「見えない未来(あした)、気づかない現在(いま)」



しばらくして、同時に離れる頃には。
外がにわかに騒がしくなっていた。

ガチャッ!

玄関のドアが開く音がした。
「!」
我に返ったあたしは、自分の状況に気がついた。
開け放した窓際で。
自称保護者のガウリイに子供よろしく抱っこされたまま。
・・・今のいままで・・・

「ぐぎゃぎゃぎゃっ!!」
「・・・どうした?いつもだけど変な声出して・・・」
「どっ・・・どうしたじゃないわよっ!!
いっ、いいから下ろしてっ!!」
「なんで。」
「なんでって・・・!!!」
きょとんとした顔のガウリイにわなわな震えると、彼はくすりと笑ってあたしの頬を突いた。
「お〜、いつものリナだ。真っ赤っか。」
「!!なっ・・・!?」

コンコン!

「ガウリイさん・・・?」
そろそろとドアを開く音と、小さなアメリアの声がした。
けれど、あたしの耳には届いていなかった。
「っ・・・っ・・・っ・・・」 
まじまじとガウリイの顔を凝視して、それから口をパクパクさせていたからだ。
「どうしたんだ、リナ?」
「リナ・・・?どうかしたの・・・?」
おそるおそる声をかけるアメリアに、あたしは全く気がついていなかった。
両手でがしっとばかりに、ガウリイの顔をはさみこむ。
「あああんた・・・ままままさか・・・・」
「まさか?」
「みっ・・みっ・・・みっ・・・」
「ああ。」
ガウリイはなんてことないという顔で、にこりと笑った。
「見えるのかって?・・・・見えてるけど?」

「ぬ・・・ぬぁんですっってえええええええ!?!?!?!?!」

 
あたしが無茶苦茶に暴れ出したのも、仕方のないことといえよう。
なにがどーしたって、ふんとにほんとにまったくもう、
この男ってば!!!!!!
 
「いいいいいいったいいつからっっっ!?!?!
大体、何で言わないのよっっ!?!?」
「待て、落ち着けって。」
「これが落ち着いていられますかっての!!!!
じゃ、じゃあ、さっきのあたしの一世一代の決心は!?!?」
「だから今、話す・・・
こら、噛みつくなっ!首を絞めるなっっっ!」
「がるるるるるるっっ!!!!」

こほんっ・・・

「あのう・・・リナ・・・?
お邪魔みたいだけど・・・ホントよ。ガウリイさん、ちゃんと見えてるわ。」
咳払いのあと、背後からアメリアの声が聞こえた。
 
っっくううっっぅ!!
 
あたしは慌てて振り返る。
何故か顔を赤らめて、頬をぽりぽりかいているアメリアが立っていた。
「あの後、村に帰ってきてからすぐ治療師にも診てもらったでしょ。
その時にわかったんだけど、視力は完全に戻ってるそうよ。」
「!!なっ・・聞いてないわよ!?」
「話せなかったのよ。
だってあなた、自分の治療をそっちのけにしてたでしょ。
だから体力がもたなくて、いつのまにか気を失ってたのよ。
そのまま、回復呪文はかけたけどね。」
「・・・・!」
ぐるっと振り向くと、ガウリイは肩をすくめて見せた。
「あなたはそのまま眠ってしまったから、話す暇がなかったのよ。」
「そっ・・・そーいえば・・・」
蘇生したガウリイを村へ連れて帰って、治療師に診てもらって・・・
そこから先は、記憶がない。
アメリアがとんとんと自分のこめかみをつついた。
「視力が回復した原因は、たぶん、なんだけど。
増幅を使ってかけたリザレクションが、思いのほか効いたってのもあるんだけど。
ほら、今回ガウリイさん、かなり頭から出血してたでしょ。
前回受けた傷の時、もしかしたら頭の中に血の塊ができてたんじゃないかって。
それが破れて、流れ出たとしたら。
血の塊が目の神経に影響を与えてた証拠かもって。」
「そ・・・そんなことが・・・?」
「そうよ。わたしだって、もっと早く話してあげたかったけど。」
何故かアメリアがにやりと笑みを浮かべた。
「話す暇がなかったってのが本当のところよ。
だってあなたってば、ガウリイさんのベッドから離れなかったでしょ。
意識がなくなってもずっと、毛布を離さなかったのよ。
・・・だから、ガウリイさんがそのまま寝かせておけって。」
「!」

ぐる、ぐる、とあたしはアメリアとガウリイの顔を見比べた。
アメリアは今や、公然とにやにや笑いを浮かべていた。
「まーともかく、ガウリイさんは助かったし。
目も治って、騒動の原因もわかって、一件落着じゃない!
・・・いや〜〜、人生、何が幸いするかわからないわねえ?
いろいろと。
・・・ねえ、リナ?」
「!!!」
ようやくあたしは、そのにやにや笑いの意味に気づいた。
ガウリイの目が治っているという衝撃の事実に気を取られ。
・・・忘れていたのだ。
まだ自分が、ガウリイに抱っこされたままだったことを。
「じゃ、馬に蹴られる前に退散するわ。
みんなにも、しばらく放っとくように言っておくから。
・・・二人でごゆっくり。」
「アメリアっっ!!!!」
 
ばたんとドアが閉まる音の向こうで、くすくす笑いが聞こえた気がした。


「あ・・・あ・・・あ・・・」
かぁああああああっっっ!!!!
さっきはまるで自然だったと思えたことが、今はとんでもなく恥ずかしい。
「・・・どうする?」
肩をすくめたガウリイまでが、こんなことを言ったので、あたしは。

どがぁああっ!!!

思いきり蹴飛ばすようにして、その恥ずかしい状況から脱出した。
「うぐっ!」
ガウリイが盛大に呻いた気がするけど、それは聞こえなかった方向で。

背中を向け、腰に手を当て。
深呼吸して、インターバルを取る。

それから振り向いて、あたしはガウリイにいつものように笑いかけた。
「どうするもなにもないでしょっ!?
今やることといったら、たった一つよ!」
「一つ?」
ガウリイも予期したような笑みを浮かべて聞き返す。
あたしは軽くウィンクを送って、装備をひとまとめに置いたテーブルに足を向ける。
「とーぜん!
元気になったら、お仕事お仕事!
残ってるもんちゃっちゃと片付けて!
貰うもん貰いに行かなきゃね!!」
あたしはびっと親指を突き上げ、ドアへと向かった。
背中越しにガウリイが答える、待ち焦がれた声を聞きながら。
「・・・おう。
まだまだ、先は長いからな。」
 
 






















-------------------------おわり。


たいっへんお待たせしました・・・・。ようやく終わりました。
無事にガウリイは生き返り、いつものようにハッピーエンドで終わらせることができました♪
最後まで読んで下さり、ありがとうございました♪

今回のラストは、ちょっとセリフに気をつけて書いてました。
芝居くさい決めゼリフじゃなくて、普段の会話の言葉にしようと。
だからガウリイがあまり格好いいセリフ言いませんが、等身大の二人っぽくなったかと思います。
何度も書き直したので、時間がかかってしまいました。

では、ここまで読んで下さったお客さまに、愛を込めて♪
今、一番恐いことはなんですか?
もしかしたらそれが、一番大事なものと直結してるかも知れませんね♪
そーらがお送りしました♪

後日談をつけてお別れです♪




 
 
 




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 
 
 
・・・これは後日談。
 
レゾの研究所は、全ての調査が終わった後。
また、土に埋めることになった。
どこからか白い花をガウリイが見つけてきて。
あたしはそれを手向けた。

二人で並んで小山のように盛り上がった土塊を見上げる。
「わずかな時間だったけど。
・・・ちょっとは、わかるぜ。」
レゾの心が。
と、ガウリイが言った。
「・・・そうね。」
あたしは頷き返す。
「想像もできないような、世界だったでしょうね。
・・・でも、彼が本当に欲しかったのが何だったか。
他の人間は、推測することしかできないけど。」
「・・・そうだな。」
ガウリイがあたしの肩に腕を回す。
あたしは目を閉じて、少しの間、その腕に体を預ける。

「・・・アメリアから聞いた話なんだけどね。
あんたを助ける時、普通の魔力じゃ足りなくてね。
拡張剤っていうのを使ったんだって。
魔力を秘めた宝石のことなんだけど。」
「・・・それが?」
「うん。
村から持ってくるのは間に合わなくて・・・。
偶然、レゾの研究所から発見したのを使ったんだって。
あたし達の後に、兵士達が来てたから。」
「・・・そうなのか・・・。」
「その拡張剤なんだけど。
魔力を高める、っていうよりね。
体力を回復したり、気力を高めたりするほうに主に使うのよ。
まあ、魔法は体力も気力もいるから使えたんだけど。」
「・・・・どういうことだ?」
「つまりね・・・。」

あたしはガウリイに話した。
この神殿のような場所に飾られた、本物と見間違うほどの高度な絵の数々のことを。
あの緻密な絵を描き続けるには、相当の時間と気力と体力が必要だっただろう。

「誰だかわからないけど、その絵を描いた人ってのが使ってたってことか?」
「・・・うん、まあ、そうなんだけど。
あたしは、こう考えてるの。
もしかしたら、よ。
絵を描いた人物と、拡張剤を作った人間は違うんじゃないかって。」
「ええと・・・?」
「拡張剤を作れる人間は、相当の知識と魔力がないとダメなのよ。
・・・だから。
作ったのは、レゾじゃないかって。」
「・・・そうか・・・。」

何故だか、そう思えたのだ。
目が見えない彼のために、絵を描き続けた人。
そしてその誰かのために、拡張剤を作った彼。
もしかしたら、レゾだって。
目は見えなくても、傍にいる人間に気づき、思いやる視線は持っていたかも知れないと。

そしてもし、その気持ちを忘れずにいたら。
彼は魔王にはならなかっただろう。

「・・・目が見えてたって、見えないことだってある。
気づかないことだって、あるよね。」
脈絡のない言葉を言ったあたしに、ガウリイは問い返さなかった。
「そうだな。」
それだけ言うと、ぎゅっと肩を抱く腕に力を込めて、あたしの頭をくしゃくしゃにかきまわした。
「その中に、大事なことがたくさん詰まってることだってある。
オレ達はそれに気づけただけ、幸せだってことだ。」
「・・・・・!」
思わずつんのめりそうになったあたしに、ガウリイが笑いかける。
抗議しようとして、それはやめて。
あたしも微笑み返す。
「そ、ね。」
「!」
てっきりやり返されると思ったのか、ガウリイが少し驚いた顔をして。
それから、くしゃくしゃになった頭を、両手で優しく撫でつけると。
少し真剣な顔になって。

長身の彼にしてはうまく体を折って。
背伸びをしてないあたしにキスをした。

「さあ、行くか。」
「行かいでか。」
「なんだそりゃ。」
「気にしないで。」





そうして、あたし達の旅は今でも続いている。
一歩一歩進みながら、時々走ったり、転んで怪我もするけれど。
時々立ち止まって、周りを見回し。
そして隣にいる人を、その隣を歩く自分を。
思うことを忘れないようにした。

気づいた現在(いま)のすぐ先に広がっている。
見えない未来(あした)を、見つけるために。




















 




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