「しあわせ家族!(晩秋)」


「リナお茶はいったぞ」
 
「んっ、ありがとガウリイ」
 
外は木枯らし、内はぬくぬく。
夕食を終え食後のお茶なんぞを楽しみつつ、
たわいもない会話を交わす。
平凡だが、確かな幸せがそこにはあった。
幼い娘がその一言を発する迄は。
 
「ねぇねぇ、パパぁ」
 
「なんだ?」
 
「パパは、かいしょうなしなんだよね!」
 
「か、甲斐性なしーーーーーーーーーーーっ」
 
「エ、エ、エア。いきなり何言ってんの!甲斐性なしって、
甲斐性なしってどういうこと………」
 
常日頃、何事にも動じないリナとガウリイの鋼の精神であったが、
愛娘の爆弾発言にあっさり崩壊したのだった。
 
 
「ど、どしたのかな? エアちゃん。
そんな言葉どこで覚えてきたのかな?」
 
動揺しまくる両親に向かい、エアはごきげんに答える。
 
「あんね、きょうね、フィラちゃんとおままごとしてたら、
ミラおばちゃんがきてね、エアのパパはおしごとやめて、
おうちにいるから、かいしょうがないねだって。
ねっ、パパはかいしょうがないんだよね!」
 
「……………………………………………………
……………………………………。」
 
最近、大人の会話を聞いては真似をしたがる娘。
意味も分からず嬉しそうに話す姿に両親は沈黙した。
 
 
 
「許せない」
 
「ママ? どうしたのぉ?」
 
リナはスタッと立ち上がり、戸口へと向う。
が、怒りに身をまかせて行動しかけた彼女の足を止めたのは、
甲斐性なしと愛娘に言われた夫だった。
 
「ハハハ。甲斐性なしかぁーー。リナ、ほっとけよ。
他人がどう思おうといいじゃないか」
 
「なっ、ガウリイ悔しくないの! 
何にも知らない奴に好き勝手なこと言われて、
エアにまで。あたしは許せないわ!」
 
「はいはい」
 
ガウリイはいらだちを隠さないリナの元へ
ゆっくりと歩み寄り、優しく腕の中に包み込んだ。
 
「俺が大切なのはお前達だから。だから他は関係ない」
 
「ガウリイ……………………………………
………ごめんね。あたしと結婚したから、
あたしが狙われるから………ごめん。あたしの
せいで仕事もやめて……………」
 
俯き、絞り出すように言葉を紡ぐリナ。
 
「バーカ、リナは何か勘違いしてるぞ。
それに俺は仕事してるじゃないか」
 
「えっ?」
 
「だって、俺はお前の保護者だぞ。保護者の仕事は大切な
者を守ることだろ! リナもエアもお前のお腹の子も俺が
守んなきゃ他に誰が守るんだ? ほらな、俺って立派な仕事
をしてんぞ!」
 
「ガウリイ、ガウリイ、ガウリイ、ガウリイ、大好き!」
 
互いの存在しか目に入らなくなった二人は長い長いキスをかわす。
 
「リナ、絶対にお前を守ってみせるよ。魔族からもな。
だから元気な子を産んでくれ」
 
「うん……………。」
 
そして、キス。
 
 
「はーーーい。エアちゃんしってまーす! らぶらぶでーーーす」
 
「あっ、エアーーーー! やだっガウリイ、
あっちいってーーーーーーーーーーーーーーー」
 
娘の言葉に我に返った母親は、勢いよく夫を突き飛ばす。
 
「今更、照れてどうするんだ」
 
「う、うるさい。黙れーーーー! ね、エアちゃん今のは
何でもないのよーーー。忘れようね、ね!」
 
「らぶらぶーーーー。パパぁ、らぶらぶだよねーーー」
 
「おう、そうだぞ! パパとママはラブラブだ。
エア、今度ミラおばちゃんに会ったらそう言ってやれ」
 
「ガウリイーーーーー! バカなこと教えてんじゃないわよ
エア、絶対に言っちゃあダメだかんね」
 
「らぶらぶーーーーーーー」
 
「ああーーー、もうーーーーーーーーー!!」
 
その後しばらく、エアを一人にすることはなかったリナであった。
 
 
おしまい
 
 
 
 

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