『キスという名の鍵』


 
 
「ええ!?喧嘩でもしたんですか?」
「へ?そんなことないけど。」
「じゃあ、なんでガウリイさんは別行動とるんですか!?」
「えっ?」
 
ゼフィーリアに向かう途中
サイラーグに向かうセイルーン使節団にあった。
そこにはアメリアとゼルにまた出会うことに。
 
2人と別れた後
あたしたちがどんな旅をしていたのか話した。
そして…
ゼフィーリアに向かう理由も。
そしたら…
 
「とうとう結婚ですか。
 おめでとう!リナ!ガウリイさん!」
「だからなんでそうなるのよ!」
「お前みたいな女はさっさと結婚した方が
 世界のためだ。
 旦那がもらってくれるだけで感謝しろ。」
「あんたたち…喧嘩うってるの?」
「え…?ちがうんですか?」
「…ガウリイに聞いて頂戴!」
 
あたしはそれだけ言った。
あたしからは何もいえない。
だって言い出したのはガウリイなんだから!
 
「ガウリイさん、なんでゼフィーリア行くのですか?」
 
アメリアがずいっと聞いたなら予想外の答えがきたらしい。
 
「あ、ちょうどよかった。
 アメリア、リナにいってくれないか?
 ちょっとよるところあるから
 先にゼフィーリア方面にむかっててくれって。」
「ガウリイさん何かあるんですか?」
「…ちょっとな。」
 
そういってガウリイは鼻の頭をぽりぽりとかいたらしい。
ちょっとおかしい様子に
アメリアは急いであたしにその様子を報告してきた。
 
「ガウリイさん何か隠していることがあるんじゃないですか?」
「…なんだろうね?」
「例えば昔の女とか?」
「昔の女?」
「リナと結婚決める前に決着をつけるとか。」
「だから結婚じゃないってば。」
 
そういい合いしているところにゼルが通りかかった。
 
「ゼルガディスさん、聞いてくださいよ!
 実はかくかくしかじかで…。」
 
ゼルはだまってアメリアの話をきいた。
そして一言。
 
「男としてのけじめじゃないか?」
 
それだけ言って去ってしまった。
 
「ガウリイさん…昔の女のところいくのね!」
「…。」
 
あたしはそれに関してはいいかえさなかった。
とても嫌な感じがした。
ガウリイの気持ちがわからない。
どういうつもりでゼフィーリアにいくっていったの?
わからない。
どうしていってくれないんだろう?
 
ゼフィーリアに行く前の晩から
ガウリイは姿を消した。
 
出発の早朝。
アメリアとゼルが宿屋の部屋を訪ねてきた。
 
「リナ平気?」
「大丈夫よ。あんたたちはサイラーグに行くんでしょ?」
「…はい。リナに全ての事情をきいたけど
 念のため調査に行かなくてはいけないので。」
「ゼルは?」
「前もみたが一応…
 キメラをなおす方法がみつかるかもしれないしな。
 アメリアがいれば禁止されている場所にも立ち入りが楽だし。」
「そっか。がんばってね。」
「リナ…大丈夫?」
「なにが?」
「ガウリイさんよ。」
「別に。なにかあるんでしょ?
 それより今日出発するんでしょ?
 あんたたちも。」
「って…リナはガウリイさんまたなくていいの?」
「だって先いってろっていったんでしょう?」
「リナ…。」
 
アメリアが躊躇いがちに
ゼルは意味ありげにこちらに視線をむけながら
サイラーグ方面にいった。
 
ゼフィーリアに向かい一人あたしは出発した。
 
「ひさしぶりの一人旅ね。
 まあ、里帰りだし…本来なら一人がスジだしね。」
 
今日もいいお天気で真っ青な空があった。
なにも変わらない。
そう思い込もうとしていたのかもしれない。
 
「はあ、いいお天気で眠くなってきちゃった…。
 ここで一休みしようかな…?」
 
草原に仰向けになる。
ぼーっと空を見上げる。
眠いけど眠れない。
目が離せない。
 
真っ青な空。
吸い込まれそうな空。
誰かさんを思い出す。
 
くしゃっと…
髪をなでる感覚。
とっさに思い出し
頭に手をやる。
 
さらっ…
長い金色の髪が流れる音。
 
『リナ…』
低いけど心地いい声。
 
緊張感なくてのほほんとしていて
でも整った顔。
 
出会ってからの全てがフラッシュバックする。
 
それと同時に気がつかなかった
流れるモノ。
頬をつたうあついモノ。
 
「不覚だわ…。
 この天才美少女魔導師のリナ=インバースが
 脳みそくらげな自称保護者がいないだけで…。」
 
こんなにも…こんなにも…
サミシイトカンジルナンテ…
 
これって前にも感じたような。
そうそう、アイツがフィブリゾにつかまった時。
 
でも今は…その時以上につらく…
 
「涙が…とまらないなんて…。」
 
ガウリイ…ガウリイ…
今どこにいるの?
 
あたし…今になって気づいた。
 
一人でも平気だと思った。
でも違うの。
今はダメ。
 
敵につかまっていた時の方が…
どこにいるのかわかってた方がまだよかった。
 
今は不安。
たまらなく不安。
 
このあたしが…これじゃあ、本当にコドモ。
なんでダメになっちゃったんだろう?
ガウリイのせいだ…。
 
「ガウリイの馬鹿…
 あんたどこにいるのよ…。」
 
気がつけば夜。
あたしはそこから一歩も進めないでいた。
 
 
―闇の中
あたしはなにも身に着けず生まれたままの姿。
あ、これはきっと夢の中よね。
真っ暗だから裸でも平気だけど
誰かいたらやだな…
 
カッ…
 
不意に差し込む光
やだ…
だれだろ?
 
さらっ…
 
この音…
金色の髪が流れる音
 
「ガウリイ!?」
 
いつもどおりののほほん顔
でも手に何かもってやってくる。
剣?
いや…
 
「鍵…?」
 
目の前まで
ガウリイがやってきた。
そして…
 
「リナ…。」
 
そういってあたしに鍵を渡した。
 
「これは…。」
 
目の前が…
 
ぱあああん!!
 
光と共に明るい空間に。
 
 
「…りな…リナ…
 リナ!!!」
 
「へ?ガウリイ…?」
「へ?じゃねえ!お前こんなところでなんで寝てるんだよ!!」
「こんなところって…。」
「お前あたりみてみろ!」
 
がばっ!
 
起き上がると
昨日の草原。
あたしあれからここに寝ちゃったの?
 
「ゼフィーリアに向かってくれって
 アメリアに伝言しといたんだぞ?
 待ってたのか?」
「え!?ち、ちがうわよ!
 ちょっとたまには…ね。」
「お前さぁ一応女の子なんだぞ。
 夜中にこんなところで…
 何かあったらどうするんだよ!!」
「…ごめん…。」
「まったく俺
 ゼフィーリアいったら
 お前の親父さんになにいわれるか…。」
「…なんでゼフィーリアにいくの?」
「ぶどうがうまいんだろ?」
「そうじゃなくて!
 …じゃあいいわよ。
 それよりあんたどこいってたのよ。」
「ん…ちょっとな。」
 
ガウリイはそういって頬をぽりぽりとかく。
 
「ずるいよ…ガウリイ…。」
「なにが?」
「なんなのよ!
 どうしてあんたはあたしの側にいてくれるの?
 どうして…はぐらかすの?
 ふりまわすの?
 あんたがわからない…。
 わからないよ。」
 
悔しい…
あたしは本音をぶつける。
あたしは気づいてしまった。
自分の気持ちに。
だからもうどうすることもできない。
 
「リナ…。」
 
同じ…いつもと同じ声。
届かない。
届かない…。
 
さらっ…
この音は…
 
「え…。」
 
気がつくとガウリイに後ろから抱きしめられた。
 
「リナ…。」
「離して…。」
「やだ。リナこのままいなくなっちまうだろ?」
「もう…いい。
 こんな気持ちのままあんたと旅なんてできない。」
「ごめん…。
 俺…卑怯…だったよな…。
 肝心なこと何もいわないまま
 ゼフィーリアに行くなんて…。」
「…。」
「俺…
 お前に会う前に
 お前の親父に会ったことあって…。」
「とうちゃんに!?」
 
あたしはびっくりして
ふりむいた。
 
「…俺もびっくりしたよ。
 お前より先にゼフィーリアに行ってたんだ。
 いきなりお前が俺連れてかえると
 まあ、いろいろ大変だろうと…。」
「いきなり知らない男が一人で行った方がよっぽど大変よ!」
「うん。いきなりお前の姉ちゃんに包丁投げられて
 あやうく死にそうになった。」
 
あ。
やっぱし(汗)。
 
「その時にお前の親父がでてきて…
 それで…わかった。」
「とうちゃんになんていったの?」
「今リナと旅してて…
 これから帰ってくるつもりだと。」
「…それでなんていったの?」
「リナを連れて来い。ボケって釣竿でなぐられた。」
「あんた、なんのつもりでゼフィーリアに…。」
 
あたしが頭を抱えていると
ガウリイの瞳があっというまに近づいてきた。
 
「え…。」
 
いきなり触れてきたモノ。
それははじめての感触だった。
 
ガウリイ…
 
頭のおくがしびれてくらくらする。
そしてだたひとつあたしが
浮かべる名前。
 
「いきなりですまない…。
 自分でもとめられなかった…。
 俺は…お前が…愛しくてたまらない。
 触れるのも怖いくらいだ。
 でもルークとミリーナのことがあって
 俺は思った。
 俺ももしリナがミリーナのようなことがあったら。
 どうなるかわからないって。
 この先がどうなるかわからないから
 俺は…誓った。
 ルークの前で…
 リナに気持ちを伝えるって。
 俺はリナが好きなんだって…。」
 
あたしはその言葉が空から降ってきたかと思った。
信じられなかった。
もう何がなんだか…。
頭がくらくらしてる。
でもひとつだけ感じたもの。
瞳からながれる熱い涙。
そしてうれしいという気持ち。
ガウリイは言ってくれた。
 
そして今度は。
 
キスという名の鍵が
あたしの心のドアを開いた。
 
「あたしもガウリイが好き…。」
 
羞恥心もなにも
真っ白な頭の中。
自然な流れの中で
2人はお互いを抱きしめていた。
幸せの絶頂の中で。
 
 
「ところで…とうちゃんにゼフィーリアで会って
 なんていったの?」
「リナがほしいから勝負してくれって。」
「…でとうちゃんは?」
「それはリナが決めることだからって怒られた。」
「そうよ!まったくあたしに何もいわないで…。」
「親父さんにいわれて、あ、そうだったって…。」
「まったくくらげなんだから。」
「あ、そうだ。
 色々準備してるからはやくつれてこいっていわれたんだけど。」
「え…それって…。」
「けつ…なんとかって。」
「あ、あんた…結婚式じゃ…。」
「あ、そういってたっけ。」
「け、け、結婚!?
 そんなのまだきめたわけじゃ…。」
「でも姉ちゃんがはりきってたぞ。
 料理とか。」
「あんた…あたしが断ったらどうすんのよ…。」
「考えてなかった。」
「くらげー!!!」
 
あ〜
結局ガウリイにはふりまわされっぱなし。
わかってたのかしら?
こうなるって。
くやしいけど。
 
でもうれしいから。
まあ、いいか。
 
あたしたちは手をつなぎながら
ゼフィーリアまでの道を歩いていた。
 
 
「ところでとうちゃんと会ったのっていつ?
 なにかあったの?」
「…忘れた。」
 
こんなやりとりを
あたしはいつもやることになるとは…
このときは予想もしなかった。
 
ガウリイのくらげ!
 
THE END
 
 
 











加藤智希さん、ありがとうv
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