「いのち」
リナside〜


あれは、あたしがギガスレイブを唱えて、それでもみんな無事に生きてたその後のこと。
ゼルやアメリアと別れ、ふたたびガウリイと二人になった最初の晩。



「う・・・・・」

たき火の番をしていたあたしの耳に、苦しそうなガウリイのうわ言が聞こえた。
振り向くと、こちらに背を向けて寝ていた長身の体が少し震えているようだった。
まるで、呪縛されて身動きできないかのように。
あたしはふと、この間までの悪夢を思い出し、全身の血が凍るような感覚に落ち入った。
嫌な予感を振り払えない。

そうっと、ガウリイの寝顔をのぞく。
ほとんど長い金髪にかくれた端正な顔が苦痛にゆがんでいる。

「ガウリイ?」そっと名前を呼んでみる。
額に汗がにじんでいる。見守るうちに、その唇からかすかに、またうわ言。
「・・・・リナ、行くな」

・・・・・・・・え?
聞き違い?今、ガウリイがあたしの名前を呼んだ。


かがみこんで額の汗をぬぐってやろうとした途端、いきなりガウリイが跳ね起きた。
「リナ!!」
「な、なに?」

何かに憑かれたような暗い蒼い瞳がこちらを見たかと思うと、次の瞬間、あたしはガウリイに抱きすくめられていた。
「リナ!」
「ちょ、ちょっと、ガウ・・・」
「リナ、リナ、リナ・・・・」

頭に、髪の先に、首すじに、頬に、荒々しくキスの雨が降る。
「リナ、リナ・・・」キスし、また体を離し、また性急にキスをする。
まるで、唇であたしを確認しているかのように。
「リナ、どこにも行くな・・・・」

では、あれは聞き違いではなかったのか。
突然のことにあたしは呆然として、ガウリイのなすがままになっていた。
どれくらい、そうしていたんだろう。
最後にあたしの手を取って甲にくちづけると、やっとガウリイの嵐はおさまった。
でも、あたしはまだガウリイの腕の中だった。

「・・・夢を見た。」
「・・・・夢?」
「お前が消える夢。黄金の光に包まれて、オレの前から消えてしまう夢。」
「・・・ガウリイ」
「光に包まれたお前は、まるで人形みたいだった。
生気がなくて、鼓動もなくて。オレの知らない、別の何かになっちまってた。」
ぞくり、とガウリイの体が震える。

・・・今まで、あたしはガウリイが戦うのを何度も見てきた。
どんな敵が相手でも、かなわないかも知れない相手でも、彼がひるんだり恐怖に身をすくませることは無かった。
いつも戦ったあとは、普通の彼に戻っていた。
でも今は。
 

「ちょ、ちょっと!なにすんのよ!」
ガウリイは、あたしの胸に耳を付ける。
「・・・・しばらく、このまま・・・」くぐもった声が聞こえた。
ガウリイ・・・・もしかして、泣いてる?
まさかね。
「リナ、生きてるよな。」
「・・・当たり前でしょ。」
「鼓動がする。」
「・・・当たり前でしょ。」
「息もしてる。」
「当たり前。」
「あったかい。」
「だから、当たり前でしょ。何度言わせるのよ?」
「・・・何度でも。お前の声で、何度でも。
お前が生きていると、オレが実感するまで。何度でも。」

 ・・・・・この人、怯えてるんだわ。

ふたたび、ぎゅうっとガウリイが抱き締めてくる。
「リナ、オレより先に死ぬなよ。」
「だから、生きてるってば。」
かける言葉が見付からない。
甘えるな、と言いたい。
でも反面、甘えてくれたことがうれしい気もするなんて。
ええい、このあたしが、このリナ=インバースが言葉に窮すなんて。

「もう、いいかげんにしなさい、ガウリイ、あたしはここにいるわよ。」
それを聞いたガウリイは、やっと体を起こしてあたしを見た。
蒼い瞳には、まだ影の残照が色濃い。

「いい、一度しか言わないわよ。
あたし、リナは生きてるし、まだ死ぬ予定も当分ないわ。
・・・あんたの前から消える予定もね。
あたし達は生きてるんだし、これからも生きていくんだし、お腹も減るし、眠くもなるわ。旅はまだまだ続くんですからね。
わかったら、さっさともういっぺん寝ちゃいなさい。今度また同じ夢を見たら、あたしがその夢の中に行って、暴れてやるから。」
 

そう言って、ガウリイの顔を真直ぐに見つめた。
言ううちに、彼の瞳からは闇が薄らいでいくようだった。
暴れてやる、と言った時、彼はいつもの苦笑を浮かべたのだ。

「しっかりしなさい、ガウリイ。それでも自称あたしの保護者なの?」
とどめをさしてやろうと思ったのだ。
だが、そこで彼の苦笑は晴れやかな笑顔に変わって、とどめをさされたのは自分ではないかとバカなことを考えてしまった。

「そうだよな。オレは、お前の保護者だからな。・・・守ってやる。どんなことからも、どんな敵からも、夢からさえも。守ってやらなきゃな。」
今度はふんわりとあたしを抱き締める。
傷つけないように。
痛くないように。
苦しくないように。

「・・・そうよ。」
弱気なあんたからも、あたしの中のもう一人の自分からも、守ってもらうんだから、と、心の中で付け足す。
「一生、覚悟してなさい。」


髪に吐息を感じた。


そのまま、ガウリイは安心したように眠ってしまった。
あたしの最後の言葉が彼に届いたかどうかは、わからずじまい。

・・・・・ま、いーか。

とりあえず問題は、この図体をどうやって降ろすか、よね。























==============おしまい。

勢いでガウのさいども書いちゃいました♪

ガウリイさいどへ行く。