『Sweet Kiss−ゼルアメ編−


「ち・がーーーう!!何度言えばわかんのよ、アメリア!!」
「こ、こうですか?」
「あ゛ーーーーーっ!もう!!いーい?もう一度だけやるからよっく見てんのよ!?」
「はっはいっ!!」
「ここにひっかけて、これをこう・・・」
 あみあみあみ・・・。
「ああっ!なるほど!!」
 あみあみ・・・わみっ・・・。
「だからちがうって言ってんでしょおおおお!!」
 がちゃ。
「リナ。深夜にご近所へ迷惑よ(にっこり)」
「はい・・・すみません・・・(汗)」
 
 2月のある日。
 リナとアメリアの2人は、リナの家で編み物講習会を開いていた。
 何故かというと、それはもちろん、この月最大のイベントである『バレンタイン』のためである。
 
「ゼルガディスさん、甘いのが苦手なようなんです。それで、今年はチョコレートじゃなくて、別のものをあげたいと思っているんですけど…」
 そうアメリアが相談したのは、1月も終わりの頃だった。
「それで、手編みのセーターをあげたいなぁって……」
「ふぅん。いいんじゃない」
「なので、リナさん!!わたしに編み物を教えて下さい!!」
「はっ?」
 
 はじめのうちは、「面倒くさいからやだ」と言っていたリナだったのだが。
「無駄よ、アメリア!!リナに教わったって、せいぜいその貧弱な胸くらいのものしかできないわよ!!ほーほほほ」
 …という、クラスメイトでバイト仲間のマルチナの一言に、ぶち切れたらしく。
「やってやろうじゃないのよ!!見てなさいよおお!!」
 …などと、バックに炎を燃やして叫んだのであった。
 
「だ・か・ら。ここはこうするのよ!」(ひそひそ)
「こ、こうでしょうか?」(ひそひそ)
「そこを編んだら首が通らないっての!!」(ひそひそ)
 
 かくして。リナの編み物講習会は、バレンタインの前日まで延々と続くのであった。
 
 
 
 
 
「で、できましたぁぁぁ!!!」
 バレンタイン前日の深夜。
 徹夜明けの赤い目をしながらも、アメリアは嬉しそうにできたてほやほやのセーターを抱きしめた。
「やれやれ。ま、なんとか間に合ってよかったわね」
「はいっ!リナさん、ありがとうございました!!」
「いーからいーから。さ、さっさと帰って明日に備えなさい。
ゼルとデートなんでしょ?」
「はいっ!!」
 迎えの車に乗り込んだ途端、気が緩んだためか、猛烈に襲ってきた睡魔に、アメリアはそのまま身を委ねた。
 
 
 
 翌日。2月14日。
「ゼルガディスさん!!」
 待ち合わせ場所である時計台の下に、ゼルガディスの姿を見つけ、アメリアは白い息を切らせて駆けよった。
「ごめんなさい。お待たせしました?」
「いや…。俺もさっき来たところだ。じゃあ、行くか」
「はい!あ、待ってください!その前に…」
「ん?」
「あの、これ…」
 差し出されたのは、ひとつの包み。
「なんだ?」
 微かに頬を染めた姿に鼓動が速まりながらも、そんな素振りは少しも見せずにゼルガディスは包みを受け取った。
「あの、えっと、セ、セーターなんです。ゼルガディスさん、甘いもの苦手だって言ってたので…」
「あ、ああ…。……覚えてたのか」
 去年のバレンタイン、「甘いものは苦手なんだ」と言っていたことを、アメリアはちゃんと覚えていたのである。
「当然です!だってゼルガディスさんのことですから!!」
 にっこり微笑ってそんなことを言われてしまうと、ゼルガディスとしては赤面するしかない。
「し、しかし。お前が編んだのか?これは」
「は、はい。あの、リナさんに教わって…って、あ゛ーーっ!こ、ここで開けちゃうんですかっ!?」
 包みを解いて開き始めたゼルガディスに、アメリアは慌てた声をあげる。
 中から出てきた白いセーターをじっと見つめるゼルガディス
の横で、アメリアはどきどきしながら、彼の言葉を待った。
「これ。持っていろ」
「えっ?」
 言葉と同時に、アメリアは不意に何かで視界を遮られた。
 何か、大きくて重いものが、アメリアの頭にかぶせられたのだ。
 なんとかそれを頭からのけると、それはついさっきまでゼルガディスが着ていたコートであることがわかった。
「ゼルガディスさん?」
 驚いて彼の方を見ると、いつの間にかゼルガディスは白いセーターを着ていた。
「ゼルガディスさん…」
 アメリアの手からコートを受け取ると、それは右手に抱えたまま、ゼルガディスは左手をアメリアに差し出す。
「ほら。行くぞ」
「はい!!」
 満面の笑顔でそう答え、アメリアはゼルガディスの左手に自分の手を重ねた。
 と、ぐいっとそのまま手を引っ張られ、アメリアはバランスを崩してゼルガディスの胸へ倒れ込む。
 ふ、と。
 一瞬だけ、額に暖かいものが触れ、そして離れていった。
(え?)
「遊園地に行くんだろう?さっさと行かないと日が暮れるぞ」
「は、はい!!」
 何事もなかったかのようなゼルガディスに、アメリアは今のは気のせいかとも思った。
 が。
 ずっと、不自然なほど前を見たままのゼルガディスに、そうではないと確信する。
「ゼルガディスさん!!」
「な、なんだ?」
 やや、ぎくしゃくしたままゼルガディスが振り返る。
「わたし、ゼルガディスさんが大好きです!!」
「な……」
 今度こそ。
 ポーカーフェイスを崩して、ゼルガディスは真っ赤になって固まった。
「な、なんだ?と、突然……」
 ゼルガディスは真っ赤な顔のまま、片手で口元を押さえ、ようやくそれだけを言った。
「だって今日はバレンタインですよ?」
「あ、ああ…?」
「バレンタインっていうのは、年に一回、女の子から告白できる日なんですから!」
 彼にしか見せない、最高の笑顔でそう応える少女に、ゼルガディスはぽつり、と一言呟いた。
 
「まったく…お前には、かなわないな」
 
 

















END
 
 
 
(後書き…という名のひとりごと)
 ども。3回目の投稿にして、初のあとがきを書いている倉田かほです。今回最後までお読みくださった皆様、ありがとうございました。
 久しぶりのゼルアメでしたが、私が書くとアメリアはどーしても、TV版の彼女になってしまう…。
 この現代版スレイヤーズは、自分の中である程度勝手に設定をつくっているので、機会があれば、また書きたいと思っています。
 それでは。おつきあいいただき、ありがとうございました。
 ガウリナ編もあるので、よろしければそちらも読んでやってください。