「夢改革」


 
闇に満たされた部屋で、一人、小柄な少女がベッドの上に座っている。
俯いている事によって、その長く艶やかな髪が前へと流れている。
かちゃん、と静かな部屋に音が響き、すっと光が差し込んでくる。
彼女は、近づいてくる気配に身動き一つしなかった。
そっと顎を持ち上げられても抵抗もしない。その柔らかな頬を撫でられても。
いつも、ことあるごとに赤く染まるその頬が、今は冷たい。
彼女が瞳だけを動かして、その気配の主を見る。
尚も、頬に手を添えられたままで。
「リナ」
優しく呼ぶと、頬を撫でるその手に細い指先が触れる。
「どうした、リナ」
ひとつ。瞬きをしたのが分かった。
「・・・・・・ガウリイ?」
「ああ。オレだ」
か細い声で聞いてきた少女に、しっかりとした口調で応える。
少女の片手が、確かめるように自分の頬に触れた。
そしてゆっくりと撫でてくる。その動作を身動きせずに受け入れる。
「生きて・・る?」
そうつぶやくと、いささか驚いたように手を引っ込めた。
その手をすばやく取り、軽く握り締める。手のひらから熱が交わる。
「生きてるさ、オレは」
「ん・・・」
少女が手を握り返してきた。強く。
「そっか・・・」
そして優しく自らの体重を掛けてくる。その細い両腕が首に絡まる。
ぎゅっと抱き着いてきた背中を、ぽんぽんと叩いてやる。
「・・・生きてるんだ、ガウリイ」
体温を確かめると、安堵の溜息を漏らす。
「あたしねぇ、また夢を見たわ・・・」
しばらくして、少し体を離し、少女がつぶやく。
「・・・でも夢じゃないかもしれない。もしかしたらこっちが夢なのかもしれない。
でもいい・・・ガウリイが生きてるなら・・・どっちでも・・・」
「これは現実だ、リナ」
低く言うと、首をかしげる。
「そう? ・・・・・・かなぁ・・・・・・ガウリイあったかいけど・・・・・・でも分からないなぁ・・・」
頭を撫でてやる。いつもしてきたように。
そうすると肩に重みが掛かる。また寄りかかってくる。
「ガウリイ聞いて・・・・・・・・・死なないで・・・あたしのせいで死なないで。
ガウリイが死んでしまうのはあたしのせいだから・・・・・・」
「オレは死んでない。おまえのせいじゃない。勝手にオレを殺すなよ、リナ」
小さく頷く。・・・笑ったみたいだった。
「オレはリナの保護者なんだぞ? お前を置いて死ねるかよ」
「なら・・・・・・あたしが死ぬの?」
ぼんやりとつぶやく。その額を指でぺんっとはじく。
「ばか。護るって言ったろ。リナは死なせない」
「じゃあ・・・二人で死ぬ?」
思わず苦笑する。笑うしかなかった。
「違うって。
二人で生きるの。生きるんだよ、オレたちは。生きているんだ」
「そっか・・・二人で死んだら心中になるわねぇ。でも、それもいいかと思ったんだけどなぁ」
「お前な、死ぬ死ぬ言うんじゃない。一体どうしたんだ」
「・・・さぁ・・・・・・どうしたっけ?」
間近にあるぼぉっとした瞳に、溜息を吐く。深く。
「お前は寝てるんだよ。今、夢の中にいるんだ。
いいか? 今度目を閉じたら、夢は変わってる。楽しい楽しい夢にな。
そこにはオレがいて、お前がいて、お前の好きな人たちがいて、みんな楽しそうだ。
みんな生きてる。いいな、みんな生きてる。
みんなお前を待ってる。オレも待ってるから。さぁ、目を閉じてみろ。ゆっくりゆっくり・・・・・・」
髪を撫でながら優しく耳元で囁きかける。
その瞼がだんだんと閉じられていく。
こてん。
ふいに体に寄り掛かる重みが増した。
その小さな体を片腕で支える。余った片手で髪を梳く。何度も何度も。
「生きような、二人で」
尚も囁きながら、振動を与えない様にゆっくりとその体を横たえる。
眠っているのを確認して、足元に寄せられている掛け布団を引っ張りあげる。
そして肩の上にふわりと掛ける。
柔らかい布地が、彼女の体を包み込む。
「おやすみ。また明日な」
頬を撫でて、そこに唇を落とす。唇から暖かい体温を感じる。
「・・・いつまで続くんだろうな?」
声を立てずに笑って、扉を開き、部屋から出て行く。
ぱたん、と静かな部屋に音が響き、小さな体は寝返りを打った。






今夜もまた、自分を呼ぶ声がする。
苦笑しながらベッドから降り立ち、部屋を出て行く。
いつからか、彼女は悪い夢を見るたびに彼の名前を呼ぶようになった。
それは寝ぼけたための行動なのか、昼間の彼女の記憶にはない。
ただ、夢の中で自分を頼る彼女と、待っている様子が嬉しくて、ずっと秘密にしてきた。
それはいつまで続くのか・・・・・・。


すべては。
彼女の夢が変わるまで。





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おつきあいありがとうございました(ぺこり)

雰囲気を変えてやる〜!
・・・という野望から書いたものです(ちゃんと変わってるでしょうか?・笑)
とてもヘンなものになりました。
・・・・・・
・・・・・・・・・すみませんでした〜(^^;:

それでは。私はこれで(退場・笑)

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