「言葉で。態度で。瞳で。」



 
 
「ガウリイさん!ひとつお聞きしたいんですが!!」
夕食をとって、それぞれ分かれた宿屋の一室。訪ねてきたアメリアは、
だしぬけにそんなことを言い出した。
「え…えーと、なんだ?」
『人にものを尋ねられる』というあまりない状態と、妙に迫力のある
アメリアに、ガウリイは少々気圧されながら、そう応える。
 
「どうしたら、ガウリイさんみたいに言わなくても相手の考えがわか
るようになるんでしょう?」
 
「へっ?」
 
なんだか思いもよらなかった言葉に、ガウリイは目を点にする。
言わずに相手の考えがわかる、なんて芸当、彼はできなかったし、ま
た、した覚えもなかった。
しかし、アメリアはひどく真剣な面持ちである。笑い飛ばすわけにも
いかず、戸惑いながら、ガウリイは聞き返した。
「相手の考えがわかる…って、オレが?」
アメリアは大きく首を縦に振る。
「えーっ…と、別にオレ、そんな特技はもってないが…」
「でもいつも何も言わなくても、リナさんの考えてること、わかって
るじゃないですか!!」
そう言われ、『他人の』色恋沙汰には意外と聡いガウリイは、なるほ
ど、と納得した。目の前の少女が、『誰』の考えを知りたいのか――。
「んーと、だな、アメリア。オレは別に、リナの考えてること、わか
るわけじゃないぞ?」
「でも…!!」
「オレの場合は、リナの言葉とか、態度とか見ていて、そうかな、と
思うだけで。それだって別に全部じゃないし」
それでもまだ何か言いたげなアメリアの頭をぽんぽんっ、と軽く撫で
る。
「そりゃあ、目と目で通じ合うってのもありだろうけど、さ。それだ
けじゃ、もったいない気がしないか?」
「?」
「せっかくの声が、聞けないなんてさ」
「あ……」
確かに、そうかもしれない、と思う。
彼のことをわかりたい、と思った。
元来無口な彼が、何も言わずともわかるようになりたい、と。
だけど同時に、時々聞ける彼の声が大好きなのも事実で。
「そう、ですね」
そう呟くと、すっくと勢いよく立ち上がる。
「それに!声がないんじゃ、正義を語ることもできませんしねっ!!」
そのままびしぃっ!!とあさっての方向を指差す。
いつもの姿に苦笑しつつ、ガウリイは部屋を出ていこうとしたアメリ
アに、ひとつだけ付け加えた。
「でもな。アメリアにオレがリナのことわかってるように見えたのと
同じくらい、オレにも、アメリアはゼルガディスのことわかってるよ
うに見えるぞ」
その言葉にアメリアは顔を真っ赤にさせたが、すぐに花が綻ぶような
笑顔になると、部屋を後にした。
 
 
 
「何をやっている?こんな夜遅くに」
声に驚いて振り向くと、ゼルガディスが立っていた。
ガウリイと話した後、なんとなく眠れそうになく、アメリアは宿屋の
屋根に登ってぼんやり月を眺めていた。そこへ、の声である。
「えー…と、なんだか眠れそうになくて。月がみたいなー、なんて」
てへへ、と笑うアメリアに、溜息をつきつつ、ゼルガディスはその隣
りへ腰を下ろした。
「ゼルガディスさん?」
「月をみるんだろ」
横顔をむけたまま、素っ気なくそう言い放つ。
それはきっと、他の人にとっては、どこか冷たく見える態度で。
だけどアメリアは、その裏にある想いを感じることができた。
嬉しそうに微笑むと、少しだけゼルガディスとの距離を縮める。
 
素っ気なく見える態度の、冷たく聞こえる言葉の裏に隠れている、彼
の不器用な優しさ。
それに気づいたのはいつだったか、もう覚えていないけれど。
 
いつからか、思っていた。
わかりたい。
彼のことを。
数少ない言葉の中で。
冷たく見える態度の中で。
影を残した瞳の中で。
 
今はまだ、遠くても。いつか、きっと。
 
 
「きっと、追いつきますから」
「ん?」
「いえ。月、綺麗ですね」
「…そうだな」
 
月明かりの下、二つの影はいつしか一つに寄り添っていた。
 














END