「LUV U」


 
    「ぁぁ……」
熱を帯びた吐息が彼の頬にかかった。
 
    …ドクンッ…
鼓動が揺れる。
彼は自分でも気付かないうちに、彼女の髪に手を伸ばしていた。
彼女のつつやかな黒い髪が、指の間をすり抜けていく。
………忘れていた感触。
 
 
     「……もう行ってしまうんですか……ゼルガディスさん………」
     「……ああ……悪いが、今はこの身体を元に戻すことが先決だ…」
 
 
 
 
 
いつのまにか、長く伸びた髪。
 
……しかし、それは彼の知っている香りだった。
……離れていても、忘れなかった香り。
 
「ゼルガディスさん…」
熱っぽい、彼女の声。
 
 …ドクンッ…
急に彼の視界が霞み始めた。
彼女が霞んでゆく。
彼はその事に恐怖を覚えた。
 
(…もう……これ以上…離していたくない…)
 
途切れそうになる意識の中、彼は細い肩を掴んだ。
 
 
     「…随分待たせたな、アメリア………」
     「!!元の身体に戻ったんですか!!ゼルガディスさん!!」
     「ああ………」
 
 
 
(あたたかい…)
 
彼女の柔肌はほんのりと熱を帯びていた。     
それは、彼の求めていたあたたかさ。
少し前までの彼の肌には望めなかったあたたかさ。
 
そっと、彼女の頬を撫でる。
彼女と同じあたたかさの指で。
彼女の肌は、透ける様に、闇に浮かんでいる。
まるで汚れのないオーロラのように。
そっと、肩にあった左手を、彼女の背中にまわした。
 
「………何もかも許されれば…………」
彼が囁く。
互いの肌のあたたかさを確かめあうかの様に、優しく彼女を抱きしめながら。
「………おまえの自由を……捨ててくれないか…………」
 
 
     「…ごめんなさい……やっぱり父さんも大臣たちも反対みたいです…」
     「………そうか……」
     「………」
     「………」
     「………でも、私はゼルガディスさんの事が……」
     「……………………アメリア…もし俺が……」
 
 
「………何もかも許されれば…………」
彼が囁く。
明かりの消えた部屋の中、彼女の存在を確かめるかのように、つぶれるほど強く
抱きしめながら。
「………俺の自由を……すべて捨ててやる…………」
 
 
     「……もし俺が…何もかも捨ててついて来いといったら…どうする…?」
 
 
唐突に彼の身体から、力が抜けた。
彼の束縛が解け、彼女は少しだけ彼から身体を離す。
 
…ふぁさっ…………
 
自分でも気に入っている、つつやかな黒髪が、彼の手で優しく梳かれる。
 
…彼のために、長く伸ばした髪。
……彼のいない間に、伸びた髪。
 
(ひょっとしたら、嫉妬してるのかな……私)
 
悪い疑念を消すように、軽く頭を振る。
と、彼と目が合った。
……数年前と変わらない瞳に、彼女が映る。
 
彼の知らない彼女が。
 
「…………あ……わたし……えぇと……」
何か言うべき言葉があるのだが、うまく言葉がまとまらない。
 
と、急に息ができなくなった。
 
………どのくらい続いたのだろうか。
長いような短いような時が流れた。
 
 
     「………………私にセイルーンを捨てろってことですか…………?」
     「……………………………そういうことだ…」
 
「……言葉なんて…もう要らない………」
唇を離し、彼が呟く。
 
……ベッドの上縛られて、冷めることを忘れた二人の肌。
「………君が欲しい………君のすべてが…………」
彼がそっと呟く。
どんな砂糖菓子よりも甘い言葉を。
 
…優しく、
そして危険な言葉を。
 
 
     「……セイルーンを見捨てることはできません………」
     「…………」
     「…でも………私だけを見てくれるのなら………」
 
 
彼女がそっと頷く。
 
闇の中。
 
二つの影が、そっと重なった。
 
 
 
 
 
 












_________________あとがき。_______________
 
 
 
ふー(^。^)
ここまでお付き合い下さってありがとうございました(^___^)
 
今回、姫やゼルの大人っぽいところを出してみよう、と思ったんですけど、
なんだかすごく読みにくくなっちゃいました(汗)
サブの物語は、姫とゼルの駆け落ち(笑)話。ベースのほうは……
まあ、駆け落ちした後のどこかの宿屋で、と言うことにでも
しておきましょう(^_^;)
普段子供っぽく見られる姫ですが、多分こんなアダルティなところも
あるんだろうな・・・
って感じですね。
 
今回、LUNA SEAのある曲織り交ぜてみました。
持ってる人は、聴きながらだと、もっと感じがでるかもね(^。^)/
 
最後に……読んでくださって、本当にありがとうございました。