「ガウリイとクマとキノコ」ぷぷぷ。似合う。


「しっかし、リナのやつはどぉこ行っちまったんだあ?」

 森の中。
 ガウリイはさまよっていた・・・。
 数日前、リナとガウリイはこの森の中ではぐれた。
 降るような紅葉の中で、これを集めて焚き火をして、おイモを焼こう♪と楽しい想像をしながら歩いていたガウリイ。
 同意を求めようと、珍しく後ろを歩いていたリナを振り返ると、そこにリナの姿はなかった。
 ざざざざ、と風が、敷き詰められた紅葉の上を吹き抜ける。
 
 

「迷ったら、そこから動かないのが一番だって言うが・・・」ガウリイは頭をぽりぽりと掻く。
「このままじゃ腹もすくし・・・・」


 がさがさ。

 背後で何かが動く音。
 ガウリイは耳を澄ませる。
「そこだぁ!!」

 剣を突き付けたその先に、茂みから顔を出したクマ。

「く、くまああああ!?」

 普通なら、逃げ出す。だが。
「ふっふっふ。今晩のメシ。」
 舌舐めずりしたガウリイに、クマが後じさる。
だがガウリイは笑って、剣を納めた。
「じょーくじょーく♪いくらオレでも、こんなちいさいクマはよう食わん。
それにしても、人間を怖がらないクマだなあ。
クマってやつは、人間の気配を察して避けて通るって言うけど・・・」

 ちょこちょこ、と出てきたのは、クマ・・・・ではなくて。
 クマの毛皮を被った小さな人間だった。

「ありゃりゃ。人間だったのかあ・・・・良かった、食わなくて♪」
 にぱぱ、と笑うガウリイ。
 頭からすっぽり、そのまんまな形の毛皮を被っていたので、注意して見ないとホントに小熊に見えるのだ。
その鼻面の下にはうす汚れた顔の一部がのぞき、ごていねいに革のポシェットまで下げている。
「あ・・・・」
 口から幼いが低い声が漏れる。
「ボーズ、この辺に住んでるのか?」
 相手が人間の子供とわかり、ガウリイはその頭を、ふかふか、と撫でる。
しばらく相手は呆然としていたが、こくこくと頷いた。
「そっか。・・・いやあ、お兄さんは迷子になっちゃってな。」
 ははは、と汗を垂らして笑うガウリイ。
 その顔を、じっと見つめる、小熊(のように見える子供・以下略)。

 
 さくさく、と落ち葉を踏み付け、歩く二人連れ。
 結局、ガウリイは近くの村まで案内してもらうことにしたのだ。
 大股でゆっくり歩くガウリイの前を、ちょこちょこと歩く小熊。
「なあ。村まで遠いのか?」
「・・・・う・・・ううん。」
「おいおい。」

 ガウリイは小熊に近付く。横に並んで歩くようにする。
「そんなに怯えるなよ。オレ、怖いか?」
 小熊はこちらをちらりと見て、ぶんぶんと首を振った。
「ならいいが。そう言えば、お前さん、こんなとこで何してたんだ?」
 見ると、ポシェットからはみ出たキノコ。
「なるほど♪キノコ取りか。
 ・・・お母さんとか、お父さんは?この森のどこかに住んでるのか?」
 くい、と背後に手を向ける小熊。
「そっか。・・・いやあ、つい子供が一人で歩いてると、何か心配になっちゃってなあ。
 村まで遠いと、お前さんが家に帰るのが遅くなると思ってさ。」
「・・・そんなに遠くないよ。」
 ぼそっと小熊。
「わかった。じゃあ、頼むよ。
 ・・・ところで、キノコ取りしてる間に、人を見かけなかったか?」
 きょとん、と小熊。

 ガウリイは頭をかきかき説明する。
「・・・え〜〜〜と、背はこんくらい・・・お前さんと同じくらいかな。
 で、髪は赤毛みたいな栗色で、一見魚屋かウェイトレスに見えるかもしんないけどホントは黒まど・・・なんとかで・・・・」
 じ〜〜〜〜〜っと小熊の視線を受けて、ガウリイは焦る。
 どういう風に説明すればいいのかさえ、言葉に詰まる自分に苦笑い。
「まあ黙ってりゃ、ただの成長不良の小娘なんだが、ケンカっぱやくておまけに手も口も早くて・・・」
 じ〜〜〜〜〜〜。
「その上、怒ると野獣のように手がつけられなくて、ぽんぽん危ない魔法を使って・・・・」
 じ〜〜〜〜〜〜。
「・・・・でもまあ、いいとこもあるんだけどさ。」
 小熊にはわからない理由で、ふっと微笑む青年。
「そんなやつ、見なかったか。」
 ぶんぶん。
「そっか・・・・そうだよな。これだけ探しても見つからないんだから。
 まあ、あいつのことだから、たぶんもう手近な村にでも行って、オレが来るまで美味しいもんでも食ってるのかもな。」
「・・・・・」
 小熊はじ〜〜〜っとガウリイを見ている。
 ガウリイはそれを見て、自分でもぷっと吹き出してしまった。
「考えてみると、無茶苦茶なやつだよな。これじゃ。」



 ぴゅう〜〜〜〜、と風が吹き付ける。

「寒くなってきたな。」
 こく、と小熊が頷く。
「あいつ、風邪でもひいてなきゃいいけど。寒いのは苦手だしなあ。」
「その人・・・お兄ちゃんの連れ?」
 小熊が前を向いたまま、ぼそりと言った。
「あ?ああ。そうなんだ。この森の中ではぐれちまって。」
「ふうん。・・・・・・心配なんだ?」
「ああ。・・・ちょっと目を離すと何をしでかすかわからんやつでな。
オレとしては、あいつも心配だが、あいつが行った先の村も心配だ。」
 深刻そうな顔で頷く。
「どういう心配の仕方なんだよ。」
 ぼそり、と小熊。
「変か?」
 振り向くガウリイ。
「変だよ。」
「そうか。」
「そうだよ。」
「ははは。」
「何がおかしいんだ。」
「いやあ、ここ2,3日、あいつとはぐれてから、久しぶりに人と話をしたからな。何だか安心した。」
 さらりと言う青年に滲む、疲れの色を見た小熊。

 よく見てみると、青年の髪には紅葉がもつれ、茂みでひっかいたのか、腕に赤いすじがいくつかついていた。小熊は黙ってポシェットから、昼ご飯に取っておいた干し肉を差し出した。
「食べなよ。」
「お。こりゃすまん。」
 受け取り、歩みを止めずにそれを噛み始める。

「おいしくない?」
「え?あ、ああ。うまいよ。」
「おいしそうに食べてるとは思えないけどな。」
「そうか?・・・いや、はっきり言うと、よく味がわからん。」
「・・・・」
「あ、い、いや、まずいって言うんじゃないぜ。その、なんつーか、」
 慌てる青年。
「あいつもちゃんと食ってるかなあ、と思ったら、さ。」
「・・・・やっぱり心配なんだ。」
「ま、まあ。そりゃあ。」
青年はわずかに赤くなり、頬をぽりぽりと掻く。
「たぶんオレが心配してることも知らないで、どっかでぬくぬくしてるかも知れないけど。
もしかしたら、・・・もしかしたらだぜ。
どっかの穴に落っこちて気を失ってるとか、熱出して倒れてるとか、誰かに掴まってるとか、そういうこともあるかも知れないだろ。」
「・・・・・」
「しっかりしてそうで、実は危なっかしいやつなんだ。」
「・・・よくわかんないな。」
「そうだろ?」ガウリイは笑う。「オレもよくわからん。」
「・・・・・」
小熊は黙って歩きつづける。

「ねえ。お兄ちゃんは・・・その人のなんなの?」
「オレ?オレはあいつの保護者だ。」
「保護者って・・・その人、年は・・・」
「え〜〜〜とだな、たしか・・・・・16,17・・・だっけか。」
その数字が出るまで頭をひねりまくるガウリイ。
「どう見ても、お兄ちゃんは20代だよね。いくつも変わらないじゃない。」
「年じゃないさ。危なっかしいやつだから、オレが保護者代わりなんだ。」
「ふうん。」
「おかしいか?」
「・・・なんでぼくにきくのさ。」
「いや。なんとなく。」
「変なお兄ちゃん。」
「オレもそう思う。」
 青年の顔をじっと見て、小熊はぷいっと横を向いた。
「・・・別に、いいんじゃない。人それぞれだし。」
「そうだろ♪いいよな、別に。
まあ、オレも誰かに言われたからって、この役降りるつもりもないし。」
「ふうん。」
「・・・それにしても、どこで何してんのやら。な、ボーズ。」
「だから、ぼくにきかないでよ。」
「悪い悪い。」


 さくさく。
四本の足が踏み分ける枯れ葉の音が続く。

「お前さんの母ちゃんや父ちゃんは、優しくしてくれるか。」
「・・・・母ちゃんと父ちゃんは、ここにはいない。」
「・・・え?だってさっき・・・」
「あっちにいる、とは言わなかったぜ。」
「ああ。そうか。・・・じゃあ、誰といるんだ。」
「・・・・あんたと同じ。保護者だよ。」
「なあんだ。」ぽん、手をつくガウリイ。
「お前さんも保護者といるのか。
なら、ひとつ言っとくけど、あんまり心配かけるんじゃないぞ。その保護者さんに。」
「なんであんたに説教されなきゃなんないんだよ。」
「・・・いやあ、なんとなく。」
「なんとなくじゃ説明にならないよ。」
「う〜〜〜〜ん。そりゃあ、勝手な言い種かも知れんが。あいつの事を考えるとな。」
ふと青年の目が遠くをさまよう。

「……はたで見ててもハラハラするのに、離れてると余計に心配になる。
でもそんなことを言ったらうるさがられるだけだから、たぶん会ったら言わないだろうなあ。
・・・もうちょっと、気をつけて欲しいけど・・・そうしたら、今のあいつがあいつらしくなくなるだろうしな。それはもっと困るし。
・・・・いやあ、自分でも何を言ってるかわからん。」
 はっはっは、と汗を垂らして笑う。
そんなガウリイを、黙って見ている小熊。さくさくと歩きだす。
「お、おい、ちょっと待ってくれよ。」
 慌ててガウリイはその後を追う。


「なあ、今度はお前さんの話を聞いていいか。
お前さんの保護者って・・・どんな人だ?」
追い付き、また並んで歩くガウリイ。
精一杯足を動かして、小刻みに歩く小熊。
「どんな人って・・・・。」
「だから、父ちゃんや母ちゃんの代わりに、お前さんを守ってるんだろ?」
 小熊がきょとん、とした気配があった。
 なんせ顔がよく見えないのだ。
「代わりに守る?そんな風に・・・思ったことなかったな。」
「違うのか。何でその人と一緒にいるんだ?」
「あっちが勝手について来たんだ。一人じゃ危なっかしいって。大丈夫なのに。」
 歩く小熊の腰に、ぱたぱたとポシェットが当たっている。
「何だかどっかで聞いたような話だなあ。」
ガウリイは笑う。
「でも、オレがお前さんの一人歩きを見たら、やっぱりそう思うぜ。」
「・・・・。別に守って欲しくなんかないよ。」
「お前さん一人で切り抜けられない状況になったら、その時はどうするんだ。」
「そのくらい、覚悟してるさ。
自分の責任で生きて行くなら、倒れる時は自分の力不足のせいだ。」
「・・・・」

ぽかん、とした顔をするガウリイ。
「お前さんって・・・・みかけより大人なんだな。」
小熊が憤慨する。
「悪かったな。見かけがガキで。」
「そうだな。」
ガウリイがまた、ふかふか、と小熊の頭を撫でる。
「見損なっちゃいかんな。悪かったよ。」

ふかふかふか。

「・・・いつまで撫でてるんだよ。」
「あ?悪い悪い。クセで」ガウリイが苦笑する。
「あんたが保護してるやつに、いつもこういう風にしてんのか。
・・・怒られないか?子供扱いするなって。」
「へえ。よくわかるな。しょっちゅう、どつかれるぞ。」
「自分を子供と思ってない人間に、それをやると怒られると思うぞ。」
「・・・そっか・・・・」
どことなく、寂しそうな笑顔を浮かべた青年に、小熊はぐっと押し黙る。

そのまま、しばらくは沈黙が続いた。

「守って欲しくなんか、ないって言ったよな。」
静かな声で、青年が問う。
その様子に、小熊が振り返る。
「・・・じゃあ、何でその人と一緒にいるんだ?」
「・・・・・」

 さくさく。
 紅葉はがさごそ。
 どこか遠くで、掠れた声の鳥が鳴きながら去っていく。

「ただ守ってもらうだけなんて、嫌なんだ。」
「何故。」
「・・・だって、もし、もしもだよ。」
 幼く聞こえる声に、谺のような不安が忍び込む。
「ぼくをかばって、その人が目の前で死んだりしたら嫌だ。
ぼくを守って死んだりしたら嫌だ。
そんなことになったら・・・・自分が嫌いになるよ。
自分で自分が許せないよ。一生忘れられないよ。
だから、ホントなら一緒にいたくない。そんな光景を見るのは絶対嫌だから。
でも・・・・・・」

 言い淀む小熊。いつしか二人は立ち止まり、ガウリイはじっと小熊を見下ろしていた。
「でも・・・・・」
 その先が言えない。そんな小熊の頭を、ぐりぐり撫でるガウリイ。
「わかったわかった。言わなくてもいい。聞いたオレが悪かった。」
「・・・・・」屈み込み、優しく呟く。
「死んだりして欲しくないくらい、大事な人なんだな?」
「・・・・・」
 小熊はぎゅっと自分のこぶしを握り締める。
「・・・・頭。」
「え?あ、悪い・・・・撫でちゃいけなかったな。」
「いいよ。」ぷいっとそっぽを向く小熊。
 怒ったのではなく、照れたのだと、ガウリイにはちゃんとわかったのだった。




 ふいに森が切れた。
 辺りはすっかり夕方になっていた。開けた土地が広がり、人が通る道が見える。
 遠くの方に、ぽつん、と明かりが浮かび、薄墨のシルエットになった民家らしき一群が見えた。
「あそこか。いやあ、助かったよ。」ガウリイは振り返る。
「遅くなっちまったな。・・・大丈夫か。」
 小熊は森の入り口で立ち止まり、こちらを見ていた。手を振る。
「大丈夫。じゃあ。」
 ひょこひょこと森に帰る小熊に、ガウリイは口に手を当てて呼び掛けた。
「お〜〜〜〜い。」
 茂みの向こうで、小熊が振り返る。
「・・・あのな。保護者の立場から言わせてもらうと、だな。」
「・・・・」
「保護者も、そいつが大事だから、守りたいんだと、思うぞ。」
「・・・・」
 茂みを挟み、一瞬見つめあう二人。

「・・・わかってるよ。」
 ぼそり、と答えて、小熊はがささっと茂みに消えた。
 ガウリイはしばらくそこに立ったまま、夕闇迫る中、小熊が消えた方向をずっと眺めていた。

















「あら。ガウリイ。遅かったじゃない♪」
村に唯一の旅籠で、二人は再会した。

「・・・お前な。」
どうやら感動の再会ではなかったらしい。
食堂で皿が積み重ねられたテーブルに、リナが座って手を振っていた。
思いきり脱力しながら、ほてほてとテーブルに近付くガウリイ。

「いやあ。森の中ではぐれた時はどうしようかと思ったわよ。
あのままずっといようかと思ったんだけど、ほら、ガウリイだってきっとお腹がすいて、近くのメシ屋を探すんじゃないかな〜〜って♪」
手に持った骨付き肉を振りながら、リナが笑う。
「ウソつけ・・・自分が腹へったからだろ・・・」
どすん、と椅子に腰を下ろすガウリイ。
「えへへへ。正解♪」
「まあいい。・・・無事ならな。」
そう言って、ふいと送ってきた視線に、どぎまぎするリナ。
「そ・・・そういうあんたはどうやってここに来たのよ。」
赤くなった頬に気付かれないといいと思いながら、肉にかぶりつくリナ。
ガウリイは手揉みしながら皿を物色。
「おお。何だか親切なやつに会ってな。案内してもらったんだ。」
「ふうん。」

「へい、お待ち♪」
そこへ旅籠のオッチャンが、大皿を抱えてやってきた。
テーブルのわずかに空いた隙間に、湯気が立ったいい匂いの料理。
「うっわ〜〜〜美味しそう♪いっただっきま〜〜〜す♪」
「・・・これは・・・」ガウリイは皿の中身を見つめる。
「うちの自慢でさ。この辺の森で取れるキノコ料理だよ。取りたてだから、新鮮だよ♪」
「・・・・」
黙ってキノコを見つめるガウリイ。
はふはふ言いながら、早速リナが食べ始める。
「おいいしいいいいいい♪あ〜〜〜しゃ〜〜〜わせ♪♪♪」
「あ。リナ、オレの分がなくなるだろ!!そんなにがっつくな!!」
「へへ〜〜ん♪ぼ〜〜〜っとしてるあんたが悪い♪」

いつものお食事バトルを繰り広げる二人。
慣れない村びとの視線を二人占め(はぁと)






オッチャンは空の皿を片づけながら、厨房の奥にいた奥さんに話し掛ける。
「おいお前、お前の作ったのどあめ、効いたみたいだなあ。
森の狩人に助けられたっていう、あの風邪っぴき嬢ちゃん、すっかり声もよくなったみたいだぞ。
元気になったようだし、おまけにキノコたくさん採ってきてくれたしなあ。
後からお腹空かせたヤツが来るから、どっっさり作っておいてくれ、と言われたけど。
あの分じゃ、足りそうにないなあ。」






































==========================えんど♪

12月はほのぼの月間かなあ(笑)
ほのぼのにギアが入ったかもしれないそーらです。最後のオッチャンのセリフの意味、わかりましたか?わかったら、そーらの企みも成功♪
え。最初からわかってたって?(笑)やっぱりね(笑)元ネタは某有名な少年マンガのとある話なんですが。原形とどめてません(爆笑)

では、読んで下さった方に、感謝を込めて♪
子供扱いされて嬉しいと思ったことがありますか?(笑)
そーらがお送りしました♪

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