「いのち」
ガウリイside〜


オレは夜中に目を覚ました。
そろそろ火の番の交代だと思ったからだ。


たき火の方を見ると、リナは膝を抱えて座ったまま、静かな寝息をたてていた。
オレはリナを起こさないようにそうっと抱きかかえ、宝物のような小さい体を、オレが今まで寝ていた寝床に運んだ。
毛布をかけてやる。

「う・・・ん。」か細く、リナがつぶやく。

起きてる時とは違うオーラが柔らかい光のように、リナを包んでいるようだった。こんな風に彼女を守ってやりたいと、いつも思う。
だが、心の幾重にも重なった扉の奥には、彼女を包むオーラも光も全てをはぎとってしまいたいという、どこかケモノじみたオレがいる。
それも確かだ。
そいつは時たま、こんな夜中に遠い扉を叩くのだ。
ドン、ドンと。
それは、オレの胸の鼓動に似ていた。

「ん・・・・・・」

ぱちぱち、というたき火の音に紛れて気が付かなかったが、(それとも意識して聞かないようにしてたのか)リナの声が普通じゃなかった。
苦しんでいるような。

「リナ?」

顔を覗き込むと、リナはうなされていた。
「う・・・・・っ。」
汗が、額から顎に向かって流れ落ちる。
眉がぎゅっと絞られ、噛み締めた唇からうわ言が洩れる。
「い・・・や、連れていかないで。」

「リナ」

抱き起こして肩を揺する。
リナはなお、唇を噛み締める。
「リナ!」
はっとリナが目を覚ました。
ひどい顔色だ。
「ガ・・・ガウ・・・リ・・・」
ろくに口もきけない。
ぶるぶると震え、目の焦点が合っていない。

衝動的に抱き締める。他に方法を知らなかった。
しっかりと胸に押さえ付ける。
少しでも震えを止められれば。
リナの体は硬直していた。
オレの耳のすぐそばで、短く早い呼吸と歯の根の鳴る音がする。

ますます強く、リナを抱く。
「リナ!」

囁くと、リナはぶるっと大きく震え、
「ガ・・・・」
しゃべろうとするが、唇も歯も震えが止まらない。
このままでは舌を噛む、咄嗟にそう思ったオレは、行動に出た。


自分の唇でリナの唇を塞ぐ。
歯の間に舌を滑りこませ、リナが舌を噛まないようにする。
歯列の奥でおどおどしている舌に出会う。
喰らいつけ、からみつけ、貪りつくせ、と扉を叩く奴がいる。
ドン、ドンと。

オレはどうにか扉を押さえると、リナから唇を離した。
見ると、リナの震えは少しおさまったようだった。目の焦点も合っている。
「ガウリイ・・・」口もきけるようだ。

「気がついたか。」
「あたし・・・」
「大丈夫だ、うなされてたんだ。夢でも見たのか。」
「夢・・・」
ふたたび、眉根が寄せられる。
「うん、夢。ただの、夢。ただの。・・・でも、これも夢?」
「バカ、夢から覚めたらそりゃ現実だろ?」
ボケとツッコミがこれじゃ逆だ。
「どんな夢見てたんだ」
「・・・笑うよ。」
「・・・笑わないさ。」
「笑う。」
「笑わない。」
「・・・」
「リナ」
「・・・絶対、笑わないでよ。」

思わず笑ってしまいそうになった。それはおかしかったからじゃない。
リナが可愛かったからだ。
「笑わないから、言ってみろよ。」
「う・・・ん、あのね、」恥ずかしそうにリナが俯く。
「ナイショ」
「・・・何だよ、それ。」
「だって、言えないわよ、よりによってあんたにだけは。」
「何でオレだけなんだ。」
「だって、」と、口をとがらせる。
「あんたが、あたしの前からいなくなっちゃう夢だったんだから。」
言ってから、しまったという顔になる。
頬がほんのり色付いている。

ドン、ドン

「オレが?」
「・・・そうよ、あの時、フィブリゾに連れ去られた時みたいに。」
じゃあ、さっきのは・・・。
「あの時、あたし、あんたを助けてあげられなかった。」
この言葉にオレは驚いた。

「何言ってるんだ、あの時はしかたなかったろ。
お前は魔力を限界まで使い果たしてたし、オレがふがいなかったんだ。お前のせいじゃないさ。」
「・・・あたしのせいよ。
あたしにあれを唱えさせようとして、フィブリゾが仕組んだことなんだから。」
リナは自分を責めている。オレには理解できなかった。
「じゃあ、悪いのはお前じゃなくてフィブリゾだろ?もうそのことはいいよ。」
顔を上げたリナの瞳には光るものがあった。

「あんたは良くても、あたしはイヤよ。
あたしのせいであんたがどうにかされるのは。
あんたがクリスタルに閉じ込められているのを見た時の、あたしの気持ちがわかる?
何もできない自分が許せなくて、情けなくて、自分に腹が立って、哀しくて。もう、あんな思いをするのはイヤ、絶対にイヤ、
あんたがあたしの横にいないなんてのは金輪際イヤなのよ!」

最後の言葉は、叫びに近かった。
リナが何にうなされていたかがわかった。

恐怖。

今まで、リナが恐怖にすくむところはは見たことがなかった。
随分一緒にいるのに。
こいつ、怯えてる。
怯えてて、そんな自分が許せないんだ。
だが、何に怯えた?
何がリナに、恐怖を感じさせたんだろう。
 
また震え出しそうだったので、オレはふんわりとリナを抱き締める。
今度は、苦しくないように。
「いいかげんにしろ、リナ。オレはちゃんとお前のそばにいるだろ。」
なるべく優しい声で叱る。
これ以上リナを傷つけたくない。もう、ボロボロだったから。
「オレは生きてるし、お前のそばにいるし、クリなんとかの中なんかにいないぞ。そんな狭っ苦しいところにいつまでもいられるか。
それでもお前の夢にまだ出るってんなら、オレがお前の夢に出かけていって、そのクリスタなんとかを叩っ切ってやる。」

驚いたことに、リナが腕の中でくつくつと笑った気配がした。

急いで体を離すと、リナの目に涙じゃない本物の光が宿っていた。
「あんた、あたしの夢に出張してくるつもり?」
「おかしいか。」
「おかしいわよ。」
「そうか、良かった。」
「?」
「いつものリナみたいだな。」
「・・・・・」

黙り込んだリナに追い討ちをかけてみる。
「言っただろ、オレはお前の保護者だって。
オレが守ってやる。夢からも、敵からも。」
そして、胸の中の扉を叩くケモノからも。
「オレはいつもお前のそばにいる。一生かけて、守ってやるから。」
ふっと、リナが微笑んだ。
長い夜を抜けた、静かな夜明けの光のような、しんとしたオーラが包む。

「一生よ。」
「ああ、一生だ。」

こんな約束は、お前としかしない。
そう言おうと思ったら、ことん、とリナの頭が肩に落ちてきた。

微笑みを残したまま、リナは眠っていた。
栗色の髪を透かして、今度は本物の夜明けの光が差す。



オレはまたリナを抱き上げると、寝床に運んだ。
たき火はとっくに消えていた。
起きたら、今のことはリナは忘れているかもしれないな、と思う。
ま、それでもいいか。

のんびり行くさ。

なにしろ一生かかる旅なんだからな。
と、寝顔に告げる。

微笑みが、広がった気が、した。






















================おわり♪

うわ、書けたよ、ガウリイさいど。
これだけは書けないと思ってたんですけど。
いやーーー、趣味に走っちゃいました♪扉の向こう、それはき◯く♪

それはまた、別のおはなし♪


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