「絶叫される!」
〜Version.G〜




いつの間にか夏になっていた。

ボルフィードも異界に還り、オレは光の剣を奴に渡し、正直ホッとした気持ちだった。だが、次の瞬間にはひどく後悔した。
光の剣を失ってリナがオレと一緒にいる理由が消えた事を、なにより彼女を守る手段が無くなった事を彼女は一体気がついているのだろうか?
世界高いところ巡りをしていたアメリアがセイルーンの捜索隊に捕まって強制連行されたのが4日前、その翌々日にはゼルガディスが大陸奥地の遺跡を目指して出発した。
それを見送るリナはひどく心細げにみえた。その一方でオレは現実を直視し始めた。
オレは用済みで、リナの足手まといに成り下がっている、と…。

元の世界に近い場所の海岸で、オレとリナは行き暮れていた。

この世界はまったく勝手が違う、まず物騒な魔族がいない。リナの悪名もここまで届いていないせいか狙われる事もない。
 安全な場所、平和に流れる時間。
今懐が寂しいが、リナの盗賊いぢめを止めさせて、オレが合法的に稼げばきっと…、きっと…。
いや、だめだ。 ここには何にも無い、リナが目を輝かすマジックショップも、資料を漁る魔道士協会も。きっとリナは退屈で死んでしまう、回転し続ける独楽が止まると立っていられないように。
でも、元の世界に帰ったら、危険に飛び込む彼女をどうやって守る?何の名目で?光の剣ぬきで?
彼女の水着姿が追い討ちをかける。もう保護者は不自然なんだよ、リナ お願いだから成長を止めてくれ。
薄い肉付きの背中を上着で隠す、なにより危険なオレの目から。
「平和だなぁ」ぽつりと呟く。「ここならずっーと穏やかに暮らせるだろう」死体みたいに静かに暮らすんじゃ意味ないかと苦笑する。
はっと見上げるリナの姿はいつも鮮明だ。細身の身体、触り心地のよい髪、人の目を射る紅いオーラ。上着なんて何の役にも立ちゃしない、リナ目当ての視線を片っ端から潰しにかかる。

風が変わって何かが揺れた。咄嗟に飛び出し舌打ちを打つ。リナを放してしまった。
やっとのことで突風で崩れかけた店を建て直した後、逃げようとしたのに売店のオバちゃんにしっかり腕をホールドされて、コテを握った鉄板の前。
あぁああああああリナはどこに消えたっぁああああ?

海岸で焼けども焼けども
イカ焼きの
尽きることなしお客様の列
(がうりい心の短歌)

水着姿のネーちゃん達は貪欲な食欲で、鉄板の前に長蛇の列。鬼教官のような不気味な笑みを浮かべたオバちゃんはオレの遁走を許すはずも無く…・。しくしくしく。

あの日、アメリアが国に帰る時リナはずっとアメリアを励ましていたっけ。
痛々しい笑顔のアメリアよりオレにはゼルガディスの無言の背中が痛かった。
アメリアを止める術がない自分の無力さを奥歯で噛み締めていた奴。 今にも泣き出しそうなアメリアの笑顔とともに渡されたアミュレットを平然と手にとり席を立ったゼルガディス。遺跡に向う奴の腕にアミュレットだけが色付きにみえた…。色褪せた世界を進むゼルガディス。…気分はもうゼルガディスの絶望に…。

「あんたの場所はあたしの隣!ないすばでぃのねーちゃんおっかけてないで、ガウリイもどってきてよぉ。」

ぶ…ぶっとんだぜー!リナ。

天の声にしちゃあキンキン響くが、黄昏てるヒマなんかないっ!3倍速でイカ焼きを作ってやるっ。
なんとか探し出したリナはもういつもの魔道士姿だった。ふぅー危なく逃げられる所だったか。

後ろから羽交い絞めにしたらきっちり腹にえるぼーをいれられた。
「どっ、どこにいってたのよっ!このクラゲ!」
「突風で倒れかけた売店を立てなおして、ついでにそこの臨時バイトにスカウトされて。バイト終ってリナ探してたら道に迷って…」どれだけ探したか、どれだけ気を揉んだか、言葉にすればきっと突風より疾く逃げる少女。
「で、これがバイト代と残り物だが…」オレは箱一杯のイカ焼きを持ち出した。
少し冷えたイカ焼きは店のオバちゃんがオレに呉れた昼飯だった。リナが箱一杯のイカ焼きを夢中で食べ終えた。「よっぽど腹空かしてたんだな」とオレは言った。
「あ、ゴメン。全部食べちゃった。ガウリイ食べてないんじゃない?」
「いいさ、バイトの間中その匂い嗅いでもう食傷気味だから」そういって笑う。
イカ焼きを平らげてリナの瞳にちらちら覗いていた弱気な影が溶けていた。これでいいさ。
「さて、腹もくちくなったことだし、宿に帰るとするか。」当たり前みたいに隣に付く。

彼女の頭をポムと撫でる、なんだか安心する。無敵だった光の剣を失くしても、無敵の光が導いてくれる。
「元の世界に還ろうな」ぽつりと呟いた。例えどんな危険が待ち受けようとこの光だけは手放せない。
「うん、一緒に帰ろうね」と、リナが答えてくれるなら。

宿屋に帰る途中、催し会場のお立ち台の前を通りかかった。ラメ服の男がすっ飛んできて、押し付けるように一等賞金をリナに渡し「よっ!リナちゃん!その色男しっかり捕まえておきなよ」と小声で囁いた。
「はん!もうとっくに捕まってるさ」ラメ男に返したオレの軽口にリナはきっちり固まった。
「優しくしてやんなよ!色男!」のからかいもきっとリナの耳にとどいてないだろうなぁ。
ぜんまい仕掛けの人形みたいにギクシャク歩くリナの手を引き宿屋に戻る。

今しばらくの平安を、血生臭い元の世界に還るまで、この日を輝く思い出に昇華するまで・・・。

元の世界に戻る船の甲板に現実逃避のリナちんと始終世話やく男がいて…、誰も側には寄りつけなかったそうな。


















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