「彼女と彼」


 
「ああ!おいしかったあ!!」
 満足そうな声が店内に響く。
「うまかったなあ。」
 ガウリイも嬉しそうに言う。
「それは、作った甲斐がありました。」
「・・・・・・この声は」
 店の奥から聞こえてきた声に、リナはいやあな予感がして振り返る。
「−・・・・・・っ!!」
「ゼロス!」
 彼の名を呼んだのはガウリイだった。
「あんた、まさか変なモノ、食べ物に入れなかったでしょうね!?」
「それは・・・秘密です。」
 いつものポーズを決めるゼロス。
「ゼぇーロースうーーーー!!?」
「落ち着け!リナ!」
 今にも飛び掛かりそうなリナをガウリイが止める。
「ああー、怒ってらっしゃいますねえ。」
 のんびりと言うゼロス。
 その時、リナとガウリイが光に包まれた。
「えっ!?」
「なっ!?」
 目も眩む程の光。
 リナが眩しそうに瞬きを数回する。
「うーん、リナ?」
 −え?
  何か・・・変・・・。
 リナの目の前にあったもの、それは・・・
  心配顔の・・・・・・あたし!?
「え!?あれ・・・?」
 リナの顔がリナを認め困惑顔になる。
 リナは自分の手足・・・・・・ガウリイの手と足、を見た。
「ど、どどどどどどど」
「どどどって、何だ?」
 −こいつわあ!!
 状況が判っているのか判っていないのか、のんびりとしたリナの口調、基ガウ
リイ。
「どどういうことよ!?ゼロスっ!!」
「それは・・・秘密です、とゆうのはジョークで・・・」
 笑えない、笑えないよお。
「想いあっている2人だと、心が入れ代わっちゃうんです。成功ですね!僕の実
験!!」
 嬉しそうなゼロス。
「どうやったら戻るのよお!?」
 そんなリナの姿を見てガウリイは思う。
 ・・・俺の体で女言葉はちょっと、いやかなり止めて欲しい。
「お互いの気持ちが通じ合った時、ですね。」
「はいい!?」
 ゼロスの姿は闇へと消える。
「ちょっ!待ちなさいよお!?」
「リナ・・・・・・。」
「な、何よ!?」
 ガウリイは細い腕を伸ばして、彼本来の体の肩へ手を置く。
 −あら、こうやって見るとあたしって超プリティ(はあと)
  ってそうじゃないっ!!
 ガウリイの真剣な瞳・・・。
 リナは急に顔が火照ってきた。
「お前・・・・・・思ったより胸あるんだな。」
「なっ!!」
 殴ろうとして思いとどまる。
 自分の体を殴ることなんて出来ない。よってリナはガウリイの体をぶつ。
「痛いっ!!でもあんたなんかこうよ!こう!!」
 かなり情けない姿である。
 ・・・リナ・・・それじゃあ俺が変態みたいぢゃん・・・。
 
「よお、姉ちゃん、可愛いなあ。俺と付き合わないか?」
 気付かず無視するガウリイ。
「おいっ!お前だよ。」
 肩に手を掛けられ振り向く。
「・・・姉ちゃんとは、俺のことか?」
「おお!そうだとも。」
「お前・・・こんなガキ相手にして・・・ロリコンか?」
 中身はガウリイでも外見は女の子だ。なかなか異様な光景である。
「なっ!?ともかく・・・俺と付き合えって。」
「断わる。」
 身も蓋もない言い方である。
「そうよねえ!?」
 後ろから殺気をあらわにしたリナ。
 ガウリイの体でこれは、かなり怖い。
 男は慌てて逃げ出した。
「ちょっと!誰がガキなのよ!?」
「リナ。」
 一言の元に言い切る。
「あんたって奴はあ!またガウリイの体、殴ってやるう!!」
 そう言って怒りながら行ってしまうリナ。
「・・・・・・結構、モテるんだよなあ。」
 ボソリと呟くガウリイの声を、本来ならエルフ並みに耳がいいリナだったが彼
女の体ではない為、聞き取ることが出来なかった。
 
「さて・・・と、調子はどうです?」
 闇の中から暢気な声が。
「ゼロス!早くこれ、なんとかしなさいよっ!!」
 リナが怒鳴る。
「そうだぞ、悪ふざけが過ぎる。
 ガウリイも文句を言う。
「はあ。それで、お2人の気持ちは、一つになりそうですか?」
『はあ!?』
 2人がはもる。
「イヤですねえ。知らない振りしちゃって。それじゃあ・・・ガウリイさん」
「何だ?」
 華奢な少女が一歩、歩み出る。
「リナさんを、どう思っています?あなたにとって、リナさんは・・・?」
 ガウリイは一つ小さな溜め息をついた。
 ・・・ガウリイの・・・気持ち・・・?
 リナは戸惑う。
 彼の気持ちを知りたい気もする。
 でも知るのが怖い気もする・・・・・・。
「あのなあ、ゼロス」
 ガウリイがいつものように穏やかな口調で言った。
「俺にとってリナは大切な存在だ。」
 −ガウリイ
 リナは嬉しさが込み上げてきた。
「当然だろう?俺はこいつの保護者なんだから。」
 −保護者・・・?
 リナの声でガウリイが言う。
「・・・・・・や」
「本当にいいんですか?それで。」
 冷ややかな眼差しの、しかし笑顔でゼロスが問う。
「ああ。俺はいつまでもあいつの保護・・・」
「やめて!!!!」
 リナが叫ぶ。
 あたしの顔で、あたしを否定するガウリイなんか、見たくない。聞きたくない。
「・・・リナ?」
 リナの顔でこちらを見るガウリイ。
「やめ、て・・・いや、いやあああ!!!!!」
 リナ−ガウリイ−の体から力が抜け、膝をつく。
 そしてそのまま倒れた。
「なっ!リナ!?」
 駆け寄るガウリイ。
 リナの体に光が宿る。
「え!?」
 一瞬の暗転。
 ガウリイはゆっくりと目を開ける。
 自分の体だ。
 元に戻っている。
「リナ!!」
 倒れているリナ、いやリナの抜け殻に気付く。
「リナ!?・・・どうして!?何をした!?ゼロス!」
 ゼロスを睨み付ける。
「あなたが、リナさんを拒んだんじゃないですか。」
 呆然とするガウリイ。
「耐えきれなかったんでしょうねえ。」
「なっ、じゃあリナは!?」
 少女の体を抱き寄せる。
「精神体となって浮遊してますよ。消滅するのも時間の問題ですけど。」
「嘘だああ!!!!!」
「あなたが悪いんですよ?リナさんはあなたを救ったのに。」
 ガウリイは信じられないとでも言いたげにリナの抜け殻をかき抱く。
「リナ!!リナ!!リナああ!!お前を、失いたくない!」
 そんなガウリイをゼロスは冷たく見ている。
「・・・もう、遅いですよ。あなたは失格です。」
 ガウリイはむせび泣いた。
 無力な自分を呪わしく思って。
「さあ、リナさん、行きましょう。」
 ゼロスが虚空に手を差し伸べる。
 うっすらと空気が、光が、集まり、少女の形を取ってゆく。
 それは膝を抱えて踞っている。
「リナあああ!!!!!」
 ガウリイは叫ぶ。
 しかしリナにそれは聞こえない。
 ただただ悲しそうな瞳を向けるだけ。
 そしてゼロスの手を取る。
「行く、な!俺を、置いていかないでくれ!!!!!」
 後にはただガウリイの悲痛な叫びだけがこだました。
 
 ガウリイはリナの体を抱き締め、何時間もそうしていた。
 陽が落ちても。
「どうします?リナさん。」
 ゼロスは少女の精神体に問う。
 しかし、答えはない。
 ゼロスは音もなくガウリイの前に降り立った。
「・・・・・・。」
 ガウリイは何も言わない。
「チャンスをあげますよ。」
 ガウリイがゆっくりと顔を上げる。
「・・・・・・どういうことだ?」
 いつもの彼からは想像もつかない程、低い押し殺した声。
「そうですね、例えばあなたがリナさんの身替わりになる、とか?」
「ああ!!」
 悩む間もなく答える。
「冗談だったんですけど・・・・・・」
「おい!?真面目に答えろ!!」
 ゼロスはやれやれと首を振る。
「リナさんの精神体を呼びます。しかし、彼女は心を失ってしまった。もし、リ
ナさんがあなたを見、あなたの名を呼べばいいでしょう。」
 ・・・・・・自信は、あまりない。
 それでも、それでも・・・!!!
「もし、失敗したら?」
「リナさんは精神体のまま一生、浮遊し続け、あなたは彼女が消滅するその時ま
で、ここで永遠のような時をその抜け殻と共に過ごすのです。そして、魂、解き
放たれてもなお、闇に落ちるでしょう。彼女の抜け殻と共に、ね。」
 俺のことはどうでもいい。
 ただ、リナだけは助けたい!!!!!
「・・・わかった。」
 
「リナ!!」
 少女の名を呼ぶ。
 しかし、その瞳に、自分の姿は映っていない。
 声も、届いてはいないようだ。
「頼む!!聞いてくれ!!」
 返事はない。
「・・・・・・俺は、ズルイのかもな。」
 自嘲気味に呟くガウリイ。
「お前を・・・失いたく、なかった。」
 振り絞る様な声。
 リナの肩がピクッと動く。
「保護者でいれば、お前の側にいられるだろう?」
 今度は眉が上がる。
「後・・・・・・正直、早いと思った。」
 握り締められていた手がゆっくりと開かれていく。
「お前の気持ちを知らなかったから、怖くもあった。・・・俺は・・・お前から
逃げていたんだ・・・きっと・・・・・・。自分の本当の気持ちに背を向けて
。」
 優しく語りかけるガウリイ。
「でも、愛してるって言うのは難しくて・・・」
 リナの瞳から涙が溢れだす。
「でも、傷付けるつもりなんか、なかった。」
 少女の瞳がガウリイを捕らえる。
「愛して、るよ。リナ。」
「・・・・・・。」
 リナは何かを言おうと口を開く。
「大切な、大切な存在だ。」
「ガ・・・・・・イ」
「・・・側に、いたい。守りたいんだ、お前を・・・・・・」
「ガウリイっ!」
 リナの口から彼の名前がこぼれ出る。
「まあ、ぎりぎり及第点、ですね。」
 ゼロスがいつもの笑みで言う。
 そして、リナの精神体が光を放つ。
 
「う、んん。」
 ゆっくりとリナが瞳を開く。
「リナ!!!!!」
「ガウ、リイ?」
 大切な大切な少女が自分を見つめる。
 
「まったく、僕は本当に損な役回りですね。」
 


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~* 後書き:変ですね。
    ただ、なんとなーく、もしリナとガウリイが入れ替わったらどうな  
  るのかなあ?なんて思って書いたんです。
    皆様、寛大なお心でお読みください。
    って、読んだ後ですね。
    ・・・また、書くことがあるでしょうから(今、ブーイングの嵐が  
  起きた様な気が・・・)その時もお心を広くお持ちください。
           Noel・マイオー
 
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