近頃、時々考える。
どうすればいいのか。そんな事は解らない。
いくら考えても。これが正解。そんなしっくりくる方法は浮かばない。
普段なら、さっさと口に出してリナに聞いてみるけれど。今度ばかりはそうはいかない。いかな俺でも、そのくらいは分かっている。
ただ、どうしていたいのか。それだけは、解りすぎるほど分かっていた。
リナという少女は。
いや、リナ・インバースという人間は。
俺に言わせれば、極端なまでにシンプルだ。
「どんな人間か」
そんな質問にはたった二つの言葉で答えられる。
貪欲で傲慢。
こんな事を口にした日には、遙か彼方へ吹っ飛ばされるのは決まっていたし。何より、俺の言いたい事がきちんと伝わらないことが多いので、大抵口をつぐんでいる。
生きることに、望みを叶えることに、食べることに、笑うことに、怒ることに、走り続けることに。
貪欲であろうとするから、傲慢なのだ。
他の全てをたたき壊しても、自分で在り続けるためには、他にどんな方法があるっていうんだ。
必ず、勝つ。
魔王とやらとの戦いの前の晩、ちらちらと揺れる橙色の炎の前で、あいつは言い切った。
言葉の途中から、ぼんやりと口の端辺りに浮かび始め、やがてゆっくりと頬を弛ませる。それはとても緩やかな変化で、ゼルと思わず顔を見合わせた後になって、漸くリナの顔中に広がった。
きっとそれは、不敵でピンと張りつめた、言葉に似合った笑顔だと思っていたのに。
ゆっくりと顔中に広がりきった笑いは、とても柔らかでゆったりとしていて、追いつめられた様子なんて、これっぽっちもなかった。
まるで春先にそこいらの枝にある花の蕾を指さして、「きっと咲くと思う」と言って笑ったかのように、確信に満ちていた。
リナにとっては、魔王に勝つことも小さな花が咲くことも、きっと当たり前で普通の事なのだろう。
そうでなければ、リナはリナらしく、自分の望むように生きることが出来ないからだ。その為には、魔王に勝たなくてはいけないし、きちんと花が咲かなければ実も出来ないし、それを美味しく食べることももちろん出来ない。
だからリナは、決して諦めないし、負けない。
だからリナは、前へ前へと進み続ける。余所見もせず、立ち止まりもせず。まるで追われるように走り続ける。
例え途中で転んだって、構わなかった。きっとリナならすぐに立ち上がるだろうから。
ただ、リナの望むリナで在り続けるために、貪欲に。そして貪欲だから在り続けようとする。
そしてその為には、辺りのことに構うなんて出来ない相談だ。傲慢で当然。自分以外の何かを優先して、自分を貫くなんて、出来るはずもない。
そうしなければ、リナはリナでなくなってしまう。
「あんたら、どういうんだ」
何度かそんなことを聞かれた気がする。
多分、俺とリナの関係を言っていたのだと思う。
俺は単に見続けていたかっただけだ。
貪欲に走り続け、傲慢に自分というものを押し通す、その姿を。
それは何だか大切な宝を抱えた小さな妹を見るようで、常に背中を追い続ける憧れのようで、これだと、はっきり言える言葉は何もなかった。
だから、これが恋だなんて、そんなことはとてもじゃないけど言えない。
ただ、見続けていたかった。
走り続けるリナを。貪欲で傲慢なリナを。あの時のように笑うリナを。 そのままのリナを。
だから近頃、時々は考える。
どうすれば、見続けていられるか。
どうすれば、傍にいられるか。
一度だけ、多分こいつなら、と思って口にしてみたが。貪欲と傲慢という言葉の処でにやりと笑われたあげく。
「旦那だって、似たようなもんだろう」
あっさりと返された。
俺はあんな風じゃない。
そう力説すると、追い越しざま軽く背中を叩かれ、そういう意味じゃないと肩を竦められた。
「俺が言っているのはだ。あんたもかなりシンプルだって事だ」
次の言葉はもう、背を向けて歩き出した先から、風に乗って届いた。
(終)
どうも投稿要項の最初の行にある基本的なところを押さえられなかった気がして、慌てて「simple」を書きました。
けれど、やっぱり押さえきれていない気がします。
それでも読んでくださった方、どうもありがとうございます。
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