「捧げる主」


「ねぇ、おそとってなに?」
遠い日の、記憶。
もやのかかったそのビジョンに懐かしさを覚えずにいられない。
「おそと?」
聞き返される声が優しくて、嬉しくて、オレはにっこりと笑った。
「どこでそんな言葉聞いてきたの?ガウリイ」
ふわり。
身体が宙に浮く。
下ろされた場所は母さんの膝のうえだった。
一番、好きな場所。
あたたかくってやわらかくて。
それにいい匂いもする。
「ばーちゃんがね、あしたのじゅんびだって」
赤く、つやつやしたやかんに、頭がくらくらするような匂いの飲み物を入れていた。
「まんびょうのくすりとかいってたよ」
少し飲ませてもらったけど、あまりの味に身体が拒否してしまった。
そのことを告げる気はなかったけれど、ばれていたらしい。
「苦かったでしょう?」
オレは無言で頷いた。
どうして、ぜんぶわかるんだろう。
「あれはね、おそとじゃなくってお屠蘇っていうのよ」
「おそと?」
「おとそ」
「おそと!」
「おとそ、よ。ガウリイ」
「・・・・お・・・そと」
お屠蘇、とうまく言えないオレに、母さんは少しため息を漏らした。
「お屠蘇はね、お正月に大人が飲むの。今年一年、元気に暮らせますようにって」
さっきまで「お屠蘇」と言えなくて悔しかったのに。
耳に心地よい声が入ってきて、頭のなかに染み込んでいく。
心が、あったかい。
「ぼくには?」
「ガウリイにはケーキがあるでしょう?」
明日は正月。
それにオレの誕生日だ。
でも。
「でも、ママは飲むんでしょ?その・・・お・・・とそ」
「たぶんね」
「じゃあ、ぼくも飲む!」
いつもなら、仕方ないわね、と笑って許してくれるけど。
その日は違った。
「駄目よ。大人だけが飲むの」
やんわりとだが、拒絶されて、心がずぅん、と重くなる。
「なんで!?ぼくも飲むぅ!!」
母さんの服を掴んで、懸命に訴える。
自分は飲んでも平気だと。
母さんが飲むんだ。
絶対に飲む!
「ぼく、ママと一緒がいい!!」
あの頃のオレはまだ幼くて。
母さんが一番大事だった。
だから、大人になったら絶対に母さんと結婚するんだと決めていたし、自分が母さん
を守るんだ、という決意もあった。
とおくとおく、昔のこと。
「だって、ぼくはママが好きなのに!世界で一番大事なのに!」
けれど、母さんは少し寂しげに微笑んで、
「その言葉はね。もっとずっと大人になったときに、一番大事な人ができてから言い
なさい。今はまだ早すぎるわ」
「好きだもん!ママ、大好きだもん!」
半ば涙目になって・・・オレは母さんに抱きついた。
柔らかい、感触。
「そうね・・・ありがと」
 
 
母さんが死んだのは、この日からあまり遠くない出来事だった。
死に顔は、天使のように綺麗だったとだけ覚えてる。
 
=====
 
空が・・・青い。
一番はじめに考えたことはそれだった。
「ん・・・」
小さくうめくと、
「あ。起きた?」
声が聞こえた。
「リナ・・・か」
そうだ。
昼飯を食べた後、休憩することになって。
大樹の影で、座っていたんだ。
いつのまにか眠っていたらしい。
隣ではリナがオレと同じく木の幹に寄り掛かり、魔道書を開いている。
「まだ、寝てていーのよ?」
彼女らしくない、優しい声色。
「それとも、起きる?」
それに対して、オレの答えは。
「・・・もう少しだけ」
もう少しだけ、あの母親の暖かさを感じていたい。
オレはこてんと頭をリナの膝に置いた。
「ちょっ・・・ガウリイ!?」
柔らかい感触と、いい匂い。
「ったく・・・」
顔を赤くして、けれど抵抗をしないリナ。
「愛してる・・・・」
「・・・?」
「世界で一番大事だし、誰よりもリナを愛してる」
突然の言葉なのに、
「どしたの?ガウリイ。悪い夢でも見た?」
少し意地悪げに笑ってから、受け入れてくれる彼女がいとおしい。
(今はまだ早いわ)
あの時は早すぎたけれど。
その言葉を捧げる主を、オレは今感じている。
 
えんど
 
====
うひっ・・・夢ネタ(汗)
相変わらず、バカやってます(涙)
もーちっとましな文章にしたかったのに、これが精一杯。
お目汚しですが、どうぞお受け取りください(汗)
スノウでした〜〜〜
 
 
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スノちゃん『おとそガウ』(笑)ありがとう〜〜〜〜♪(そーら)

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