「夢見るゼルガディス」




俺は残酷な魔剣士ゼルガディス。今日も今日とて孤独に一人、荒野をゆく。
そろそろ寝床を探さなくては。




その晩、ゼルガディスは夢を見た。



「ゼルガディスさん。」

そっと揺り動かされてゼルガディスは目覚めた。どこかで聞いたような声だ。
「・・・アメリア?」・・・まさか。
「はい。」
あるとは思わなかった返事が返ってきた。跳ね起きると、ちょこなんと座ったアメリアの姿があった。朝の光が眩しい。
「ずいぶんよく寝てましたね。」少し恨みがましい口調でアメリアはゼルをなじる。「わたしはあなたと別れてから、夜も満足に寝れなかったんですよ。」

記憶にあるより、アメリアは少し大人びていた。
すらりと伸びた足、細い腕、赤い唇。
服装も旅姿というより、薄もの一枚を纏った舞台俳優のような衣装だ。
白い透けるような布地を体に左右から巻き付け、ウエストは革のヒモで互い違いに組んで結んである。たっぷりとしたドレープのスカ−ト部分は少し短めだ。その裾から白い腿が見えかくれする。編み上げの靴をはいて、頭には金のサークレットを嵌めていた。

「・・・アメリア、何だその格好は。」
にっこりと笑ってアメリアは立ち上がると、くるりと回った。
「似合いませんか?」
「・・・いや。」
似合うとか似合わないとかの問題ではない。もちろん目が引きつけられる光景だが、いかにもこの荒野には不似合いだ。
「・・・ゼルガディスさん。実は今日はお別れを言いに来たんです。」
そう言うと、哀しそうにうつむく。
「・・・別れ?」
「はい。わたしはこれから天に昇らなくてはなりません。」
「・・・なに?」

マントかと思っていた背後の白いものは、ふわっと広がって羽根になった

「あ、アメリア!?」
ゼルガディスが慌てる。
「その姿は?」
「実はわたしは天界から追放された天使なんです。
父なる神からやっとお許しが出たので、天に帰ります。
その前に、あなたにだけは、と思ってご挨拶に来たんです。」
うつむいた頬から、きらりと何かが落ちた。
「・・・・・」

信じられない面持ちで、ゼルガディスは改めてアメリアをまじまじと見つめる。
・・・バカな。まさかこんなことが。

「天から追放された時は、なんとか天に帰ろうとそればかり考えていました。正義を行えば父が許しを与えてくれるのではないかと、必死になっていました。」
また、きらり。
「しかし、追放を取り消された瞬間、この姿になってわかりました。
わたしの本当の居場所は天界ではなかったのではないかと。
ここが自分の居場所なのではないか、と。・・・でも、もう遅いです。」
間違いなく、光っていたのは涙だった。
「何故遅いんだ?」
呆然としたまま、ゼルガディスが口にする。
「何が遅いんだ?」
「この姿です。このままではもう、地上にいることはできません。
こんな姿をした人間などいないのですから、もう誰もわたしを仲間や家族として見てくれる人はいないでしょう。せいぜい見せ物小屋に売られるのがオチです。羽根の生えた人間もどきとして。」

何故だかゼルガディスの身のうちに、怒りにも似た感情が芽生える。
「・・・いいじゃないか。一人でもそれでいいという人間がいれば。」
「誰ですか?」
「・・・俺だ。俺は、お前がどんな姿でも構わない。お前がここにいたいとさえ思ってくれれば・・・・・」
「ウソです。」

天使は、羽根をすべて広げる。
陽の光に透けて、その姿はあくまでも神々しい。

「あなたは、自分の外見すら気にするではないですか。
こんな体ではと、いつも一歩引いた生き方をして。
・・・そのままでもいいと言う人間がいたにも関わらず。
・・・もっとも、」
アメリアは皮肉な笑いを浮かべる。そう、まるでゼルガディスがいつもするように。
「もと、人間ですが。今は人間ですらありません。」
そう言うと、濡れた瞳がこちらを見た。
「そんなあなたに、今のわたしが受け入れられますか?」


ハンマーで殴られたような衝撃をゼルガディスは受けていた。
そうだ。俺には、彼女を責める権利はない。


どこからか、天空の高みから荘厳な鐘の音が響き渡る。
高らかにラッパを吹く天使が群れをなして舞い降りてこようとしていた。
「お別れです、ゼルガディスさん。今まで、本当にありがとうございました。
・・・わたし、わたしは本当に楽しかった。
あなたや、リナさんやガウリイさんと旅をしていた時が。
あなたとほんの束の間でも一緒にいられたことが。
・・・でももうお別れです。
・・・どうか、わたしのことは忘れて下さい・・・・・・・・」


胸の前で手を組み、涙の天使は羽根をはばたかせる。

「・・・アメリア!!」
自己嫌悪の波から抜け出し、ゼルガディスがアメリアに向かって手を伸ばした。
「・・・行くな!!」
まだ大粒の涙を目に浮かべたまま、アメリアはふと笑った。
「なにを言うんです、ゼルガディスさん。
この間、先にわたしにお別れを言ったのはあなたの方じゃないですか。」

りーーーーーーん、ごーーーーーーーーーーん。

「アメリア!!!」
「さようなら、ゼルガディスさん。」
「待ってくれ!!!!!」

すうっと天使は空に舞い上がり、迎えの天使たちに囲まれて姿が見えなくなってしまった。
「アメリア!!!」
それでもゼルは虚空に向かって叫び続ける。
「俺は、本当は、お前のことが・・・・・・・・!」


























ぴちぴち。ちゅんちゅん。

・・・スズメ?荒野にスズメがいたのか?

ゼルガディスは目を覚ました。そこは荒野のすみっこではなく、宿屋のベッドの上だった。窓が開いていて、レースのカーテンが風に揺れている。

ゼルガディスは安堵のため息をついた。
・・・なんだ、荒野も天使も夢か。

「ゼルガディスさん。」

振り向くと、アメリアが立っていた。
「・・・どうしたんですか、まじまじと見て。」
少し照れながらアメリアは言う。
「ガウリイさんが、ゼルガディスさんがまだ寝ているからメシだって言って起こして来てくれって、言うもんですから。・・・どうしたんですか?」
「・・・いや。」
あんな夢を見るなんて、どうかしている。
ゼルは苦笑いを噛み潰した。

「・・・ゼルガディスさん。」
静かな、アメリアの声が届く。
「リナさんとガウリイさんは、朝ご飯を食べたら伝説の剣を探しに出発するそうです。
・・・わたしは、セイルーンに帰らなくてはなりません。」

夢が、現実へと姿を変えようとしていた。

「・・・あのこと、考えてくれましたか?セイルーンに、一緒に来てくれるか。」
うつむくアメリア。
夢の天使とは姿がまるで違うが、少し哀し気な感じが似ていた。

ゼルガディスは、返事を言葉にしようと考え始めた。
































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あり?ギャグにしようと思ったのに。なんでかシリアスに(?)なってしまいました。ガウリナはシリアスにしようとすると、ギャグになっちゃうのに。この差はなに(笑)そーらでした♪

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