「私のお気に入り」

 
ある昼下がり、ポカポカ陽気に誘われて
のんびりと町中を散策する二人組。
 
「こんなにのんびりしてるのって
久しぶりだなぁ」
 
「そーねぇ、今日はあったかいし、宿も良いとこが取れたし。
これで美味しいものが食べれれば言うことなし! 
と言うことでガウリイ、早速、腹ごなしに何か食べるわよ」
 
ダーーーーーーーーッと、少女はあっという間に角を曲がって行ってしまう。
 
「おい待てよ、リナ」
 
残された青年は慌てて駆け出し
 
ドンッ
 
「いてっ、リナ? どうした何見てんだ?」
 
食べ物屋めがけて一直線のはずの少女はショーウィンドウの中を
じっと見つめている。
視線の先に目をやり青年は軽い困惑を覚えた。
日頃、“悪人に人権はない”をモットーに金銀財宝を奪うことを
趣味にしている少女。保護者を自任している自分の心配など
どこ吹く風と、気の向くままにとんでいってしまう彼女。
今その彼女が熱い視線を送っている先には、普段の彼女からは
絶対に結びつかない物があった。
 
「リナ? どうした? もしかしてとは思うが、あれ欲しいのか?」
 
「アルテイカ……」
 
「はぁ〜? アルテイカ? 何だそれ リナ大丈夫か、熱あるんじゃないか」
 
ごく甘な保護者は被保護者が理解できない単語をつぶやく姿に
焦り、あわてて艶やかな栗色の髪をかき上げ額に手を当てる。
 
「ちょっと、何すんのよ。 もぉ、あたし熱なんかないわよ」
 
「じゃあどうしたんだよ。お前さんがピンクのくまのぬいぐるみを見つめる
なんて天地がひっくり返ったってありえん」
 
「なんですってーーーガウリイ! あたしがぬいぐるみを見たら何でおかしの
よ」
 
怒気をはらんでにらみつける少女。
意外なほどの真剣な表情に驚き、青年は口を開く
 
「欲しいのか? 買ってやるぞ」
 
「……………………………………………………………いらない。
ただ、そのくまが、小さい頃のお気に入りにそっくりだったから
気になっただけ。どうせ、今のあたしにはぬいぐるみなんて似合わないし……
ってガウリイ、何わらってんのよ! もういい、いいんだからね」
 
「ちょっと待ってろ」
 
くしゃっ。
顔を赤くし言いつのる少女の頭をなで、金の髪の青年は店内へ入っていった。
 
 
「この子、アルテイカにそっくり! 
あたしが小さい頃、一番のお気に入りでね。いっつも一緒だったんだ
遊びに行く時も、食事するときも、そんで寝る時も。
そんせいでボロボロになっちゃったんだけど」
 
腕の中にぎゅっとくまを抱きしめ、てくてく歩く幸せいっぱいの少女。
ドラマタだの、破壊の申し子だの、ロバーズキラーだの
数々の異名を持ち、恐れられている彼女のこんな表情を知っているのは
自分だけだ。いとおしい気持ちを瞳に宿し青年は微笑みかける。
 
「ねえガウリイ、私のお気に入りって歌知ってる?」
 
「しらん。どんな歌なんだ?」
 
「へへーーーん、とっくべつに教えてあげる!」 
 
恥ずかしがり屋で、普段、人前で歌などうたうこともないのに、
弾むように歌い出す。
 
「バラの花と猫のひげ〜、 像のやかんと手袋と〜
リボンで包んだ紙の箱〜それが私のお気に入り〜♪
苦しみ、悲しみ、寂しさを〜忘れさせてくれるのは〜〜
お気に入りのも〜〜の〜〜♪♪♪」
 
「どお! うちのかーちゃんがよく歌ってたんだ。
そんで、お気に入りの物は見つけたら大切にして失うことのないように
しなさいっていつも言ってたな」
 
「そっか、今のリナの一番のお気に入りは何なんだ?」
 
「うーーん、ちょっとわかんないな。盗賊いじめでしょ、お宝でしょ、アメリア

ゼルに………それに……自称保護者もみんな好きだしね!
ねっガウリイあんたのお気に入りは何なの」
 
しばしの沈黙の後
 
「俺のお気に入りは、ちっちゃくて、可愛くて、やわらかくって
それでずっと見てても飽きないものだな」
 
「何それーーー? ガウリイあんた人形かなんか隠し持って
夜な夜な、『愛してるよーー』とか言ってんじゃないでしょうね」
 
「お前ねぇーー。ほら、喰いに行こうぜ」
 
「あっ、そうだった! 早くいかなきゃ。ほらガウリイ行くわよ!」
 
さっさと駆けていく後ろ姿に向かい青年がつぶやいた言葉。
 
「それでもって、鈍感だけどな。リナは俺の一番のお気に入りだぞ」
 
 
 
おしまい
 

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