「すぅぃ〜と・しょ〜と・しょ〜と」
(ガウリイ編)

 
 
女の子って、ふと、ふわっと甘い匂いがするんだな。
 
仕事を探して来いとリナに宿から放り出され、オレはきょろきょろと通りを歩いていた。
結構人出があるんだなあ。
ひらひらのスカートをはいた女の子の集団が、オレの脇を通っていった時のことだ。
ふわっと、いい匂いがした。
 
何の匂いだろう?
オレは思わず振り返って見てしまった。
女の子の集団の1人が振り返った。
「あの・・・何か?」
オレははっとして思わず赤くなっちまった。
「い、いや、その・・・」
「そうですか?」
女の子は不審そうな顔はせず、ぺこりとお辞儀を一つすると行ってしまった。
オレはほっとした。
いい匂いがするんですけど、どうしてですか、なんて聞けないよなあ。
 
でもオレ、香水とかそういうの、どっちかというと苦手な方なんだけどなあ。
何で、いい匂いだと思ったんだろ。
 
考え事をしながら歩いて行くと、さっきの女の子と同じようなかっこをした別の集団が通り掛かった。
やっぱり、甘い匂いがした。
手に手に籠を持ち、思い思いの色や柄のスカートをひらひらさせて、女の子達は何が面白いんだかきゃあきゃあと笑いながら去って行く。
中の1人は、誰かと似た栗色の髪をしていた。
 
リナも、魔導士姿じゃなくスカートをはき、手に小さな籠を持って、同じ年頃の女の子達と会話しながら歩く時があったんだろうか。
そして、その時は、甘い匂いをさせていたんだろうか。
う〜〜〜〜〜〜〜ん。
想像がつかないけどなあ。
 
ふと、壁に貼られたポスターが目に入った。
 
『この先 ケーキ教室開催中
ジャンケンパン店』
 
それとともに、いい匂いが漂ってきた。
 
 
 
 
店のドアから、女の子が2,3人出てくるところだった。
どうやら、ケーキ教室に通っている子達らしい。
丁度時間が終ったところなんだろう。
ガラスの向こうで、まだ残っている女の子達が出来上がったケーキを囲んで何か楽しそうに話している。
手にした籠に一つ二つとしまっている子もいた。
なんだ。
いい匂いって、ケーキの匂いだったのか。
最初の女の子達も、その次のも、皆ケーキ教室でケーキを焼いてきて、手に持った籠からその匂いがしたんだ。
オレは自分の鼻を笑った。
 
女の子は、皆、甘い匂いがするのかと思った。
想像もつかないけれど、リナもあんな風に普通の女の子として暮らしていたら、いい匂いに囲まれて暮らすのかなとか、馬鹿なことを考えたりもしたのだ。
それで、オレはぼ〜〜〜っとガラスの前に突っ立っていた。
 
ちりりりん。
パン屋のドアにつけられた鐘が鳴って、女の子達が何人か出て来た。
おずおずとオレに近付くと、1人が手に持ったお盆を差し出した。
「あの。良かったらどうぞ。」
見ると、紙で包まれた小さな塊。
「これは・・・?」
「ずっと見てたでしょ。今日の私達の成果です。良かったら食べて下さい。」
女の子は、オレに無理矢理包みを押し付けると、またきゃあっっと笑いながらドアの向こうに消えた。
・・・・?
包みからは、ふんわりといい匂い。
くす。
そっか。
オレがぼんやり、ケーキを見てたと思ったのか。
そうだな。
オレはガラスの向こうにあるケーキやその作り手を見ながら、全くそれとは結び付けようのない人物を思い浮かべていたんだけど。
まあいいか。
くれるってもんは貰っておこう。
それに、作る姿は想像できないけど、食べる姿なら容易に想像つくし、な。
 
 
 
 
「よ、リナ。」
宿に戻ったオレを出迎えたのは、へろへろのリナ。
彼女も仕事が見つからなかったみたいだな。
オレも見つからなかった、と言うと、元気のない一言が返ってきた。
相変わらず、全身を布でくるんだ暑苦しい魔導士姿。
オレは、ふとあの子達のはいていたスカートを、リナの姿に当てはめていた。
うん、悪くはないかも知れない。
そんな生き方もあったんじゃないのか。
オレの知らないリナが、スカートをはいてケーキを焼いたりおしゃべりに夢中になったり、そんなリナが、存在したのかも知れない。
でも、もしそうだとしたら?
もしリナが、今のリナでなく、別のリナとして生きていたら?
・・・オレは、一生リナに会うこともなかったかも知れないな。
 
オレはまたぼんやりとしていたらしい。
ふと気がつくと、リナがオレの胸によりかかった。
えっ・・・!?
驚いて、はずみでしりもちをついちまった。
リ、リナ?
な、なにがどーした!?
思わず赤くなる。
どうしてかって?
 
それは・・・リナから。
いい匂いがしたからさ。
ケーキとかじゃなくて。
ふわっと。
 
リナはどうやら、オレの懐に入っていたケーキの匂いを嗅ぎ付けただけみたいだ。
続けるか降りるかどっちかにしてくれ、と言ったら真っ赤になった。
一人で美味しいものを食べたって怒ってる。
 
オレはその時わかったんだ。
リナはリナだと。
リナらしくなきゃ、リナじゃないんだと。
もしかしたらどっかで暮らしていたかも知れない、普通の女の子のリナは、オレの知ってるリナじゃないんだ。
オレの、リナじゃないんだ。
なんだ、簡単なことだったな。
ケーキを焼かなくても。
いや、オレが知らないだけで実は料理が上手いのかも知れないけど。
リナはリナだ。
このままで充分だし、このままでも、オレにとっちゃいい匂いのする女の子なんだ。

ケーキをぺろっと食べたら、羨ましそうなリナの顔。
オレはリナを引き寄せ、こう囁いた。
「味見だけでも、してみるか?」
オレの大事な、ケーキより甘い君に。
 
 
 
 





















ぐはっ。
構わないですから、砂糖吐いて下さい〜〜〜〜〜(笑)
ではこんな甘すぎの話を読んで下さった方へ、お口直しのお茶を一杯(笑)
ありがとうございました♪

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