「絶叫する!」
〜Version.L〜


 
いつの間にか夏になっていた。

 ボルフィードも異界に還り、ガウリイは光の剣をあっさり手放した。 あたし達が一緒にいる理由はもうとっくに失くなっている事にこの男は気がついているんだろうーか?
 世界高い所巡りをしていたアメリアがセイルーンの捜索隊にあっさり見つかり4日前強制連行され、ゼルガディスは昨々日、大陸の奥地の砂漠にある大きな遺跡に向かうといってあたし達と別れた。 当たり前みたいに行動してきた仲間なのに櫛の歯が欠けるように別れていって…、遣る瀬無かった。
元の世界に近い新世界の海岸で、あたしとガウリイは行き暮れていた。


この大陸では勝手が違う、黒魔術はおろか魔道士協会もない。あたしの評判(悪名と云う勿れ)も届いてないので、収入の道も途絶えがちだし…手元不如意、あぁお腹すいたなぁ。
 あぁぁやっぱりあの時フィリアに今回の報酬を吹っかけておけばよかったかなぁ…。
海岸は人でいっぱいだった。真っ黒の魔道士の服はこの海水浴場では目立ちすぎるので、ザックの底に仕舞っておいた水着を着た。 サイズが変わっていない、特に胸が…。
その事でガウリイの冗談のネタにされムッとして言い返した。「いいもん、成長しなくってもっ。」彼から渡された上着を羽織る。

ここでは本当に平和だ、魔族などまったくお目にかからない、トラブルもない。
光の剣がなくってもここじゃガウリイは困らないだろう。
「平和だなぁ」ガウリイがポツリといった。
「ここならずっーと穏やかに暮らせるだろうなぁ」あっ胸がズキリと痛む、なんだろうこの気持ちは。
隣に並ぶガウリイの顔を見上げるが逆光で表情が見えない。ガウリイも水着に着替えていてとても目立っている。鍛えあげた体躯、長くて美しい金色の髪、しなやかな獣の匂い。さっきからナイスバディのおネエちゃん達の秋波波状攻撃を受けている。その色目のどれに気をとられたのか、いきなり彼が走り出し人波の中に消えた。 突風と共にきゃぁと黄色い声が沸きあがり嘘みたいに人ごみが割れた。
 あっガウリイが行っちゃう。手をのばそうにも届かない。足も踏み出せなかった。
私は元の世界に還り魔道を極めたい、でも彼がそれに付き合う理由は…ない。気が付いてたけど認めたくない、彼が気付いてない事をいいことに目を逸らしていた事実だった。 
いい機会かもしんないな、鼻の奥がツンとした。独り取り残されてあたしはふと目に付いた高い所へアメリアみたいに登りたくなった。
それは立派なお立台だった。 あははアメリア、あんたの気持ちよーっく判るわ。ゼルガディスにそっとアミュレットを渡していたアメリア。国と王族としての責務を捨てられないアメリア。よく目を腫らして降りてきたのあたしは気が付いてたよ。

お立ち台に登った途端、にやけた男に腕を掴まれた。―ぶっ飛ばす!―つもりが
「はい、あなたのお名前は?」とマイクを突きつけられリナは毒気を抜かれ男を見た。
暑いのにラメ入りの背広を着こんでいる…。
お・おやぁ?こ・こりは…?
「絶叫コンテスト・これであなたがビーチの主役」の幟??????
眼下に群衆。注目の的?も・もひかひて…。
「り・リナです」
「いい名前ですね、で、お年は?」
「17才」
「はい、青春まっさかりねっ」
紙についた火を連想させる軽いトークで男がしゃべくる。
「んじゃ、11番リナちゃん!今の気持ちをシャウトしちゃいましょ」
は?はぁ?こ・こりは??
「一等賞金金貨20枚。なぁう げっちゅー!ひあ ゆーごー」て・てんしょん高ひ。背を押す歓声、期待の視線。
えっと、えっと、えーっと…、…ぷちっ。
息を吸い込み覚悟を決めた。気分はもうアメリアだった。
「あんたの場所はあたしの隣!ないすばでぃのねーちゃんおっかけてないで、ガウリイもどってきてよぉ。」

あーなんだかスッとした。でも、あ、あたしぃ・い・いま・なんてったぁ??
「う〜ん!今までのさいこーね!ぶっちぎりの107ほーんだよーん」変てこな機械を指差し、にやけ男が宣言する。
どよめく群衆を背にむけ、台を飛び降りたあたしは一目散で逃げ出した。
それからどこをどう走ったか、気が付くとビーチのはじっこにいた。あたしは浜の更衣室で水着を脱いだ。外に出ると日は暮れかかっていた。空も海も赤いや。ガウリイに上着返せないまま行っちゃうか…。
突然後ろから抱きしめられて、咄嗟に肘で制裁を加える。ふっ、当然の報いねっ。
「りなぁ」情けない声でガウリイが腹を押えて立っていた。
「どっ、どこにいってたのよっ!このクラゲ!」
「突風で倒れかけた売店を立てなおして、ついでにそこの臨時バイトにスカウトされて。バイト終ってリナ探してたら道に迷って…」ガウリイが云う。
いい年をして迷子になるんかこの男は?
「で、これがバイト代と残り物だが…」ガウリイは箱一杯のイカ焼きを持ち出した。
少し冷えたイカ焼きはソースの匂いにほんのり甘味で磯の香りがした。
あたしが箱一杯のイカ焼きを夢中で食べ終えた時「よっぽど腹空かしてたんだな」と彼は言った。
「あ、ゴメン。全部食べちゃった。ガウリイ食べてないんじゃない?」
「いいさ、バイトの間中その匂い嗅いでもう食傷気味だから」そういって笑う。
「さて、腹もくちくなったことだし、宿に帰るとするか。」当たり前みたいに隣にやってきて、ガウリイが頭をポムと撫でた。なんだか安心する。無敵だった光の剣を失くしても、この安心感は確かに彼と共に在る。
「元の世界に還ろうな」ぽつりと呟くように言った言葉になぜだか素直に頷けた。「うん、一緒に帰ろうね」と。
宿屋に帰る途中であたし達はあのお立ち台の前を通りかかった。ラメ服の男がすっ飛んできて、押し付けるように一等賞金をあたしに渡し「よっ!リナちゃん!その色男しっかり捕まえておきなよ」と小声で囁いた。
「はん!もうとっくに捕まってるさ」ラメ男に軽く返すガウリイの顔した男…。
えーっと…つまり、そのぉ…、聞こえてた? ぶっちぎりの絶叫だったし…(大汗)。
それからどーやって宿にもどったかあたしはさっぱり記憶にない。
元の世界に戻る船の甲板に現実逃避のリナちんと始終世話やく男がいて…、誰も側には寄りつけなかったそうな。















end.



この感想をそーら経由でご本人にメールしましょう♪