「優しい毛布」

前書き:これはゼルアメ強化月間の際に、図書委員1号であるつなみさんが、刑事VANの部屋(掲示板)に連載してくれたお話です。ROMれなかった方のためにも掲載しました♪その上、おまけまでゲット♪
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さああああという雨音に私は目を覚ました。一瞬、ここがどこだかわからない。
明かりを灯してない部屋は薄暗かったがその背中を認めて私は自分がどこにいるかを思い出した。
「ゼルガディスさん」
アメリアが消え入りそうな声でその背中に呼びかけた。が、返事がない。
今晩の宿に決めたゼルガディスの部屋、窓の外は雨降りで空はむらさきだった。


昼間、古書屋をめぐって手に入れた合成獣関連の本から手がかりを探すという
ゼルガディスに
「手伝います」
と、いってこの部屋に押しかけたのに、いつのまにか居眠りしてしまったらしい。
これじゃあ、ゼルガディスさんが怒るのも当たり前です。
アメリアがシュンとした。ゼルガディスは向こうを向いたまま視線を広げた本からあげようともしない。アメリアの立ち上がった拍子に茶色のそれがふぁさっと足元に落ちた。



「お手伝いします!」
アメリアがそう言った時、ゼルガディスは良い表情をしなかった。その背中を強引に押すようにして食堂を出てゆこうとするアメリアたち2人にリナが意味ありげな視線を送った。その視線は、
「よくやるわ、あんたも」
と言ってるようだ。アメリアがその視線に真っ赤に頬を染める。リナにははっきり、
「どこがいいのお,ゼルの?」
と聞かれたときもある。そういうときのリナは決まってにやにやと笑っていてとても楽しそうだ。からかわれているのを知りつつも、顔を紅くなるのを止められないアメリアだった。


「な、なんですか、突然!!」
リナにそういった…‘ゼルガディスのどこが好きなの?’という問いかけをされるたびアメリアはいつも慌ててしまう。
「だってさ、あいつってなかなか気むずかしいでしょ。優しい言葉のひとつもかけられなさそうだしさ。大変じゃないかなあと思って」
さっきまでのにやにや笑いとは一転して本当に心配そうな表情。気遣ってくれているのがよくわかる。でもそういうときはリナのその気持ちがうれしくて、だけどゼルガディスとのことをからかわれてすでに頭に血が上ってしまっているのでなかなかそれにきちんと答えられない。


アメリアがその茶色の毛布をくすぐったそうな笑顔をうかべて拾い上げるとそれに頬をよせた。
ゼルガディスさん、かけてくれたんだ。
お礼を言おうと身動き一つしようとしないゼルガディスの前へ毛布をもったまま回り込む。アメリアの表情がほころんだ。ゼルガディスが心地よさそうな寝息をたてていた。
―――今度リナさんに聞かれたら、
「そりゃ、ゼルガディスさんは優しい言葉どころか普段の言葉も足りないような人だけど、とっても優しくて全然大変なんかじゃないです」
って、答えよう。
そういうところが大好きなんですって。
アメリアは膝の上に乗ったままの本をとり、かわりにその毛布をゼルガディスにかけそっと起こさないように部屋を後にした。



<終わり>





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(おまけ)
>>アメリアが目を醒ます一時ほど前のお話
 


手元にさしこむ灰色の影にゼルガディスはようやくそれから顔を上げた。気がつけばついにその重さに耐え切れなくなったらしい雲が雨を降らしている。その音は耳に心地よく胸を針で刺されたように痛い。その雨の音にまじって届く小さな呼吸の音に振り返ったゼルガディスの口元に我知らず微笑が浮かんだ。
―――寝てしまったのか。
視線の先にはあどけない表情で眠る少女の姿。ゼルガディスが膝にのせていた本をテーブルへのせて立ち上がった。
このままほっておけばこの部屋の冷気にやられて風邪を引いてしまうだろう。気持ち良さげに眠っているのを起こすのは気が引けるが、そう決めてゼルガディスはアメリアのそばへ歩み寄った。
「―――アメリア」
その声に、アメリアがふっと息をはいた。途端にあたりに甘い香りが充満する。ゼルガディスが息を止めてしばらくその様子を眺め、その後ろにあるベッドの上から古ぼけたそれをつかむともう一度アメリアの前に困ったような笑みを唇にのせて立った。
それをそっと、アメリアが目を覚まさないようにかけてやる。部屋から追い出すのが惜しくなった。自分の所有欲の強さに呆れて…ゼルガディスが首を軽く横にふる。俺は知ってる、もうその気持ちを誤魔化しきれないことも。茶色の毛布にくるまるアメリアの耳元に唇をよせた。
「…いしてる」
言った本人の耳にさえ聞こえるか聞こえないかの声。ゼルガディスは呆れるぐらい自分の胸のなかで激しく鳴っている鼓動に苦笑をうかべた。言われた方は何事もなかったかのようにすやすやとかわらず呑気に眠ったままだというのに。
ため息ひとつ。
アメリアの髪をくしゃりとなぜるとゼルガディスは元の席へ戻り、再び本のページを開いた。
 









<終わり>