『手と手は伝える…テツダエル』



 「えええええっ?!そ、そんなああああああ・・・・!!!」

 「ア、アメリア、そ、そんな大きい声上げなくても。」
あたしは思わず横で絶叫するアメリアの口を押さえた。
「もがっ!がっげぎががん、じばざだだじじゅっでんでずが・・・。」
「わかった!わかったから、もっと小さい声で話してよ。」
呆れ顔で手を離し小声でささやく。

 ぜいぜいと息を切らせてアメリアがあたしを睨みつける。あ、怒ってる?心なしか声のトーンが低い。
「リナさん。自分が何言ってんだか判ってるんですか?」
「そりゃ、ま、自分でいってんだから判ってるつもりだけど・・・。」
心なしか語尾が曖昧になる。

 「判ってません。全然わかってません。よりによってなんで今日、この時なんですか!もう、ここまで来るとリナさんだけの問題じゃないんですよ。ほら見てください。あんなにもうご来賓の皆様方おいでですよ。どうするんですかあ・・・。」
「だから、ごめんって。」
「ごめんじゃありません!第一ガウリイさんが可愛そうです。」
可愛そう・・・、か。あたしは言葉に詰まる。

 改めてあたしは鏡に映る自分の姿を凝視する。あたしは白いドレスを着ている。天使の羽って見た事ないんだけど、もしあるとしたらこんなんじゃないかな?って思えるほどのふわふわとしたレースをふんだんに使ったドレス。少し広めの胸元にはやはり花に形どったレースをあしらってある。頭には真っ白なベールをつけ、手にはやはり色々な種類の白い花であしらわれたブーケ。そう、あたしは花嫁衣裳をきているのだ。相手は言わずと知れた、あたしの元保護者氏である。

 半年ほど前に、つらい戦いがあった。あんな思いをするのならもう二度と魔法を使いたくないと思わせるほどの、悲しい戦いだった。その後、あいつは言ったのだ。
――“お前の実家に行こう。”
あいつの事だから、あの脳みそがヨーグルトで溢れているガウリイの言う事だから、さした理由もあるはずはない、と自分で予め心に鍵をかけて向かったゼフィーリアだった。ところが、どう言うわけか、あいつはすっかりあたしの実家で気に入られ・・・そう、あの姉ちゃんにして、
「ま(はあと)、リナの面倒を見てくれそうなひとが現れて良かったわね。」
なんて言うもんだから、父ちゃんと母ちゃんはすっかり本気モードに突入してしまった。ただニコニコとして成り行きに身を任せているガウリイと唖然としているあたしを残して話はどんどん進み、今日のこの結婚式当日に至ったと言うわけだ。
 美しい色とりどりの花々で飾られた会場にはもうすべての支度が終えられて招待客を迎えんとしている。あとは、教会へ行き、無事に式を済ませてくればそれでいい。

 でも、いくない。あたしはいくない。あたしの気持ちなんて誰も構っちゃくれなかった。こんなの取り消しよ。そう、だからあたしは言った・・・
「ちょっと、今日はやめにしない?」
って。それで、さっきのアメリアのあの絶叫となったわけだ。

  少し興奮が収まったのか、アメリアが静かな声で尋ねた。
「好き・・・じゃないんですか?ガウリイさんの事。」
「え゛?そ、そりゃ・・・嫌いじゃ、ない、わよ。」
「好きなんですね。」
あ、そんなに顔近づけなくても。アメリアの脅威のドアップに思わずだじっとなる。
「う・・・。うん。」
「じゃ、なんで、“やめ”なんですか?」
「う・・・。じゃ、ちょっと考えさせて、ね。」
「可愛い子ぶってもだめです!一生の問題なんですよ。そのときの気まぐれだけで適当に変更しないで下さい。」
「一生の問題だから・・・考えちゃったんじゃない。」
声に力がなくなっていくのが自分でもわかる。結婚するのは嬉しい。誰よりも好きなヒトと一緒になれるんだもの。嬉しくないわけがない。でも、でもね。こういう事ってなし崩しに持っていかれてもいいもんなの?なんか納得できない。あたしにだって夢があったのに。心ときめく、胸踊るシチュエーションって奴。なのに、なのに、なぜ、こうドサクサにまぎれてヒトを片付けたがるかな?

 何も言わずに黙り込むあたしにそれ以上何もいう事が出来ずに途方にくれるアメリア。ごめんね、あんたを悩ましたかったわけじゃないんだけど。そう、そもそもあいつがいけないのよ、あいつが。
「とにかく、今日、結婚式やんない!もう、やめやめ。」
そういうと、あたしは頭のベールを取り、綺麗に結い上げられた髪を解きにかかった。







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