「ケンカをしよう。」


どうしよう。
・・・あたしは、ホントはどうしたいんだろう?


ブーツが、床を歩く足音。急いで前を向く。
部屋の中はほとんど真っ暗だった。
ドアの方向を確かめる。

「逃げるなよ。」
声が、あたしを押しとどめる。
足音はすぐ背後で止まった。

「なあ、考えたんだが。」
「何よ。」
涙声を必死で隠そうとする。
「お前が言いたかったこと、やっぱりよくわからんかった。」
この男は、それを考えるのに一日かかったのか。
「よく考えてみようと思って、一人になってみたが、余計わからんかった。
おかげでメシも食ってない。」
「・・・・・」
「お前はわかったか、一人になって。何が言いたかったか。」
 
やっぱり、ガウリイはガウリイだった。優しいけれど、突き放す時は突き放してくる。かくしていた心も、お見通し。
なのに、なんで質問には答えをくれないの。 

「最初から、やり直さないか。」
唐突にガウリイが切り出した。

「最初から?」
「ああ、昨日の夕メシの時から。なんかやたらからんできたけど、
何かオレに言いたいことがあったんじゃないか。」
「・・・・・」
「あの時、オレが何か言ったら、お前、すごく怒ったよな。
何て言ったんだっけ。オレ。」
「・・・何でも暴力で解決しようとすると、
嫁の貰い手がなくなる、って、言ったのよ。」
言うつもりのなかった言葉が何故かすらすらと口をついて出た。
「・・・よく覚えてるなあ、そんな昔のこと。」
「昔じゃないわよ。」
「何で怒ったんだ?」
「・・・・・」

「嫁の貰い手がなくなるって言われて、そんなに悔しかったのか。」
あれ、そんなことでハラが立ったんだっけ、あたし。
「嫁に行きたいのか、お前。」
違うわよ、何でそうなるのよ。でも声にならない。
「他に聞きたいことでもあったか、オレに。」
あったわよ、でも思い出せないの。
「オレとはもう、旅をしたくないんじゃなかったのか。」
だから、言ってないわよ。そんなこと。
「じゃあ、何であんなに怒ってたんだ。」
「だから、ガウリイが、」
「うん、オレが?」
「ガウリイが、」
「・・・・・リナ?」

あたしを傷つけて。あんたを傷つけさせて。

「・・・・・どうして、あたしを子供扱いするの?
あたし、あたしはもう、子供じゃない、子供じゃないのよ!」
 

 答えて。
 はぐらかさないで。
 心の中で言葉は叫びに変わる。


「あたしが答えて欲しい質問には、いつも答えてくれない!いつもはぐらかす!
そうやって、一人だけオトナの瞳をして、あたしに何を言われてもかわしちゃって、・・・・・あたしだけバカみたいじゃないのよ、一人で腹を立てて、一人で悩んで!」
「何を悩んでたんだ。ちゃんと言えよ。」
「わからないの?わからないでしょうね。あたしがなんでこんなに苛ついているのか。
あたしは子供、あんたは大人、
いつまでたっても届かないじゃないの!ガウリイに!!」
今度は完璧に涙声だった。
「・・・・・」


ふいに、部屋の中が静かになった。
もう、どうにでもなれ、と思った。
また、一人になるのかな。



背中から、誰かがぎゅうっと抱き締めた。

ガウリイは、リナを後ろからかき寄せるように抱くと、顎をリナの頭の上に乗せた。
「悪かった。」とつぶやく。
胸に回した手をほどくと、下に降ろして硬直しているリナの両手を取った。
そのまま持ち上げ、自分の顔を触らせる。
「届くだろ。オレに。」

今朝リナに残した言葉とは全く違う。
優しいような、怖いような、どこにこんな熱さがあったのかと思うほど、意外な口調だった。

リナが硬直したままでいると、ガウリイはリナの頭の上でゆっくりと話しだした。

「・・・・・オレはお前が思ってるほど、オトナじゃないし。
お前はオレが思ってたほど、子供じゃなかったな。
・・・・・いつのまにか、オレはお前との間に壁を作ってたのかも知れない。
・・・無意識に。
お前を子供扱いしたり、オトナぶってみたり。
だけど、それは一種の防護策でもあるんだ。」
「防護策?」
ガウリイの口から難しい言葉が出たのにリナは驚く。
「そりゃ、そうだろ。世間一般から考えてみろよ。
年頃の若い男女が何年も一緒に旅をしてりゃ、何もない方がおかしい。
オレはお前の保護者ってことになってるが、年がそんなに極端に離れているでもない、ましてや血のつながりもない女の子の保護者なんて、誰が見たっておかしいぜ。」
「そういうもの?」
「無意識に、いつもオレは保護者らしく振る舞おうとしてたのかもな。
だからついつい、お前を必要以上に子供扱いしちまうんだ。」
「・・・・」

「子供扱いされるのが嫌なら、もう止める。」
「え?」
「対等に扱って欲しいんだろ。ならそうする。」
「・・・・・」
「それとも、オレと一緒にいるのは嫌か。」
「・・・・・」
それならこんなに悩まない。こんなに泣かない。
「オレは、お前を離す気はない。」
「・・・・・」
「対等に扱うことで許してもらえるなら、そうする。
その代わり、条件がある。」
「?」
「もう、保護者しなくていいか。」
「・・・ガウリイ。」
 
リナの手を握る、大きな別の手に力がこもる。

「お前を子供扱いしないなら、もう保護者じゃいられないからな。
お前と旅をするのはただの男だ。それでもいいか。
オレだって、聖人君子じゃないぞ。」
また難しい言葉。
「それでいいなら、ケンカはおしまいだ。」



・・・そうか、これ、ケンカだったのか。
ガウリイの顔に触れながら、その顔がちっとも緩んでいないのを知った。
ガウリイは真剣だった。ほとんど、怒っていると言ってもいいくらいだった。
じゃあ、あたしは、本当のガウリイを引き出すことに成功したの?
ガウリイに傷をつけ、見たかった本当のガウリイが、今ここにいる?
・・・あたしは?あたしの中のモヤモヤは?

「嫁の貰い手がなかったら、オレが貰ってやるから。」
バカね。
そんなことを言うなんて。
バカね。
そんなことで喜ぶなんて。

 

ガウリイが、静かにリナの手を離した。
リナはくるりと、ガウリイに向き直る。
ようやく、月の光が部屋の中央まで届いた。

そこにいたのは、ガウリイであって、今までのガウリイじゃない。
リナであって、今までのリナとは違う。

二人は、お互いの存在を確かめ合うように、部屋の中でゆっくりと抱き合った。
まるで、何年も会っていなかったように。

 

 

 ケンカをしよう。
 お互いをつつきあって、本音を言おう。
 隠していたものも、全部見せてしまおう。
 そして、新しい関係を築こう。
 別れるためでなく、これからも一緒にいるために。





































==================END

またちょっと雰囲気の違うの書いてみました。変化とつながらないこともないです。シリーズか(笑)
ガウとリナのケンカが見たかったんですが、2パターン考えました。リナは口喧嘩も得意だと思うんですが、それにガウリイがのってくるかどうか、悩みまして、A:本気の口喧嘩になって、怒って別れる。B:リナだけが怒ってガウリイはかわしてしまい、収拾がつかなくなる。
結局、Bにしました。マジで収拾がつかなくなって、途中かなり書くのが遅くなりました。
 というわけで、また皆様の感想をお聞きしたいと思います。
モノによっては別人のようなハナシになってると思いますので(笑)
きちくなそーらと、ほのぼのそーらと、このケンカのように爆発しそーなヤツと、どれがお好みでしょう(笑)え、どれも物足りない?困ったなあ(笑)

この感想を掲示板に書いて下さる方はこちらから♪

メールで下さる方はこちらから♪