「コドモとこども」


「一体、何でこんなことになっちゃったんだろう・・・・」
リナは、長いため息をついた。
膝の上ですやすやとちびガウリイが眠っている。




あの後、呆然としつつも、周りに落ちていた防具や光の剣を見るに至ってやはり、この子供がガウリイであるという結論に達した。
何故ガウリイが縮んでしまったかはわからずじまい。

日も暮れてきたので近くの町に逗留することになった。
宿屋で『あんたの子かい?』ときかれるし、いつまでもぶかぶかの服を着せておくわけにもいかないので服を買ってやると、そこでも
『あらいいわね。お母さんに洋服買ってもらって。』
と頭を撫でられている始末。

『あたしのどこを見たら子持ちに見えんのよ!』
夕食の席で、不満を爆発させるリナにゼルは
『たしかに子供を育てたムネには見えん。』と言って早々にどつかれた。
その脇で、ぼろぼろこぼしながらちびガウがご飯を食べている。

『かわいいいい♪わたしが食べさせてあげよ♪ほらあ〜〜〜んして♪』
母性本能をくすぐられたか、アメリアが自分のピラフをスプーンですくって、ガウリイに差し出した。
だがちびガウは、すささっとリナの方に逃げた。
『あれれ。・・・やっぱりリナさんになついてます。』
『なに言ってんの!あ、もう、こんなにこぼしてえ。勿体ないでしょ!
い〜〜〜い、お米にはね、ありがた〜〜〜〜〜い神様が住んでるの!残さず綺麗に食べないと、しょーちしないわよ!それからよく噛むこと!88回は噛まなきゃダメ!それからそれから・・・』

がみがみ言われているというのに、ちびガウは嬉しそうな顔をしていた。
その笑顔につり込まれ、リナは何も言えなくなってしまった。
  
夕食を食べたあと、ちびガウは疲れたのかこてん、とリナの膝に頭を乗せたかと思うとまたたくまに眠ってしまった。
『じゃあリナさん。また明日。』
『先に寝るぞ。』
薄情な二人が行ってしまうと、リナは膝の上の子供を見て、ため息をついたのだった。




「やっぱガウリイ、なのかな・・・」
手を握り、丸くなって寝ているその姿は、なんだか頼りなくて恐かった。
ガウリイの背中はいつも大きくて、そこにぴったり自分の背中をくっつけてよく戦ったものだ。
安心して背中を預けられた。
でも今は。

髪を撫でる。
さらさら。結構長い。
変だな。いつも撫でられてたのはあたしの方なのに。
ガウリイの頭はいつも高いとこにあって、頭を撫でるにはテーブルの上にでも上らなきゃ無理な話だった。
ふう、とまたため息をつく。
もぞもぞ、とガウが動く。

「リ・ナ・・・・・・・」
ふう。

「しょーがないわね。こんなとこで寝かしてたら風邪ひいちゃうもの。」
言ってちびの体を抱き上げる。
軽い。
持ち上げてもガウは起きなかった。
幸せそうな寝顔。
何だかリナは切なくなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「リナ、おんぶ。」
「はいはい。」
「お水のみたい。」
「はいはい。」
「おナカすいた。」
「さっき食べたばっかでしょ!」
「そっか。えへへ♪」
「えへへ♪じゃないわよ、まったく!」

「ほほえましい光景ですね、ゼルガディスさん。そう思いませんか?」
「そうだな。」くすりとゼルが意地の悪い笑顔を浮かべる。
「リナもこれでダンナの気持ちが少しはわかるかも知れんな。」
「何か言いました?」
「いや別に。」
「・・・でもあの小さいガウリイさん、今までの記憶が残ってるわけじゃないのに、よくリナさんの名前は覚えてましたね。」
「そういやそうだな。オレ達のことはわからないくせに、リナの顔を見て、リナってすぐに名前を呼んだな。あれにはリナも驚いてた。」
「それにリナさんにだけは、なついてますよね。」
「まあ、世の中にはまだまだ不思議があるってことだな。
それにしてもなんでダンナは縮んじまったのか。」
「またゼロスさんが変なもの持ち込んだんじゃないでしょうね。」
「ありうるな。」

腕組みをして二人を見るゼルガディスとアメリア。
そんな視線には気付かず、まるでいつもの夫婦漫才の続きをしているかのように、じゃれあいながら街道を行く二人。





「リナ、オレのことすき?」

休憩にと、野花が咲き乱れる草原で寝転がっていた時のことだった。
ぶっとゼルが吹き出した。

「な、なによ、急に。」
リナが顔を真っ赤にし、何故自分が赤くならなければいけないのかとばかりに頬を押さえる。
「オレ、リナすき。リナ、オレのことすき?すきならうれしい。」
子供の真剣な眼差しに、ものが言えないリナ。

そそくさと視界からアメリアがゼルを引っ張っていくのが見えた。
「あ、ちょっとアメリア!どこ行くのよ!」
「リナ、オレを見て。」
くいっと小さな手で、ちびガウがリナの顔をはさんで自分の方に向ける。
空と同じ、真っ青な瞳。
「オレ、リナがすき。」
「・・・・・」
 
「?」
黙りこくるリナを、不思議そうにみつめるちびガウ。
嘘でもいい。
うん、大好きよ、と言えばいい。相手は子供なんだから。
でもリナの口は開かなかった。

ふい、と手が離れる。
ぱたぱたとちびガウリイが遠ざかる足音が聞こえた。
 



「あ〜〜〜あ、バカみたい・・・」リナは一人になって、自分を責める。
ぽかぽかと頭を叩いていると、ゼルとアメリアが戻ってきた。

「あれ、ガウリイさんは?」
「知らない。どっか行っちゃった。」
「ダメじゃないですか!リナさんは今、ガウリイさんの保護者なんですよ!
子供がなにしてるか、どうしてるか、どこへ行ったのか、ちゃあんと把握してなきゃ。」
腰に手をあてて説教をするアメリアに、リナは憮然と答える。
「だってあたしの子じゃないもん。」
「そりゃそうですけど、ガウリイさんはあなたの保護者をずっとやってたでしょう!
今度はリナさんがお返しする番なんじゃないですか!」
「あたしが頼んだわけじゃないわよ!!!」
思わず出た叫びに、アメリアが後じさった。
 
「どうでもいいがリナ、昨日宿屋の主人が言った言葉を忘れたのか?」
「へ。」
「最近この辺でレッサーデーモンが出るってウワサ。」
「あ。」
口に手を当てて立ち上げる。
 


ぐるうるるるるるうるるるうう。
 


突如現れたレッサーデーモンの向こうに、小さな子供が震えながら立っている。
薮を走り抜けた3人の前に現れた光景だった。

「レイ・ウィング!!」
アメリアとリナが一斉に飛翔の呪文を唱え、レッサーデーモンの反対側に回りこむ。
「アストラル・ヴァイン!」ゼルの剣が赤く燃え上がる。

ぶるぶると震えるちびガウに怪我がないのを見てとると、アメリアに任せてリナは向き直る。
ゼルガディスがデーモンに斬り付けている。

リナは火炎球を唱え、ゼルに当たらないよう頭上から落とす。
だが意外にしぶとい怪物はそれを手で払い除け、リナに向かって来た。
ふいを突かれたリナが、後ずさろうとして小石に躓く。
「リナ!!」


目を開くと、リナの目の前に、小さな背中があった。
ちびガウは、いつのまにかリナが背負っていた光の剣を抜いていた。
だが重すぎる剣は手に余る。
細い腕をがくがくと揺らしながら、足をしっかり踏ん張って、それでも懸命に持ち上げていた。

「・・・ガウリイ。」
その時リナは、初めてちびガウの名前を呼んだ。

ちびガウは腕が悲鳴を上げているのに関わらず、絶対に剣を手放さなかった。
リナを守りたい。
護りたい。
どんな時でも。
どんな姿でも。
何故彼女を守りたいのかよくわからない。でも守りたいんだ。
ああ、もっと大きかったら。もっと、力が強ければ。
永遠とも思える一瞬、ちびガウは心に念じた。
 


「!」
驚くゼルガディスの前で、青い閃光がレッサーデーモンを切り裂いた。
どう、とばかでかい胴体が二分されたまま倒れる。

「ガウリイさん!」アメリアの嬉しそうな声が響く。
「よお。待たせたな。」
にっこりと笑顔を浮かべた、大人のガウリイがそこにいた。
「バカ!こっち向かないでよ!」
「え。うわ、なんでオレはハダカなんだああ!」
 





「・・・それにしても、一体なんだったんでしょうね。」
「さあな。」
元に戻ったガウリイがやっと着替えてきた。
へたりこんだままのリナに手を貸して立ち上がらせる。

「・・・・ガウリイ。」
「おう。どうした。背中ががらあきだったぜ。」
「・・・・あんた、今までのこと覚えてんの?」
「へ。何が。」
「いい。何でもない。」思いきり脱力するリナ。

「それにしてもオレが子供に返っちゃうとはなあ。
あんなケーキ食わなきゃ良かった。」
「ケーキ?」
「うん。道ばたに落ちてた。」
「こ、こ、こ、このおおばかものおおおおおおお!
あんだけ拾い食いはしちゃダメって言ったでしょおおおおうが!!!」

ぽかぽか。
リナがガウリイの肩によじのぼり、頭をぽかぽか殴っている。
ふと気がつく。
何だ、撫でようと思ったら登ればいいのか。


変な気分で、殴るのをやめたリナに、すいとガウリイが差し出した物があった。
「・・・なにこれ。」
「わからん。さっき足下に落ちてたんだ。」
黄色を中心とした、いろいろな花で編まれた花冠。
「・・・これ・・・・・」
「もしかすると、リナのじゃないかと思って。」
「なんであたし?」
「だってさ。」

ふわりと、リナを抱き降ろしてガウリイはその頭に花冠を乗せる。
「お前に似合う色だから。」

見つめられて真っ赤になるリナ。
「うん。やっぱ似合うな。」
 


「・・・・・・ありがと。」
 リナは、心の中で付け加える。

「ね、ちびガウ。」


































================================おわり♪

まずは1300HIT して下さっためぐみさんにお礼を申し上げます。
リクエストは、「子供のガウ」で、「リナに甘える」でした♪あんまり甘えたシーンがないんですが、こんなんでいいでしゅか?(お前が甘えてどーする)
オチがありません(笑)なんでガウがちびになったか、原因は皆さんで推理していただけると助かります(なんて無責任^^;;)アリスの国に迷いこんじゃったとか・・・・(つまんねーぞコラ)
では、めぐみさんに捧げます♪ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
そーらがお送りしました♪


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