「君を想うとき」


愛なんて言葉 くすぐったくて

扉の前で佇んだ 夜更けの宿屋

「仲間のまま・・・」いつか言ったけど

心は 動き出してた




「ゼロス!」
俺の声が、響きわたった。
「おや、お久しぶりぶりですね。どうしたんです?ゼルガディスさん。」
木の上から、舞い下りるゼロス。
「それは、こっちのセリフだ。」
俺は、柄に手が伸びる。俺の剣技が通用しないのはわかっているが、習慣がそうさせる。ゼロスを鋭く睨み付ける。
「いやだなぁ。そんなに睨まないでくださいよ。」
ゼロスは、食えない笑顔で俺を見る。
「こんなところで、日向ぼっこでもあるまい。」
警戒心をはりめぐらしたまま俺は、腕を組んだ。
「なかなか、お茶目な事いいますねぇ。ゼルガディスさん。」
笑顔をたたえたまま、俺の方に歩み寄るゼロス。
「誰かさん達の影響だ!!」
俺は、そう、言い放つ。
「アメリアさんですか?」
ゼロスの即答。
「なっ!」
俺の中の血液が、上昇する。
「いやぁ。面白いですね。」
「いったい、なんの用なんだ。」
血が頭に上っているせいか、いらいら感が、俺を支配する。
「ゼルガディスさん。このままでは、あなたは危険です。」
笑顔から一遍、厳しい目つきになるゼロス。
「なに!」
核心に近い一言に、俺は驚きを隠せなかった。
「気づいているのでしょ。ご自分の事ですから。」
「……………………………………」
わかっているだけに、何も答えられなかった。
「このままでは、貴方は、魔物と化してしまいますよ。」
「…………………。」
息苦しい、またか!まずい、このままでは。
「これは?!」
ゼロスの目が開かれる。
「ここまでとは。」
ゼロスの小さなつぶやき。
「くっ、はぁ、はぁ。」
自分が自分でなくなる瞬間。激しい鼓動と殺戮の衝動が、俺を突き上げる。
「ゼロス。」
すでに正常な意識を失っている、濁った俺の瞳。
「仕方ないですね。」
杖を、前に構える。
「くわぁああああああああ!」
剣を引き抜き、俺は、ゼロスに振り下ろす。
光を反射し、閃光がゼロスに向かう。
パシッ!
ゼロスの指先が、その剣先を受け止める。
「………………………。」
「………………。」
にらみ合う二人。
「やはり、脳が少しずつ汚染されてるんですね。完璧な合成人間(キメラ)を生み出すのは、人間には不可能なんです。」
「グルウウウウウ!」
奇妙な声を上げて、再び剣を振り上げる俺、意識は別の何かに飲み込まれていた。
「せい!」
掛け声とともに、何かを打ちだすゼロス。
俺の意識は、そこで切れた…………。




会えない夜が増えるたび

近くなる微笑みが 胸を包む



やさしく微笑む少女。
「アメリア!」
俺は、虚空に手を伸ばす。体が焼けるように痛む。
皮膚が、どんどん生え変わるような感覚。
内側から、何かがはじける。
どこからか、力がかかり、全身を強制的に脱力させられる。
俺は、意識を闇に沈める。
会いたい少女の事を、もう一度思い浮かべながら。




ありふれた言い方かもしれない

君を泣かすかもしれない

だけど変わらず 守り続けるよ

Yes,Two of us Yes,We can fall in love




「気がつきましたか?」
いつもの笑顔で、寝ている俺を見下ろしているゼロス。
はっきり言おう、この笑顔は嫌いだ。しかも寝起きに見せられるとは……。
「ここは?俺はどうして??」
そうだ、俺は最近体を襲う発作になって、それから…………。
「気分はどうです?」
思考に落ち込んでいた俺を、その一言が呼び止める。
「いつもと変わらんが?なっ!」
俺の視界に手のひらが映る。まさか、どうして!!
「とても残念なんですが、ゼルガディスさん。あなたは、ただの人間になってしまいました。」
さも、残念そうに、大きなため息をわざとらしく吐くゼロス。
「どういう事だ!ゼロス。」
俺は、妙に重い体を引き起こすと、ゼロスの方を見る。
不思議そうな顔をしたまま、
「嬉しくないんですか。僕は、前の合成人間(キメラ)の方が良かったですけどね。」
ゼロスが、俺にそう言った。
「かってに言ってろ。」
吐き捨てるように、俺が言う。
「どうですか、人間に戻った感想は?」
「関係ないだろう。」
俺は、完全に立ち上がり、そう答えた。
「そんなぁ。せっかく、僕が人間にもどしてあげたのに。」
「本当か?」
「そうですよ。」
「なぜだ!」
俺は、大きく手を横に薙いだ。
「獣王様(お母様)が、貴方の事を話したら、気に入りましてね。いやぁ、魔物になりそうだと御伝えしらたら、それは面白くないとおっしゃったんで、僕に人間に戻してあげるよういわれたんですよ。はははは。」
「…………………………。」
「まったく、獣王様(お母様)の気まぐれにも困ったものですよ。」
やれやれ、といい言いたげな表情を浮かべるゼロス。
「…………………。」
「それでは、そろそろおいとましますね。これでも、結構忙しい身なんですよ。」
また、いつもの笑みを浮かべ、宙に浮く。
「あぁ。」
俺は、そう、うなずいた。
「もう、会う事は無いと思いますが。」
「お前に俺も会いたくはないな。」
そう、言いきってやった。
「ひどいですねぇ。では、アメリアさんによろしく!」
苦笑いを浮かべつつ、ゼロスは消えた。
「なっ!!」
ゼロスの消えたその場所を見つめていた俺。すぐそばに置いてある荷物を握り締め、洞窟の外に歩き出した。
空は、青々を広がっていた。




もしも二人が 出会わなければ

どんな今を過ごしてただろう

同じように 飾らない気持ちで

この道を 歩いていただろうか




俺は、丘を駆け上がった。蒼い空。白い雲。そして眼前に広がる街。”セイルーン”
「帰って来た。」
可笑しかった。自分が。流浪の旅を続けていた俺が、”帰って来た”という言葉を吐いた事が。
この景色を最後に見たのは、わずか二年ほどだったが、随分経った気がする。
あいつの顔が、懐かしく思えた。だいぶ女らしくなってるだろうか?
たぶん、あの性格は直ってないだろう……。
人に会う事をこんなに楽しみにしている自分が、ひどく可笑しかった。
「お前のせいだからな。」
はにかみながら、瞳の先に映る城に住む少女に向かって、つぶやいた。




ささいな嘘もつく事もあるだろう

でも君を想ってる どんな時も


抱えきれない明日があるなら

思うまま今日を歩けばいい

そう きっとうまくは言えないけど

・・・・・・・・・・・・・・・・ 嘘ジャないさ




俺と、すぐに分かるだろうか。たとえ俺がどんな姿だろうとあいつはなにも気にしないだろう。あの笑みで、俺を迎えてくれる。
日よけのフードを外し、俺は、足早にセイルーンを目指す。もう、人に、自分の顔を隠す必要はない。
緩やかな風が俺を撫でる。髪が風になびく。心地よかった。


− 風の日には風を 抱いたらいいさ −


俺は、セイルーンに入るとまっすぐ王城に向かう。

「止まれ。王城に何用か?」
真面目な衛兵が俺を呼び止める。
「セイルーン第二王女、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンに、ゼルガディス=グレイワーズが、会いに来たと伝えろ!」
俺は、にやりと笑った。
「何?貴様、王女様を名指しで呼ぶとは!!」
すごい剣幕で俺を睨み付ける衛兵。
「いいから、早くしろ。命が惜しければな。」
凄みを効かして、俺は睨み返した。当然衛兵は、しり込みしている。
「どうした!」
芯の入った声。
「衛兵長!」
衛兵の声の先に、厳しい顔つきの男が現れた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
俺と、衛兵長と呼ばれる男の視線が合う。
「わかった。城に伝令しろ。」
男は、そうさらりと言った。俺は拍子抜けしていた。揉め事は厄介だが、これほどの男なら手合わせしたいものだ。
「しかし、衛兵長。」
他の衛兵が、衛兵長に詰め寄る。無理も無い。押し問答している人間の事を、城に伝えろと言っているのだから。
「お前達が、全員でかかっても彼には勝てまい。」
「・・・・・・・・・・わかりました。」
苦虫を噛む思いだったのだろう、俺を一瞥すると、若い衛兵が足早に王城の中に消えた
「ところで、貴公、自分をゼルガディスと名乗られたが、その名の者は合成人間(キメラ)ではなかったか?」
「…………関係ない。と言いたいところだが、これが俺の本当の姿だ。」
会話は、そこで途切れ、沈黙と風が流れた。

「ゼルガディス殿。」
さっき王城に行った衛兵が、やや、息を切らして俺の前に立つ。
「アメリア王女様が御会いになるそうです。至急こちらへ。」
俺の言葉を待たずに、衛兵は踵を返す。俺はその後をついていく。

「ここで、お待ちを。」
城に入ると、衛兵の変わりに女官に案内されて、俺は部屋に通された。
ただっ広い部屋。装飾品がところ狭しと並んでいるが、興味はない。
どのくらい待っただろうか。ずいぶん長い間か?それとも本当は短い時間だったかもしれない。
そのドアが開くまで俺は、ただ黙っていた。

そして、
「ゼルガディスさん?」
聞きなれた声。二年間離れてても忘れなかった声。
「ああ。」
ドアを開けた少女に、俺はそっけなく答えた。




ありふれた言い方かもしれない

君を泣かすかもしれない

だけど変わらず 守り続けるよ

Yes,Two of us Yes,We can fall in love

この大地に生まれ 俺達は出逢い ここにいる

そう きっとうまくは言えないけれど

Yes, I love you 嘘ジャないさ




「ゼルガディスさん!!!!」
少女は、俺の胸の中に飛び込んだ。
「おっと。」
俺は、両手でしっかりと受け止めた。
「ずっと、ずっと待ってました。」
涙を浮かべ、俺にすがり付くアメリア。ふくよかな胸の感触が、俺の心臓にいつもより血液を早く送る。
「悪かった。随分待たせたな。」
アメリアを落ち着かせるために、そっと頭を撫でる。
髪型は、以前と変わらない。伸ばすかと思ってたが、どうやら、アメリアはこの髪型が気に入ってるみたいだ。たぶん。
「そうです。二年も待たせるなんて!」
「ほんとに悪かった。」
頭を、無意識に撫で続けている俺。
「……………………。」
「どうした。」
「………変です。」
ぽつりと一言。
「なに?」
「変です。ゼルガディスさんらしくないです。」
「俺らしくない?」
「だって、こんなに優しいんですもん。」
顔を赤らめて、そんな事を言うアメリア。
「…………………。」
俺も、つられて顔が朱に染まる。

「本当の、ゼルガディスさんってこんなんだったんですね。」
俺の頬に手を添えるアメリア。
「だいぶイメージと違うか?」
「いえ、その……。」
どうも、歯切れが悪いアメリア。
「どうした。」
「その、こっちの方がカッコいいです。素敵です。」
消え入りそうな小さな声。
「アメリア。」
俺は、その一言に後押しされたのか、ゆっくりと、距離を縮めて行く。
「………ゼルガディスさん。」
ゆっくりと、とてもゆっくりと、俺達の唇が重なった。





俺は、唇が離れる瞬間小さく呟いた。

I'm lovin' you・・・・・


































後書き


ゼルアメ小説なかなか難しかったです。
なんせ、ゼルが上手く喋らない(笑)
ゼルのカッコ良さは、さりげなくなんですけどね。
僕では、上手くは、行かない物です。
今回は、とある歌手の歌の歌詞織り交ぜました。
聞いてて出来上がったのが、このお話なんです。
しかし、どうも、秋月の書くゼルアメは、アメリアの登場が少ないです。(爆)

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