Two on the road



広がる青い空。俺は、少し……いや違う。少しなんかじゃない。
絶対離したくないと思っている。隣に歩く少女の事を。
しかし、それは叶わぬ願いとも知っている。
「ここで、お別れだな。」
最後の丘を上ると、俺はそう言った。
「はい。」
二つに分かれる道。
片方はセイルーンに続く道。もう片方は…。
「ゼルガディスさん。」
「なんだ。」
俺は、そっけないく答える。
「また……会えますよね。」
「お前が望むなら。」
よく、照れずに言えた思う。
「……………待ってます。あなたの事。」
「……………じゃあな。」
決心が鈍る前に、俺は小さく手を上げた。
「はい。また、会いましょう。ゼルガディスさん。」
大きな瞳がうなずいた。
俺達は、そう言うと、振り向かず歩き出した。お互いの事を想いながら。







そして……………。二年後。

「ゼル!」
人が行き交う街中で、俺の名前を平気で呼ぶ声。この声は…。
「旦那。それにリナ。」
相変わらずの二人が、そこに立っていた。
「こんなとこで何してんのよ。」
リナが、眉間にしわを寄せている。久々に会ったのに、何をそんなに怒ってるんだ?
「何って。俺は自分の体が元に戻る方法を………。」
俺は、当然のように、言葉を吐く。
「じゃなくて!」
「?」
なんなんだ。まったく。
「ああ、やっぱり。」
額に手を置くリナ。
「なにがやっぱりなんだ。リナ」
「あんたね。さっき話たでしょ!もう忘れてんの?やっぱりくらげね。」
ギロリと、ガウリイを睨むリナ。
「いちゃつくんだったら、他でやってくれ。」
「!!!!!ゼル!」
「なんだ。」
「あんたね。アメリアが結婚させられそうな時に、なんで、こんな所居んのよ!!」
真っ赤なリナが、いきなり俺に話を振る?なに……。
「はあ。……!!アメリアが結婚?!」
あまりに現実味の無い言葉が口から出る。
「そうよ。」
真顔のリナ。どうやら、本当らしい。
「アメリが結婚……。」
俺は、もう一度繰り返した。
「来月には、盛大に婚約者のお披露めパーティーがあるそうよ。」
「そうか。」
だからって、どうなんだ。俺には……。
「そうか。じゃないでしょ!!あんたアメリアの事…」
聞きたくなかった。その先の言葉を、だから俺はそれを遮るように、
「俺には関係ない。」
そう言って逃げるように、俺は踵を返した。
「なっ!」
「じゃあな。」
俺は、手をあげて、その場から歩き出した。
「おい。待てよ、ゼル。」
いままで、一言も喋らなかった(ひょっとして、喋るタイミングが無かったからか?)ガウリイが俺を呼び止める。
「旦那まで、俺にアメリアの元へ行け。とでも言いたいのか?」
俺は、内心いらいらしていた。イライラしてる、どうして?わかってる。
言いようの無い焦りが、俺を支配している。
「そうだ。」
ガウリイは、短くそう答えた。その目は笑っていなかった。本気か?
「嫌だと言えば?」
緊迫した空気が俺達の間を流れる。
「力ずくでも連れて行くさ。」
ガウリイの右手が、剣の柄を握る。
「リナは、ここ何日間お前さんを探すのに苦労してたからな。」
空いている左手が、リナの頭に伸びる。
「が、ガウリイ!ばかっ!」
いきなりの事に、うろたえるリナ。髪が大きく跳ねる。
「いいじゃないか、俺のリナが、こんなに苦労したんだぞ!」
頭を撫でていた手が、そのままリナの肩を抱きよせる。
「ちょっとまてい!何時、あたしが、あんたの物になったってのよ!!」
ガウリイの腕の中でもがくリナ。俺はあきれてその様子をただ眺めていた。
「そんな、昨日もあんなに激しく、愛を語ったのに。」
「街中で、そんな事大声で言うなぁ!!!!」

スパァ〜ン!!!!!
ガウリイを、空高く弾き飛ばすリナ。そうか、ようやくこの二人の仲も進展したんだな。

「で、あんた達は、俺になにをさせたいんだ。」
あきらめた様な口調で、俺が言った。その言葉を聞いた瞬間リナがにやりと笑った。何か企んでるな。
「ゼル。あんた人間に戻りたいんでしょ。方法が見つかったわ。」
俺の予想を遥かに越える、答えがそこにあった。
「セイルーンに、人間になる方法がある・・・・・。」





時が、少し巻き戻って。
「リナさん。」
「どうしたの、アメリア。」
久々に、セイルーンに寄った、あたし達を待っていたのは、落ち込んだアメリアだった。
「その、最近、正義を示してないんで………………。」
「はっきり言ったら。ゼルに会えなくてさみしいって。」
「………………………………。」
はっとなって、うつむくアメリア。
「そ、そうなの?」
あたしは、どうしていいかわからず。思わず聞き直す。
「……………はい。」
小さくうなずくアメリア。赤く染まった頬が可愛かった。
「で、アタシにどうして欲しいわけ?」
「実は……………………。」
アメリアは、事の事情を話し始めた。

「でぇええええええええ。」
あたしは大きくのけぞり、思いっきり驚いた。
「リナさん。そんなに驚かなくても。」
玉汗を浮かべ、苦笑いを浮かべるアメリア。
「でも、結婚って言われてもねぇ。」
腕を組んであたしは、ため息をつく。
「そうなんです。父さんが、そろそろ婚約者ぐらい必要だろうって。」
うつむくアメリア。しょうがない、あたしが何とかしてあげるか。
「アメリア、あたしがゼル探して来てあげるわ。」
ウインク一つで、あたしはそう答えた。
「リナさん。」
ぱっと、花が咲いたように笑顔が、アメリアからこぼれた。
「連れてくるから、その後は自分で考えてよね。」
「そんなぁ。」
「しょうがないわね〜。わかった。アメリア……………………。」
あたしは、アメリアに頭に浮かんだ作戦を提案する。
「えぇえええええ!本気ですか?リナさん」
こんどは、アメリアが驚く番だった。
「本気よ。」
あたしは、小さくうなずいた。
その時、
「アメリア様。見つかりました。」
女官が、飛び込んできた。
「どうしました?」
慌てず騒がず、アメリアが言った。こういう所はお姫様よね。
「実は…………………みつかりました。異界黙示録(クレアバイブル)の写本が!」
「ええええええ!!!本当!!!!」
その一言に、あたしとアメリアは、目を見開いた。
「キメラの解呪の法が記入されているそうです。」
「ほんとう!」
女官の一言に、瞳を輝かせる、アメリア。
「アメリア。」
あたしは、喜ぶアメリアに声をかける。
「はい、リナさん。」
笑顔がこぼれるアメリア。
「これは、是が非でも、ゼル連れてこないとね。」
「はい!!!」
あたしの一言に、飛び切りの笑顔で、答えた。



扉の向こうには、入るタイミングを外したガウリイが、たたずんでいた。
「……………さて、準備でもするかな。」
ガウリイは、フッと笑って通路を歩き出した。
これは、当分忙しくなるだろう。
自分はただ、あいつが思うように動ける様にサポートすればいい。
愛しい少女”リナ”の姿を思い浮かべ、そう考えていた。





時間は、今に戻って、

「ハッ!」
俺は、城壁から飛び降りた。おいおい、いくら平和だからって、こうやすやすと城内に進入できるとは問題だぞ。
ま、あいつの事だ、賊が進入しても、追い返せそうだな。俺は、自分が笑ってる事に気が付く。
「……………。ほんとにここに在るんだろうな。」
照れ隠しともいえない独り言をつぶやく。
「早かったわね。」
背後からの声。
「誰だ!」
振り返るより早く!
「スリーピング(眠り)!」
相手の呪文が完成していた。
「し、まっ……た…………………。」
地面に倒れ込むと同時に、俺の意識は闇に沈んだ。




「ゼルガディスさん、ゼルガディスさん!!」
誰かが、俺を揺り起こす。視界がもとに戻っていく。そこには、
「アメリア!どうして!俺は、いったい。」
目をさました、俺は、体を起こす。
ここは?どこだ。ベットの上。広い部屋。女の子の小物が多い、どうやら、アメリアの部屋のようだ。
「リナさんに頼んで、城に忍び込んだゼルガディスさんに眠ってもらいました。」
きっぱりと、アメリアは、俺にそう告げた。
「なに考えてんだ。お前は。」
俺は、怒った。わざわざこんな事をしたアメリアに。
「だって、こうでもしないと、ゼルガディスさんは、私に会ってはくれないでしょ。」
アメリアは、思いつめたように、言葉を紡ぐ。
「!!」
俺は、思わず息を止める。
「異界黙示録(クレアバイブル)だって、きっと黙って持って行ったはずです。」
その一言に、俺は否定出来なかった。
俺は、アメリアには、会うつもりは無かった。
少なくとも、元の姿に戻るまでは。
でも、本音は、違っていた。リナに”アメリアが婚約する”と言われた時、俺は焦っていた。
今すぐに、会えない自分に。元の姿に戻れない自分に。
アメリアは、それでも構わないだろう。
でも、俺のプライドが、それを許さない。
ばかげてるだろうが、それは俺のアメリアの対する思いがあるから。
目の前の少女に、俺の気持ちを、本当の俺で伝えたかったから。
「ゼルガディスさん?」
黙り込んだ俺を、不安げに見詰めるアメリア。
「俺は、お前を傷つけたくない。だから、会わないんだ。」
本音を、俺はアメリアにこぼす。
「どうしてです?」
まいったなぁ。
「俺は、お前の事が、大切だから。」
テレながら、俺はそう言った。
「おかしいです、絶対おかしいです。ゼルガディスさん。そんなの間違ってます。」
アメリアは、立ち上がると、俺に向かって怒鳴った。
「間違ってる?」
「そうです、そんなの違います。私の気持ちは、どうなるんです?そんなのゼルガディスさんの身勝手です。」
一粒、涙が零れる。
「アメリア。」
「お願いです。私は、ゼルガディスさんと、一緒に居たいんです!!」
涙にぬれる、少女の願い。俺は、胸が締め付けられた。
アメリアは、俺の事真剣に考えてくれてたんだ。馬鹿だな。俺は。
こんなに俺の事考えてくれているアメリアを、俺の都合の言いように解釈して。
その寂しさに気がつかなくて。
「アメリア!」
俺は、両腕を伸ばした。
「ぜ、ゼルガディスさん。」
アメリアの驚きの声。
「すまん、アメリア。俺は、お前の事、何にもわかっちゃいなかった。」
絞り出すような声。
「ゼルガディスさん。」
アメリアは、ゆっくりと大きな瞳を閉じる。こ、これって、やっぱり。
俺は、ゆっくりと、息を呑むと、ゆっくりと、アメリアの唇に、自分の唇を重ねた。

時間は、ただ、ゆっくりと流れた。

「ゼルガディスさん。」
「どうしたアメリア?」
息がふれあう距離。アメリアは、何かを決意したように、
「ゼルガディスさんが、もとに戻る方法が、見つかりました。」
「本当か!」
俺は、しっかりと、アメリアの肩を掴んだ。
「その者を思う、清らかな乙女の血が必要なんです。」
と、アメリアの言葉
「なんだって!」
俺の心臓が脈打つ。
「清らかかどうかは、ちょっと自信ないですけど、私、ゼルガディスさんを…………………」
「やめろ!アメリア。」
俺の腕から離れるアメリア。
「いいんです。私、ゼルガディスさんの役に立てるなら、なんだって……………。」
いつのまにか、右手に握られているナイフ。
「そんな事するな!俺は、俺なんかの為にお前を傷つけたくない。」
俺は、その場に立ち上がり、アメリアを止めようと、腕を伸ばす。
「ゼルガディスさんは、やさしいですね。でも、私決めましたから。」
ナイフを振り下ろすアメリア。
「アメリア!」
むなしく響くおれの声。
「くっ!」
指先に流れ落ちる鮮血。
「お願いです。私を少しでも好きなら飲んで下さい。」
真っ直ぐに俺を捕らえる瞳。不謹慎かもしれないが、奇麗だった。
「…………………」
「ゼルガディスさん!」
俺と、アメリアの視線が絡み合う。
「俺は、お前を…………………。」
俺は、アメリアの左手を取ると、口付けするように、その紅い雫を飲み込んだ。
「ありがとう。ゼルガディスさん。」
緊張の糸が切れたのか、ふらっと、俺によりかかるアメリア。
「おい!アメリア!しっかりしろ!ぐわぁ!な、なんだこれは!!」
体が焼けるように熱い。内側から何かが燃えるような感覚。
「ぐわぁ!」
俺は、その場にのた打ち回る。全身が、業火に焼かれたように熱い。
皮膚が溶ける感覚。そして!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
バラバラとはがれていく、硬質の皮膚。中から忘れていた色の皮膚が現れる。
「グファァアアアアア!」
最後の絶叫。
痛みが引くと、俺の体は、キメラではなく人の体に戻っていた。
「ゼルガディスさん、よかった。」
倒れていた、アメリアが、弱々しく微笑んだ。
「ありがとう、アメリア。お前のおかげさ。」
おれも、そう言うと、自然に笑みをこぼした。



そして、一ヶ月後。
「おめでとう、アメリア。」
「ありがとうございます。リナさん。」
「もうすぐ、あいつの登場ね。」
「そうですね。」
「さっき、すごい緊張してたわよ。」
「こういう事慣れてなさそうですもんね。」
「どんな顔で、くるのかしらね。」
「さあ、いつもみたいに不精面なんじゃないですか?」
「さわやかな笑顔かもよ?」
「えぇ〜。そ、それも、いいかも。」
「言ってくれるわね。」
「リナさんも、はやくガウリイさんに、お嫁に貰ってもらえばいいんじゃないんですか?」
「ほほう、あたしを怒らせたいみたいね。」
「ごめんなさ〜い。」

などと、乙女の会話を繰り広げている部屋のドアの向こうで、一人の青年がドアノブに、ゆっくりと手をかけた。
その名は、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが、婚約者、ゼルガディス=グレイワーズといった。







おわり♪





後書き

ども、秋月和至です。最近は、”おうぢ”なんて名前で呼ばれてます。(笑)
実は、この話は「君を想うとき」よりも早く書き始めてました。
オチが思い付かずずっと悩んでました。
そこで同じようなテーマで書き出したのが「君を想うとき」でした。
なんで、すごい内容が似通ってます。(爆)
こっちの方が、ゼルっぽい(笑)と思ってますが、どうでしょうか?