「見えない未来(あした)、気づかない現在(いま)」




村を出てから、数時間と経たないうちのことだった。

「ここね。」
あたしとアメリアが見つけたのは、真新しい崖崩れの跡。
そこだけ緑が失われ、白茶けた土と大きな岩が露出している。
空中に浮かび上がった空気の球の中で、あたしとアメリアは頷きを交わした。
ぽんと音を立てて、アメリアが魔法の光を打ち上げる。
地上隊にこちらの位置を知らせるためだ。

地面に目を凝らしてアメリアは、突然ある場所を指差した。
「・・・ねえ?あれ・・・・
石のドームみたいに見えない!?リナ!」
半分土に埋もれて、人工の建造物らしいものが露出していた。
完全な円形をしている。
「どうやら当たりみたいね。
前回の崖崩れで一度埋まって、今回でまた出てきたってとこかしら。」
「じゃあ、レゾの・・・?」
「ええ。」
「村長に聞いた場所とも一致するわ。
おそらく、レゾの作った研究施設の一つだったんじゃないかしら。
・・・そうだとしたら、今回のことは辻褄が合うのよ。」
「どういうこと!?」
「ん〜〜。王女で巫女のあんたは、知らないと思うけど。
魔道の世界もせちがらくてね〜。
人の研究を盗んで、自分のものにしちゃおうとか。
研究の材料だってバカ高いものが多いから、盗んで売り飛ばしちゃおうとか。
そーいう上前をハネようとする輩もいるのよ。」
あたしは手をぷらぷらと振って言った。
「当然、魔道士だって自分の研究を守りたい。
でも人手がない。
ってことで、給料も食事も必要ないアンデッドを護衛に使うのは、よくある手なのよ。」
「へ〜〜〜〜〜〜。」
大袈裟に感心するアメリア。
あたしは苦笑しつつ付け加える。
「・・・まー。さすがにデーモンまで召喚しちゃったあたり、さすがはレゾって言ったところかしらね。」
「やっぱりレゾって、凄いのね。」
「そゆこと。」

アメリアは腕組みをしたが、やがて首を傾げた。
「・・・確かに、研究施設をアンデッドに護衛させてたなら。
何年たっても、建物の中に残ってた可能性はあるわね。
崖崩れで一度埋まったけど、また建物が外に出てきたんで、そいつらも一緒に出てきちゃったのね?」
あたしはしばらく考えて、首を横に振った。
「ううん。普通は命令されない限り、施設からあまり離れないはずよ。
目的は施設の警備だから、うろうろ出ていっちゃ困るでしょ。
でも、それが近隣の村まで襲うようになったってことは・・・。
制御のタガが外れたんじゃないかしら。」
「・・・でも・・・制御してたはずの、肝心のレゾはもう・・・」
事情を知っているアメリアがあたしを振り返る。
「ええ、もういない。
レゾの恐ろしいところはここよ。
自分がこの地を去っても施設を守るようにしただけじゃなく。
自分の死後もその効果が続くように、なんらかのシステムを確立していたってこと。
とんでもなく大掛かりで、とんでもない魔力が必要よ。
そんじょそこらの魔道士にできる技じゃないわ。
彼はたった一人で、何年も続く永続魔法を生み出したってことなんだから。
・・・やっぱり伝説の赤法師は、伊達じゃなかったってことね・・・。」


今でもはっきりと浮かぶ当時の記憶。
全身を赤い衣で包んだ、各地で崇められていた賢者。
この世の叡智と魔道を極めたはずだった。
ただひとつ。
彼がなしえなかったこと。
それは、生まれつき見えなかった己の目を癒すこと。

彼はそれに心血を注ぎ、そして。
たくさんの命までも注いでしまった。
そのために、魔王の中の魔王、シャブラニグドゥの分身を復活させようとまでして。

彼のしたことを、その一言で許すことはできないが。
・・・・哀しい人。
それだけは確かだ。


 
ギョァアアアアアガガッッ!!!!
 
思いを撃ち破るように、眼下の森から雄叫びが上がった。
土煙が上がり、続いて赤い火が目に飛び込んでくる。
「行くわよ、アメリア!」
「ええ!」
このままでは、地上隊が巻き込まれる。

あたし達は急降下し、樹上で一旦、風の結界を解いた。
一気に自由落下に切り替わり、途端に重力が生じて、地面へとまっさかさま。
そのスピードの中で。
「風烈球(エアロ・ボム)!」
レッサーデーモンの放った火矢を吹き飛ばす呪文を、あたしが。
「消火弾(エクスト・ボール)!」
周囲の木に燃え移った、火を消す呪文をアメリアが唱える。
続いて浮遊の呪文。
地上まであと少しのところで落下が止まる。
二人、無事に着地。

事前に打ち合わせをしなかったのに、なかなかのコンビネーションだ。

「デーモンはあたしが!アメリアは・・・」
「餅は餅屋ってことね!任せて!」
木々の間から、キシキシカシャカシャと音を立てて、複数の敵が近寄ってきていた。
空中から目星をつけた場所に向かって、引きつけるようにあたし達は走り出す。
 
ガァアアアッッ!!

地響きを立て、木をなぎ倒して角をはやしたデーモンが追ってきた。
アメリアを先に行かせ、あたしは振り向きざまに呪文を放つ!

「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!」
 
ざあぁっ!
 
デーモンと周囲の木が数本、黒い球体に飲み込まれて塵と化す。

だが、アンデッドに恐怖の感情はない。
怯むことなく、スケルトンが剣をかざして突っ込んでくる。
「リナっ!」
アメリアの合図で、あたしはすっと脇によける。

「浄化炎(メギド・フレア)!!」
 
シュァッ!!
 
白魔法である破邪の呪文は、アンデッドに直接ダメージを与えることができる。
力をなくしたスケルトン達が一気に崩れ折れ、そこに骨塚を作った。
「姫っっ!!」
背後から大勢の人の気配と、かけ声がかかる。
どうやら地上隊が追いついたようだ。
「ここは我らが!」
「お願いっ!わたしとリナは先行するわっ!
手の空いた者は遠回りして追いかけてきてねっ!」
「御意!」
「行きましょっ、リナ!レゾの研究施設へ!」
振り返ったアメリアが、あたしに手を差し出す。
「ここからは油断できないわっ!
わたしが監視するから、飛ぶのはリナに任せるわね!」
「・・・おっけー!」
アメリアの手を握り、あたしは翔風界の呪文を唱える。
 

仲間がいるというのは、心強い。
あたしは今回のことで、それを強烈に思い知らされた。
もしあの時、アメリアが駆けつけてくれなかったら。
そんなことは絶対に考えたくない。
今も、目が見えないガウリイを置いて出てくることだって、一人じゃできなかった。

どんなに強くたって、人は一人で全てを解決することなんてできやしない。
たとえ魔王の力を借りたって、できないことはたくさんある。
でもそこに、頼りになる仲間が、誰かがいれば。
絶望に閉ざされた視野だって、自然に開けてくる。

・・・レゾ。
彼にも、そんな誰かがいたら。

彼の瞳にも、世界が別の形で映ったかも知れない。
屠るだけの犠牲者でなく、慈しむ人々として。
・・・そして。
その強力な技と魔法を、他のことに役立てることができたなら、きっと。
哀しい結末以外の、未来(あした)を築けたかも知れないのだ。

・・・それともいたのだろうか、そんな人が彼にも。
そして彼は気づかずに、見ようともしなかっただけかも知れない。
過去でもなく、手に入らない未来でもなく。
現在(いま)すぐそばにある、大切な何かに。





























〜〜つづく〜〜〜



遅くなりました!(滝汗)久しぶりにスパコミに参加したのでいろいろバタバタしておりました。

おまけにすいません(笑)ガウリイまた出ません(汗笑)
たぶん次回も・・・その次くらいにはたぶん!

スパコミでは、開会前に東日本大震災の被害に遭われた方へ、一分間の黙祷が捧げられました。
すごく賑やかだった会場が、一気に水を打ったようにしいんとなった様は胸が熱くなりました。

いつも思いますが、基本的に同人をしたり買ったりする人達って、みなさん心の優しい人ばかりなんですよね。イベントで不愉快な思いをしたことは、ほとんどありません♪それどころか、困っているとさっと助けに入ってくれる人もたくさんいます♪

今回も新刊を出しました。
地震で停電して、パソコンを使えない状況になった時。
やっぱり本がいい、本なら読めるといったお話をいくつか聞きまして。
以前から作ろうと思っていた、持ち歩けるそらりあむを目指した短編集にしました。この読書室からも何本かチョイスしています。

通販も開始したので、興味のある方はこちらからどうぞ
復興義援金として売り上げを全額寄付する特別パックも作りました。

イベントでも一つ売れたので、本日¥2000を寄付させていただきました。
寄付は今度で二度目です。



ジャパンネットバンクを利用していますが、義援金への寄付は振り込み手数料無料です。
現在の状況はこんな感じです。

義援金の受付状況(2011年5月16日現在)件数27,395件 金額292,108,074円
第1回送金(2011年4月21日実施) 246,465,912円

なんでもいいから、まずできることを。
と思っています。





<感想を掲示板に書いて下さる方はこちらから♪>

<感想をメールで下さる方はこちらから♪>