「ねえ、ちょっと、がうりぃ〜?」
リナの声が、旅館中を響かせる
しかし、返ってくるべき元気な声が、聞こえて来ない
ここは、とある街の宿屋
昨日の夜、長引いていた騒動を、無事(?)解決したリナとガウリィは、懐も豊かに、今日、次の街へ出発する予定だった
既に、リナは、出立の準備も終えていた
しかし、約束の時間になっても、ガウリィの姿が見えないのである
流石に、おかしいなと思ったリナは、ガウリィの宿泊している部屋の前に立つと、中にいるガウリィに十分、聞こえる音量で声を掛け、ドアを叩いた
しかし、ガウリィからの返事は、全然、無かった
そこで、リナは悪いとは微塵にも思わず、黙ってドアを開けた
ガウリィは、部屋に・・・いた
「・・・・・・・・リナ・・か?」
ガウリィは、ベットから身体も起こさず、布団に潜り込んだまま、小さく応えた
さすがに、いつもと違うガウリィの様子に、リナも、声のトーンを落として
「ちょ・ちょっと、ガウリィ?」
そう言って、近付こうとしたが、ガウリィの右手に行動を止められた
その行動に、リナはますますトーンを落として、声を掛ける
「どうしたっての?」
返ってきた答えは
「どうも、風邪をひいたらしいんだ・・・」
だった
リナは、その言葉に、思わず吹き出していた
「プッ・・・アハハハハッ、なに、ガウリィ・・・風邪、ひいちゃったの?」
その言い方が気に入らなかったのか、ガウリィが、ムッとした表情で布団から顔を出すと
「仕方ないだろ・・・ひいちまったモンは」
と言うが、リナはそれを一笑すると、
「な〜に言ってるのよ!!日頃の鍛練がなってないから、風邪なんてひいちゃう『やわ』な身体になってるのよ!!あ〜、情けない」
そんなリナの言葉は、頭は重く頭痛が酷く、身体中の関節が泣叫んでいる状態のガウリィにとっては、怒り沸騰に十分だった
それもそうだろう・・・・・労りの言葉は全く無く、逆に、笑われたのだから・・・
「うるさいなあ!!ひいたモンは仕方ないだろ!!」
ガバッと上半身を起こすと、ガウリィはそう叫んだ
しかし、大声を出したから、更に頭痛がガウリィを襲い、ガウリィは直ぐさま、ベットに潜り込む
そんな様子を見て、リナは驚きもせず、溜息1つつくと
「しょうがないから、出発を1日だけ、延長してあげるから・・・明日までには、治しなさいよ!!」
と、ガウリィに告げた
「そんな・・・1日でか?」
ガウリィは、リナの言葉に抗議を上げようとするが、それを
「ダメだったら、アンタ・・・置いてくからね!」
と、最終宣告を残して・・・部屋を出て行った
(そんな〜・・・)
リナの言葉に、ガウリィは、大きなショックを受け・・・・天井、見上げた
何故なら・・・ガウリィは、密かに、リナに思いを寄せていたからだ
これまで、いろんな事が二人を襲ったが、なんとかやってこれた
そんな中で、ガウリィは、リナを<タダのパートナー>としてではなく・・・<愛しきパートナー>と感じる様になっていたのだった
(なんとしても、リナと別れるのは嫌だ!!)
ガウリィはそう思うと、余計に、リナの言葉がショックだった
『置いてくからね!』
いわば、リナにとって、自分はあまり重要じゃない・・・と言われてる様だからだ
ガウリィは、絶対に、明日までに風邪を治そうと心に決めて、宿屋の主人に風邪薬を貰うと、それを飲み、眠りについた
<翌日>
愛の奇跡か・・・それとも、日頃の行いの賜物か・・・はたまた、偶然、運が良かったのか、ガウリィが目を覚ますと、頭痛は治まり、身体も軽くなっていた
「な・治ったのか?」
信じられないといった表情で、ガウリィが呟く
しかし、ベットから起き上がって、身体を動かしていくウチに、昨日の痛みが嘘のように軽く動く・・・のを感じて、完全回復を、確信した
「よっしゃ!治った!!」
(これで、リナと一緒にまた・・・)
嬉しさのあまり、ガウリィは叫んでいた
しかし・・・・・
ガウリィが身体軽く、朝食を食べている時も、出立の準備をしている間も、リナの姿が見えなかった
「あれ?・・・リナは?」
リナがいない事に気付いたガウリィは、恐らく、まだ寝ているのだろうと思い、リナの部屋へ向かった
「リナぁ!!約束通り、もう元気になったし、出発しようぜ!!」
と言って、ドアを叩いてもなんの応答もない
(もしかして、昨日、あのまま俺を置いて街を出たのか?)
そんな事を思い立って、ガウリィは急に不安になり、強引かと考えたが、リナの部屋のドアを開けた
「なんだ・・・いるじゃないかあ」
ガウリィはベットにリナが横になっているのを確認して、安堵の溜息をついた
っが、それも、ほんの一瞬だった
リナの様子がオカシイ事に、ガウリィが気付いたからだ
「ど・どうした?リナ?」
そっと駆け寄ると、平手打ち覚悟で、布団越しにリナに触れた
「!!!!!」
布団越しにも、リナの身体が熱くなっているのがわかった
「もしかして、リナ・・・」
そうガウリィが呟くと、漸くリナが布団から顔をだし、ガウリィに視線を向けて
「そうよ・・・アタシも、風邪をひいたのよ!」
と、小さく叫んだ
昨日、あんなに風邪を馬鹿にしたにも関わらず、掛かってしまった自分への腹立たしさからか・・・それとも、ガウリィにばれてしまった恥ずかしさからか・・・・・リナは、掠れた声で、そう小さく叫ぶと、布団に顔を埋めた
「昨日、あれだけいったのに・・・馬鹿みたいでしょう?」
とリナが、布団の中から呟いた・・・・・それは、ガウリィが聞く、初めてのリナの弱々しい声だった
しかし、ガウリィは、リナの言葉に何も答えず、ただ黙って部屋を出ていった
(なによ!無視しちゃって・・・)
ドアの閉まる音が聞こえ、リナは小さな腹立たしさと・・・大きな孤独感を、感じていた
ガウリィが部屋を出ていった事で、再び一人になったのを感じて、無性に淋しくなった
そして・・・側にいて欲しい・・・・・自分の近くに、いて欲しいと想った
それは、風邪による影響か・・・それとも・・・・・
ただ、リナが側に居て欲しかったのは、誰でもいい・・・のではなかった・・・・・
ただ、一人・・・
今まで、ともに行動してきた・・・いつの間にか、自分のパートナー・・・掛け替えの無いパートナーとなっていた、ただ一人の男性のみ・・・のみを、願った
それは・・・・・リナが、今までひた隠しにしていた・・・気付くまいと、押さえ込んでいた・・・感情であり、想いであった・・・・・
恐らく、風邪をひいた事で、精神的に少し弱くなってしまったのだろう・・・・・
本音を・・・本心を、リナは、願っていたのだ
暫くして・・・ガウリィが、再び部屋を訪れた
しかし、リナは自分の願いに気付き、急に恥ずかしくなって、頭から布団を被ると、身を丸めた
「リナ・・・」
っが、ガウリィの優しい囁きが聞こえた・・・かと思うと、リナを包んでいた布団が優しく・・・優しく、ゆっくりと剥がされ、リナの顔が露になった
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