「強さの意味」


「リナ!」
飛び散る鮮血。
俺はただ茫然とそれを眺めていた。
そう、ただ茫然と。
時計の針がやけに長く感じられる。
何故なんて思うひまもない。
剣を探している途中だった。レッサーデーモンが現れたのは。


『ガウリイはそこにいて!』
光の剣を失った今俺に下級魔族に対抗するすべはないと知った上での言葉。
リナ一人なら切り抜けただろう。
だが…。
レッサーデーモンの攻撃を俺を狙っていると知ってリナは俺をかばった。
飛び散る鮮血。
それがリナを彩っていく。
その倒れる間際に呪文を唱え最後の一匹を倒したのはさすがとしか言いようがなかった。



「リナ…」
俺は寝ているリナの髪をすく。
オレハ無力ダ。
数々の戦いを切り抜けてきたのも光の剣のおかげに過ぎない。
「どうして自分の力量のためだと思えたんだろう」
>穏やかな寝息を漏らす唇をなぞり口接ける。
リナを貪るように啄ばむように口接ける。
「ん…」
リナがあまりの息苦しさに声を漏らしガウリイははっとして離れる。
俺、今何しようとした?
しかも、寝ていて無防備なリナに…。
「最低だな」
自嘲する。
寝込みを襲うなんてあまりにも卑怯ではないか。
「力を差し上げましょうか?」
そこには見なれた黒衣の神官。
「ゼロスか」
「はい」
にっこりと微笑む。
だが、その瞳は笑っていない。
どうしてこの男を人畜無害と思えるのか。
人と間違えるのかガウリイにはわからなかった。
「率直に言います。僕と契約を結びませんか?」
「お前と?」
「はい、そうです」
「お前の利点は?」
「そうですね。上の方々の沽券にかかわると言う所でしょうか?
「沽券?」
ちろりと唇を舐める。
瞳には狡猾な光。 
「いえね、仮にも冥王様を倒した方が下級魔族に倒されるとはね」
 残酷な光が宿っていた。
「しかも力足らずではなく仲間をかばってね」
 俺の中の何かが壊れた。
「どうです?僕と契約してくださればリナさんの足手まといどころか彼女を傷つけずに守ることができるんですよ」
 ゼロスが囁く。魔の甘い誘惑。
「それともリナさんの足手まといになられないようにリナさんから別れますか?」
 リナから別れる?
「できない!そんな事!!」
 ガウリイが悲痛な声をあげる。
「それならばさぁ」
 ゼロスが手を優雅に差し出す。
 ガウリイがその手を取ろうとした直前。
 ぴく。
 リナの手が動く。
「り、な!?」
「ガウリ・・・何処?」
 その手がガウリイを探す。
 ガウリイがリナのそばまで行きその手を握る。
 暖かな手。
 心は決まった。
「ゼロス」
「はい、なんでしょう」
「悪いが他のやつあたってくれ」
「・・・理由を聞いてよろしいでしょうか?」
「魔族になったら俺はこの手を握れない」
 いつも傍らにいたい。だが、魔族になったらそれができないのだ。
「成る程」
 そう言ってゼロスはため息をついた。
「何も肉体を守ることが『守る』とはいわんだろう。だが魔族になったらおれは守るどこ
ろかリナの心を傷つけてしまう」
 だから魔族にならないのだ。
「わかりました。早く魔法剣を見つかることを望みますよ」
「ああ俺もだ」
「絶対リナさんを守ってくださいね」
 その瞳はリナにだけ向けられていた。
 ゼロスが出現と同じく唐突に消える。
 ゼロスがいた場所をガウリイは見つめる。
「本当は上司の命令などなかったんだろうな。守るさ、リナを。おまえからも」
「ガウリ・・・イ」
「リナ、大丈夫か?」
 リナがガウリイの顔に手を伸ばしまるで愛撫するように触れてくる。
「よかった。ここにいるよね?」
「ああ」
「嫌な夢を見たわ」
「どんな夢だ?」
「ガウリイが闇に飲まれる夢」 
 はっとしてガウリイはリナを見る。
「ガウリイはここにいるわよね」
 リナはガウリイの首に手を回し引き寄せる。
「ああ」
 見詰め合いどちらからともなく口接ける。
 舌を絡めあいベッドに重なる。
「ん、ガウリイ・・・」
 押し倒し身体を開いてもリナは抵抗しなかった。
 部屋にリナの甘く切ない声が響く。
 ガウリイはリナを貪りリナに溺れていった。
 この先リナ以上にこんな不安や執着は抱かないだろう。
 例え、何があってもリナからは離れられない。
 その枷がついたことを自覚しながら。
 ガウリイはリナに酔いしれた。


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