「恋するガウリイ」


異界黙示録を探す旅の途中、ガウリイとリナ、ゼルガディスとアメリアはそれぞれ二人一組となり、別々に情報を収集することとなった。
五日後に、その先の街の宿で全員が落ち合う約束をした。
 
 
 
「それで・・・。結局、リナ達の方もダメだったわけだな。」
 
宿の食堂で、ゼルガディスは長々とため息をついた。
彼等は約束の期日より遅れること一日で、やっと目的の宿に到着したばかりだった。ガウリイとリナはすでに投宿して二日になる。食事時の食堂を覗くと、二人が食事を取っていたところだったのだ。
 
「そ〜なのよね。山奥の寂れた教会に伝説の書物があるなんて、もっともらしい噂を流しておいて、その実、観光客寄せだったなんて許せないわ。」
リナが拳を作る。
「・・・その割に、あっさり引き下がったよな。」
疑いの眼差しのガウリイ。
リナがぎくりとする。
「な、なに言ってんのよガウリイ。そりゃあ腹も立つけど、あたし達には他にやることはたくさんあるんだし、んな小さな可愛らし〜悪事くらい、見逃してやるのが節度あるオトナってもんでしょっ?」
「何を言ってるんです、リナさん!悪事に大きいも小さいもありません!可愛らしい悪事なんて、絶対にありませんとも!悪は悪!」
同じくテーブルを囲むアメリアが、目を欄欄と輝かせる。
「・・・・・・。」
ゼルガディスがちらりとリナの前を見る。
そこにはいつもより豪華な食材を使った豪勢な料理が並んでいた。
 
「あ、あたしちょっと。」
ごほんと咳払いをしたリナが、立ち上がった。
「すぐ戻るから。皆ゆっくりしてて。」
「へ?どこ行くんだ、リナ?」
ガウリイが不思議そうな顔をする。
「一緒についていってやろうか?」
「ばかっ!!トイレよ、トイレっ!ったく慢性でりかし〜欠乏症なんだからっ!!」
顔を赤くしたリナは、慌てて食堂から出て行った。
 
「リナさん、なんか誤摩化して出て行ったみたいに見えますが・・・。」
アメリアも疑いの眼差しだ。
ゼルガディスが不機嫌そうに答えた。
「よく見ろ、アメリア。リナの食事、いつもより豪華だとは思わんか。」
「・・・・え?そう言われてみれば、確かに・・・・。」
「ここのところ仕事もしていないのに、いやに豪勢じゃないか。・・・さっきのガウリイの疑問が正しいと、俺は思うね。」
「どういうことです?」
「つまり。」
 
ゼルはひょいっとリナの皿から魚貝の揚げ物を失敬すると、口に放り込んだ。
「節度あるオトナとして引き下がったんじゃなく。なんらかの口止めを貰ってわざと引いてやったに違いないという訳だ。」
「・・・・えええ?それじゃ悪じゃないですか!」
アメリアが憤慨する。
ゼルは指を舐めると肩を聳やかした。
「今に始まったことじゃない。あいつは、目先のせこい悪事をいちいちあげつらうより、自分の懐が少しでもあったまった方が合理的だと考えているんだ。まあ確かに、リナがその教会の悪事を暴いたところで、伝説の書物を売りにしている教会なぞまだまだごまんとあるし、その一つを潰したところで、世の中が変わったりはしないだろう。だったら、口止め料を貰って黙っていた方が、時間の節約と体力の節約にもなるし、懐もあったまって一石二鳥という訳だ。」
「・・・・よく考えてみると・・・・。」
アメリアは腕組みをして感慨深げに頷く。
「私達、実はとんでもない人と旅をしているのかも知れませんね・・・。」
ゼルは麦酒を呷った。
「全くだ。石橋を叩いて渡るどころか、ハンマーで全てぶち壊してからその上をローラーで無理矢理ならし、やっぱり歩いて渡るのはめんどくさいとか何とか言って、翔風界で渡るヤツだからな。その上、損得勘定で生きているわ、夜中に宿を抜け出して盗賊いぢめには走るわ、戦闘中に断わりもなしに俺達を吹っ飛ばすことはあるわ、滅茶苦茶だ。
よく今まで俺達も生き残って来れたもんだぜ。」
目当ての品が見つからなかったせいか、ゼルはかなりご機嫌ナナメのようだ。
「な、お前さんもそう思うだろ、ガウリイ。あんなヤツとずっと一緒だと、命がいくつあっても足りないと思わんか。」
「・・・・・・へ?」
ゼルに名前を呼ばれ、ガウリイはきょとんと顔を上げた。
「すまん。聞いてなかった。何の話だ?」
ゼルガディスはずるりとコケる。椅子から転げ落ちそうになったが、なんとか我慢。
「だから。リナの話だ。」
苛立たしげなゼルガディス。
だがガウリイは、にぱっと笑顔を全開にすると、明るくこう答えた。
「いや、あれでも結構、ベッドの中だと可愛いんだぜ?」
 
 
ぴっき〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・
 
その言葉を境に、食堂中の全ての音が止まった。
代わりに、ぎぎぎ、と一斉に首がこちらを向く音が聞こえるような気がする。
同じく高山の万年雪のように固く凍り付いたゼルガディスとアメリアは、せめて首の部分だけでも解凍できないかと思う。
やっとガウリイの方を向くと、ゼルが最初に口を開いた。
「ダンナ・・・・・・。今・・・・・なんて・・・・・?」
「え?だから。」
相変わらずのほほんなガウリイが、手に大型の湯呑みを抱えて茶をすすっていた。
「リナの話だろ?そりゃあ多少、兇暴なとこもあるし、わがままなヤツだけど、これが結構可愛いんだぜ♪」
さながら五月の風が吹き渡る、緑の草原を照らす太陽のような笑顔。
思わず二人は言葉を詰まらせてしまう。
んな爽やかに、んなダイタンなことを言っていいのだろうか・・・・?
 
だが、さらにガウリイののろけ話は続いた。
「気は強いし、なかなか素直になってくれないんだけどな。そこがまた可愛いというか。オレがそっぽを向くと、しゅんとなって、背中に寄り添ってきたりするんだぜ♪
昨日なんか、なかなか寝ないでうろうろしてるから、オレのベッドに誘ってやったんだ。そしたらな?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
今や、食堂中が聞き耳を立てていた。
誰も食事が咽を通らないらしい。
料理を運ぶウェイトレスまでもが、お盆を抱えたまま突っ立っている。
ガウリイはくすくすと笑いながら、嬉しそうに頬を染めて話を続ける。
まるで、可愛くて可愛くてたまらないといった様子だ。
「オレが毛布のはしっこをめくってやっても、照れてるんだか遠慮してるんだか、なかなか入ってこないんだ。仕方ないから、オレは眠ってる振りをした。
するとな?後からこっそり入ってくるんだ。
オレが腕を伸ばしてやると、こてんって頭を乗っけるんだぜ♪
もう可愛いのなんの♪」
 
その横で、切り出された氷の中に太古の昔より閉じ込められてきた、今は絶滅した生物のように冷えきり、固まりまくっている二人がいた。
ガウリイはそれに全く気がつかないのか、のろけ話はさらに進む。
「頭を撫でてやると、安心してため息をつくんだぜ。
あんまり可愛いから、オレは思わず両手で抱きしめちまった。
そうしたら、やっぱり照れ屋なのかなあ、腕の中でじたばたじたばた暴れるんだ。
だけど、腕の中でちっちゃいあいつがもがもがしてると、余計にオレは嬉しくなっちまうんだよなあ。」
青い瞳に、うっとりとした輝きが浮かぶ。
 
男の人も・・・・恋をすると綺麗になるのかしら・・・・・。
と、アメリアは脱線はなはだしいことを考えていた。
 
「それに可愛い声を出すしな。」
その一言に、とうとうゼルガディスがパニックを起こした。
慌てて解凍を解くと、手を振ってガウリイを止めようとする。
「待て、ダンナ!それ以上は後で聞く!だからっ!なっ!」
「ゼル、お前にも聞かせてやりたかったぜ。・・・・あいつがあんな声を出すなんて、誰も考えなかっただろうなあ。」
「ガウリイっ!」
その時、アメリアが突然、ふうっと倒れた。ゼルはすんでのところで受け止める。
アメリアの顔は、半分青ざめ、半分真っ赤という、極めて珍しい特徴を現わしていた。
ガウリイはまだ話を止めない。
「ああもうオレ、ダメかもしんない。めろめろって、こういうことを言うんだな。・・・ああ、毎晩抱いて寝たいよ・・・。」
「ガウリイっっ!」
ゼルの叫び声は、姫・・・・もとい、悲鳴に近かった。
 
そこへ、何も知らないリナがほてほてとテーブルに戻ってきた。
 
「よ。おかえり♪」
リナを迎えたのは、片手を上げて上機嫌に挨拶を寄越すガウリイ、顔面蒼白で髪の毛の一本一本がハリセンボンのように尖っているゼルガディス、その腕に抱えられたまま何故か幸せそうに気絶しているアメリアの面々だった。
リナは首をかしげる。
「どったの?なんか・・・・さっきと様子が違くない?」
「へ?そうか?」
リナは固まっているゼルの顔を覗き込むと、可笑しそうに言った。
「どったのゼル。脂汗なんか流して。・・・あんたにも一応、油分があんのねえ。しかし、アメリアは何で寝てんの?」
「・・・寝てるんじゃない・・・。気を失ってるんだ・・・。」
リナと目を合わせないようにして、思いっきり低い声でゼルガディスが答える。
「気を失う?何でまた?具合でも悪いの?」
「違う・・・・。」
「いや、なんかな?」
ガウリイが不思議そうにリナに報告する。
「オレがゆうべの話をしてたら、突然アメリアが倒れちまって。ゼルは何だか慌ててるし、オレにもよくわからないんだ、リナ。」
 
ガウリイがリナの名前を呼んだ途端、食堂中の注目がリナに集まった。
各テーブルでこそこそと会話が交わされる。
 
「あの娘っこが・・・・。」
「なるほど、見かけによらないと言うか・・・・。」
「確かに気は強そうだが・・・。」
「・・・の中ではホントは可愛いのか・・・・。」
こそこそ。
ひそひそ。
 
だが、地獄耳のリナに、この会話が届かないはずはない。
片方の眉を器用にぴくぴくさせながら、リナはガウリイに向き直った。
「ちょおっっっと。あんた、一体何の話をしたわけ。」
「へ?言っただろ、ゆうべの話。」
「ゆうべって・・・・。」
「リナがオレのベッドで寝たって話だけど?」
「・・・・・・・・。」
 
がらがらがらがらがらがら・・・・
ぴっしゃあああああああんんんんっ!!!!
 
「ガウリイ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 
 
 
 
その晩。
四人はそれぞれ自分のベッドで眠った。
アメリアはあれから気絶したまま。
ゼルガディスは何やらベッドの上で座禅を組み、『心頭滅却、色即是空、ユーリカ!ミコーリエ!』などと狂人のように呟いている。
烈火のごとく怒ったリナは、エネルギーを使い果たしてさっさと眠ってしまっていた。
可哀相なのはガウリイである。
全身を包帯で巻かれ、火傷の痛みよりも寂しさに泣いていたという。
 
 
追記。
ちなみに、ガウリイのベッドに入ったのは、リナ=インバ−ス本人ではなく。
この宿屋で飼われているペットの猫のことだった。
名前を、リナ=ニャンバースという。
兇暴かつ食い意地の張っているところから、伝説の胸無し盗賊殺し、リナの名前を取ってつけられたことは、限り有る命を惜しんだ宿の主人によって、終生の秘密となったのだった。

ベッドに一人、マグロのように横たわるガウリイは、せつなそうに呟いた。 
「・・・・リナ〜〜〜〜〜〜。」

情けない声で呼んだのは。
果たして、どっちのリナだったのだろうか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 

























==============ちゃんちゃん(笑)
すんません(笑)またやっちまいました(笑)妄想小説再びです(笑)
たまたま、ふと浮かんだ光景が原因でした。仲良く談笑している中で、ガウリイがにこやかに『でもあいつ、ベッドの中だと可愛いんだぜ♪』と言う・・・・(笑)
日々、脳が心地よいまでに腐り切っていく、そーらがお送りしました。
ここまで読んで下さるお客様は、ホントに神様ですね・・・・・・(笑)

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