「うるさい!言ってやるわよ!あたしはアンタが……ガウリィがす……」
そこであたしの言葉は途切れた。
ガウリィの唇が……あたしの口を閉じたから……
某月某日……
何ヶ月ぶりか忘れたけど……
路銀が尽きた。
「へー、そうなのか?」
「へー、そうなのか?って!?アンタには緊迫感というものがないの!?」
「いや、そんなこといってもなぁ……」
そう言って、ぽりぽりとホッペタをかく、ガウリィ。
……こいつは!!!
「アンタは、事の重大さってものが解っていってんでしょうねぇ!?」
「でもなぁ……リナ?」
「あによ?」
あたしはおもいっきし険悪な目でガウリィを睨み付ける。
「路銀路銀って……そんなに目くじらたてて……人生、他にもっと大事なことがあるだろ?」
「……いや、まぁ、そうなんだけど……」
「そんな小さのことにとらわれてると、人生、損してると思わないか?」
ガウリィの言葉にぼーぜんとなるあたし。
「ガウリィ、アンタ……」
「ほら、せっかくこんなにいい天気なんだしさ、小さなことにこだわって、かりかりしてても……なぁ」
「……そ、そうよね……ガウリィ、あんた、たまにはいいこというわね?」
「そうだろ?」
得意そうに胸を張ってみせるガウリィ。
あたしもニコニコ笑顔で、そんなガウリィを見つめる。
「ところでさ、リナ」
同じく笑顔で言葉を続けるガウリィ。
「なに?」
同じく、笑顔で答えるあたし。
「路銀、ってなんだ?」
ずぺしゃぁぁぁぁぁぁぁ
「……って、どうした?リナ?いきなり地面に抱き付いたりして……」
盛大にずっこけたあたしを不思議そうに見下ろすガウリィ。
あ、あ、あ、あ、
「あんたねぇ!?路銀が何か分からずに話をきいてたの!?」
「いや、ほら、路銀といわれてもなぁ……オレ、仏教用語、詳しくないし……」
「誰が仏教用語の話をしてんのよ!?お金よお金!旅をするためのお金がなくなったって言ってるの!」
「なぁーんだ、それならそうと早く言えばいいのに。わざわざ、そんな難しい言い方して、こいつぅ」
「爽やかな笑顔でごまかすなぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
すぺしゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!
あたしの懐から飛び出した、一斗缶がガウリィの頭を一閃する!
「お、おいっ!?そんなものどこから出した!?」
「こんなこともあろうかと、さっきそこの金物屋さんで貰っといたのよ!」
「こんなことって……」
ったく、何考えてんだか……
荒くなった息を整えつつ、あたしは愛用のその一斗缶を懐に仕舞う。
「あのな……リナ?」
まだ息の整わないあたしを、急に真剣な眼で見つめるガウリィ。
「な、なによ?」
「まえから、一度言っておこうと思ってたんだが……」
ズズイと顔を寄せてくるガウリィ。
「な、なによ?」
「あんまり興奮すると、体に毒だぞ?」
「……爆裂陣」
ちゅどぽーん
かくして、頭にノーミソのかわりにハトサブレの詰まったにーちゃんは、宙を舞うこととなったのだった。
「あのー?魔道士さんですよね?」
そんな声がかかったのは、なんとかつけでご飯を食べさせてもらえないかと、あたしが食堂のおばちゃんに泣き付いている時だった。
「はい?ええ、まぁ」
「ああよかったぁ」
そういって、胸をなで下ろしたのは、年の頃なら二十歳前後のこざっぱりとした青年……いや、にぃちゃんだった。
「違ったらどうしようかと思ってたんですが……ホントに良かった」
ウンウン、一人でうなづいているにぃちゃん。
「いや、まぁ、この格好で、ウェートレスや魚屋さんと見間違われるわけ……あるか……」
あたしは昔、そんな間違いをしてくれた、自称保護者を横目で見た。
「まさか。その格好で、魔道士以外の職業と間違える人がいたら、見てみたいですねぇ……」
「いや、だから、目の前にいるんだけど……」
「せめて動物園の飼育員とか、塾の講師とか……間違えてもその程度でしょ?」
「それも……」
「そんなことより、もしよろしければ、私の話を聞いて頂けないでしょうか?」
「それって……仕事の依頼ってこと?」
「ええ、まぁ、平たく言ってしまえばそうなんですが」
ポリポリと頭を掻きつつ、愛想笑いを浮かべるにぃちゃん。
「依頼ねぇ……」
あたしは改めて目の前にいるにぃちゃんを観察してみる。
……やっぱり青年というよりは、近所に住んでる、人の良いにぃちゃんといった感じで、着ている服もそう高そうなものではない。
……あんまし、お金は持ってないだろーなぁ……
「ああ、もしよろしければ、こちらでご飯でも食べながら……もちろん、お代は僕が持ちますので……」
「よし、その依頼、あたしが引き受けた!」
「お、おいリナ!?」
横にいたガウリィが思わずといった感じで、抗議の声を上げる。
「依頼の内容も聞かないで、お前……」
「あのねぇ、ガウリィ!?この人はあたし達にご飯を奢ってくれるって言ってくれてるのよ!?ご飯を奢ってくれる人と、ただで物をくれる人に悪人はいないって、うちの故郷の姉ちゃんも口をすっぱくして言ってたものよ」
「いや、その、かなり偏見が入っていませんか……それ?」
なぜか不満そうに口を挟んでくるにぃちゃん。
「とにかく!その依頼、受けさせて頂きます!」
「えーっと……それでは、そろそろ仕事の話をさせて頂きたいのですが……」
彼がそう切出してきたのは、あたしがお昼のAランチセットからZランチセットまでをくまなく制覇し、食後のミルクをチビリチビリとやっていた時だった。
「えっ?ああ、はいはい、例の依頼の話ですね」
「はい……あ、その前に、自己紹介をさせて頂きます。ボランティアサークル『頑堕夢 魔亜苦痛』のリーダーをやらせて頂いている、ザックといいます」
「ガ、頑堕夢……魔亜苦痛……ですか……」
ま、まぁ、世界最強の平和主義者とか、世の中これでけっこう奥が深いところがあるようだし、別にどんな名前をつけてもあたしはかまわないけど……
「活動内容は、老人ホームの慰安や、子供会のレクリエーション、その他、いいろとやっているのですが……」
「ハ、ハァ……」
「今回、めずらしく、この街の町議会からボランティアの依頼を受けまして」
そこで言葉を切って、ミルクをコクリ。
「で……どんな?」
「いや、その依頼自体、たいした物じゃなんです。ただ単に、この街の裏手に住んでいる、ホワイトドラゴンに捧げ物をするというだけなんですが……」
「ホワイトドラゴン!?」
ガタンと椅子を蹴り倒して立ち上がるあたし。
そう、あたしとホワイトドラゴン。これには切っても切れない因縁の太い絆があるのだ。
詳しくは、スレイヤーズすぺしゃる「白竜の山」参照のことね。
「ど、どうした!?リナ!?」
口にエビフライをくわえたままで、こちらを見るガウリィ。
あ、そっか……ガウリィ、いたんだ?
「フ・フ・フ・フ・フ。わかりました、そのホワイトドラゴンをプチ倒せばいいわけですね?」
「いや、あの、倒してもらうと困るんですけど……」
燃え上がったあたしに、申し分けなさそうに口を開くザック。
「へっ?捧げ物をするんでしょ?そんなことしなくても、プチ倒せば、これからの捧げ物代が浮いて、ラッキーなんじゃ……」
「いや、その……そのシロちゃん……あ、ホワイトドラゴンの名前なんですけど……」
シ、シロちゃんねぇ……
「彼女は種まきの時期には、鋤を引いて畑を耕してくれたり、家畜を荒らす狼を退治してくれたりと、大変村に貢献してくれてまして……」
……す、鋤を引いて、畑を耕すホワイトドラゴンて……
い、いやまぁ、目的のために手段を選ばない動物保護団体や、手段のためなら目的を選ばない女魔術師に比べたら、見上げたもんだけど……
「それで……お礼の意味での捧げ物ですので……」
「そ、そーですか……それじゃあどうして、あたしが?」
「話せば長くなるのですが……」
ザックは、コップに残ったミルクを飲み干すと、静かに語り始めるのだった。
そして……一ヶ月後……
ゆっくりと村から出て行こうとしているガウリィ。
そう、彼はこの村を出て行く。あたしを置いて……
何度か振り返りつつ、村の出口にさしかかり……
そして気がついた。
あたしがそこにいることに。
「リナ……」
「ウソつき!」
あたしはつかつかとガウリィに歩み寄る。
頭一つ分ほど高いガウリィだけど、あたしの勢いに押されてか少しあとずさった。
「嘘つきって……」
「アンタ!昨日の勝負、わざと負けたでしょ!?」
「昨日のって……」
昨日の夜、あたしとガウリィは剣術の勝負をした。
そう、今日、この村を出て行く幼なじみのガウリィと最後の勝負だった。
そして……あたしは初めて勝った。
今まで一度だってガウリィには勝ったことなかったのに……
「わざと負けてくれたって、こっちはちっとも嬉しくないんだからね!?」
「そ、そんなこと……あれは、リナの実力だよ」
そう言って、優しい笑みを浮かべるガウリィ。
「じゃあ、昨日のセリフは!?」
『俺……ずっとリナのこと……いや、なんでもない。おやすみ、リナ』
そう言って、そっぽを向いて、帰っていったガウリィ。
「昨日のセリフって……」
「なによ!?あの煮え切らないセリフは!?」
「リナ……」
ゆっくりとガウリィに近づいていく。
「もぉいいわよ!あたしから言ってやるわよ!もぉ、遠慮なんかしてやらないんだから!」
「だ、だめだ!そんなの、女のお前から言わせるわけには……」
「うるさい!言ってやるわよ!あたしはアンタが……ガウリィがす……」
そこであたしの言葉は途切れた。
ガウリィの唇が……あたしの口を閉じたから……
何秒……いや、何分キスしてたんだろうか……
ゆっくりと唇をはなすガウリィ。
「……好き」
今度はあたしからガウリィの首に抱き付いてキスをする。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
観客のみんなが立ち上がって、拍手をしてくれている。
あたし達二人は、抱き合ったまま幕が下りるのを待った。
「……ぷはぁ。ああ、はずかしかったぁ」
幕が下りきったのと同時にあたしから離れるガウリィ。
「いやぁ……すばらしかったですよぉ」
そう言って、舞台の袖から現れたのは、他ならぬザックだった。
「リナさんはともかく……ガウリィさんまで、あんなに演技がお上手とは……」
「はは……」
渡されたタオルで汗を拭きつつ、笑顔を浮かべるガウリィ。
そう、ザックの依頼……それは、ホワイトドラゴンのシロちゃんのために毎年行われている村祭りでの演劇の出演依頼だったのだった。
……ほんとは、魔法で特殊効果をお願いされたのだが……あたしがちょっと演技指導をしてみせると……
「す、すばらしい!リナさん!ぜひ主演を!」
なんて言われてしまって……
まぁ、悪い気はしなかったので、二つ返事で引き受けたのだが……
まさかこんなラブストーリーだったとは……
ちなみに、問題のシロちゃんは一番前の席であたし達の演技を見て、ワンワン泣いていたことを付け足しておく。
……いや、まぁ、感動してくれたんだろうけど……ドラゴンに感動される劇って……?
と、とにかく、あたしとガウリィ主演の劇は大成功をもって終了したのだった。
「うーん……っと」
あたしは春の空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく伸びをした。
遥か遠くにザック達の街が見えている。
一ヶ月近くもあそこにいたのよねぇ……
「しっかし変わった依頼だったなぁ……」
近くの切り株に腰掛けて、食堂のおばちゃんが持たせてくれたお弁当をパクつくガウリィ。
「まぁ……変わったといえば……変わってたわねぇ……」
演劇の練習、祭りの準備……ガウリィと二人でやった居残り練習……
「なんか……夢での出来事みたいだよなぁ……」
ガウリィがお茶を飲みつつ、言う。
「そうよねぇ……って、ガウリィ、もぉ……」
あたしはガウリィの横に行くと、ホッペについたご飯粒を取ってあげる。
「あ、すまん……」
「もぉ、子供じゃないんだから……」
パクッ……
「リ、リナ、お前……」
……?
急に真っ赤になるガウリィの顔……って!?
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?ぺーっぺっぺっぺっ」
慌てて口のものを吐き出すあたし。
アアアアアアアッ!?
な、なにやってんのよ、あたしはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?!?!?!?!?
「リ、リナ……」
少し悲しそうにあたしを見てくるガウリィ。
「な、なによ!?あれは劇だったのよ!?」
「いや、そうじゃなくて……」
そうじゃなくてって……ガウリィ!?まさか本気だったっていいたいわけ!?
「な、な、な、な!?」
一気に真っ赤になるあたしの顔。
何考えてんのよこいつは!?
あ、アンタは保護者で、クラゲで、マリモが詰まってて……
でも……優しくて……あたしのことを誰より分かってくれてる……?
「ガウリィ……」
「あのな……リナ?」
真剣な顔で、こちらを見てくるガウリィ。
「な、なによ……」
いいわよ……あたしも覚悟を決めた……
「お前……依頼料、貰ったか……?」
「へっ?」
思わず間抜けな顔になるあたし。
なによ、こいつは!?依頼料なんて、ムードのない……って、依頼料?
「依頼料だよ、依頼料!貰ってないんじゃないか?」
……ああっ!!!!!!?!?!?!?!?!???????
「あ、アンタが受け取ったんじゃないの!?」
「俺はお前が……」
「……ひょっとして……ただ働きってやつ……!?」
あたしはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「ま、また……一文無し……」
「まぁ、そういうことだな……」
へーぜんと言ってのけるガウリィ
「アンタねぇ?事の重大さが……」
「ま、いいんじゃないのか?俺は、もっといいもの、貰えたし……な?」
そう言って、ガウリィは眩しく笑った。
「な、なによそれ?」
そう聞き返したあたしの顔は、ちょっと赤かったかもしれない。
「……しらね」
「な、なによそれ?」
「しらねってらしーらねっ」
そう言って走り出すガウリィ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
「やーだね」
「こら、ガウリィ、ガウリィ!」
春の日差しのふりそそぐ街道を、あたし達は走っていくのだった。
おわり
後書き
はじめまして(^-^)/影技と申します
……なんか、恥ずかしぃの書いてしまったような気が……
初めてガウリナ……らしきモノを書いたのですが……
つまんなかったら、没にして下さい・・・(T-T)
>何をおっしゃる♪面白かったですよねえ、皆さん?
こおいうオチとは(笑)やられた〜〜〜〜(笑) ふろむそーら
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