『Sweet Kiss−ガウリナ編−』


「ち・がーーーう!!何度言えばわかんのよ、アメリア!!」
「こ、こうですか?」
「あ゛ーーーーーっ!もう!!いーい?もう一度だけやるからよっく見てんのよ!?」
「はっはいっ!!」
「ここにひっかけて、これをこう・・・」
 あみあみあみ・・・。
「ああっ!なるほど!!」
 あみあみ・・・わみっ・・・。
「だからちがうって言ってんでしょおおおお!!」
 がちゃ。
「リナ。深夜にご近所へ迷惑よ(にっこり)」
「はい・・・すみません・・・(汗)」
 
(はーー。なぁんであたしがこんなことやんなきゃならないのかなぁ)
 慣れない手つきで一生懸命、一針一針編んでいくアメリアを横目に見ながら、リナはため息をついた。
 
 
 
「ゼルガディスさん、甘いものが苦手なようなんです。それで、今年はチョコレートじゃなくて、別のものをあげたいと思っているんですけど…」
 そうアメリアに相談されたのは、1月も終わりの頃だった。
「それで、手編みのセーターをあげたいなぁって……」
「ふぅん。いいんじゃない」
「なので、リナさん!!わたしに編み物を教えて下さい!!」
「はっ?」
 
 はじめのうちは、「面倒くさいからやだ」と言っていたリナだったのだが。
「無駄よ、アメリア!!リナに教わったって、せいぜいその貧弱な胸くらいのものしかできないわよ!!ほーほほほ」
…という、クラスメイトでバイト仲間のマルチナの一言に、思わずぶち切れてしまい。
「やってやろうじゃないのよ!!見てなさいよおお!!」
 気がついた時には、バックに炎を燃やしてそう叫んでいたのであった。
 
「あーっ!もう、それはこっちだってば!」(ひそひそ)
「えっ?こ、こっちですか?」(ひそひそ)
「だからそこじゃあ穴があくって!!」(ひそひそ)
 
 かくして。リナの編み物講習会は、バレンタインの前日まで延々と続いたのであった。
 
 
 
 
 
「で、できましたぁぁぁ!!!」
 バレンタイン前日の深夜。
 徹夜明けの赤い目をしながらも、アメリアは嬉しそうにできたてほやほやのセーターを抱きしめた。
「やれやれ。ま、なんとか間に合ってよかったわね」
「はいっ!リナさん、ありがとうございました!!」
 リナの言葉にも満面の笑顔で応える。
 素直にお礼を言われることに慣れていないリナは、なんとなく気恥ずかしくなってしまった。
「いーからいーから。さ、さっさと帰って明日に備えなさい。ゼルとデートなんでしょ?」
「はいっ!!」
 車に乗り込むアメリアを見送った後、リナは自分の部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。
 アメリアと一緒に、ここ数日は徹夜続きだったのである。
(どーしよっかなぁ、あのセーター……)
 アメリアのものと一緒に出来上がった青いセーターを、見るとはなしに見ながら、ぼんやり思う。
(アメリアと一緒に作ったから、サイズが大きいのよね……)
 頭の片隅に長い金髪の青年を思い浮かべながら、リナは心地よい眠りに身を委ねた。
 
 
 
 
 
『ち、ちがうわよ!あたしは、あんなくらげ頭のことなんか、なんとも思ってないんだから!迷惑にもほどがあるわ!!』
 ソウジャナイ。
 ソウジャナクテ。
 アタシハ……。
 
 跳ね起きて、リナは自分の頬に涙の跡があるのに気がついた。
 
 
 
 翌日。2月14日。
 ぴんぽーん。
 リナはアパートの呼び鈴を鳴らし、部屋の主が出てくるのを待った。
「おう、リナ。どうしたんだ?」
 ドアが開き、中から金髪の青年が姿を現した。
「別に。ただ、ちょっと…」
 言いよどみ、背中に隠した包みにちら、と目をやる。
「?寒いだろ。中、入れよ」
 いつもとまったく変わりない、優しい瞳でそう言ってくる彼が、なんだかもどかしかった。
 彼は、いつもそうだ。
 自分が何を言っても、ただ優しく微笑んでいる。
 
『今年はあんたがあげるんでしょ?ガウリイに』
 数日前。何気ない会話の中で出た、マルチナのセリフ。
『べ、別に。どーだっていいじゃない』
 自慢じゃないが、リナはそういう話が苦手だった。
『あんたも変わんないわねー。もう彼氏ができて一年になるんだから、少しはそれらしくなったら?』
『だ、誰が彼氏なのよ!』
 真っ赤な顔で反論するリナに、マルチナはため息をつく。
『ガウリイに決まってるじゃない。まーったく可哀想なもんよねー。こんなお子様が恋人なんじゃ』
『こ、恋人なんかじゃないわよ』
『何言ってるのよ。相思相愛のくせに』
ちがう、とリナは思った。
 だって、自分は何も言われていないのだ。
 ただ、周りがそう言うだけで。
『ちがうわよ』
 ガウリイは、何も言ったことはないのだ。
『いい加減、認めたら?好きなんでしょ。ガウリイのこと』
 ガウリイは、何も。そして、自分も。
『ち、ちがうわよ!あたしは、あんなくらげ頭のことなんか、
なんとも思ってないんだから!迷惑にもほどがあるわ!!』
『ちょっ、ちょっとリナ!』
 振り向いた先には、金髪長身の青年が立っていた…。
 
 
 
 聞いていなかったはずはないのに。
 彼は、あの時のことを何も言わない。
 それはつまり、彼にとって自分の言葉は、傷つくようなものではない、ということ…?
「どうしたんだ、リナ?」
 テーブルの向かいに座ったきり。
 俯き、何も反応しなくなってしまったリナに、ガウリイは体をかがめてその顔をのぞきこもうとする。
 ばふっ!!
 その瞬間、何かが彼の顔に押しあてられ、その行為を妨げた。
「もう、いいっ!!」
「は?」
「ガウリイの、ばかっ!!」
 そのまま部屋を飛び出そうとしたリナの腕を、ガウリイは掴んでひきとめる。
 その勢いのまま、リナはガウリイの胸に抱きしめられた。
「は、離してよっ!!」
 ぽかぽかと、その厚い胸板を叩いて逃れようとする。
「いやだ。こんなリナをほっておけるわけないだろう?」
 ぎゅっと、息苦しくなるくらい、力強く抱きしめられて。
 その腕の中の暖かさに、心地よさに、何故だかさっきまでの気持ちがすーっと消えていくような気がした。
「なによ。くらげのくせに…ばか」
 ぽつり、と呟くと頭の上で小さく苦笑する。
「そーだな。オレ、くらげでばかだから。でも、リナがいてくれるだろ?」
「う、自惚れないでよね!!」
「…うーーん…。それはもう遅いなあ」
「何がよ?」
 訝しげに見上げてきたリナに、ガウリイは嬉しそうに、にっこり笑って答える。
「だってオレ、もう自惚れてるから」
「だから、なにがよ?」
「リナはオレに惚れてるって」
「なっ……!!」
 思いもかけない言葉に、リナは真っ赤になって口をぱくぱくさせることしかできない。
「だから、リナがたとえオレのこと『大嫌いだ』って言っても、オレには『大好き』としか、聞こえないから」
「うっ、自惚れすぎよっ!!!」
「うん。そうだな」
 子供のように無邪気な笑顔でそう返され、リナはもう、何を言う気も失せてしまった。
「ばか……」
「そうだな」
 目と目が合い、くすりと笑みがもれる。
 そのまま近づいてくる蒼い瞳に、リナはそっと瞳を閉じた。
 
「大嫌い…」
「知ってるよ」
 
 
END
 
 
 
(後書き…という名のひとりごと)
 ども。3回目の投稿にして、初のあとがきを書いている倉田かほです。今回最後までお読みくださった皆様、ありがとうございました。
 ガウリナ…ですが、なんからぶらぶ?(自分で書いてて砂糖吐くかと思いました)最近読んだ漫画の影響かな…。(汗)
 何はともあれ、この現代版スレイヤーズは、自分の中である程度勝手に設定をつくっているので、機会があれば、また書きたいと思っています。
 それでは。おつきあいいただき、ありがとうございました。ゼルアメ編もあるので、よろしければそちらも読んでやってください。

ゼルアメ編へ行く。
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