『出会いは突然に』おおっと意外な人物登場♪

「リナさん、何かあの人さっきからずっとこっち見てる気がしません?」
とある日のとある食堂での、いつもと同じ夕ゴハン時。アメリアにそう言われてリナはちゅるちゅるこくんっとスパゲティのクリームソース煮を飲み込むと、彼女の示す方向にちらりと目を走らせた。
「こらアメリア、いちいちそんなことをリナに教えるな。リナの機嫌が悪くなったら被害をこうむるのは俺達なんだぞ」
うんざりしたような口調でゼルが忠告する。
それもその筈、自称ガウリイの元彼女とやらと口喧嘩になって宿屋をリナが全壊させたのは、ごく最近のことであった。
アメリアが言ったのもガウリイとさほど年の変わらない大人の女性で、どうケチをつけようとも美人としか言いようのないその容姿からしてゼルの心配もうなずける。その女性が、さっきからずっとこちらを見ているというのだ。気にするなと言う方が無理であろう。
しかし、おかしいと言えばおかしい。お目当てと思われるガウリイは今宿屋の主人に頼まれた荷物運びに行っていて、この場にはいないというのに。
「ひょっとして、ゼルを見てるんじゃないの?」
「そんなことあるはずがありません!ゼルがディスさんはとてもじゃないけれど普通の人が正視できるような姿じゃないんですよ!怯える目で見られているならばまだしも、あんな意味ありげな視線を投げかける女の人なんてそうそういるわけないじゃないですか!」
リナの言葉に猛烈に反論してくるアメリア。
「アメリア・・・その言い方はちょっとぐさっとくるものがあるんだが・・・」
「ああっ、ゼルがディスさんごめんなさいー!」
やきもちを妬くというのも大変である。言わずともわかると思うが一応さっきのアメリアの言葉を通訳しておくと、ゼルの良さを知っているのは私だ、いくらキレイだからって他の女の人に横槍を入れられて欲しくないと、まあそういうことなのだが。
「それにだな、あの女の見ているのは俺でも旦那でもなくどうもリナのような気がするんだが」
「まあ、視線を感じないといったら嘘になるけどね。仕事の依頼かなんかだったりして」
「でもそれならもう話しかけて来てもいいと思いますよ。やっぱりガウリイさんがらみで、側に入るリナさんの存在が気になってるんじゃないですか」
「だからリナの機嫌を逆撫ででするなといっとろーが・・・」
「あーやっと終わった。あれ、待っててくれたのか?」
適当なことを言い合っていると、そこへガウリイが戻ってきた。
「ナイスタイミングですよガウリイさん。ささ、こっちへ来てください。ちょっと聞きたいことがあるんです」
わけのわからないままアメリアに袖を引っ張られて席に着くガウリイ。
「ガウリイさん、この食堂の中にじっとこっちを見ている視線があるのがわかるでしょう?」
「ああ、確かにあるな。ずいぶんと意味ありげな視線が1つ」
くらげといえども超一流の剣士、気配を感じ取ることなど造作もない。
「ひょっとして、またガウリイさんのお知り合いなんじゃないですか?あの女の人」尋ねられてガウリイは視線の主の方をちらっと盗み見る。興味のないフリをしていてもやはり気になるらしく黙ってガウリイを見つめるリナ。その身体からは『名前でも呼ぼうものなら殴ってやるっ』というオーラが溢れ出している。
が、ガウリイはその女性を一目見たとたん・・・
ぐゎたっ!どて、ずるずるずる・・・・
派手な音をたてて椅子からマトモにずり落ちる。その頭に、テーブルから振ってきた空のコーヒーカップがかんっと当たってはねた。
「・・・やっぱし、知ってる人なんだ」
ぽつりと言ったリナの言葉は、ガウリイのリアクションに気を取られていた2人には聞こえはしなかった。
女性がかたん、と優雅に席を立ち、モデルのごとき足取りでこちらへと向かってく
る。あれだけのリアクションをされ、しかもその視線が自分に向けられているとなれば、いくらなんでも相手が自分の視線に気づいているということくらいわかるだろ
う。
腰を抜かしたままのガウリイの前に立つと、にっこりと笑って呼びかける。
「久しぶりね、ガウリイ」
「・・・・・・姉貴・・・・・・」
言われてガウリイは、やっとのことで掠れた声を絞り出したのだった。
 
 
 

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