「リナさんは、ゼルガディスさんのこと好きなんですか?」
ぶーーーーーーーっっっ!!!
あまりと言えばあまりの突然の言葉に、リナは飲んでいた香茶を吹き出した。
「な、ななななななななな、何言ってんのよ! アメリア」
吹き出してしまった香茶はほとんど全てアメリアの顔にかかってしまった。
「もぉ、汚いなぁ・・・」
ぶつぶつ言いながら、せめて何も食べていないときに聞くべきだったとアメリアは思った。それは無理であることは判っていたが。
「で、どうなんですか?」
顔を取り出したハンカチで拭きながら、すこし緊張して聞いてみる。
リナの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。今、ガウリイとゼルガディスは武器屋に行っている。リナもアメリアも特に欲しい武器はないため、店でお茶を飲んでいたのだ。周りから白い目で見られながらも、リナは顔を朱に染めたまま、なんと答えて良いのか判らないようだった。
「・・・仲間、よ」
やがて小さな声で返事をしてきた。
「本当にそれだけですか?」
心配そうに、だが真剣に聞いてくるアメリアに、リナはピンときた。女の勘、という奴かもしれない。
「アメリア・・あんたまさか・・・」
リナの言葉に顔を手で隠し、
「きゃっ! やだリナさんったら!」
言って一人ではしゃぐ。
「へぇー。 なるほどねぇ」
納得して、注文し直した香茶を一口飲む。
「でも、ゼルガディスさんには好きな人がいるとおもうんですよ」
「ふぅん。そうなんだ・・・・って、ええっっ!?」
リナは驚き、アメリアの顔を見直す。
「反応が遅いですよ」
ワンテンポ遅れたリナの反応に、アメリアはくすくす笑う。
「でも、絶対! あきらめません」
幸せそうに微笑むアメリアに、リナは胸の中で何かがざわめくのを感じていた。
−−−−−あたしにはこんな顔できないなぁ。
きれいに見えた。今までで一番きれいな笑顔だった。
「アメリア、協力するわよ」
器用にウィンクするリナに、アメリアはちょっと複雑な表情をした。
「あ、いえ。
お気持ちは嬉しいんですが、自分一人の力でやってみたいんです。
そうでないと意味も無いでしょうし・・・」
アメリアの言葉に、リナは強い決意を感じた。嘆息して、呟く。
「アメリアは強いわね」
消え入りそうな小さな声で言ったリナの言葉は、雑踏にまぎれアメリアの耳には聞こえなかった。
リナは気付いていない。
何故アメリアがリナにゼルガディスのことが好きか、聞いた理由を。
−−−−−リナさんは気付いてないんだ
心の中で小さく呟く。
以前に聞いてしまったのだ。たまたま偶然だったけれど、ゼルガディスがガウリイと話していた言葉。
『オレはリナが好きだ』
その言葉が頭の中でぐるぐると回り、しばらくのあいだは何も考えられなかった。そしてそのときに気付いた。これが恋なのだ、と。
今までにも、人を好きになったことはある。恋をしたことはあると、思っていた。しかし、それが思い込みだったと、アメリアは思った。
今までのは、恋じゃなくて、あこがれだったのだろうか?
今までの好きは、家族に対する好きと大した違いがなかったのだ。
恋をして、はじめてわかった。
手に入れたい。
自分と同じものを見て欲しい。
自分だけを見て欲しい。
他のモノに目を奪われないで欲しい。
狂おしいほどに心が欲しい。
執着にも似た、自分の心。
こんなに人を欲するとは思わなかった。
「絶対に、ふりむかせてみせます」
−−−−−自分の力で。
心の中で付け加えておく。
リナに協力してもらっても、きっと自分は納得しないだろうから。
いつか必ず惹き付けてみせる。
リナの明るさに、強さに、全てに惹かれている彼を自分へと惹き付けてみせる。
「誰を振り向かすって?」
突然の言葉に、リナとアメリアは文字通りとびあがって、驚いた。
「あっ、あんたたち、一体いつ来たのよ!?」
「いつって、たった今だぞ?」
不思議そうな顔をしてガウリイ。
「なんだ? なにか聞かれちゃまずい話でもしてたのか?」
いたずらっぽい視線で、リナに、アメリアに聞くゼルガディスに、リナもアメリアも意味ありげに笑う。
「そーよっ! 女同士の会話。
男が聞いてたらドラグ・スレイブものよ!」
リナの言葉に、ガウリイが慌てる。
「おいおい、こんな町中で止めてくれよぉ」
情けない声でリナに笑う。
楽しげに笑う2人を悲痛な瞳でみるゼルガディスの腕を取ってアメリアは言った。
「ここのケーキとってもおいしんですよ!ゼルガディスさん」
「そうか、よかったな」
ぽん、と軽く頭をなでられ、少しリナの気持ちが分かったような気がした。
「んもぉー! 子供扱いしないで下さいよぉ!」
心持ち、ゼルガディスの顔が穏やかになったことに安心しながらも、抗議する。
そんな2人のやりとりに、リナはほほえみ、ガウリイが叫んだ。
「おーい! いつまでやってんだぁ?
おいてっちまうぞぉ!」
「あっ! 待って下さいよぉ!」
既に会計をすましているリナと、戸口で叫ぶガウリイに、アメリアは慌てたように、ゼルガディスの腕を掴み、走り出す。
「さっ! 早く行きましょう。ゼルガディスさん」
今日は少し大胆なアメリアに、ゼルガディスは笑って、一緒に走り出した。
そんな2人を見て、そう遠くない日に、アメリアの想いは実現するだろうとリナが笑ったことを2人は知らなかった。
END
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