「りーさる・うぇぽん」

 
 
 
 
――― そのにーっ! ―――
 
 
 
 
「いやー! ナーガなんか量産しないでー!」
 
 ――自分の叫び声で目が覚めた。
 
 われに返ってあたりを見渡せば、白を基調とした上品なつくりの客室。
 そうだ、あたしとガウリイはひさかたぶりにセイルーンを訪れ、アメリアとフィルさんの誘いに応えて王宮に滞在していたのだ。
 昨日は歓迎の晩餐会でたらふくごちそうを食べ、ふかふかのベッドで眠りについたとゆーのに、なんであんな夢をみてしまったんだか。
 
「おっはよー! リナ、朝ごはん持ってきたわよ。
 あ、そのままでいいから、いっしょに食べよ!」
 
 朝食のお皿を満載したカートを押しながらやってきたのは、言わずと知れたセイルーンの超合金娘、正義オタクのアメリアである。ふぁぁ、こっちはまだ半分寝ぼけてるってのに、朝っぱらからテンションが高いこと。
 
「おはよー! どうしたの、気がきくじゃないの。
 って、そーいえばガウリイは?」
「ガウリイさんなら、朝早くから稽古につきあってくれたらしくて、衛兵隊の人たちといっしょに食べちゃったみたいよ。
 朝から良い準備運動になったって言ってたわ」
 
 なるほど、そーいえば昨日も着いたそうそう、若い騎士たちに捕まってたっけ。
 たとえ原生動物なみの知能を誇ろうとも、ガウリイは超一流の剣士。セイルーンではけっこう名前も売れてるし、稽古をつけてもらいたがる連中も多いのだろう。ごくろうなことである。
 でも、準備運動ってなんだろう? また昼から剣の稽古につきあうのだろうか?
 
「ね、リナ、昨日はよく眠れた?」
「んー。やっぱりセイルーンの王宮ともなれば、ベッドも布団もいいもの使ってるわね。
 いやー、すっかり旅の疲れがとれた、とれた」
 
 お世辞ではない。ちょーっと変な夢を見た気がしないでもないけど、やはり普段泊まっている宿屋のベッドとはできが違うのだろう。部屋の温度、湿度ともに申し分なく快適至極。
 いつになく遅寝を決め込んでしまったし、たしかに今朝はなんだか体が軽い気がする。
 
「へっへー。そうでしょう?
 実はね、この建物、セイルーンの魔法陣の焦点にあたる場所に建ってるのよ。
 いわば白魔術の力の中心部。
 その上、この建物自体が魔法陣の力を増幅させる造りになってるの。
 心身の穢れは浄化され、正の感情が増幅されて、身も心も清められるんだから!
 まあその分、黒魔術や破壊的な精霊魔術は効果が抑えられちゃうけど」
「ふーん。なんだかすごいわね」
 
 あたしは適当にあいずちを打ちつつ、こんがり焼けたベーコンさんを口に含む。うーむ。さすがセイルーンの王宮付きコック。いい仕事してる!
 
「それだけじゃないのよ。
 この建物は調整しだいで、特定の人間が発する正の感情を増幅して、外に向けて発信することができるの。
 理論上は、セイルーンの魔法陣自体を利用して、さらに外の世界に向けて放射することも可能だわ」
 
 なにやらアメリアは話に夢中になっているようだが、食事時には集中するのが料理を作ってくれた人への礼儀というものである。うーん、半熟卵の柔らかさかげんがまた絶妙!
 
「連続で放射すれば共振効果があるから、かなり強力な波動を出せるはずなのよ。
 ずっと休憩なしで正の波動を発することができれば、そのエネルギーはカタートにだって到達するはず」
 
 あー、そーいえば昨晩もなんかそんな話をしてたわよねー。だからあんな変な夢をみたのか。
 うみゅ、あたしの夢見が悪かったのはアメリアのせいということで、このシーザーズ・サラダは没収。 
 
「でも、一度に増幅できるのはひとりだけなのよね。
 たとえば5日ほど連続で、昼も夜も絶えまなく正の波動を発することのできる人がいればなんとかなるんだけど………」
「そんなのーてんきな人間は居ないとおもふ」
 
 アメリアの手許からかすめとったデザートのストロベリー・タルトを噛み締めつつ答えるあたし。ああ、バニラとアーモンドの風味が苺の甘味と絶妙のハーモニー。まさに芸術品!
 
「そう、そんなこと、とても人間には無理なのよね…………1人では。
 だから………協力してねっ!」
「ごちそうさまでしたぁ…………って、え? 協力?」
 
 にっこり笑って席を立ち、ベッドの脇にあったヒモを引くアメリア。
 ただの壁だとばかり思っていた場所が2つに割れ、その先から現れたのは……
 両手を大きく広げ………満面の笑みを浮かべた………ガウリイ!?
 
「ちょ! ちょっとアメリア、あんたいったい何を考えてっ!?
 あ、その、おはようガウリイ。
 ところでなに、朝っぱらから? その、なんか用?」
「リナ、世界のためだ、協力してくれるよな!」
 
 なんか変だ。ガウリイの様子がいつもと違う。お日さまのような笑顔はいつもと同じなんだだけれど、舌舐めずりしてるし、なんとゆーか、目の奥にみょーな輝きが………
 そういえば、いつの間にやらアメリアは姿を消していて………
 
「ガ、ガウリィ? えっと……あんた、なんで服を脱いでるのかなぁ?
 そんなに近づいたら、もう下がる場所が、その、あの、えと、
 その………あの………ちょっと! これは、あたしのベッドなんですけどぉ?
 こら、変なとこ触るな! パジャマを脱ーがーすーなー!
「だいじょぶ。オレ、5日くらい全然平気だから!」
 
 ――はいいいいいい!!??
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 アメリアの言ったとおり、攻撃魔法は封じられていて。
 朝から準備運動までして体調をととのえたガウリイに、抵抗できるわけもなく。
 
 
 その5日後、この世は永遠に魔族の脅威から解き放たれた。
 
 その間、なにがあり、なにが犠牲になったのかは…………お願い、聞かないで。
 
 

                         (りーさる・うぇぽん:おわし)



















蜃さん、ありがとうv
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