「手を伸ばして。」ガウリイばーじょん。


 「なんか怪しすぎないか、この洞くつ。」

 「なに言ってんのよ、こーいうところにお宝ってのはあんのよ!」
 「少しは用心ってものをだな・・・」
 「あー、うだうだうっさいよ!嫌なら外で待ってなさいよ。そのかわし、分け前はやんないわよ。」
 「別に嫌ってんじゃないけど。」

 いつものやりとりだった。オレとリナが言い合うのはしょっちゅうのことで、ゼルもアメリアも気にもとめないようだった。
 全く、言い出したらきかないからな。

 ぷん、とふくれてリナが洞くつに入っていく。オレはそのすぐ後ろを歩く。無鉄砲なヤツだから、何があるかもわからないし。

 ところが、洞窟に何歩か足を踏み入れたところで、突然足下の地面が光りだした。丸やら線やらなんだか読めない文字やら一杯で、オレにはさっぱりわからなかったが、リナが目の前で倒れたのはわかった。
 あわてて腕を伸ばすが、リナの体にはすでに力がなかった。
 くにゃり、と倒れこむ。

 「リナ!」
 「リナさん!?」

 ゼルガディスもアメリアもすぐに追い付いた。リナの顔は蒼白だった。脈を取ったアメリアの顔も蒼白だった。急いでゼルを振り向くと、ゼルは首を横に振った。
 「リナ!!」オレには何がなんだか、さっぱりわからなかった。



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 オレたちはリナを抱えて村まで走った。飯時だったがかまっちゃいられない、村長をとっつかまえて事情を聞くことにした。聞くのは主にゼルガディスだったが。

 「魔法陣?」
 「なんでも、盗掘除けに仕掛けたというのが村の記録に残っています。まさか本当にあったとは・・・」村長も汗をかいている。

 結局、事情をよく知る、当時魔法陣を仕掛けた人間の子孫に当たるという人を紹介してもらった。部屋に通されるとベッドが二つ用意してあった。
片方にリナを寝かせるように言われて、オレはようやくリナを降ろした。
話は隣の部屋で、とその男がうながし、アメリアとゼルがついていった。
 オレは、何か後ろ髪を引かれる気分でぐずぐずと部屋に残った。
 
 ベッドに寝かされたリナは、なんだかいつもより小さく、幼く見えた。
こんな無防備なリナを、たとえ数分でも一人にはしたくなかった。

 洞窟に入る前のやりとりを思い出す。なんて言ったかは覚えていないが、ぽんぽん返ってくる声が小気味よくてわざとからんだりした。
 オレはベッドの上に屈んで、リナの頬にかかるひとすじの乱れた髪を戻してやった。
「長くは待たせないからな。あんまり待たせるとお前は怒るから。」
 返事はなかった。


 「ですから、もう一人の方の手が必要なのです。」
いかめしい顔をした、銀髪のじーさんが説明している。
リナを元に戻す方法。
ゼルガディスがちょっと考え込んだ顔をしている。
アメリアは思いつめている。
 「・・・どういうことだ?ゼル」
 「・・・つまりだ、リナは魔法陣にかけられた魔法というか、呪いによって意識だけが別の世界に飛ばされちまったんだ。」
 「う・・・うん、それで?」
 「リナを元に戻すには誰かもう一人が同じように意識をその世界に飛ばして、リナの意識を引っ張り戻してやらなきゃならないんだ。」
 「なんだ、簡単なことじゃないか。」

 オレは笑ってしまった。ゼルがあきれた表情になる。

 「簡単って、あのな、これはよく考えてみないと。」
 「なんでだ?」
だって、元に戻す方法がちゃんと見付かったじゃないか。
方法さえ分かれば、オレは何だってやってやる。
だから、あとはそれをやればいいだけだろ。
 「問題は、この方法は成功する確率が極めて低いってことだ。
よしんば、うまく意識が分離してリナのいる世界に行けたとしても、リナの意識がある場所がわからなきゃダメだ。時間は少ししかない。それから、もし万が一にもうまくリナの意識にたどり着けたとしても、リナが戻るかどうかはわからないんだ。」
 「・・・どうして。」
 「リナの意識が、飛ばされた先の世界を気にいって戻りたくないと言うかも知れない。」
 「そうか。」
 「そうか・・・って、ガウリイ、わかってんのか。
もし、リナの意識が戻りたがらなければ、迎えに行ったヤツの意識だって戻れないかも知れないんだぞ。つまりリナも戻らん、そいつもダメ。共倒れだ。」
 ゼルガディスが吐きすてるように言った。
こいつも、リナが心配なんだな。
 「わかったよ、ゼル。もうあんまり考え込むな。」
 「あ?」
 「オレが行くから、もうお前さんたちは心配しなくていい。
考える必要もないさ。」
 「ガウリイ!?」
 「ガウリイさん?」
 オレは立ち上がった。
 早くあの部屋に戻らなければ。
 



 「いいんですか。」
 リナの隣のベッドにオレが横たわると、アメリアが心配そうに覗き込んだ。
 「大丈夫。」
 「・・・ガウリイ。」
ゼルは部屋の壁によりかかって、腕組みをしている。
相変わらずキザなヤツだ。
キザな態度でしか、自分の気持ちを表せない。
 「もし、リナが戻りたくないって言ったら・・・」
オレはその後を引き取った。
 「そんときゃ、そんときさ。なるようにしか、ならないからな。」
 「いいのか、それじゃお前は戻れないぞ。」
 「別にいいさ。リナがいないんじゃ、戻ってもしょうがないし。」
 

 たぶん退屈で退屈で、死んじまうのさ。
もしくは、腹がすきすぎて行き倒れになるかもな。
リナがいないとメシがうまくないし、リナがいなけりゃ、オレの腹は永久にひもじいままだ。
渇いて、渇いて焦がれて死ぬだろう。
リナに渇いて。

 

 あたりに香の匂いがたちこめた。
 じーさんが錫杖を振る。
 オレの意識が遠のいていく。

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 気がつくと、嵐のまっただ中にいた。

 気圧だか何だかのせいで、ひどい耳鳴りがする。
風と、耳鳴りとでオレの耳はほとんど役に立たなかった。
頭のどこかで、ゼルの言った言葉が浮かんでいる。
『万が一、リナの意識をうまく見つけられたとしても・・・』
万が一の可能性か。
ま、慣れてるさ。そんなことには。

 びょうびょうと吹きすさぶ風の向こうで小さな声が聞こえた。
 その声はオレの胸に直接入り込んで、オレの胸を焦がした。

 『昨日は、ごめえん。』

 驚くほど素直な言葉で、オレは一瞬とまどった。
 これはホントにリナの声なのか。

 突然目の前が開けた。

 目前に空間の裂け目みたいなのができて、その向こう側にオレは見たかったものを見た。
 迷わずに裂け目に突っ込む。
ものすごい風圧で押し戻されそうになった。
なんとか届くように、目一杯腕を伸ばし、裂け目の向こう側に差し出した。
 数人の驚く声が聞こえる。
腕がちぎれそうだ。
裂け目の向こう側にリナがいた。

 リナは確かにリナだった。
 いつもと格好も髪型も違うが、リナだった。

 「リナ!!!」

 オレはリナの名前を呼んだ。

 口を開けると、風が舞い込んで息が苦しくなる。
ただオレは呼び続けた。
リナの名前だけを。
他に何も思い付かなかった。

 「リナ!!!!!!」

 死よりも恐ろしい何分かが過ぎた。またゼルの声。
 『時間は少ししかない。』
まだ手にリナの感触はない。

 「リナあ!!!!!!!」

 
声を限りに叫ぶ。リナが戻らないかも知れないとは思わなかった。

 一瞬のためらいがあったかと思うと、リナがオレの手を握るのを感じた。
オレは力任せにそれを引っ張った。
腕の中に、懐かしい感触がよみがえる。
後は、風と光に巻き込まれて何も見えなくなった。

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 後で聞いたところによると、オレとリナの体は一瞬消えたそうだ。
再び現れた時には光に包まれて、一陣の風が起こったのだと。

 目を開けると、そこはさっきの部屋の中だった。
周りにはゼルもアメリアもじーさんもいた。

 急いでリナのベッドを見ると、リナの姿がない。
体中の血が下がる思いをしたが、よく考えてみるとリナはオレの腕の中にいた。
まだ目を閉じていたが、その小さな手は、オレの左手をしっかりと握っていた。
 見守るうちに、リナが目を覚ました。
 オレはただ黙ってリナを見ていた。

 アメリアは目に涙を浮かべていた。
ゼルは斜にかまえて、それでもきちんと、事情を説明してやっている。
 オレがリナの意識を迎えに行った、と聞かされてリナがちらりとオレの顔を見上げる。
ん?という顔をした。
他にどんな顔をすればいいんだ?

 と、その時、ゼルがいらないことまで喋り始めた。
オレはゼルの方を向いて、余計なことは言うな、という顔をした。
それがわかったのだろう、あいつは肩をすくめて向こうへ行っちまった。
背中でにやり、と笑われた気がした。
アメリアがその後を追う。
 
 「・・・リナ、お前、向こうでのこと覚えてるのか?」
 「・・・・ううん。全然。」
 「・・・そうか。」
 「何よ?」
 「・・・いや。ふっと考えちまっただけだ。」
 「だから、何よ?」リナは苛立たし気な声を出した。
 「いや、お前をこっちへ戻しちまって、良かったのかな、と。」
 「・・・何で?」
 「ちらっとしか見なかったけど、向こうの世界のお前、な、」
 「うん?」
 「なんだか、今よりリラックスした顔してた。」
 
 そう、あれはリナだった。
 リナは確かにリナ。でも違った。
 今のリナの顔を見るのが、ちょっと怖くて横を向いた。
 あの時のリナの顔と同じだったら。
 
 「・・・・・」珍しく、リナが黙り込んだ。 
 「もしかしたら・・・」
 自分でも辛気くさいこと言ってるな、と思っていたら、リナにこう言いはなたれた。
 「なあに陰気くさいこと言ってんのよ?」
 「・・・・・」
 「あたしはここにいるわよ、ガウリイ。あたしの世界はここだし、あたしの仲間はあんたたちだけ。あたしがあたしの世界に還るのは、当たり前でしょ!」

 リナの声には力があった。引力のようなものが。
思わず引き付けられる。
 「それともあたしがここにいるのが不満なわけ?」
スネた声を聞いてオレは、そうじゃない、と叱りそうになった。
思わずリナの顔を見る。

 焦がれた胸が、リナという水で浄化された。
 渇きが癒される。
 オレはこんなに渇いていたのか。

 リナの顔を凝視していると、リナはハっとして身じろぎした。
オレに抱きかかえられていることに今、気がついたみたいに。
あわててオレの左手を掴んでいた手を離そうとする。

 オレはこの手を離したくない。
 今も。この先も。

 だから、握り返してやった。今度はオレの手でリナの手を包む。

 目と目があった。

 「お前が還ってきてよかったよ。」
素直な気持ちを口に出した。

 
「・・・ありがと。ガウリイ。」
照れながらも、リナは礼を言ってくれた。

オレは会心の笑みをもらすことを、自分に許した。



































-------------------------------------END

やっぱりガウリイさいどは難しい(汗)時間かかりました。
こんなに長くなくても良かったですね。
つまり、書きたかったのはあるほんのワンシーンだけなのです。
では、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました(はあと)
そーらは毎日幸せです。 


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