「先生と僕」
結婚物語さいどすと〜り〜


いつも通ってる剣の道場に、今度きた先生は、すっごくカッコよかった。
長い金髪、青い瞳。男の僕から見てもハンサムで背も高い。
教え方もなんていうか、いままでやってたことが、ちゃんばらごっこに思えるほど、真剣で。
剣の腕もかなりのもんだとおもう。
うん、みかけだけじゃなくて、一度やってきた道場破りの時なんか。
ひげを生やして、先生よりも一回り大きな身体。ごついブロードソードを片手で、軽々と扱っていた。
それなのに真剣で向き合うその男に、先生は木剣だけで対峙して。馬鹿にされたと思った其の男が先生に切りかかる!
僕には先生が軽く身体を捻って、身体を躱し、腕を振り上げたのが見えた。その次の瞬間、ドサッと音がして、道場破りは床に伸びていた。
まるで踊るような軽い動きだったのに。
振り上げて降ろす木剣は、僕には全然見えなかった。何事もなかったように、微笑んで道場に立つ先生は目茶苦茶カッコよかった。
あんなふうに剣を使えるようになったらと、考えるだけで胸がドキドキした。
それなのにガウリイ先生は、基本はちゃんとやらないと、剣を使うことはできないと厳しかった。やたら素振りをやらせるんで、僕もみんなもうんざりだった。
剣は小さい頃から、なんとなくやってきた、そうだな習い事。女のこたちが、ピアノをやったりする、そんなもんだと思ってた。
でも、先生をみてたら、かっこいい!っておもったんだ。
だから先生みたいに強くなりたいって、いってみたんだけど。
ちょっと困った顔で先生はいうんだ。
「剣は人によって、求めるものはいろいろなんだが。だけどな、本当の意味で強くなるっていうのは、剣の強さだけじゃないんだ」
「なんで?強い方がいいよ! 」
「先生みたいに強かったらかっこいいもの!」
口々にいう僕たちに先生は、なにかちょっと照れながら。
「本当の強さっていうのは、たぶん心の強さだな」
僕たちが解からないっておもったのか、先生は言葉を続ける。
ちょっと頭を掻きながら。
「そうだな。ほんとうの強さっていうのは、自分の大切なものを守るためにあるんだと思うな」
そういって、微笑む先生は、すっごくいい顔をしていた。
 
それならもう少し、素振りばかりじゃなくて、役に立つ、見た目にもカッコイイ剣の使い方を教えてくれてもいいのに。
みんなそれも不満だったし。
 
おまけに、いつも女の子たちが、先生を目当てに道場にやって来るようになって。
先生はたしかにかっこいいけど、こないだ結婚したばっかりなのに。
 
同じ道場に通ってるバート達は、憧れてた女の子が先生にきゃーきゃーいってるのが、かなりあたまにきてたみたいだ。
 
そんな時に道場に、女の人、いや、まだ僕たちとあんまり年の違わない。でも、肩で切った黒髪と、大きな目のすっごく可愛いこが先生を尋ねてやってきた。
したしげに先生に近寄る。
奥さん?じゃなさそうだし。
 
「あ、アメリア。あのな。」
なんかえらく接近してる。
 
・・・・・・・・おもしろくない。
たしかに厳しいけど、いい先生だとおもってたのに。
なんか裏切られたような、そんな暗い気持ちが振り払えない。
 
バートたちに先生の家に行くのを誘われて、いっしょに行ったのは、そんな気分になっていたからだろう。
ついた家でバートたちが先生の奥さん、たぶん白いエプロンしてたからそうだろうと思う。
さっきの女の人のことを、
「今日、先生のとこにすっごい美人が訪ねて来ましたよ!」
とか
「先生、男前だからモテて大変ですね」
って、笑っていっているのを、僕は黙って聞いていた。
 
なんとなくむしゃくしゃして。
だって悪いのは先生なんだから。
これはほんとうのことなんだから。
しらないまに、自分に言い聞かせるようにして。
 
 
そして帰ろうとして、何気なくふりむいて。
 
その女の子の顔がみえた。
長い栗色髪がふわりと囲む、白い小さな顔。
その大きな瞳を見開いて。
いまにもこぼれおちそうな涙の粒がみえそうな瞳。
驚いたような悲しそうな顔。
ズキン
 
そんなつもりじゃなかったんだ。
ゴメンナサイ。
泣かないで。
叫びたかったけど。
・・・・・・・いえなかった。
 
晩御飯の味はよくわからなかった。
なにをやってもどこにいても、あの大きな瞳が忘れられない。
胸が苦しくて。
キリキリと痛い。
・・・・・・・なんでだろう。
 
 
 
次の日。
先生にこっぴどくとっちめられて、素振り600回!?
みんなの抗議は、先生の剣が閃いて、試し切り用に道場に用意してあった藁束が、粉々に弾けとんだ時に消えた。
顔は笑っていたけれど、先生の目は笑っていなかった。
はっきりいって、恐い。
 
先生の目が怖くて、みなふらふらになりながら素振りをした。
 
もう腕は上がらない。
身体はなんか鉛になったみたいだ。
 
みんな帰ったあとで、周りはシーンとしてる。
でも僕は道場に残っていた。
 
やがて先生がくる。
「ガウリイ先生、ほんとうに昨日はすみませんでした」
ほんとうに謝りたかったのは、先生にじゃなかったんだけど。
にぱっと笑った先生は、ほんとに嬉しそうで。
「いや、わかればいいさ。それに満更悪いことばかりじゃなかったから」
あたまを掻きながらそんなことをいっている。
 
その姿をみるのが、なんとなく苦しくて。
だからなのかな?
僕の口がこんなことを言ったのは。
「先生! 立ちげいこをしてください! 」
先生は驚いたようだったけど、いった、僕も驚いたけど。
もう後戻りできない。
 
青眼に木剣を構えた僕の前に、先生はなんのかまえもなしに立つ。
・・・・・・なぜだろう。
先生の姿がすっごく、大きく見えた。
それでも、その姿に飲み込まれようとしたときに、僕の目に映る、大きなあの瞳。
「ハァ!」
気合とともに切り込んで。
 
 
 
・・・・・・・・気がついた僕の目に映ったのは、道場の天井と心配そうな先生の顔。そばには、叩き折られて、ころがった僕の木剣。
剣を折られた衝撃で、叩き付けられたらしい。
「ほんとうに先生は強いんですね」
自分の声が、遠くで聞こえる。
「ああ、守らなきゃいけないもんがあるからな」
その声を聞きながら、僕は強くなりたいとおもった。
 
いつか必ず、あの大きな瞳をもつ女の子に出会う。
その瞳に浮かべるが、涙なんかじゃないように。
だから、強くなりたい。
いつか出会う、僕の未来のために。
 
 
おわし♪
 
 

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