「決戦前夜」

 
柔らかな暖炉の熱と、それ以上にガウリィの肌の暖かさと鼓動が、何よりも体に響いて優しく心地よい時間を作ってくれる。

「ねぇ、ガウリィ・・・私の故郷、ゼフィーリアなの覚えてる?」
私の問いかけに、彼は剣ダコの出来た大きな手でゆっくりと、私の髪の毛を撫でながら優しく静かに答える
「あぁ、覚えてるぜ。」
「いやね、最近忙しくってスッカリ忘れてたんだけど、今、葡萄の収穫の季節なんだなぁ、て思い出してね。」
一瞬、脳裏に故郷の葡萄の花の愛らしさと収穫祭の賑わいが目に浮かぶ。
「へぇ、葡萄が名産なんだ。だったらワインとか、めちゃくちゃ旨いんだろうな。」
「そりゃ、故郷のワインを飲んだら、余所のワインは呑めない位、美味しいわよ。」
酒呑みのガウリィにはたまらないらしくパアァァァと目が輝き始めだす。
「へぇー、だったら一度は飲んでみたいな」
「そうだね。これが終わったら・・二人で一緒に飲みに行こう、故郷のワイン。」
あの、素晴らしく豊潤な味を、あんたにも味わって貰いたいから。
「本当か?そりゃ、今から楽しみだ。でも折角なら、リナの生まれた年のワインが
飲みたいよなぁ。」
「じゃ、20年物だから探すの大変だぁ。」
実は、私の生まれた年のワインは、隣国との戦争中で・・数が少なかったりする。
「大変でも、リナの生まれた年の雨や、風やゼフィーリアの想いが詰まったワインなら呑みたいじゃんか。」
こいつは・・・照れもせずに良く真顔でそんな事が言えるよなぁ・・・。
「あー、そうだ。あるかも知れないよ!実家になら多分。私の生まれた年のワイン。」
「そりゃ、ご両親へのお願いがてら、呑ませて貰うとしますか?」
「ちょとー、何をお願いする気よぉ。」
ちょと、期待を込めて聞いてみる。」
彼は少し意地の悪そーなガキ大将の様な瞳を私に向けた。
「へへー。教えてやんない。」
こいつはあぁぁぁぁ
「何よ、それ。気になるから教えなさいよ。」
「だーめだ。全てが済んだら話す。」
「なんでよぉ〜!!」
「なんででも!」
 
そうだね。お楽しみは後に取って置いた方がいいもんね。すべてが済んだら、ちゃんと教えなさいよ。何を言うか忘れたなんて言ったらスリッパ所じゃ、済まさないからね。
 
私は、これからも緑の青さの美しさや、陽溜まりの暖かさを一緒に感じていたい。
同じものを見て、二人でその素晴らしさを分かち合いたい。
ガウリィがいれば、色んな愉しさや素晴らしさも一人の時以上に膨らんで幸せになれるから。
 
だから、私は・・・ここから立ち止まれない。
ガウリィと過ごした 過去も 今も 未来も全て大切だから。
守りたいから。
 
だから、二人で一緒に帰ろうね。
 
カタートから、ゼフィーリアに。
 
 
 
 
 

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