「きちくのたね。」

 
あの騒動があった晩のことである。
夜も更けて、宿屋全体は寝静まったかに見えた。

廊下に人影。アメリアだった。
手になにか握りしめて、ゼルガディスの部屋の前に立っている。


アメリアは、ついさっきリナと交わした会話を思い出していた。
眠れなくてリナの部屋をたずねたのだ。
思い切ってリナに質問したアメリアに一瞬、瘴気を漂わせたリナは、
そのあと笑い出した。
『バカね、アメリア、そんなこと考えてたの?』

アメリアは、リナが、もしかしてあれが『鬼畜の種』と分かっててガウリイで実験したのではないかと思ったのだ。
もしリナさんが、わたしと同じことを考えてたら・・・。
そんな思いをウラに秘めたアメリアの問いを、リナは一蹴した。
『そんなワケないでしょ。』
その一言で。


リナの部屋を出たアメリアはゼルガディスの部屋の前で立ち止まったのだ。




アメリアは握りしめていたこぶしを開くと、たねの入った袋を見た。
袋の口を開けて、中を覗いてみる。
まだたねは3粒入っていた。
ひと粒を取り出して、しげしげと見てみる。
ゼルガディスさんが、もし・・・

と、突然ドアが開いた。

がいん。

「おわ?!」
「ぷきゅうううう。い、いった〜〜〜い。」

中から出てきたのはゼルガディスだった。
「なんだ、アメリアか。人の気配がすると思って出てきたんだが・・・・・」
そこで言葉が止まった。



さーーーーーーーーーーっと、いつも青いゼルの顔色がさらに青くなる。

「ア、ア、ア、アメリア?・・・・・・おまえ、・・・・・」
「・・・・・ゼルガディスさん。」
「おまえ、おまえ、おまえ、た、たねを捨てなかったなああああああ!」

そこにはミニヒマワリを頭に生やしたアメリアが立っていた。
たねを持ったままドアにぶつかり、不幸なことにたねがアメリアの頭に飛んだのだ。
「・・・ゼルガディスさん。」
「な、な、な、なんだ!?」
今朝のガウリイの鬼畜ぶりが走馬灯のようによみがえる。
鬼畜なアメリアって、一体・・・
「・・・ゼルガディスさん。」アメリアがつかつかとゼルに近付いた。
何故か顔色を青からむらさきに変えたゼルが、後ずさる。
「ゼルガディスさん。」


その時、ばたんばたんと音がして、リナとガウリイがそれぞれの部屋から飛び出して来た。
「ゼル、何かあったのか?」
「なに騒いでんのよ?っっっっって、あ、アメリア!?」
リナもアメリアの頭上のヒマワリに気がついた。
「アメリア、あんた、捨ててなかったの????」

「・・・おい、リナ、アメリアのやつ頭にヒマワリ生えてるぜ。
おっっっかしーーーのな♪」
「・・・知らぬが仏ね。」

アメリアがくるりと方向を変えた。
「・・・リナさん。」
リナに詰め寄る。ゼルガディスが慌てた。
「アメリア、ちょっと待て!そいつはヤバすぎる!考え直せ!!」
「・・・ちょっとゼル、なに考えてんのよ?」
「・・・リナさん。」


アメリアはリナの前で立ち止まると、どこから出したのか、表に『大黒帳』と書かれたぶあつい紙の束を右手にかかげた。
「・・・リナさん、前から言おうと思ってたんですけど、
今までの飲食費、返して下さい!!」


四人の動きが固まった。
「・・・え?」

「ですから、今までセイルーン王家にツケたかずかずの飲食費みみをそろえて返して下さい!あれはみんな後であたしのお小遣いからさっ引かれるんですよ!?とうさん、意外とシビアなんですから!
このままじゃ、あたし向こう20年はお小遣い貰えませんん!!」
「・・・・・」
「・・・この先20年も貰うつもりなのか・・・・。」
肩の力ががっくり抜けたゼルが、調子っぱずれなツッコミをかける。

「な、なーーーんだ。」
同じく気が抜けたリナがほっと笑いを浮かべる。
よく事情が飲み込めないガウリイはそのまま固まっている。

「・・・それから、リナさん。
どーしてあの時ガウリイさんに抵抗したんですか?
ガウリイさんが嫌いなんですか?どーーーなんです?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「お、オレ?アメリア、それなんのことだ?」
「覚えていないんですね。・・・いいでしょう。」


頭のヒマワリを揺らしてアメリアが床に落ちていた小袋を拾った。
「たねはまだ、あとふた粒あるんです・・・・」

「・・・・・なに考えてんのよ、アメリア!?ちょ、ま、まさか・・・」
「・・・ギャラリーがいなければいいんです。
時間が朝じゃなきゃいいんです。
場所が食堂じゃなきゃいいんです・・・・」
呪文のように謎の言葉をつぶやいて、アメリアが突然ダッシュした。

たねはめでたくガウリイに着床した。
ゼルガディスはドアに張り付いている。
リナは凍っている。

と、ガウリイの頭にもぽん、と見事なヒマワリが生えた。

「・・・リナ。」

「ぎ、ぎゃあああああああああああ、アメリア、あんたなんっっってことすんのよおおおおおおおおっっっ。お、覚えてなさいよ、
・・・・・って、・・・・・ガウリイってばいいかげんにして!!もおおおおおお、アメリア、お願い、たすけてえええええええええええぇぇぇぇぇ。」
リナの悲鳴は尾を引いて、ガウリイと共に別室に消えた。



「・・・・・」しんとした廊下にゼルとアメリアが残った。
「・・・・・ゼルガディスさん。」
「・・・・・なんだ」
リナですら抵抗できないアメリアの迫力にゼルはたじたじである。
「お願いがあります。」
「・・・・・?」
「いっしょに寝て下さい。」

がいん、と音がしてゼルガディスがのけぞり、髪の毛がドアに刺さった。「・・・・・い?」
我ながら、声がひっくり返っているな、などとゼルの冷静な別の面が分析する。
「・・・ダメですか?」アメリアの目がうるうるしている。
ドアから必死に髪を抜こうとして苦戦するゼルの目には、ヒマワリは入っていなかった。

「・・・しょうがないな。」

 





 10分後。

 すーすーすー。

 ・・・Sigh,・・・ Sigh, ・・・Sigh.

ゼルガディスの部屋では、ゼルの腕枕でアメリアが幸せそうに眠っていた。
何回目かのためいきをついて、ゼルがぼやいた。
「・・・いっしょに寝るって、こーーーいうことか・・・」

 



別室では息詰まる攻防が繰り広げられていた。

「・・・リナ。」
「もお、それ以上寄んないでよぉっっっっっ!あ、あたしに指一本触れてごらんなさい、しょーーーちしないからっっっ!」
ベッドをはさんで、双方が見つめあう、もといニラミあう。
リナはまくらを胸に抱えている。

「リナ、オレが嫌いか?」
「そぉおおおいうモンダイぢゃないでしょおぅっ!」
「じゃあ、なんで今朝は抵抗したんだ。」
「今朝って、あんたね、あたしがあんなところであんなに野次馬がいてあんな時間にあんなコトされて、嫌がらないワケないでしょおおおおっ?」
「・・・なんだ、そんなコトか。」
「そんなコトって、あんたねえええええ」
「じゃ、今ならいいんだな。」
「・・・・・い?」
声がひっくり返る。みずから底なしの墓穴を掘ったことに気が付く。
ガウリイがベッドの周りを回ってくる。
「いいいいい、今のなし。今のは単なるコトバのアヤよ!
こ、こっち来ないでよっっっ。」

「・・・リナ、お前、オレの気持ちわかってんのか。」
どきん、とリナの心臓が跳ね上がった。
「・・・・な、」
「そこに座れ!」

いつになく語気鋭いガウリイの口調に、へなへなとベッドに腰掛けるリナ。
呆然とした表情だ。
ガウリイが近付く。
リナのとなりに座ると、ぐいっといささか乱暴気味に引き寄せる。
「今夜こそ、オレの気持ちを教えてやる。」

真っ赤になったリナはあわてて顔を上げて、ガウリイの表情を探ろうとする。
リナの目と、ガウリイのそれがからみあう。
「ガウリ・・・」



ぱんぱんぱんぱんぱん!


「きゃあああああああああああっっっ!」
やにわにリナを引っ付かむと、何とガウリイはリナのお尻を叩きだしたのだ。
「い、い、いっっったああああああいいい、な、なにすんのよ?!」
「なにをするか、だと?オレの気持ちを教えるって言っただろ?」
「こ、これのどこが!?」
「・・・まったく、今まで好き勝手放題やってくれて、町中でぽんぽんドラグスレイブ唱えるわ、趣味で盗賊いぢめはするわ、魔王にケンカふっかけるわ、あげくの果てにはオレの分まで料理を食うわでオレはもう、ハラにすえかねてたんだ!!」
「・・・・・・・・・・はい?」
「お前、オレを釣りのエサにしようとしたこともあっただろうが。オレが小さいころ、悪さをするとこうやってシリ叩かれたんだ。今日こそ、お前の根性入れ替えてやる!!」
「ガウリ・・・」
「あと100発!」
「う、うそでしょ。うそと言って。ガウリイ、お願い、
これじゃ、今朝と全然違うじゃないっ」
「・・・今朝の方が良かったのか?」


ぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。



ふいの悪寒に襲われたリナは、そのまま100発を甘んじて受けた、
らしい。






翌朝、四人はふたたび朝食の席についた。
リナは珍しく、なかなか椅子に座ろうとはしなかった。
みんな、目にクマさんが住んでいた。

たった一人、アメリアを除いては。





















==================おわり♪
はいい。なんかアメリアったら全然鬼畜じゃないですね(;^-^)
町中に飛び出してみんなたたき起こして、かたはしから懺悔させて少しでも悪があったらたたきのめす!ての考えてたんですが(笑)
どーしてもガウリナの方が筆が進むので(爆死)、鬼畜ガウの再登場となってしまいました。が、朝よりまともですね。ちょっと、いいの、こんなのここに書いて、と心配された方、ご安心下さい♪
あのまま寝ちゃって、朝、目が覚めたときのアメ・ゼルの反応も楽しそうですね。ちょっとらぶらぶになりそうだったので、オチにもちこめないのでやめました。
さて、たねひと粒余っちゃいましたね。どーしましょう。
さらに暴走するか、そーら?(笑)
この続きは鬼畜ゼル編をお読み下さい♪
では、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。そーらでした♪

鬼畜ゼルへ行く。