思わず体がこわばるリナ。
小さな悲鳴をあげる唇を無理矢理塞ぐ。吸い上げる。
リナの体がびくっと大きく震える。
体を放すと、リナはよろけて背後の木にぶつかって止まった。
そのまま、木にすがりつく。大きな目が怯えていた。
ガウリイはなおもリナに近付く。
リナは目を見開いて、小さくいやいやをするように首を振った。
太い木の幹に、両手を付け、体を支えながら首をねじってリナにキスしようとする。
リナが顔をそらしたので、ガウリイの唇は彼女の細い首に触れた。
「や・・・」
首筋に沿って、あたたかいものが這い上がってくる感触にリナは震える。
「ガウリ・・・」
やがて唇は耳まで来ると、こう囁いた。
「オレが心配なのは、お前の金が奪われることじゃない。
もっと大事なものを盗られるかと思ったんだよ。」
「・・・大事なものって?」
小刻みに震えながら、ようやくリナが答える。
「・・・決まってるだろ」ガウリイの声は低く、途方もなく熱かった。
「お前、あのままじゃこうされてたぞ。」
「あ・・・っ」
ガウリイの大きな手が、リナの胸元に伸びた。
「やめて!」リナの悲鳴は囁きに近かった。
「ガウリイ!」
「女の子なんだから、もう少し気をつけろ。男はな、頭の中の半分以上、いつも女のことを考えてるんだ。どこで誰といつどうやって寝れるかってな。」
・・・・・ショックだった。
そんな言葉も、そんな言葉を吐いたガウリイにも。
「・・・ガウリイも?ガウリイもそうなの?」
リナの声は絶え絶えだった。
話しながらもガウリイの手は一向に止まろうとしないからだ。
「ああ、そうだ。」
リナの目尻に涙の粒が盛り上がる。
だがガウリイを押しのけることはできない。
いっそ呪文を、と思った途端に先を読まれたか、ガウリイの空いた手が口を塞ぐ。
「ん・・・!」
「今日という今日は許さないからな。覚悟しろよ」
「んーーー、んーーー!」
頭を押さえ付けられ、目の前しか見えない。
ガウリイの顔が下がっていっても、何をされているのかわからなかった。
唇を感じるまでは。
大きな手は信じられないくらい巧みに胸元のリボンをゆるめ、するりと入ってくる。
「!」
唇は鎖骨をなぞる。
神経をどこに集中していいかわからない。全身の神経が活性化し、敏感になっていた。
ガウリイの手、ガウリイの唇、ガウリイの髪、ガウリイの熱い息。
鼓動すら、触れなくてもわかる気がした。体温も。
口は手で塞がれていても、鼻からは息ができるのに呼吸が苦しい。
酸素不足のせいか、視界がぼやける。
目の奥にスパークが走る。
「だから言ったろ、口を塞ぐ手はいくらでもあるって。こういう風にされたら、お前はどうやって自分の身を守る気だ?」
悔しい。こんなことまで言われて、
こんなことまでされて。
なにも仕返しできないなんて。
確かにガウリイの言うことは正しいのかも知れない。
でも、こんなかたちで思い知らされるなんて・・・!
悔し涙が瞳からぽろぽろとこぼれ落ちる。
泣く程、いやなのか。
ガウリイの手に、一層の力がこもる。
力で征服してしまおうか。
力づくでオレの思いを伝えてやろうか。
抱いたら、わかってくれるだろうか。オレのものにしたら。
いいや、彼女はオレを許さないだろう。
一生。
それでも、リナが欲しかった。
めちゃくちゃにしたら、どこかにオレの気持ちをわかってくれる部分が残っているかも知れない、と自分でも恐ろしい欲望にかられる。
手の中で必死に抵抗するリナ。
いや、こんなガウリイは知らない。
いつも女を抱くことしか考えてないなんて言う、
ガウリイなんかガウリイじゃない!
ふと、思い出したようにガウリイがつぶやいた。
「半分では女のことしか考えてないって言ったよな。あれ、取り消す。」
「?」
「世の中の半分くらいの男はそう考えてるよ。オレはもっとひどいかもな。」
「?」
「オレの頭の中は、半分どころかほとんど女のことしか考えてない。
だけど、それはどこでいつどうやってまではたまに考えても、誰とってのは考えないんだ。」
何を言ってるの、この人。
「だって、ほかに選択の余地ないから」
ガウリイの手と唇が止まる。
「オレは、女のことを考える時、リナのことしか考えてない。」
そうだ、オレはリナのことしか心配してなかった。
リナが無事かどうか。
無事だったのに、オレが泣かせた。
何を言ってるの、今さら。
強引にこんなことしといて。
ガウリイ、本気?
ガウリイの手と唇は止まったままだった。
代わりに容赦ない瞳がリナを責めさいなむ。
「リナ。オレが何を心配したかは、わかっただろ?
オトコはオオカミなんだぞ。」
そんなこと、あんたに言われなくたって、わかってるわよ。
そんなこと教えるために、あんなことしたの?
質問があふれそうになる。でも言葉にならなかった。
涙が止まらない。哀しくて。悔しくて。怖くて。
ガウリイの手がリナの口から離れた。
「ばか!」
最初に出た言葉はこれだけだった。
ガウリイは胸を突かれた。
「ばか!」
なおもくり返す。目からは大粒の涙。
この涙をぬぐうことは許されないことか。
「ガウリイなんか、ガウリイなんか大っ嫌い!」
子供のように泣きわめくリナに、ふたたび欲望が沸き上ったことは言えなかった。代わりに、優しく抱きしめてやる。
「悪かった。脅かしすぎた。」
脅かしてただけ?
「すまん。」
謝るの?
「ガウリイのばか!」
わかってない、この人はわかってない。「ばか!」
ここで謝ったら、また元に戻っちゃうんだよ。
と、そんなことを考えた自分にも驚く。
「ばかばかばか!」
硬い胸。ほおを押し付けてつぶやく。「ばか!」
顎をすくわれ、面喰らって見上げるとガウリイの顔があった。
ゆっくりと唇が近付いてくるのを見た。
今度は、彼はどこもあたしを押さえていない。
逃げようと思えば、逃げれた。
「ん・・・。」
今度のキスは甘かった。
柔らかい唇がためらいがちに触れ、離れ、また触れ、今度は忍び込む。
盗むように。
頭の芯がしびれる。
体の力が抜け、ぐにゃぐにゃになりそうになる。
それがわかったのか、力強い腕が腰に回され、支えてくれた。
神経は、唇と舌に集中する。
優しいキス。
でも熱い。
まるでガウリイそのもののような、キス。
でもこのガウリイは、さっきみたいに怖くない。
ガウリイがやっと唇を離すと、くるくると世界が回ってリナがよろめいた。
何だか、自分が自分じゃないみたいだ。
ガウリイの腕に抱かれながらそう思う。
頭の上で、囁く声がした。
「頼むから、もうあんなことはしないでくれ。」
顔をあげると、あの瞳。
「オレは心臓が止まるかと思ったんだぞ。」
これは、誰?
あたしを抱いて、キスしたのは誰?
あたしの心配をしてるのは誰?
あたしは、ホントにあたし?
「・・・うん、わかった。」思うより先に答えていた。
「心配させて、ごめん。」
ほーーーっと、ガウリイが長い息を吐いた。
「わかってくれれば、いい。」
月が完全に雲にかくれ、あたりは真っ暗やみになった。
耳だけが、研ぎすまされている。
風が枝をゆらす音。
枝がぎしぎしいう音。
地面の砂が風にすくわれて舞い上がる音。
ガウリイの、規則正しい呼吸。
少し早い、心臓の鼓動。
わずかに身じろぎして、ガウリイが体を離す気配がした。
すっと、暖かい空気が流れて唇に熱を感じる。
小鳥がエサをついばむような、軽いキス。
「悪かった。手荒なことをして。」
その声は途方もなく優しくて、あたしは暗闇の中、自分が真っ赤になるのを感じた。
「宿に戻ろう。」
手をひいて、歩き出す。
遠くに、宿屋の灯。
帰ろう。眠ってしまおう。
眠ったら、忘れられるだろうか。
二人が同じ考えでいることはお互いわからなかった。
次の朝、二人は朝食の席で顔を合わせた。
リナはもう、すっかりいつものスタイルに戻っていた。
「おはよ」
「おう」
いつもと同じ、いつもの朝。
何も変わらない・・・か?
「さて、何にする?」
メニューを覗き込むとリナの細い首が襟から見えた。
ガウリイは、はっとした。
まぎれもない、自分がつけた刻印を目にして。
「・・・そうだな。」
平静そうなガウリイの声を耳にして、リナは思う。
たぶん、あたしが思ってるよりずっと、ガウリイは大人なんだ。
あたしは、自分が思ってたより子供だった。
オレはオレの中にある、この気持ちを素直に認めよう。
リナを愛しく思う気持ちを。
そしていつか、この鈍感な少女にわかってもらえるよう、
もう少し努力して行こう。
あたしは、ガウリイの最後のキスはいやじゃなかった。
もう少し、この人をよく知ろう。
もう少し、大人になろう。
もう少し。
いつもと同じ朝。
モーニングセット。
でもこれからは、ほんの少し、何かが違うはずだから。
======================END
ちょっとオトナなハナシにしました。びっくりしたら、ゴメンね♪
たぶん、リナとガウリイはいつまでも保護者だのなんだの言ってないで、いずれはくっつくと思うんですが、その段階って、どういう風になって行くのかな、と思って書いてみました。かなりガウリイの発言が過激なのでちょっと冷や汗ものですが。鬼畜入っちゃったかな(笑)
いやあ、ギャグ入ってないと、打つのがイヨーに遅いです(笑)よろしかったら、掲示板に感想など、残していって下さいね♪
そーらでした♪
|