「出会いは突然に」2ペ−ジ目♪   


「改めて自己紹介させてもらうわね。レティシア=ガブリエフ。ガウリイの姉よ」
こちらのテーブルに移って来た彼女がぺこりと頭を下げる。
「なぁんだ、お姉さんだったんですか。安心しましたね、リナさん」
「う、うるさいわねっ、・・・・でも、前にあたしあんたにはお兄さんはいるけどお姉さんはいないって聞いたような覚えがあるんだけど?」
リナに問いかけられても、ガウリイは黙々と料理を食べつづけるだけで応じようとはしない。レティシアはそれを見てふふっと笑い、言った。
「ま、姉と言っても義姉だものね。つまり、このコの兄の妻」
「なるほどな、ガウリイの旦那が苦手とするわけだぜ。しかしまぁ、お前にもそーゆーものがあったんだな、ガウリイ」
からかい半分でゼルが肩に手を置くと、ガウリイは世にも恐ろしげな目で彼を睨み返した。とりあえずそれでゼルは黙ったが、目はまだ明らかに笑っている。
「そういえば、まだあなた達の名前を聞いていなかったわね。皆さん、ちょっと自己紹介してもらえるかしら」
それぞれ自己紹介を済ませていった時、アメリアが王女だと知ってお忍びの旅の護衛にについているのかと思われたりしたが、本人がリナさん達と旅をしている間は自分は王女でなくただの巫女と言うと納得してくれた。
「で?わざわざ家から離れたこんなとこに一体何しに来たんだよ。姉貴。・・・まさかと思うが、兄貴と一緒じゃないだろうな」
「あ、お姉様に向かって何?その言い方は。ちいちゃい頃は近所の子にいじめられちゃあ『レティねーちゃぁん』って私に泣きついてきたくせに」
今まで語られることのなかったガウリイの過去が、一部とはいえ明かされ、全員ここぞとばかりに彼をからかいにかかる。
「へーえ、あんたって実はいじめられっ子だったんだぁ」
「意外に甘えん坊さんだったんですね」
「暗い所を異常に怖がったクチだろ、実は」
表情1つ変えないガウリイの手にしているグラスにわずかではあるがぴしりとヒビが入る。手に力が入ったらしい。
「オレはガキ大将張ってただろうどっかの猛獣と違っておとなしかったんでなぁ」
「額に青筋なんぞを浮かべつつ、珍しくもリナに言い返す。
「言ってくれるわね〜ぇ、ガウリイ。だぁれが猛獣ですって?」
「あれぇ、わかんなかったか?そんなに難しく言ったつもりはないんだが」
顔をつき合わせ、無気味な笑い声を立てる。
「2人とも〜、目が笑ってませんよぅ」
「なかなかに楽しそうじゃない」
「そう見えるのか?」
うんうんと興味深そうに2人の喧嘩を見物しているレティシアに、ゼルは疲れたような声を返すのだった。
 
 
「さっきの続きだけど、本当にどうしてここにいるんだ?」
落ちついたのか、いくばかりか穏やかな表情で同じ質問をガウリイはレティに投げかける。
ちなみに、リナとの喧嘩はゼルの追加注文した料理が来た時点であっさりと終わりを告げた。
「ちょっとした事情でね。だけどそんなことどうでもいいじゃないの。せっかく久しぶりに会えたんだから、旅の話しを聞かせて頂戴」
ガウリイはレティに冷ややかな目を向けると、ぽつんと言った。
「また兄貴と喧嘩しやがったな・・・」
聞こえていたのか、レティの肩がぴくんっと震え、つつうっと額から一筋の汗が流れ落ちる。
「まあまあ、ケンカするほど仲がいいって言うじゃありませんか」
「お兄さんって、やっぱしガウリイにそっくしなの?どんなひと?」
すかさずリナとアメリアがフォローに入る。
すっかり仲良くなってしまったらしい女3人組みは、もはや男達はそっちのけで世間話やガブリエフ家の話に花を咲かせ始める。
ガウリイは子供時代の恥が明らかにされるかもしれないということを警戒し、始めのうちは聞いて止めに入ったりもしていたのだが、リナ達の話はしだいにガウリイではなく『あたしの子供の頃は・・・』という方向に移っていった。
自分がネタにされるのはまっぴらごめんだが、リナの幼少時代ならば喜んで聞かせてもらおうと聞き手の側に回るガウリイ。しかしやはりここはお約束、言わなきゃいいのに「お前やっぱりガキの頃から強暴だったんだな」とコメントしてスリッパではたかれるのも忘れずに行われる。
唯一混ざって来ないのがゼルだったが、誰も彼に子供時代の様子を尋ねようとはしなかった。かといってかやの外にしていたわけではない。
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「ゼルならこーゆー時なんて言う?」
「さぁな。まあ、少なくともそいつのようには返さんさ。そんなことをすれば命が危うい」
「しかしそいつ、なかなかに勇気のある奴じゃないか。リナに向かってそんな口たたけるなんて」
「それもそうですね」
「あ・ん・た・ら〜っ!」
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「それで、その時グレイシア姉さんと母さんが・・・」
「アメリアさん?」
「う・・・・母さぁん・・・・」
「あーよしよし」
「思い出して泣き出しちまうのはアメリアらしいが・・・役特だよなあ。ゼルのやつ」
「そんな心底羨ましそうな目で見つめないの。あんたにもリナさんって相手がいるじゃないの」
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とまあこんな風に巻き込んだため、誰も退屈することなくその日の夕食時を過ごし
た。会話を続けながらもいつもの料理争奪戦が繰り広げられていたことは、書き加えるまでもないであろう・・・。
 

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