たたかうお嫁さま(後編)

 「キャサリンや、カーテンをあけておくれ」
 「はい、おばあさま。」
 「キャサリンや、お茶を持ってきておくれ」
 「はい、おばあさま。」
 「キャサリンや、詩を朗読しておくれ。お前の声が聞きたいのよ。」
 「はい、おばあさま。」

 でええええええええええい。





 
滞在中の居室にとあてがわれた部屋に入ると、リナは頭をぶんぶん振ってリボンや髪止めや無数のピンを床一面にまき散らした。
 「まったく、なんなのよ、あのバーサンは!!
上品で優しそーーーーだと思ったのは初日だけ、フタを開けたらただの人使いの荒い元気な病人じゃないのっっっっ。
どこが余命いくばくもないのよっ。
っまったくうううううう。」
まだ怒りが収まらないようだ。
「あげくの果てには、やれ立ち居振る舞いが優雅じゃないとか、お茶の入れ方がまずいとか、詩を朗読すると今のはお経かいと言い出す始末。
あのリチャードとかいう息子、あのバーサンの面倒見るのが嫌になってあたしに押し付けようってのじゃないの?!」
 


 いきまくリナの傍らで、いつもの服に着替えてくつろぐガウリイが、いつもの苦笑を顔に浮かべていた。
「そんなに興奮するなよ」
「別に興奮なんかしてないわよ」
「でもなあ。」
「なによ。」
「あのばあさん、そんなに悪い人じゃないと思うぜ」

 ときたま、ガウリイはぽろっとまじめな言葉を吐く。
ごく自然な会話の中にふいとあらわれる、そうした言葉にリナは驚かされることが多い。
「・・・なんで、そう思うのよ」
「だってお前が部屋から出ていくと途端に無口になるんだぜ、あのばあさん。
そんで寂しそうな顔して、お前の出ていったドアをじっと見てるんだ。」
「・・・・・」
「お前にぽんぽんモノを言ってる時、いい顔してたんだよ。」
 黙り込んでどすんと隣に腰を降ろしたリナの、くしゃくしゃの髪をガウリイは抱え込むようにしてそっと撫でてやった。

 
 リナが老婦人の部屋にかかりっきりのあいだ、さしてすることのないガウリイは庭の手入れを手伝ったり、薪を割ったりしていた。庭からはちょうど、部屋の様子が見えたのだ。
「とにかく、あと3日だ、もうちょっとの我慢だよ。」

 ときどきリナは、こんなガウリイの大人の態度が許せない。
なんだか急に、自分が子供に戻ったような感覚に落ち入るからだ。
撫でられていた頭をぶん、と振る。
「ふんだ。そうやって一人で悟ってなさい。わかったわよ。あと3日よ、
・・・やってやろうじゃない。」





 ---実際、リナは頑張った。
上流社会特有のうざったい決まりや上品ぶった言い回しにも我慢した。
老婦人の要求はとどまるところを知らず、リナはたぶん生まれて初めてケーキなんかも焼いてみた。
もちろん、老婦人の酷評にあったが。
 
 居室に戻って一日の疲れやイライラを爆発させる時、必ず傍らにガウリイの姿があった。
リナはそのことには気がついていなかったようだが。

 



 またたくまに一週間が過ぎ、リナもとい、キャサリンが帰る日が来た。
 「おばあさま、おいとまするのは心苦しいのですが、家に戻らなければ。」
「・・・ええ。寂しくなるわ。私ももう長くはないので、これが最後のお別れということになるわね。」
「・・・そんな、」
「キャサリン、」
 老婦人は言葉をとぎると、しゃんとベッドの上で起き上がった。
「これからも精進なさい。私の言ったことは忘れずに。
いい奥さんになるのですよ。」
 婦人の今までにない真剣な眼差しに、リナは何も言えなかった。





 「お約束の、これがお礼です。」
 リチャードは別室にリナ達を案内すると、ずっしりと重い金貨の袋を手渡した。リナが想像していたものより多かった。
「あなたに来て頂いて、本当に良かった。できれば、あの人が息をひきとるまでいて頂きたかったのですが、一週間というお約束でしたので・・・」
「そんなに悪いの?あの人。だって結構、元気じゃない。」
「あなたの前ではね。毎朝、痛み止めの薬を打っていました。」
「・・・・・」ガウリイの含みがきいたのか、リナは神妙な面持ちだった。
唐突にガウリイがこんなことを言った。
「ところでゼロス、この金はどうしたんだ?」

 
 えええええええええええええ?


 「あれ、バレてましたか。」
リチャードの姿が消え失せ、そこにはいつもの半眼の笑みを浮かべた魔族、ゼロスの姿があった。
「ゼ、ゼ、ゼロスぅうううう?な、なんであんたがここにいんのよ?」
「いやあ、リナさん、お久しぶりです。」
「挨拶なんかどーーーーーでもいいっっ。説明しなさい、説明。」
「では、ここではなんですから・・・・」
 


 3人は敷地の外に出た。すると今までそこにあった、豪奢な屋敷は影も形もなくなり、ゼロスと同様、本来の姿である小さなボロい一軒家に戻った。
「どーゆーーこと?!」
 驚くリナにゼロスは微笑した。 
「ですから、今までのは全部、ウソだったんですよ」

 んなんですっっってええええええええ?!

 「家も住人も、すべて僕が作り上げた幻です。」
「な、なんでそんな手の込んだイタズラしたのよっっ?」
「いやあ、」
頭に手をやって、おきまりのポーズをしたゼロスにはにこにこと答えた。
「ひまだったもので。」

 どしゃ

リナがこけた。

ひまだからってやるな、こんなイタズラ!
「いえね、先日、旧世界の魔道具とかいうからくりで遊んでみたら何だかじゃんじゃん出ちゃいまして、こおんなにお金を頂いてしまったんですよ。でも考えてみたら、魔族のぼくにはこんな大金必要ないですし、それならリナさんにでも差し上げようかと思いまして。」
「くれるんなら、素直にくれれればいーーーのよ!
なんでこう、ややこしいことするわけ」
「そりゃあ」
「なによ。」
「楽しいからです♪」

 『・・・黄昏よりもくらきもの・・・』
 「そろそろおいとましますね♪リナさん、またお会いしましょう♪」

「ば、ばかあああああっっ!!!」



 荒れた庭園あとに立ち尽くす二人。

「ガウリイ、あんたいつあれがゼロスだとわかったの?」
「え?いつだっけかな。」

 ガウリイに掴みかかろうとするリナの頭上で、実体のないゼロスの声だけが響いた。
「そうそう、付け加えておきますと、魔族のぼくには人間社会のことはよくわかりませんので、ここの自縛霊の皆さんにご協力頂きました♪
あのお屋敷もご婦人も100年前には実際にそこに住んでいたんですよ。
いやあ、皆さん、喜んでましたよ♪では・・・・」




 「・・・そっか、あのばあさん、・・・ここに住んでたんだ。」

 リナがそっとつぶやいた小さな声は、風に舞って空にのぼっていった。






























================おしまい♪
あとあがき。
リナの結婚狂想曲を見ながら、あああダンナ役がガウリイだったら良かったのに・・・と考えたのはわたしだけではないでしょう(笑)そんなわけで書いてしまいました。どういう状況ならリナがおっけーするかと悩んだ結果、ゼロス様の登場とあいなりました。
実はそーら、パチ◯コってよく知らなかったりして(;^-^)
それなのにりょー◯んぱくネタ使っっちゃって、書きながら冷や汗もんでした。なにはともあれ、ここまで読んで下さってありがとうございます♪
そーらでした♪

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