





控え室では、リナがざばざばと顔を洗っていた。
「も〜〜〜〜〜こんな恥ずかしいの、イヤっ!いくらお金のためだからって!」
「何を言ってるんですか、リナさん!優勝ですよ、優勝!みんながリナさんの美しさを認めたんですよっ!」
アメリアは目を輝かせて力説する。
その腕には、見事リナが勝ち取った優勝カップと、宿泊券代わりのでっかいカギのはりぼて。
「あたしが美少女なのは当たり前なのっ!いつも言ってんでしょ!」
「またまたあ。それにしても、ガウリイさん結局来ませんでしたね。」
賞品を抱えたままで、アメリアはため息をつく。
「・・・ガウリイ?なんで。」
わざと素っ気なく答えるリナ。
「だって・・・・。元はと言えば、美しく色っぽくなったリナさんを見せたくて、わたしとランツさんが計画したことで・・・・・・はうっ!?わたし、今、何を?」
「そ〜〜〜〜〜〜〜いうことだったのね!」

リナ、ぷっちり。
「アメリア。あんた、いっつもあたしとガウリイをひっつけよ〜としてるけど。いい加減、ヤメてくんない?」
「あの、あの。」
眼前に迫るリナの迫力に、アメリアたじたじ。
「あたしは別に、あいつのことそーいう風に思ってないからっ!ただの自称保護者だし?クラゲだし?脳みそヨーグルトだし?ぢょーだんぢゃないわっ、あんなヤツ!」
勢い良くまくしたてたものの、自分の言った言葉に、何故か考えこんでしまうリナ。
アメリアはため息をつく。
「リナさんがそこまで言うなら、わたしは何も・・・。」
「そっ・・・・そーよっ・・・」
くるりとリナはアメリアに背中を向ける。
「あいつなんて。ただの・・・・・ガウリイなんだから。」


あっという間にいつもの格好に着替えてしまったリナ。
アメリアはさらに大きなため息をついた。
「もう脱いじゃったんですかあ・・・。」
「あったり前よ!やっぱ、いつものカッコが落ち着くわ。」

こんこん!
「はい?」

ノックの音に続き、部屋に入ってきたのはミワンだった。
「リナさん、優勝おめでとうございます。」
にっこり笑ったその顔に、リナはげんなりと笑い返す。
「あ、ありがと・・・・。」
「まあ。もう着替えてしまったんですか。せっかくいい人を連れてきたのに。」
ミワンは残念そうな声を出すと、ドアの脇にどいた。
「よっ・・・・。」
現れたのはガウリイだった。


後片付けをするから、浜辺でも散歩してこいと二人を追い出すと、アメリアはどさりと椅子に腰掛けた。
ミワンがお茶を運ぶ。
「お疲れさま、アメリアさん。どうぞ。」
お茶を出されて、アメリアは赤面する。
「あ、す、すいません、ミワンさん・・・。わたし気が利かなくて・・・。」
「いいえ。そんなこと気にしないで。」
ミワンも空いた椅子に腰掛ける。
「・・・・あの・・・・。」
「何ですか?」
「いえ、何でも・・・。」
何となく気詰まりを覚えるアメリア。
「それにしても、残念でしたね、作戦が失敗して。」
「わ。気がついてたんですか。」
「リナさんが綺麗になったところを、ガウリイさんに見せたかったのでしょう?」
「そうなんです。でも・・・失敗しちゃいました。」
たはは、と笑うアメリアに、ミワンはそっと言った。
「大丈夫。リナさんはもう充分、綺麗ですよ・・・・。」





「なあ、リナ。」
「何よ?」

ぽてぽてと歩く二人は、何となくぎこちない。
リナは不機嫌に黙ったままだったし、ガウリイはどうにもさっきのおやぢの言葉がげせなかった。
「優勝したって・・・・ホントなのか。」
「どーせ、寝坊して見てなかったんでしょ。まあ、あたしが来るなって言ったんだけど。」
「あ・・・ああ。・・・なあ、何か怒ってるのか?」
「べっつに!」
「さっき会った人がな・・・。」
リナの後ろ姿を見ながら、ガウリイは心の中で呟く。
『お前が綺麗だったって・・・・言ってたぞ・・・・・・。』
「何よ・・・?」
リナが振り向く。


ざあああっ・・・・
寄せては返す波。
くだける波頭。

傾いた日射しは、風景全体を少しオレンジ色に染めている。
髪が風に遊ばれ。
白いうなじをさらす。

どきんっ・・・・
見つめる者の胸を、ひとつ波打たたせて。

ガウリイは、リナから目が離せない自分に驚く。
いつものリナなのに。
別に飾り立てているわけでも、ないのに。

リナは、ガウリイを見つめ返す。
来ちゃダメって言ったけど。
ホントは、一番来てほしかったんじゃないの?
自分に問い掛ける。

「髪に・・・・」
ガウリイは、リナの髪に残ったパールがひとつ、絡まっているのに気がつく。
取ってやろうと手を伸ばす。

どきんっ・・・
見返す者の胸も、ひとつ波打つ。

パールをつまんだまま、しばらくガウリイは動けなかった。

風が、どおっと波を揺らす。


ガウリイの耳に、夕べのランツの言葉が谺する。
『そんなノンキなこと言ってると・・・・』

リナの耳には、ミワンの声が。
『いい加減に子供扱いはやめて、1人の女性として見てほしいって聞こえますよ?』
それにかぶるように、さっき自分が吐いた言葉が耳に痛かった。
『あいつなんか。』


ガウリイは、リナの。

リナはガウリイの顔を見つめる・・・・・




「兄貴〜〜〜〜〜っ!」
「ガウリイ。ここにいたのか。」

ぱちん、と何かが弾けた気がした。
二人が我に帰ると、ランツとゼルがこちらに向って歩いてくる。

ガウリイの指は、するりとリナの髪からパールを抜いた。

ランツがガウリイの胸ぐらにつかみかかる。
「兄貴よおお〜〜〜〜!何でもっと早く来れなかったんだよおおお!」
「え・・・」
「あの嬢ちゃんがな!優勝したんだぜ!そりゃあごっつい綺麗でさっ!もう、いつもの嬢ちゃんとはまるで別人で・・・・」
「・・・ランツ。聞こえてるわよ。」冷静になったリナの一言。
「全くだ。馬子にも衣装とはこのことか。」
「ゼル・・・・・。覚えてなさいよ・・・・」
「だってな、兄貴!もう、ホントに色っぽかったんだぜ!見せたかったぜ〜〜〜!いっそ、ずっとあのまんまでいてくれれば良かったのに〜〜〜!」
「ちょっと待ちなさいよ、ランツっ!おにょれ、一度とならず二度までも〜〜〜!も〜〜〜許さないからねっ!」
「な、なんでだよお〜〜〜。俺はホメてるのに〜〜〜〜」
べそをかきながら逃げるランツを、リナは追いかけ回す。

「俺も同感だな。」
「ゼル?」ガウリイは顔を上げる。
「ダンナもあれを見とけば良かったんだ。滅多に拝めるもんじゃなかったぞ。」
「あのなあ。」
「いつまでも子供と思って手加減してると、いつか痛いしっぺ返しをくらうかも知れんぞ。」不吉なことを口にするゼルガディス。
「どっかの誰かにかっさらわれないとも、限らないからな。」
言いたいことだけ言って、ざくざくと歩き出すゼルガディス。



1人、浜辺に取り残されたガウリイは、そっと手を開く。
リナの髪から抜き取ったパール。

振り返ったリナ。
見上げてくる、まっすぐな瞳。
いつも彼が目にし、よく知っているその姿。
そして夕べの、怒ったリナの顔。
さっき見せた、誰かが言ってたみたいな、切ないような表情。

変わらないようで、変わってるものもあるかも知れない。
ランツに向って、自分が言った言葉を思いだすガウリイ。
「全然変わってない、と思ってるのは、オレだけなのか・・・?」

遠くで、ランツを追いかけ回している賑やかな声。


ガウリイは、そっとパールに口を寄せた。

「ちょっと・・・・・。悔しい・・・・か・・な。」








































******************えんど♪

えっと(笑)ホワイトなガウリイ派に捧げます(笑)
たまにはいいでしょう♪<おひ(笑)
ガウリイがホワイトだと、リナ側からアプローチをかけないとダメですねえ(笑)
本来のねらいは、色っぽさは自然なところに出るってことを書きたかったんですが・・・・・。全然、違うやんけ(爆笑)
ミワンとランツはまた出してみたいです。まだ別れてないしね(笑)
あと今回はテレビねたが入ってます(笑)さあどこでしょう(笑)

このお話は当時、連日更新をしていました(笑)更新のたびに悪戯絵を変える主義だったので(笑)三日目の絵も下にアップしておきます(笑)
では、読んで下さる皆様へ愛を込めて。
ひと夏の想い出はできましたか?

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