「誰にも渡さない」


 
それは、全くと言っていいほど突然にやってきた。
「なぁーに、これ?」
いつものように、盗賊いぢめをした晩、リナが訝しげに呟く。
「んん〜?アメ玉・・・か??」
ガウリイが“それ”を手にとりかざしてみた。
 
ここは宿屋の一室。
ガウリイたちの部屋で、4人が寝る前にしばし談笑を交えつつこれからの事に
ついて相談などをしていた。
リナは、片手に盗賊から奪った宝の物色などしていたのだが、その中から、小
瓶がひとつ転がり落ちた。
宝石類の中に紛れたそれは、少々場違いな感じである。
「これ、きれいですね。それに、何か甘い香り・・・やっぱりアメですよ」
アメリアが、小瓶を眺めながら楽しそうにいった。
「むー。なんかの魔法薬・・ってコトもありえるけど・・・なんか、まるっき
りただの飴みたいね・・」
リナがつまらなそうにいった。
「リナさん、これ食べてもいいですかぁ?」
「ああ?いーわよ。別に」
「わーい♪・・ゼルガディスさんもいかがです?」
「・・いや、遠慮する」
「んじゃアメリア、俺にいっこくれよ」
「はい。どーぞガウリイさん」
そういって、4個の赤と青の飴の中から、無造作に赤い飴をとりだし、そのう
ちの一個をガウリイに渡す。
「全く・・・」ゼルガディスが呆れた声を出す。しかし、その表情は僅かに優
しげである。
そして、ふたりはほぼ同時にひょい、と口の中に飴を放りこんだ。
それが何を意味するのかも知らず。
 
「甘いですぅ♪」
「飴だからな」
ミもフタもい答えをゼルガディスが返した瞬間のことであった。
 
ほぼ向かい合う形で飴を食べていたガウリイとアメリアの動きが・・・止まっ
た。
二人は目を見開き、お互いを見つめている。
「・・・!?おい、アメリア?!・・・まさか、やはりこれは・・・!」
「何かの薬!?しまった、アメリア!ガウリイ!?」
リナとゼルガディスの間に緊張が走る!!そして、二人にとって悪夢が次の瞬
間訪れた!
 
「ガ・・ウリイさん・・・」
「アメリア・・・」
二人の目には熱い眼差し。
「アメリア・・・、俺は・・・お前が好きだ。いや・・愛してる!」
「・・・ガウリイさん・・・!!嬉しいです・・私も・・・!」
「・・・っな・・・??!」
「・・・な・・何言ってんの?!あんたたち!」
二人は、突然訪れた目の前の展開に呆然とする。
その時リナは小さな紙切れが落ちていることに気づく。そこには。
「惚れ薬。自分及び対象者に服用させ、お互いを視覚的に認識させること。非
常時には解除用の青解毒丸を服用のこと」
と書いてあった。
「じ・・じゃあ甘い・・ってのは糖衣錠だったからか・・・?」
「正露丸かいっ!!!(笑)」
などと言っている間に、とんでもない展開になりつつある。
 
「アメリア・・・」
「ガ・・ガウリイさん、だ・・駄目です、ここじゃあ・・リナさん達が・・」
「いいさ、リナ達なんか・・・気にするなよ・・」
その言葉にリナがぴくり、と反応する。リナのこめかみに青筋が立つ。その瞳
に激しい怒りと、・・そして悲しみをたたえて。ゼルガディスは、何も言わな
い。だが、二人を見据えたまま、こぶしをにぎりしめている。リナは、黙って
小瓶から青の丸薬を取り出し、ゼルガディスに一つ渡す。
「そっちは任せるわ・・」
低い声で一言そう言うと、
「ラファス・シード!(霊縛符)」
呪文を唱え、ガウリイをがんじがらめにしてレイウィングで窓から連れ去った。
「おい!何する!!――アメリア!」
「やかましい!いいから来なさいっ」
「ガウリイさぁんっ!」
アメリアの悲痛な声が響いた。まるきり引き裂かれる悲運の恋人達、というノ
リだ。ゼルガディスがゆっくりと、アメリアに近づく。その腕を捕らえ、ガウ
リイを追いかけられないように拘束する。。その手にある薬をアメリアに向け
「・・・アメリア、これを飲め」
そう、言った。
「・・・どうしてですか・・それを飲ませて、私とガウリイさんを引き裂くつ
もりなんですか?・・・そんなの、絶対、いやです」
アメリアがこちらを睨み付ける。
「・・今、お前がガウリイを好きだというのはこの薬のせいだ。本当に好きな
わけじゃない」
「そんな事ありません!私は・・・っ」
「いいから、飲め!」
ゼルガディスの語気が荒くなる。薬のせいだと。判っているのに。こいつがガ
ウリイを好きという気持ちを吐露する度、なぜか心が焼け付くように痛い。
・・・人になんか、他の男になんか。
・・・渡シタクナイ。
それが「嫉妬」だと・・彼は気づいたかどうか。
 
「・・・どうして、構うんですか・・・」
アメリアがぼそり、と問いかける。
「・・・知りたいか?」
「ええ。こんな事するなんて。それ相応の理由を聞かせてもらいます。じゃな
きゃ、納得できません」
アメリアはいまだ怒りの表情だ。それは、愛する人から引き離された怒り。
「・・なら、教えてやる」
ゼルガディスは青の丸薬をおもむろに・・・自分の口へと含んだ。
アメリアは瞬間彼の不可解な行動に眉をひそめる。ゼルガディスは、すばやく
自分のそれでアメリアの口を塞いだ。アメリアは驚愕の表情でゼルガディスを
見つめる。そして喉へと薬は流し込まれ、彼女は選択の余地なくそれを飲み込
んだ。彼女は目を見開いたままで。なぜか、さして抵抗しなかった。
 
永遠とも思われた時間。
 
二人はそっと唇を離す。アメリアの顔がみるみるうちに赤くなり、そのままま
たさあっと青ざめる。
「・・・その様子なら、元に戻ったようだな」
「・・・う・・うっきゃあああッご・・ごめんなさいいいいいっっっ!!!」
どうやら記憶はそのままらしく、アメリアは自分の失態を謝罪した。
「元に戻ったんならもういい。もっとも・・・」
「もっとも?」
「ガウリイが好きというアメリアには悪いことをしたかもしれんがな・・・」
どこか悲しげにゼルガディスはいう。アメリアは黙ってそんなゼルガディスを
しばし見つめ、
「・・・そんなこと、ありませんよ。――例え薬でそうなっちゃったんだとし
ても、心までは変えられません!正義と真実はいつもひとつです!(?)・・
それに・・・」
そこで一瞬躊躇う。だが、頬を染めて彼女は言う。
「それに――私の、心はいつもゼルガディスさんだけのものです」
ゼルガディスは驚いたような顔を一瞬した。だが、それはやがて愛おしげにア
メリアを見つめる顔へと変化する。
「ああ・・・」
愛おしい。目の前のこの少女が。自分だけのものだといってくれるこの少女が。
だからこそ誰にも渡したくない。自分だけのものにしたい。
狂おしいまでの感情をこめてアメリアを抱きしめる。優しく、強く。
アメリアも、それに答える。
お互いの思いを確かめあうように・・・。
 
彼は知らない。アメリアは唇を奪われたとき、何故抵抗しなかったかを。
アメリアが薬の効果が発揮されるよりも前に元に戻っていたことも・・・。
それが薬が弱いものだったせいなのか、それとも別のもののせいなのか・・・
――真実は、いまだ日の目を見ない。
 
 
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ちなみに一刻ほどあと、たんこぶだらけのガウリイをつれてリナが戻ってきた
ことだけを付け加えておく。
ああ・・悲哀。え、どーやってガウリイに薬を飲ましたかって?それは・・
二人だけが知っている。(・・逃げたな・・)
 
 















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うちのHPの小説にある予告で「次回はゼルに嫉妬でも・・」という予告をこ
こで実現させてみました。なんかイキオイでがーっと書いたのでゼルがみょー
にアメリアをディープにラブ(笑)してますが、これくらいへーきでしょう。
ちなみにキーワードはラジオドラマのEDだった「灼熱の恋」の「心の一番深
い場所誰にも渡さない」です。これですべての謎は解けますね?ははは。
小説はゼルアメを愛する方々へ捧げます♪♪
鈴鳴 彩菜でした。
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