「腕立て伏せと腹筋と」あとは反復横飛びか?  




夜中にリナは目を覚ました。
たき火のそばにガウリイの姿がない。
あれ、と思って起き上がると、少し離れたところにガウリイがいた。

「なにしてんの。」
「へ?ああ、起こしちまったか?」
ガウリイは片手で自分の全体重を抑え、もう片手を背中に回し腕立て伏せをしていた。
「にひゃくいち、にひゃくに、と。これやっとかないと体がなまっちまうんだ。」
「ふうん。」
知らなかった。こんな風に夜、ガウリイが体鍛えてたなんて。
「にひゃくよん、にひゃくご。お前さんはいいから寝てろよ。うるさいか?」
「あ。ううん、それで起きたわけじゃないのよ。」

ここのところ、何となく夜中に目が覚める。その度にのんびりとたき火の前に座るガウリイの姿を確認し、安心して眠るような日々が続いていた。

「しかし・・・」リナは改めてガウリイを見る。
ふっとい腕だなあ。
しかもあのカウント数のわりに、大して汗もかいてないみたいだ。
たまに剣の稽古もつけてもらうのだが、あたしがへとへとになるまでやっても、ガウリイは余裕しゃくしゃくだ。
悔しいけれど、体力には大きな差がある。

「にひゃくじゅう。も、いいか。」
「やめるの?」
「んにゃ。今度は腹筋。」

まめな男だ。
今度は仰向けになり、頭の後ろで手を組んでいる。
「まだ寝ないのかあ?」
その状態で振り向く。
「うん、なんかね、目が覚めちゃったみたい。」
目が覚めたというか、眠りたくない、というか。
もう少し、ガウリイを見ていたかった。
「そんなら毛布でもかけてろよ。まだ冷えるぜ、夜は。」
そう言って、おもむろに腹筋を始める。

何故だか構いたくなって、リナはガウリイに声を掛ける。
「あたし、足押さえてあげよっか。」
「え?いいって。」
「エンリョしないの。ほらあ。」
立ち上がり、ガウリイの足を両手で抑えてやる。
「そうかあ?んじゃ。」
ぎゃ。両手が宙に浮く。
「お前さんの力じゃ無理だって。」む。今、むっっときたぞ。
「だ、大丈夫よ、」ムキになる。
「じゃ、じゃあ、あたしが足の上に乗る!それなら大丈夫でしょ?」
揃えたガウリイの足の上に、すとんと座る。
「いいよ、やってみて。」
「無駄だと思うけど。」

ぶわ。
うぎゃああ。
今度はリナの体が半分宙に浮かぶ。
起き上がったガウリイの顔とはち合わせになる。

「な?」目の前に、ガウリイのアップ。
「言っただろ、お前じゃ無理だって。」
「う・・・・」何も言えなくなる。
この差は、縮まらないのかな。

「何かあったのか?」
そのままの姿勢で、ガウリイはリナの顔を覗き込む。
「え。」
「いや、何となくおかしいからさ。」
「そう?」
「オレに付き合ってくれるのもいいけど、夜はちゃんと寝ないと明日持たないぞ。」
正論だ。言い返すことも、反論することもできない。

この感じを何と言って説明すればいいのか、自分でもわからなかった。
ただ、力の差を歴然と見せつけられて何となくガウリイが遠い人に思えてきたのだ。普段のクラゲぶりからは想像できないほど。
人に気付かれないところで、こんなこともしてたなんて、知らなかったし。
ガウリイが一流の剣士であることを考えれば、当たり前のことなのだが。

まだ足の上に座ったまま、首をうなだれているリナを見て、ガウリイはそっとため息をつく。完全に体を起こし、両手を頭の後ろから外す。
結構ヤバいんだけどな、この体勢。
でもこいつはわかっちゃいないんだろうな。
両手を伸ばし、顔を挟んで持ち上げてやる。
寂しそうな目を見て、ずきんとなる。
「添い寝してやろうか。」

どんぐり眼がさらにおおきいビー玉になる。

「な、な、な・・・」
二の句が告げないようだ。

「だってお前、寝つけないんだろ。このまま二人で夜明かししたって、二人とも寝不足になるだけだし。オレも横になった方が体が楽だし。
・・・て、どうした?」
リナは思いきり脱力している。
「いーーーええ、べーーつにい。」
何だと思ったんだ?
赤くなってるとこを見ると、言葉通り受け取らなかったな。
両手をリナの顔から離し、小さな子を抱き上げるように、脇の下に手を入れてリナの体を持ち上げてやる。

「きゃ。何すんのよ?!」
軽い。

「リナはちいちゃいなあ。」
そのまま、高くかかげてやる。赤い顔が、こちらを見下ろす。
「ちいちゃくて、悪かったわね。」
スネているようだ。もしかして、さっきのことを気にしてるのか?
「悪くないよ。オレより大きかったら困るし。」
「な、なんで困るのよ。」
「こうやってだっこもできないだろ?」
「しなくてもいいわい!」
「ははは♪照れるなよ♪」
リナはちいちゃい。でも体の大小が、心を占める割合に比例する訳じゃない。むしろリナの場合、反比例しているのだ。
無論そんなことは口にはしないのだが、じっとリナを見ていると、リナも何かを考えているようだった。

「どうした?」
「んん。何でもない。」
「気になるな。言ってみろよ。」
「んーーーーー。」赤い顔に、更に赤味が増した。
「ガウリイって、大きいなと思って。」

そう。ガウリイは大きい。体も、心も。
もしかして一番叶わない相手が、ガウリイなのかも知れない。
いつのまにか、心に占める割合が、その大きさに比例してきているのかも知れない。無論そんなことは口にしない。じっとガウリイを見る。
目が会い、二人はふっと笑ってしまった。


「今ここにゼルガディスがいたらなんて言うかな。」
「それよりアメリアに見られたらなんて言われるか。」
「そうだな。」
「そうよ。」
言葉を交わすことで、急に感じた距離感が無くなっていくのがリナにはわかった。言葉を交わしたことで、リナが急に元気になったのがガウリイにはわかった。今この瞬間、二人の心を占めるのは、お互いのことしかない。

「やっぱ寝るわ。」地面に降ろしてもらい、リナが笑う。
「ああ。あとで起こすから。」
「約束よ。時間になったら起こしてよ。」
「ああ。わかったわかった。いいから早く寝ろ。」
ひらひらと手を振るガウリイ。
「オレはあと10セットやったら水浴びしてくる。」
「あそ。頑張ってね〜〜〜〜。」
「おやすみ。」
リナは毛布に潜り込み、薄目を開けてガウリイを盗み見る。

また一人もくもくと腹筋を始めるガウリイを見て、何だか安心して眠るリナだった。































==========================えんど♪

ほのぼの書きたくなって久しぶりに(笑)ほのぼのです。
なんということはないんですが、ほんわかしてる二人を書きたかったもので。
では、ここまで読んで下さった方に愛をこめてv
誰かが傍にいてくれて、安心して眠った記憶はありますか?
そーらでした♪

 


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