「水面の鳥」

 

と、その時、むっくりとリナが起き上がった。
 「リナさん?」驚くゼロス。

 「う〜〜〜〜〜〜〜また来た〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 そう言うと、目の前にあった神官のマントをひっつかむとその中に吐いた。

 「う、う、うわああああああああああ!!!

 さすがの獣神官もこれには真っ青になり、悲鳴をあげまくる。
「リナさん!!な、なにをするんですかっ!!!!!」
「あ、ゼロス。いたの。」
「いたの、じゃありませんよ!これ、どーーーしてくれるんです!!
僕の一張羅なのにいいいいいいいいい!!」
「ちゃは、ごめえん。」
ゼロスはぶるぶると震え出した。
「い、いくら僕でもこれはちょっと・・・・・・」
「なんか用?ゼロス。」
ぼーーーっとした顔でリナが言った。
「用・・・・用はあったんですが・・・・」
「なに」
「いえ・・・・・・もーいーです・・・・・・・・・」
顔に青い縦線をたくさん張り付け、マントをたくしあげゼロスはすうっと消えた。「出直して来ます・・・・・・・・・・」


 ふっと呪縛が消えてガウリイはがくっと膝をついた。
肩で息をする。
その様子に初めて気付いたリナは、慌てて洋服の前を掻きあわせる。
「な、なに、ガウリイ、い、い、いつからいたの!?」

 ふう、と息を吐いて、ガウリイは剣を鞘に収める。
「あ、ゼロスがいたわよね、今ここに。それで、もしかして来てくれたの?あんたってば魔族の気配には敏感よねえ。」
何も知らずのんきに話すリナの唇を、ガウリイは見つめていた。
「でも大丈夫♪なんか知らないけど、帰っちゃった。あれ、そんなに荒い息吐いててどうかした?」
自分がゼロスのマントに吐いたことも忘れたらしい。
「・・・リナ。」
「なに?」
「きいてもいいか。」
「だから、なに。」

 「ゼロスとキスしたってホントか?」

 ずべええっ。
 リナがこける。

 「な、な、一体、そんな話誰に聞いたのよ!?」
「そんなことはいい。ホントなのか?」
静かな口調できくガウリイの様子にリナは気付かない。
「そ、そ、それは・・・・・・」
赤くなり、口ごもる。
「ホントなのか?」
「あ、あんなの、キスじゃないわよ!あたしが油断してる時に、あっちが無理矢理してきただけよ!それも唇がほんの少し触れただけで、なんてゆーか、ほら、あ、あいさつみたいなもんよ!」
必死で説明するリナ。
ガウリイはゆっくりとベッドに近付く。
まだ顔を赤くしているリナの隣に座るとガウリイはリナにこう言った。

 「・・・お前、ゼロスが好きか?」
「な、なによ。いきなり!」
「いいから教えろよ。」
「べ、べつに好きなんかじゃないわよ、あんなヤツ。第一、あれは魔族なのよ。好きだのどーだの言う相手じゃないわ!」
「魔族かどーかなんて関係ないだろ。好きになれば。」
「な、なに言ってんの!きょ、今日のガウリイはやっぱ何か変よ!」
「変、か。」

 くすり、と自分を嘲笑うかのような笑いをガウリイがするのを見て、リナは
少し不安になった。
「・・・ガウリイ?」

 「リナ。」
笑いが消えて、真剣な顔がこちらに向けられる。
「・・・キスしていいか。」
「・・・・・・え?」

 リナがすっとんきょうな声を出したのを見て、ガウリイが腹を抱えて笑い出した。「は、お前、マジだと思ってやんの!」

 「炸弾陣!!!!!!!」


ちゅどおおおおおおおおおおん。

 ちーーーーーーーーん。ぽくぽく。





 「まったく、なんだってゆーのよ。」

 ぶつぶつ言いながらリナがせわしなく歩いていた。その後ろから包帯でぐるぐる巻きになったガウリイがついていく。
 宿屋の修理代を払わされ飛び散ったガラスの後片付けまでさせられて、いたくリナはご立腹だった。その上宿屋の女将にこう言われたのだ。

 『あんた、その人大事にしなよ。
昨日酔っぱらって帰ってきてあんたが吐いた廊下を、一生懸命掃除してたわよ。こんないいダンナはちょっといないよ?』
 
 「・・・・ダンナじゃなくて、保護者だっての。」小声で言う。
「・・・何か言ったか?」
「別に。ああ、もうあったまきた。
早く次の街に行って何か美味しいもん食べよっと。」
「あ、そいつはオレも賛成♪」
「あんたは自分で払ってよね!あたしはまだ昨日の冗談許してないんだから!」
「・・・冗談じゃないんだけどな。」
「何か言った?」
「別に。」
「そう言えば、今日はきょろきょろしないねガウリイ。」
「え?・・・今日はって、オレ、昨日きょろきょろしてたか?」
「あ〜〜〜〜〜〜このクラゲ〜〜〜〜〜〜〜!もう忘れてる。一日中周りを気にしてたじゃない。誰か探してる人でもいたの?」
「え。何で。」
「だって、夜は一人で飲みに行ってくるってあたしを置いて行ったじゃない。てっきり、知ってる人が見つかってその人に会いに行ったのかと・・・・」

 ガウリイの顔を見上げながらごにょごにょと話すリナを見るに至って、やっとガウリイにも昨日のリナの泥酔と食べ過ぎの理由がわかった。
 そこで言った。
「ああ、見付かったよ。」
「・・・その人、・・・・女?」
 うつむき、ちらりと上目かげんで尋ねる。わずかに顔が赤い。
ガウリイはにんまりと笑った。
「いや、男。」
「ウソ。」
「いや、ホント。しかも、会いたくなかったヤツだった。」
「ふうん。」

 手を後ろで組み、くるりと前を向いたリナはもう機嫌が直ったようだった。

 薄暗かった空が次第に明るくなり、やがて遥か山の端から朝日が昇ってきた。一条の光が、リナの髪を輝かせる。光に包まれたその姿は、まるで一幅の絵画のように美しい光景だった。ガウリイは目を細めながら心に誓った。

 彼女を決して、闇には渡さない。
 
 背中に視線を感じたのかリナはこちらを振り向いた。そして悪戯っぽい笑顔で前を指差す。
 「ねえねえ、ガウリイ。あそこの鳥。」
 指差す方向を見ると、街道の脇に小さな池があった。そこに白い水鳥が優雅に泳いでいた。リナはくすくす笑いながら、ガウリイに言う。

「水鳥って一見優雅に見えるけど、その実、水面下では絶えまなく足を動かして泳いでるんだってね。なんかすました顔してるけどそう思うと笑っちゃうと思わない?」
 
 
 鳥が優雅に見えるためなら、足は何だってやってやるさ。




























====================おしまい♪

777hitされたあきらさんのリクエストにお答えして書いた作品です。
リクエストは「ガウリナ」で「ゼロガウ」?というか、ゼロスがいつもリナにかまうがほんとにアブないやつは、事前に誰かさんがしっかり止めていたんではないか、と言うコメントです。な、なるほど。
という訳で、こんなん書いてみました。一部ちょっとお食事中の方には申し訳ないシーンがあったんですが、あれはガウが保護者してるとこをなんとか表現したくて。だからゼロスはすぐに退散するようになってます。
では、ここまで読んで下さってありがとうございました。よろしければ感想など、掲示板でもメールでも書いて頂ければ嬉しいです。
次のはげみにしますので♪
では、そーらがお送りしました♪

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