「しあわせ家族!(春)」

 
ピンク、ピンク、ピンク。
辺り一面のピンク。満開の桜が早朝の空気をメルヘン色に
染め上げている。
 
「きれーだな。なっ、来て良かっただろ?」
「ほんとね」
「わぁーーーーーぴんくぅーーーーーーー」
 
長身、朝日に煌めく金髪、澄んだ青い瞳の父親。
小柄、クルクルとはねる栗色の髪、意志の強いルビー色の瞳の母親。
母親のミニチュアみたいな幼い娘。
 
ガウリイ、リナ、エアの3人は、朝日が輝き始めた中を散歩していた。
 
 
「それにしても、なんでこんな朝早くに
お花見しようなんて思ったの?
昼間か夕方に来ればよかったんじゃない?」
 
「だって人がいっぱいじゃないか。
お前お腹が大きいのに、もし誰かとぶつかったら大変だろ」
 
ゆったりとしたワンピースの上にカーディガンを羽織っている
リナの腹部は大きく丸みをおびている。
どこまでも家族に甘く、妊娠してからは超が付くほどの心配性
になってしまった夫のセリフを聞き、彼女は目を丸くした。
 
「あーーーあ、何でこんな心配性と結婚しちゃたかな」
 
「何を言うか!盗賊いじめはする、魔族に喧嘩は売る、
俺が心配性になったのは誰のせいだ、誰の」
 
「いいじゃない。正義よ、せ・い・ぎ! 
大体盗賊いじめに精を出してたおかげで、
あんたが働かなくてもこうして親子3人食べられてんじゃない。
あたしってばえらいわよね」
 
人の身にしては有り余る魔力、そして騒動に首をつっこむその性格が
災いし魔族と戦ってきたリナ。身ごもっている今、襲われれば確実に
やられてしまう。ガウリイは愛する妻と子を守るために仕事を辞めたの
だった。が、生きて行くには先立つ物が必要だ。
(どうするかな)と珍しく悩む夫の前に、妻は隠し持っていたお宝を
山のように積み上げたのだった。
 
「ハァーーーーーー」
大きく溜息。苦笑しガウリイはリナを見つめる。
 
「あっ、あっちはいっぱい咲いてる。エア、行ってみよう」
 
夫の苦笑など物ともせず、リナは娘の手を取り走り出そうとする。
が、いつも、ゴムマリのようにはね回っている娘は動こうとしない。
 
「どしたのエア、疲れちゃった? エアちゃん抱っこかな?」
 
「エアはエアちゃんじゃないもん、おねーちゃんなの。
ママダメでしょ。ゆっくり歩かなきゃ。
あかちゃんがびっくりしちゃうよ」
 
エアは母親の問いかけに答えず、じっと顔を見上げていた。
そしていきなりのお説教! 最近おねーちゃんと言う称号を
いたく気に入っている少女は、言動がだいぶしっかりとしてきた。
 
「おお、えらいぞエア。もっと言ってやれ」
 
「もう、あんたがお説教ばっかりするから
エアが覚えちゃうんじゃない」
 
「ママ聞いてるの? 返事は」
 
「わかりました。ゆっくり歩きまーす!」
 
「よろしーい」
 
「リナが怒ってるときにそっくりだな!」
 
クスクス。娘の言動に互いの姿を見つけて思わず笑らってしまう二人。
 
 
 
「ちょっと前までママ、ママぁってあたしの姿が
見えないだけで泣いてたのにね。どんどん変わってくね」
 
トテトテトテと満開の桜の下を走っている娘の背中を見ながら
隣に立つ夫に話しかける。
 
「ああ、張り切ってんなぁ、なんたって」
 
「もうすぐおねえちゃんだもんね!」
「もうすぐおねえちゃんだからな!」
 
リナとガウリイは顔を見合わせて微笑む。
満開の桜の下で幸せ全開のピンクの空気に染まっている3人だった。
 
おしまい

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