「瞳に映るもの」 


          
「なあ、リナ。知ってるか?」
「んー??」
「犬ってな、世界がみーんな白黒で見えるんだってな」
 
 
ある雪の日の夜。
あたしとガウリイは、大雪のせいで、この宿に足止めをくっていた。
暇を持て余したガウリイは、何故かあたしの
部屋に来て、窓際の椅子に陣取っていた。
買い込んだ魔道書を読みあさっていたあたしは、
その存在をさほど気にはしていなかった。
 
 
「は?なによ、それは」
顔を上げて見ると、椅子の背もたれに組んだ腕と顎を乗せて、
ぼーっと窓の外を眺めるガウリイの姿があった。
「んー。
 このさ、外の景色見てて、ふと、な……」
 
 
外は昨日からの雪で、一面白銀の世界だった。
そして、夜も更けた今、闇の暗さとそれのみが窓の外を支配していた。
ああ、それでか………って、待てよ??
「ガウリイ、よくそんなこと知ってたわねー!?」
「…お前なぁ……」
ゆっくりとこちらへ顔を向け、苦笑を浮かべる。
「俺がせっかく真剣に話してやってんのに、茶化すなよ」
「真剣っっ??!!
 ……そんな言葉をガウリイの口から聞くだなんて………
 さてはっ!あんたのせーねっ、この雪はっ!!」
 
びしぃっ!!
 
おもいっきり指をさして言い切るあたしを、呆れ顔で見るガウリイ。
 
ふぅ。
 
「そんなことより、知ってるか?犬のこと」
「んー。ま、ね。
 でも、あんまり視覚は頼りにはしてないって言うじゃない。
 その代わり、聴覚や嗅覚が異常に発達してるから、
 そんなに必要ないって」
「だから、奴らは、こんなふうに世界が見えてるんだろうなー、
 と思ったんだ」
そう言って、また窓の外を眺める。
「どうかしらね。
 実際聞けるなら聞いてみたい気もするわね」
 
あたしも窓の外に目を向ける。
未だ降り続く雪。
それは、小さな物音さえも吸収してしまう。
 
静寂が漂う。部屋の外も、中も。
 
 
「…生き物って、どっかが優れていくと、他は発達しないのかも」
突然思いついたことを口に出してみる。
「?
 どういうことだ??」
「だって、ほら。
 犬は聴覚や嗅覚があるから、他はそんなに必要じゃないでしょ?
 それに……」
少し意味ありな視線をガウリイに向けてみる。
「ガウリイだって、脳ミソくらげになってるし、ね。」
「……あのなぁ、さっきから俺のこと何だと思ってるんだ?」
完全にジト目のガウリイ。
おもしろいおもしろい(^^)
「長身美系金髪、剣技が超一流、
だけど脳ミソヨーグルトなあんちゃん。」
世の中、断言したものの勝ち、である。
 
ぶちぶち…
「(…自分だって、胸が退化してるじゃないか………)」
「なぁああんですってぇっ??!!」
 
ガウリイは口の中でつぶやいたつもりなのだろうが、
このリナ=インバースの耳をなめてもらっちゃあ困る。
しっかり聞こえてるんだから。
本当なら、ここで火炎球の一つもお見舞したいところだが……
 
はぁぁ。
 
あたしはため息をついた。
「…まったく、黙ってればこれ以上ないって程の容姿なのに……
 その蒼い瞳だって……」
その瞬間、ガウリイと目が合う。
 
そう、その瞳が、あたしを惹き付ける。
 
ガウリイが不意に微笑む。
かぁぁぁっ!!
何故か顔が真っ赤になる。
やっ、やだ……、あたしったら………
 
「そんなに青いのって珍しいか?
 ……他にもいるじゃないか」
確かに、そうなんだけど………でも……
 
「…俺は、お前の紅い目のほうが、珍しいと思うけどなぁ」
 
そう言いながら、こちらに歩いてくるガウリイ。
ぎしっと音を立てて、あたしが寝転んでいるベッドに腰を下ろす。
急いでベッドに座り直す。
 
手を伸ばせば、届く距離にいるガウリイ。
こっちを向いて、とても優しく微笑んでいる。
…優しい光を持つ、その瞳……
『青い目』はいっぱいいるけど、やっぱり違う。
 
ガウリイの瞳に、あたしはどんなふうに映っているのかな…
 
「…リナの目は、世界が真っ赤に見えてそうだもんな」
いたずらな笑みを口の端に浮かべて言う。
「なっっ!!
 もーっ、あんただって、世界中がくらげ模様に
 見えてんじゃないのっ??」
懐から愛用スリッパちゃん。を取り出して、
ガウリイの頭目がけて振り下ろす、が………
その手が寸止め状態になる。
 
ガウリイは、リナの片腕を掴んでいた。
「……俺の目に、リナがどう映ってるか、知りたいか……?」
え………?
ガウリイの顔が、徐々に近づいてくる。
「あっ、あのっ…が…ガウリイ……???」
既に、お互いの息がかかる距離になっている。
 
「これが、俺の見てるリナ」
 
………ぇえっ??
 
パニック状態の頭を落ち着かせて見ると、
ガウリイの瞳いっぱいにあたしの姿が映っていた。
 
「……ど?見えたか??」
「……うん」
 
蒼い瞳には、目を大きく見開いたあたしが映っていた。
「…でも、あたしいつもこんなマヌケに目玉見開いてるの?」
「…さぁて、ね……」
嬉しそうに微笑むガウリイ。
「んもうっ!!
 なんだか無責任な発言っ!!!」
ふいっ、と逃れるように身体を捻ろうとする。
しかし、ガウリイに両肩をしっかり掴まれてしまい、
身動きがとれなくなった。
 
「俺も、リナの瞳にどう映っているのか、知りたいなぁ……」
 
そう言って、こつん、と自分の額をあたしの額に当てた。
「ぅやぁっ!!……ねっ……ねえぇってばっ………
 い…いきなり何すんのっ…………」
顔から火が噴けそうなほど熱くなっているのがわかった。
ガウリイは、射るようなまなざしであたしの瞳を覗き込んでいる。
熱の篭った、溶けるようなまなざしで……
…………???
ねつのこもった…………??
 
「あー……
 リナの目玉の中に俺がいる〜………」
「ちょっとガウリイ!!!何バカなこと言ってるの!
 あんた熱があるじゃないっ!!
 こんなにおでこも熱くって……も〜〜〜っ!!
 自分で気付きなさいよね〜!!」
「う〜〜。りながあたまのなかでしゃべってるぞ〜〜〜。
 ひびくからやめてくれ〜〜〜〜」
「いいから!!とりあえずここをどいてってばっ!
 重いって……ぅわっ、きゃぁ!!」
のしかかってくるのをどかそうと頑張っていると、
急に力の抜けたガウリイが、バランスを崩してあたしを押し倒した。
そして、しっかりガウリイの下敷き(笑)になっていた。
 
「!!!!!!!
 こらぁ!!どきなさいよ!!!
 これじゃ看病できないでしょーが!!」
「……ん……いい……」
ほとんどつぶやくような小さな声で言う。
「何がいいのよ。熱があるのよ?
 医者に診てもらったり、おでこ冷やしたり…」
それに…この格好のままの時間が、すごく恥ずかしい。
 
「…リナが……いれば………」
 
……ずるい。
こういうときに、そんなふうに言ってしまうなんて。
うれしい…かもしんないけど、やっぱずるいよ。
 
 
そのうち、ガウリイの静かな寝息が聞こえてくる。
あたしはなんとか毛布を引き寄せる。
「二人でいれば、何とかあったかいもんね」
 
それにしても、ガウリイがあたしの部屋に入り浸たってたのも、
いつもからは考えられない発言があったのも、
風邪ひいて具合が悪かったからなのね……
…心細かったのかな……
こぉんなおっきな図体したあんちゃんがね……
 
ふと、さっきのガウリイの言葉を思い出した。
『俺も、リナの瞳にどう映っているのか、知りたいなぁ』
「どう、って言っても…ガウリイはガウリイよ……」
 
瞳にどう映っているか、よりも、
あなたがあたしの瞳に映らなくなることのほうが問題だわ。
 
「それっくらい……わかってよ、ね」
聞こえてない、とは思いつつも、
ぶあつい胸板を突きながら言った。
 
ふふん。
 
「えっ??」
今……笑った??
狐につままれたみたいだなぁ……
 
あたしも眠ろう。
あたしに風邪うつさないでね、ガウリイ。
そして、早く治してね。
元気なガウリイが、あたしの瞳に映っているガウリイよ………
 
 
====おしまい====
 
はじめまして。夢ってゃんと申します〜。
このような駄文を読んでくださって、
本っ当にありがとうございます!!
なんとも筋の通っていない話です(^^;)
なんせこんな形で話を公開するのは初めてなので、
感想くださる方、いらっしゃいましたら
是非、是非、おねがいいたしますm(-_-)m
 

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