「あなただけ」リナさいど♪


    
 
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 これは、本編11巻『クリムゾンの妄執』直後の話です。
 …ああ、どなたかのお話しで読ませていただいた記憶がぁ…(^^;)
 あと、原作のリナは人前で泣いたことがない、
 という前提で書いています。では……
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 トントン…
 
 「…ちょっといい?」
 あたしは彼の部屋の前に立っていた。
 「ああ。入れよ。」
 中から彼の声がした。
 
 あたしはもう泣きそうだった。
 
 今日のあの出来事。
 …仲間が自分の腕の中、目の前で息絶える……
 予測できたかもしれない、
 回避できたかもしれない……
 でも……
 結局、あたしはなにもできなかった。
 
 あれは一人で受け止めるには、少し辛すぎた。
 だからと言って、彼に話してもどうにかなるわけでもなかった。
 それでも。
 気が付いたらここに立っていたのだ。
 
 部屋に入っても、あたしはただ無言で座っているだけだった。
 
 部屋にはランプが灯されていたが、
 その柔らかな光では、闇を拭いさることはできなかった。
 物音一つしない部屋の中………
 
 沈黙を破ったのは彼だった。
 「……どうしたんだ?おまえさんらしくもない。」
 彼は静かに語りかけてきた。
 「あの後から、ずっとそうじゃないか。
  無理に明るく振る舞おうとしてるのがよくわかるぞ。
  ……だが、もし何か悩んでいるんだったら、
  俺には到底解決できっこない。
  でも、話さないよりは、ずっと楽になるぞ。
  …………な。」
 「…………うん…………」
 あたしはうつむいたまま答えた。
 
 彼がわかってくれただけでよかった。
 それだけで、もう十分。
 これ以上、彼の優しい言葉を聞いていると、きっと涙が出てくる。
 そんな姿だけは、誰にも、彼にも見られたくない。
 「………ごめんね。なんか突然押しかけちゃって。
  まーったく、どうかしてるわね。
  もう……、もう平気だから。それじゃ……………」
 なんとかこれだけ言って、あたしはドアへと急いだ。
 
 ドアノブに手を掛けた時、肩を掴まれ引き留められた。
 「本当に……大丈夫なのか………?」
 
 彼は全てわかっていた。
 あたしがここに来た理由も、
 あたしがこうしてドアへと急ぐ理由も。
 彼の顔を見上げた。
 
 
 「…………泣いても、いいんだぞ……」
 
 
 金縛りにあったようだった。
 笑って見せようとしたが、無理なことだった。
 彼の瞳には、あたしだけが映っていた。
 目尻に熱いものが溜まっていく。
 
 不意に、彼の両手が私の肩に置かれて、
 彼の胸へと引き寄せられた。
 「………これなら、俺にも、誰にも見えないから、
  思いっきり泣いていいんだぞ。」
 彼の声は、あたしの身体に直接響いた。
 
 ………あたしは、初めて人前で涙を流した。
 彼の、暖かい腕の中で………
 
 
 しばらく彼はそのままでいてくれた。
 あたしを、その腕に包み込んだまま。
 
 静かで低い声が身体に響く。
 「…なんだって、おまえさんはすぐに自分だけ責任を
  背負い込んでしまおうとするんだ?」
 あたしの背中を優しく撫でながら言う。
 「…俺にも…それを分けてくれよ……」
 「…そんなことっ………できっこ…ない……」
 
 震えた涙声…自分の声……
 こんな声、久しぶりに聞いた。
 一人では、こんなふうに泣かなかった。
 
 …彼の前でのあたしは弱い。
 彼にしか見せない、あたし。
 
 「じゃあ……さっきも言ったよな?
  俺に解決はできないが、話せばずっと楽になるって。
  …それだけで、俺も安心できるんだ……」
 背中を撫でてくれていた手が、
 今度はあたしの頭を優しく撫でている。
 彼の気持ちは、言葉以上にその手から流れ込んでくる。
 
 あたしのなかにたゆたっていた闇が、
 光に飲み込まれていく。
 ……心も、身体も軽くなる。
 
 あたしはなんとか呼吸を落ち着かせ、
 頬の涙を手の甲で拭う。
 「……うれしい……」
 彼になんとか聞こえる程度の微かな声で囁く。
 「…ん?」
 少し鼻に掛かった声で返事をしてくれる。
 「あたしのこと…こうやって支えてくれる人がいる。
  それだけで、うれしいし…元気になれる……」
 「…そっか。
  でもな…俺としては、リナ一人が悩んで、苦しんでいるのは
  耐えられそうにないんだ」
 あたしを抱いていた腕の力が緩む。
 「だから…あなたがあたしの話を聞いてくれるの?」
 彼から少し身体を離し、
 上目使いに見上げながらつぶやく。
 「ああ。そうだ」
 眩しい微笑み。
 
 そう、これだ。
 これがあたしをいつも立ち直らせる……。
 
 「ダメよ、あなたじゃ。
  話しているうちに、眠っちゃってるんじゃない?」
 満面の笑みを彼に贈る。
 
 …もう、大丈夫だよ……
 
 ふう、とため息をつく彼。
 「ったく……。
  元気になったと思ったら、すぐそれか?」
 苦笑しながらも、あたしの頭をくしゃくしゃにする。
 「やーっ!!
  もう、そんなかき混ぜないでよねっ」
 頬を膨らませ、一歩引いたところでしかめ面をしてみる。
 それでも、うれしそうにあたしを眺めている彼。
 
 
 「また、駄目になりそうだったら、いつでも来い」
 
 
 ああ……。
 やっぱり、あなただけ………
 あなただけは、一生かなわない………
 
 どんなことがあたしに起こっても、
 柔らかく受けとめて、
 優しく包んで、
 また、力強く翔かせてくれる。
 
 
 にっこり笑って、あたしはドアノブに手を掛ける。
 「おやすみ、ガウリイ」
 
 「おやすみ、リナ」
 
 
 今夜は、ぐっすり眠れそう……
 
 
        おしまい。
 
 
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ガウリイさいどへ行く。
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