「リナ版シンデレラ」



 
 
「えええ〜〜っ!? そんな、殺生な!」
あたしはねえちゃんに泣きついた。
今日のパーティーは随分前から楽しみにしてたのよ!
なのに‥‥今になって行っちゃいけないなんて、そんなのひど過ぎる!
「鬼! 悪魔! 人でなしっ!!」
「ふぅ〜ん‥‥そーゆー事言うのはこの口かしら?」
ねーちゃんは世にも恐ろしい笑みを浮かべたかと思うと、あたしの口の両端を持って
力一杯引っ張った。
「ひ、ひはい‥‥‥‥」
 
「だいたい、元はと言えばファイアー・ボールで大事な家宝のツボを割った、あんた
が悪いんでしょうが!
そのお仕置きに今日は外出禁止にしたのよ!
全く‥‥そんなんだから、あんたにシンデレラなんてあだ名が付くのよ!」
「‥‥へー、あたしそんな呼ばれかたしてるんだ。
やっぱ、世間は美少女を放って置かないのねえ♪」
浮かれるあたしを、ねーちゃんは軽くこづいた。
ドゴッ!
あうっ‥‥
「ねーちゃん、いたひ‥‥」
「うっさい! あんたが言ってるのとは意味が違うのよ!
あんたに出会ったら、まず生きては帰れない。
死んだも同然。だから、死んでれら。
そう呼ばれる事が嬉しーの、あんた!」
そう言って、あたしを睨み付けるねーちゃん。
 
シ‥‥シンデレラじゃなくって、死んでれらだったんかい! ってか‥‥
「誰よ、ンなふざけた呼び名付けたのは!
探し出して、焼き入れちゃるっ!!」
「そんな事ばっかりやってるからいけないんでしょーが!
少しは反省しなさい!」
ズゴシ!
ねーちゃんにこっぴどく殴られ‥‥あたしは沈黙した。
「と・に・か・く! あんたは、今日は家で留守番してなさい!
いい、分かったわね!」
それだけを言い残して、ねーちゃんはとーちゃんとかーちゃんと連れだって、お城へ
と出かけたのだった。
 
うう‥‥お城の王子様の妃選びのために、未婚の女性なら身分問わず誰でも出席出来
るってゆーから‥‥ずーっと前から準備してたのに!
お城へ行ける、一生に一度のチャンスが〜〜〜!!
ぐっぞう‥‥豪華な料理の数々を食べ尽くすってあたしのささやかな野望が、こんな
事でついえるなてっ!!
せっかく頑張ってドレスを手縫いしたのに!
しくしくしく‥‥ってちょっと待ってよ。
ドレスは、あるのよね。靴だって用意してるし。
装飾品は‥‥みんなねーちゃんに持ってかれちゃったけど、このあたしの可愛さなら
ンな物は必要ないわ!
 
って事は、後は城へ行くための足‥‥つまり、馬車さえあればお城へ行けるんじゃな
いの!
うっしゃー、希望が出て来た!
でも、家にある馬車はすでにねーちゃん達が乗ってっちゃったから‥‥どっかから借
りて来ないと‥‥
っても、隣近所の家はやっぱお城へ行っちゃってるだろーし‥‥
あ、でも待ってよ。確か、裏に住んでる根暗魔道士のゼロスが馬車持ってたわよね。
うっしゃー、あれ使ってお城へ行くわよっ!!
 
「ってな訳で、あんたの馬車借りるから」
「勝手に決めないでください! どーして僕がリナさんに馬車を貸さなきゃいけない
んですかっ!!」
ほほう。そう来るんかい!
「んっんっん‥‥あんた、あたしの頼みを断ったらどーなるのか‥‥ま〜だ分かって
ないみたいねえ」
ジロリ、と睨み付けてやると、ゼロスはつつー、と額に一筋、汗を浮かべた。
「し、仕方ありませんね。分かりました。
リナさんは城へ行くために馬車を借りたいのでしたね。
では、特別サービスで御者も付けて馬車を貸しましょう。
それでいいですね」
 
ほう、根暗のゼロスにしては珍しく気の利いた事してくれるじゃないの。
「ふっ‥‥最初っから、そー言ってくれればよかったのよ。
じゃ、借りて行くかんね!」
あたしはドレスを着込むと、ゼロスの馬車に乗ってお城へと向かった。
 
 
あたしが城に着いた時、お城ではパーティの真っ最中だった。
うっしゃ、間に合った!
馬車を置き、ねーちゃんに見つからないよーにこっそりとお城に入ったその時。
「リナ。なんであんたがここに居んのよ」
いきなりあたしの後ろから、ねーちゃんの声が聞こえて来た。
うぞっ! ねーちゃんの気配なんてしてなかったのにっ!!
恐る恐る振り向くと‥‥そこには確かにねーちゃんの姿が。
あああ‥‥なんで入ったばっかで見つかるのよっ!!
どーせなら、お料理たんまり食べた後で見つかりたかった!
じゃなくって‥‥‥‥ねーちゃんに殺されるぅぅうっ!!
 
あたしの背中を、だ〜らだらと冷や汗が流れ落ちた。
怯えるあたしを、ねーちゃんはしばらくの間じっと見ていたが、やがて‥‥
「‥‥まあ、来ちゃったもんは仕方ないわ。
でも‥‥12時までには帰るのよ。でないと‥‥分かってるわね」
「は、はひ‥‥‥‥」
 
ねーちゃんはあたしに釘を刺すと、どこかへ行ってしまった。
た‥‥助かったぁ‥‥
安心したせいか、身体の力が一気に抜けて、思わず床にへたり込む。
‥‥ううん、こんな事してる場合じゃないわ!
せっかくねーちゃんのお許しが出たんだから、お料理の制覇をしなくっちゃ!
あたしは立ち上がると、広間の隅っこに設置してあったテーブルに駆け寄った。
 
テーブルの上には、あたしが見た事もないよーな料理が、それこそ山のよーに置いて
あった。
しかし、その料理の山には、ほとんど手をつけた様子は無かった。
みんな、何してんのかしら。もったいない‥‥
ふふふ‥‥でも安心してね、お料理さん達!
あたしがきっちし食べ尽くしてあげるから!
 
 
「くうぅ‥‥おいしーっ!!」
あたしが山海の珍味を堪能していると。
「リナ、来てくれてたのか!
だったら、声掛けてくれよ! オレ、待ってたんだぞ!」
ガウリイがあたしに声を掛けて来た。
 
このガウリイ、こー見えても一応この国の王子様だ。
王子様と言う呼び名にふさわしく、金髪碧眼の美形で、剣の腕もかなりの物なのだ
が‥‥
いかんせん、頭の中には増えるワカメが詰まっている。
そのせいか、街で迷子になってたのを助けてあげたらなぜかあたしになついちゃっ
て‥‥
何かとゆーとあたしに付きまとって来るのよねー。
 
ったく‥‥あたしに構ってるヒマがあったら、いー加減結婚相手を決めろっての!
あんたがいつまでも結婚相手を決めないもんだから、こ〜んなパーティが開かれる事
になんでしょーが!
まあ、おかげでこーして美味しいお料理が食べられるんだから、それはそれでいーん
だけど。
 
「なーリナ、それ旨いんか?」
そう言いながら、なぜかあたしの隣に座るガウリイ。
「美味しいわよ。ってか、なんであたしの隣に座んのよ!
椅子なら、他にも一杯あるでしょーが!」
「そう言うなよ。オレ、付きまとわれて困ってるんだ」
そう言ってガウリイが見る先には‥‥あたしとガウリイを遠巻きにするよーにして
立っているお嬢様達の姿。
みんなドレスやら宝石やらで目一杯着飾っている。
どーやらみんなガウリイが目当てみたいだけど‥‥さすがにあたしに近づく勇気はな
いみたいね。
 
なるほど、ガウリイはあいつらから逃げて来たのね。
そりゃ玉のこし狙いの欲望剥き出しのお嬢様なんて、願い下げだろーけど‥‥だか
らってどーしてこいつはあたしの所に逃げ込んでくんのかしら。
「あんた、何が不満なわけ?
そりゃ、玉のこし狙いかもしんないけど‥‥みんな顔もスタイルもいーじゃないの。
そりゃ、うるさく付きまとわれるのがイヤだってのは分かるけど‥‥
ンなの、誰か1人の女の子を選んじゃえば、それで他の女どもは諦めるんじゃないの
?」
そう言ってやると、なぜかガウリイは悲しそーな寂しそーな笑顔を浮かべた。
「そりゃ、そーなんだろーけどな‥‥」
その笑顔を見て、なぜかあたしの胸がチクン、と痛んだ。
‥‥なんであたしがガウリイが悲しそーな顔してるからって、動揺しなきゃいけない
のよ!
 
と、その時。
いきなりガウリイが立ち上がり、あたしに手を差し出して来た。
「なあ、リナ。踊らないか?」
う〜ん、そりゃ楽団が奏でる音楽に合わせてみんな踊ってるけどさ。
「イヤよ。あたしは踊りに来たんじゃなくって、お料理食べに来たんだから。
そんなに踊りたけりゃ、そこらのお嬢様誘えばいーじゃないの」
お相手はより取りみどりなんだし。
「そんな事言うなよ。あそこに居る女の子達と踊ると後が怖そうじゃないか。
でも、今日は絶対誰かと踊れって言われちまってるんだ。
なあ、頼むよ。オレを助けると思ってさ」
両手を合わせて、あたしを拝むガウリイ。
 
う〜みゅ、どーしたもんだろう。
そりゃ、ヘタにそこらのお嬢様と踊ったりしたら結婚迫られるに決まってるけど‥‥
だからって、別にあたしじゃなくっても‥‥‥‥
「リナ〜〜〜‥‥‥‥」
情けない目であたしを見つめるガウリイ。
あああ‥‥そんな、捨てられた子犬のよーな目をするんじゃないの、あんたは!
 
‥‥‥‥まあ、タダで料理食べさせてもらってるし‥‥これも人助けよね。
ああ‥‥あたしってこいつのおねだりに弱いわぁ‥‥
「分かったわよ。でも、1曲だけだかんね!」
そう答えてやると、パアア!と顔を輝かせるガウリイ。
「ありがとな、リナ!」
‥‥なんだか、こんなに喜ばれると、悪い気はしないわねえ。
 
ちょうど始まったワルツに合わせて、ガウリイと踊り始める。
へえぇ、こいつ‥‥すっごくダンスが上手かったのねえ。
まるで滑るよーに床の上を移動して行くって感じ。
ま、こいつは剣の達人なんだから‥‥足の運び方とかに、共通点でもあるのね、きっと。
 
それにしても‥‥ガウリイの顔をこんな至近距離で見るのは、始めてかもしんない。
ああ、こいつの顔ってすっごく綺麗なんだ‥‥
それに、青い瞳が‥‥なんて言うのかな、吸い込まれそうな‥‥そんな気がする。
女の子達がキャアキャア騒ぐのが分かるわね。
 
「うん、なんだ?」
どーやら、あたしがガウリイの顔を見つめているのに気が付いたらしい。
ガウリイが不思議そーな顔をして、あたしを覗き込んで来た。
「う、ううん、何でもないのよ、なんでも」
あんたの顔に見とれてました、なんて答えられる訳、ないわよね。
全く、なんで今更こいつの顔に見とれなきゃいけないのよ!
 
でも‥‥こーして、ガウリイと一緒に踊ってると、すっごく楽しい。
今まで何度か踊った事があるんだけど‥‥どーしても身体を密着させるから、つ〜い
相手を吹っ飛ばしてはねーちゃんにお仕置きされてたんだけど‥‥
どーしてだろ、ガウリイが相手だと平気なのよねー。
ホント、不思議。
 
 
と、その時。あたしの耳に、ボーン、ボーンと言う時計台の鐘が12時を告げる音が
聞こえて来た。
うぞっ!! もう12時になるの!? そんなっ!!
うだあーっ!! すぐに帰らないと‥‥ねーちゃんに殺されるーっ!!
あたしはガウリイの腕を振り払うと、猛スピードで走り出した。
 
「リナッ! 待てよ、どこへ行くんだっ!!」
あたしの後ろからガウリイが追い掛けて来るけど‥‥
どこって、そんなの帰るに決まってるじゃないの!
なんて、ガウリイに説明してる時間すら惜しいわいっ!!
あたしは返事もせずに馬車を置いておいた場所へと駆け込んだ。
が、そこには‥‥確かに置いておいた馬車も、その御者も姿がなかった。
 
ど、どーなってるのよ!
確かにここに置いといたのにっ!!
と、ヒラリ‥‥と1枚の紙があたしの目の前に舞い落ちて来た。
咄嗟にそれを受け止め、見てみると‥‥それにはこう書かれてあった。
『リナさんへ
お城へ行く馬車がいるとは言われましたが、帰りの馬車も必要だ、とは聞いていませ
んので、馬車は引き返させてもらいました。
悪しからず。
ゼロス』
 
だあああっ!! あの根暗まどーしっ!!
ふつー、行く時に馬車に乗ってったら帰りも乗って帰るでしょーがっ!!
ぐっぞう、いつもあたしにいじめられてるのをこんな方法で意趣返しするとは‥‥な
んて心の狭いやつっ!!
帰ったら焼き入れてやらなけりゃっ!!
って‥‥どーやって帰るのよっ!!
 
あああ‥‥今から歩いて帰ったら、とてもじゃないけど間に合わない。
でも‥‥そうよね、とにかく城さえ出れば‥‥言い訳は立つわ!
そうと決まったら! と、あたしが門に向かおうとした時。
「つーかまえた♪」
いきなり後ろから逞しい腕が伸びて来て、あたしの腰に絡み付いた。
その腕の持ち主は‥‥言うまでもなく、ガウリイである。
 
「だああ! 捕まえた、じゃないでしょーが! 放しなさいよ!
あたしは、すぐに城を出なきゃいけないんだからっ!!」
ジタバタしていると。
「何だよ、リナ。せっかく来たってのに、そんなに急いで帰る事ないだろ?
ゆっくりしてけよ」
ガウリイがあたしの耳元で囁いた。
だああ! 耳元でしゃべるな! ってか‥‥急いで帰らないとヤバいのよ〜〜〜!!
「そーはいかないのよ! 12時までに帰らないと、ねーちゃんに殺されるのよ!
とにかく、は・な・せ〜〜〜っ!!」
 
12時までに‥‥とにかく城を出なければっ!!
ガウリイの腕の中でジタバタするあたしの耳に、時計の鐘の最後の1つが鳴るのが聞
こえた
ボ〜〜ン‥‥‥‥
うだあああ!! 12時までに帰れなかった〜〜〜っっ!!!
ねーちゃんに‥‥ねーちゃんに殺されるーっ!!!
あああ‥‥あたしの人生もここまでね‥‥
こんな事なら、もっとご馳走食べておくんだった〜〜〜っ!!!!
がっくりうなだれるあたしに、ガウリイはニ〜ッコリ笑いながら話しかけて来た。
「そんなに気を落とすなよ。お前さんが叱られないよーに、オレがリナのねーちゃん
に頼んでやるからさ」
「ほ‥‥ほんと!?」
 
ガウリイは、こー見えてもこの国の王子だ。
いくらねーちゃんでも、その王子様直々の頼みとなれば、断れないはずっ!!
「おう、ホントだぞ。だから、広間に戻らないか?
まだまだご馳走だって一杯残ってるぞ!」
ご馳走‥‥そー言えば、まだ食べてる途中だったわよねえ。
殺されずにすむと分かった途端にお腹が空いてきたし。
「分かったわ。戻りましょうか!」
ふふふ‥‥テーブルの上のご馳走さん、待っててね! 今戻るから!
 
ガウリイに連れられて、元の大広間に入った途端、ガウリイがいきなり大声で叫んだ。
「オレの妃が決まったぞ! ここに居るリナがオレの妃だ!」
その声を聞いて、広間に居た人々の間に動揺が走った。
特にお嬢様達の驚きようは生半可じゃなかった。
って‥‥冷静に観察してる場合じゃな〜〜〜いっ!!!!
 
「あ、あんた何言い出すのよっ!!」
「え〜? だって、今日のパーティに参加したって事は、オレの妃になる意思があ
るって事だろ?」
そ、そりゃ今日のパーティがそのために開かれたってのは知ってるけど‥‥
「あたしはただ美味しい料理を食べに来たんであって、あんたの妃になりに来たん
じゃないわよ!
大体、なんであたしがあんたと結婚しなきゃいけないのよっ!!」
「そりゃ、オレがリナに惚れてるからさ」
あたしの叫びに、ガウリイはさらりと答えた。
 
「え!? ほ、惚れてるって‥‥」
「おう、今まで色んなアプローチしたのに、リナは全然気づいてくれないんだもんなー。
仕方ないから絶対にリナが参加してくれるパーティ開いて、リナを城に呼ぼうと思ったんだ。
なのに、リナがなかなか現れないもんだから‥‥オレ、気が気じゃなかったんだぜ!」
そう言ってニ〜ッコリ笑うガウリイ
 
ほ、惚れてるって‥‥‥こいつ、今までそんな素振り全然しなかったのに‥‥
そりゃ、あたしに付きまとったけど‥‥ずっと一緒に居る、とか、どこまでもお前さ
んと一緒に行くとか言ってたけど‥‥
こいつがそんなつもりで居たなんてっ!!
で、でも‥‥考えてみれば、このパーティお料理一杯とか、身分問わずとか‥‥あた
し好みのパーティよねえ‥‥
じゃ‥‥本当にこいつ、あたしの事?
 
「でも‥‥なんで、あたしなのよ!
あんたなら、どんな女でもより取りみどりでしょーが!」
あたしの言葉に、ガウリイはそれはそれは優しい笑みを浮かべた。
「だって、しょーがないだろ。オレはリナに惚れたんだ。
一目惚れなんだ。他の女なんて、要らない。
お前さんだけが欲しいんだ。だから、今まで結婚しなかったんだ。
なあ、リナオレの花嫁になってくれよ。なあ、頼むからさ」
真剣な眼差しであたしを見つめるガウリイ。
本気‥‥みたいね。
 
大広間に居る人達の視線があたしに集まっているのが分かる。
ううう‥‥なんか、イヤって言えない雰囲気があるんですけど! でも‥‥
「イヤよ! なんであたしが! 絶対にいや!」
そりゃ、顔はいーし、剣の腕もたいしたもだし、王子様だし、何より優しいし、青い
瞳は綺麗だし‥‥これ以上ないくらい理想的な結婚相手かもしんないけど
でも、頭の中には増えるワカメがつまってそーな‥‥いや、確実に増えるワカメがつ
まってるガウリイなんかと結婚するのは、絶対にイヤよ!
 
ガウリイを目一杯睨み付けてやると、ガウリイはしばらくの間、あたしをじ〜っと見
つめていたけど、やがてニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「ふ〜〜ん、そうなのか。でも‥‥オレ、リナが結婚してくれないなら、リナのねー
ちゃんに許してくれるよーに頼んでやんないぞ。
それでもいーのか?」
くうぅ‥‥そー来るかいっ!!
 
12時なんて、もうとっくの昔に過ぎちゃってる。
もし、今から‥‥それも歩いて帰ったりしたら、何時に家に付くか、分かったもん
じゃない。
そーなったら‥‥ねーちゃんにどんなお仕置きくらうのか‥‥考えるだに恐ろしい。
そ‥‥それだけはなんとかして避けなくては!
ううう‥‥ねーちゃんのお仕置きと、ガウリイとの結婚。
こいつはあたしに、究極の選択を迫るつもりなのね!
 
う〜〜〜ん‥‥この場合、ねーちゃんのお仕置きを受けたら‥‥マジで殺されかねない。
でも、ガウリイと結婚すれば‥‥命の危険はないわよねえ。
こっちの方が‥‥マシかしら‥‥
「なあ、リナ。オレと結婚してくれれば、毎日美味しい料理が食べ放題だぞ!」
まるであたしの考えを読んだかのよーに、絶妙なタイミングで話し掛けて来るガウリイ。
くくぅ‥‥美味しい料理が食べ放題!
その言葉は、揺れるあたしの心を決めさせるには十分過ぎるものだった。
 
「分かったわ。あんたと結婚したげる。だから‥‥ねーちゃんにとりなして!」
あたしの返事を聞いたガウリイが、それはそれは嬉しそーな顔をした。
「そっか、ありがとな、リナ。じゃ、これは手付けって事で♪」
そう言って、ガウリイはいきなりあたしに‥‥そのキ、キスしやがったのよ!
「な、何すんじゃいっ!!」
「何って、キス。結婚の誓いはキスって、昔っから決まってるだろ?」
「だああ! それは結婚式の話でしょーが!
勝手に人のファーストキッス奪ってっ!!」
どーしてくれようか‥‥ファイアー・ボールで吹っ飛ばそーか、それとも‥‥
迷うあたしを、ガウリイはギュッと抱き締めた。
「そっか、リナは今のがファーストキッスだったのか。ラッキー♪」
「ラッキーじゃないわ〜いっ!!」
スパコーン!
 
こんな事もあろうかと、こっそりドレスに忍ばせておいたスリッパでガウリイをひっ
ぱたいてやる。
あああ、スリッパで叩いたくらいじゃ足らないわっ!!
吹っ飛ばしてやるうううっ!! でも、その前に!
「あんたとの結婚はとりやめよ!」
そう宣言してやると‥‥ガウリイはニヤリと笑った。
「リナ‥‥いーのか、そんな事言って。
ホラ、あそこでリナの事にらんでるのは、リナのねーちゃんだろ?」
ガウリイが指さす先にいたのは‥‥確かに、あたしのねーちゃんだった。
なんか‥‥すっごい顔してにらんでるんですけど‥‥‥‥
って、何か口が動いてるよーな‥‥
ええと、なになに‥‥『い〜い、これ以上王子様に無礼働いたら‥‥許さないわ
よ』って‥‥‥‥ひええええええぇぇぇ!!!!
 
「リナ〜〜、愛してるぞ!」
ここぞとばかりにあたしに抱きついて来る、ガウリイ。
こいつ‥‥あたしが何にも出来ないと思ってるわね!
そーは行くもんですか!
「こんのー!」
もう1度スリッパでひっぱたいてやろうとした時、あたしは鋭い殺気を感じた。
この殺気は‥‥ま、間違いない。ねーちゃんの物だ‥‥
や、やばい。もし、このままガウリイを叩いたりしたら‥‥まちがいなく、あたしは
殺される!
 
ねーちゃんに睨まれたあたしは、結局ガウリイと結婚するしかなかった。
しかも。
「い〜い、リナ。あんたから離婚して戻って来たりしたら‥‥お仕置きだからね!」
ねーちゃんに釘まで刺されてしまい‥‥離婚すら出来なくなってしまった。
あああ‥‥なんであの時、あたしは無理にパーティに出ようとしたんだろう。
ねーちゃんの言いつけ守って、家で留守番してれば‥‥こんな事にはならなかったの
にっ!!
あたしの‥‥あたしのバカ〜〜〜っ!!


























FIN♪


龍崎星海さん、ありがとうv
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